社会心理学でもっとも確かで有名な発見のひとつは,人々を集団に任意に割り振っただけで,集団のメンバーであるという自覚や強い連帯感がきわめて容易に作り出せる,ということである。必要なのは,参加者を組に分け,彼らを,たとえば,「青組」と「赤組」と指定することだけである。集団を指定したら,メンバーになんらかの些細な仕事(どんな仕事でもよい)を自分の組の仲間たちとさせる。短時間のうちに,ほかの人たちよりも自分の集団のメンバーに対して,より好感をもつようになる。魅力,公正性や知性についても,自分たちの集団がすぐれていると感じるようになる。ほかの集団のメンバーをだましたり,暴力をふるうことさえも,いとわなくなる。たとえ参加者全員が組の分け方が恣意的だと完全にわかっている時ですら,そしてそれが明示されている時ですら,そうした感情をもたないようにすることも,集団のメンバーになんらかの隠れた本質的な特徴があると考えないようにすることも,困難なようである。
パスカル・ボイヤー 鈴木光太郎・中村潔(訳) (2008). 神はなぜいるのか? NTT出版 p.372
(Boyer, P. (2002). Religion Explained: The Human Instincts that Fashion Gods, Spirits and Ancestors. London: Vintage.)
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