心理的本質主義はヒトの心に巣食う原初的想念である。進化的思考は,存在論的本質主義はもちろんのこと,心理的本質主義とも根本的に対立する考え方である。この世界が離散的な自然種から構成されているという本質主義的世界観は,対象物間に由来によるつながりがあり相互に移行すると見なす進化的世界観とは両立しない。本質を共有する自然類は互いに切り離された離散的な類であり,それらの間を移行するということ自体が原理的にありえないことだからである。進化的思考がこの本質主義を蛇蝎のごとく忌み嫌うのも当然のことであろう。
しかし,現代のサイエンスがどのような新しい世界観を私たちに示そうが,私たちにもともと深く染みついているものの見方までかき消すことはできない。進化的思考者を自認している私でさえ,自分が心理的本質主義者であることを否定しているわけではない。私たちの心が産み出す産物は,たとえそれが心の中に矛盾や葛藤を生み出すものであったとしても,そのまま受け入れるしかないだろう。
三中信宏 (2009). 分類思考の世界—なぜヒトは万物を「種」に分けるのか— 講談社 pp.269-270
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