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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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公式の概念と暗黙の概念

 ジャスティン・バレットは,神についての人々の考え方には,彼ら自身が信じていること以上のなにかがあると考えた。そこで彼が用いたのは,ごく単純な伝統的方法だった。被験者は,特別に準備された物語を読み,一定の時間をおいてから,その物語を思い出すように言われた。この実験の鍵は,人は,数行といった短いものでないかぎり,分をそっくりそのままの形で覚えておくことはできないということである。人がするのは,いくつかの重要なエピソードと,それらどうしがどのように結びつくかという記憶を形成することだが,物語を思い出す時には,しばしば細部を歪曲し,実際に覚えている元の物語の断片の間に,自分の考えを挿入する。たとえば,『赤頭巾ちゃん』の物語で,「彼女はおばあちゃんの家に行きました」というのを読んで,数時間あとに言う時には「彼女はおばあちゃんの家に歩いて行きました」となるかもしれない。こういった種類の細部の変化や追加は,物語を表象する際に被験者がどんな概念を用いているかを示している。この例では,物語のなかで主人公がどんな交通手段を使ったのかが述べられていなくても,被験者は,彼女がバスやバイクで行ったのではなく,歩いて行ったと思っているということを示している。
 そこで,バレットは2つのことをした。まず,被験者に「神はどのようなものか?」という簡単な質問をした。被験者は,神のいろんな特徴を挙げたが,それらはみな共通していた。たとえば,彼らの多くは,神の重要な特徴として,(人間が逐次的にひとつひとつのものごとに注意を向けることしかできないのに対して)あらゆるものごとに同時に注意を向けることができる,と言った。このあとバレットは,彼らに,神のこれらの特徴が出てくる物語を読ませた。たとえば,物語は,神がある男の命を救い,同時にある女が失くした財布を見つけるのを助けてやるというものだった。そのあと時間をおいて,被験者はこの物語を思い出して話さなければならなかった。興味深いことに,そして意外なことに,多くの被験者は,神はまず一方の人を助け,そうしてから次にもう一方の人の窮状に注意を向けた,と言った。
 このように,被験者は,聞かれると,神が一時に2つのことをすることができる(これこそ神たるゆえんだが)と答えるにもかかわらず,神がすることを自ら表象する時には,ひとつのことをしたあとにもうひとつのことをする標準的な行為者として説明する。バレットは,この効果が,神を信じる者でも,信じない者でも,そしてニューヨーク州のイサカでも,インドのデリーでも,同じように見られることを示した。これらの実験からわかるのは,神についての人々の考え——神が何をどうするかを表象するために人々が用いる心的表象——が,尋ねられて答える時の答えとはまったく異なる,ということである。実際,この場合には一方は他方と矛盾する。どんな人にも,「公式の」概念(聞かれた時に答えるもの)と「暗黙の」概念(はっきり自覚することなく用いているもの)の両方がある。

パスカル・ボイヤー 鈴木光太郎・中村潔(訳) (2008). 神はなぜいるのか? NTT出版 pp.117-119
(Boyer, P. (2002). Religion Explained: The Human Instincts that Fashion Gods, Spirits and Ancestors. London: Vintage.)
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