方法論的本質主義に則るならば,現実世界の事物を通して共有される「不変な本質(essence)」 を発見し,それに基づいて定義を下すことになる。たとえば「“子犬”とは何か?」に答えるためには,“子犬”であることの本質(たとえば,“生後間もない犬”)を明らかにした上で,「“子犬”とは“生後間もない犬”である」という定義を与えることになるだろう。この場合“生後間もない犬”という条件は“子犬”であるための必要十分条件としての本質とみなされる。
物事には本質があると無意識に感じとってしまう「心理的本質主義」についてはすでに論じたが,ここで登場した「方法論的本質主義」と混同してはならない。前者はあくまでも認知心理学的な現象だが,後者は形而上学的な世界観の表明だからである。心理的本質主義はヒトであるかぎり避けられない生得的性質だが,方法論的本質主義はひとつの思想の系譜である。
三中信宏 (2009). 分類思考の世界—なぜヒトは万物を「種」に分けるのか— 講談社 pp.195-196
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