人間の心は,物語的心あるいは文学的心だと言える。すなわち,心は,まわりの出来事を,いかに些細なことであれ,因果的な物語——つまり,個々の出来事が別の出来事の結果であり,あとに続く出来事への道を開くような連鎖——によって表象しようとする。しかし,物語への衝動はさらに核心にまでおよぶ。それは,私たちのまわりで起こるすべての出来事についての心的表象のなかに埋め込まれている。さらに,人間は生まれついての計画者である。私たちの心のなかは,何が起こりうるか,ああしないでこうしたらどんな結果になるか,ということで満ちている。このような切り離された思考をもつことは,ほかの動物種よりもはるかにうまく長期的なリスクの計算を可能にするので適応的な特徴と言えるだろう。しかしそれらはまた,私たちが実際の経験よりもはるかに多くの致命的状況を表象しており,死の予期が私たちの心的生活においてきわめて頻繁に登場する特徴である,ということも意味している。
パスカル・ボイヤー 鈴木光太郎・中村潔(訳) (2008). 神はなぜいるのか? NTT出版 p.267
(Boyer, P. (2002). Religion Explained: The Human Instincts that Fashion Gods, Spirits and Ancestors. London: Vintage.)
PR