ここで,ヘビやアリクイのことを思い出そう。ふつうの動物は「新しもの恐怖(ネオフォビック)」にさいなまれている。これは当然である。「新しいこと」は「危険」だからだ。一般の動物にとって最高の金言は,「君子危うきに近寄らず」だ。「新しもの好き(ネオフィリア)」とは,動物にしては変わり種なのだ。人間は,明らかにその中でも大変な変わり種だ。つまり,人間の心の中には,ものすごい「特殊な力」が働いていると考えるのが自然だろう。それが「新しいものはすばらしい!」という心理だ。これほどの力が働かなければ,おそらくヒトは,ほかの動物と同じように,「同じ家」「同じ友達」「同じ食べ物」「同じ恋人」でいつまでも満足至極で幸せであったはずだ。
「新しいロボット」を作ることに挑戦することほど,社会が手放しに賞賛することも他にはない。新聞には,「ペン字」や「生け花」や「尺八」などの通信講座の広告が,一面全部を毎週占領する勢いがある。そこにはこんなふうに書いてある。「新しい趣味に挑戦」「老後を豊かに」。つまり,「豊かな人生」とは「新しいロボットを増やすこと」で得られる,となるらしい。社会にこのメッセージが通用するのだから,きわめて多くのヒトの中に,「ネオフィリック」はきっちりと植え付けられている。「新しいこと」は考える余地のないほど,明瞭に「望ましいこと」なのである。
佐々木正悟 (2005). 「ロボット」心理学 文芸社 p.45-47
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