映画や自動車や音楽などにおける大ヒットはおそらく,同様の興味の雪崩へと還元できるだろう。1994年,『バラエティー』という業界紙は,1993年の人気の上位100本の映画による劇場総収入をデータにまとめた。これらの映画の収入を人気度の順位に対してグラフに表わしたところ,それが幅広い裾野をもつべき乗則に従うことが分かった。これは,映画のヒットを予測するのがきわめて難しいことを示唆している。1993年の人気第1位の映画は,この年の数あるヒット映画のうちの1本にすぎなかったというのに,第100位の映画の40倍も稼いだのである。なぜだろうか?我々の多くは,映画を見たいかどうかを,見に行く前から,あるいは噂を聞く前から決めてしまっている。我々は,新聞やテレビや口コミなど何らかの方法で態度を決めてしまう。人々が流行に夢中になり,他の人が興味をもっていると聞くと自分も興味をもつようになるというのは,否定しがたいことである。これは合理的な意思決定ではない。人間は互いに非合理的に影響し合うのだ。
マーク・ブキャナン 水谷 淳(訳) (2009). 歴史は「べき乗則」で動く:種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 早川書房 pp.237-238
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