2億5000万年前のペルム紀の絶滅のときは,歴史上もっとも急激に世界的に気温が下がった。そのときには,他にもいくつか不吉なことが起こっていた。1つは,海面が著しく下がったことだ。海面が下がると,海は大陸から離れ,広大な大陸棚が地上に姿を現わす。大陸棚には膨大な量の有機物が含まれており,それが大気と化学反応を起こして大量の酸素を消費する。リーズ大学の古生物学者ポール・ウィグノールは,この化学反応によって酸素濃度が現在の半分にまで減少したと概算した。彼はこう結論づけている。
「ペルム紀=三畳紀の大量絶滅は,窒息死の物語であったようだ」
現段階では,どの影響がもっとも大きかったのか,あるいはそれは他の大量絶滅にも当てはまることなのかについて,完全な意見の一致には至っていない。古生物学者の中には,その時期,劇的な火山活動が起こり,大気中に膨大な塵が吐き出されたと指摘する者もいる。またある古生物学者は,大量絶滅の前に起こった世界的な旱魃の影響を指摘している。これまでに提案されてきた原因をすべて並べていくと,何ページにもわたってしまい,どの説が事実と結びつくのか分からなくなってしまうだろう。いずれにせよ,6500万年前や,2億1000万年前や,2億5000万年前に,地球に何か異常なことが起こったのはほぼ確実である。それは,気温や海面の上昇あるいは下降か,火山の爆発か,太陽からの紫外線の放射の増加か,あるいはその他のものかの,いずれかである。これらたくさんの可能性が検討されているのも当然なことである。古生物学者デイヴィッド・ラウプは,首をかしげている。「ひょっとしたら,絶滅の原因として可能性があるとされる物語の一覧表は,我々個人個人を脅かしている物事の一覧表と,単に同じものではないだろうか?」
マーク・ブキャナン 水谷 淳(訳) (2009). 歴史は「べき乗則」で動く:種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 早川書房 pp.181-182
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