しかし,いいことばかりではありません。最大の問題点は,発見的探索によって得られた解には「正しい」最適解であるという保証がないことです。網羅的探索では解の探索空間の中をくまなく調べ尽くすので,それによって得られた最適解は文句なしに「正しい」最適解です。一方,発見的探索は探索空間の一部分をかいつまんで調べるだけですので,悪くすると「正しい」最適解を見つけそこない,大域的に見れば最高峰ではない丘(局所解といいます)に登ってそこで探索を早々と切り上げてしまう危険性があります。
誤解しないでいただきたいのは,ここでいう「正しい」という表現は,得られた解が歴史的な真実であるかどうかではなく,探索空間の中の最高峰(大域的最適解)に到達できているかどうかにかかっています。たとえ発見的探索によって首尾よく「正しい」最高峰(すなわち大域的に最適な系統樹)に登ることができたとしても,その最高峰が歴史的に「正しい」系統樹(すなわち真実の系統発生史)であるかどうかは別問題ということです。
実際には,歴史的に「正しい」かどうかの前に,探索地形の上で「正しい」最適系統樹に到達したかさえわからないという点が,発見的探索の抱える根本的問題と認識されています。
発見的探索は別名「山登り(hill-climbing)法」とも呼ばれています。最高峰を目指して探索を繰り返す行為を登山にたとえた,実に的確なネーミングです。実際,発見的探索が大域的最適解を導けるかどうかは,与えられたデータのもとで,系統樹の探索空間の“地形”がどのようになっているのかに大きく依存します。
三中信宏 (2006). 系統樹思考の世界:すべてはツリーとともに 講談社 pp.202-203
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