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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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見つかっても影響は

病気についてはどうだろう。ここ数年の間に,100を超す一般的な病気について,関わりのある遺伝子が1000個以上も発見された。失明につながる黄斑変性や,男性を悩ませる若ハゲなどに深く関わっている遺伝子も見つかった(因みにわたしのチームは,ハゲの原因遺伝子の発見に貢献した)。そして今では,どちらの「病気」についても,自分のリスクが高いかどうかを,DNA検査によってかなり正確に予測できるようになったのだ。ほんの数年でずいぶん多くの進歩が成し遂げられた。
 しかし,このように数々の成功例がある一方で,これまでのパラダイムが間違っていることを示す兆候が,ぽつぽつと現れてきた。たとえば,一般的な病気の原因遺伝子が次々に発見されたことは生物学的には興味深かったが,研究が進むにつれて,それらの遺伝子の影響はごくわずかだということがわかってきたのだ。肥満について言えば,関係のある遺伝子が30個ほど発見されたが,全部合わせても肥満の原因に占める割合はわずか2パーセントだった。

ティム・スペクター 野中香方子(訳) (2014). 双子の遺伝子:「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける ダイヤモンド社 pp.12-13
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運動で性格が変わる?

ヒトにおいて性格と関連する,さまざまな要因が検討されています。その一例は運動です。運動によって,脳由来神経栄養因子のメッセンジャーRNAとタンパク発現は海馬の,とくに歯状回で増加します。運動によって発現が亢進する多数の遺伝子は脳由来神経栄養因子と相互作用するところから,脳由来神経栄養因子は脳の可塑性において中心的役割を果たしていると考えられています。運動は,簡単で,費用もかからず,生活様式をよりよいものにすることができる手段ともいえるでしょう。

土屋廣幸 (2015). 性格はどのようにして決まるのか:遺伝子,環境,エピジェネティックス 新曜社 pp.175

失われた遺伝性

第1節で述べたように,80〜90%は遺伝によって決まるとされる身長でさえも,遺伝子の関与の割合は少ないか,あるいはあまりに多数の遺伝子を想定しなくてはなりません。マーはこの状態を2008年に「失われた遺伝性」と呼び,以後,この言葉は広く用いられるようになりました。
 プローミンは失われた遺伝性を解決する方法を整理しました。1つは前述した不安やおそれの感情における候補遺伝子からのアプローチ。2番目はゲノム全体を見渡した全ゲノムシーケンスやDNAマイクロアレイや全ゲノム関連解析。いずれも特定の性状や疾患などについて,特定されていない遺伝子やスニップを広範に把握する方法です。3番目にエピスタシス(ある遺伝子の発現が別の遺伝子によって調節されたり影響を受けること。遺伝子ー遺伝子相互作用とも言われます)と遺伝子ー環境相互作用,そしてエピジェネティックスです。

土屋廣幸 (2015). 性格はどのようにして決まるのか:遺伝子,環境,エピジェネティックス 新曜社 pp.103

180個で10%

全ゲノム関連解析の結果,成人の身長を決める遺伝子が180個発見されたのですが,これらの遺伝子全部でも,身長への影響は10%でしかないことが明らかになりました(2010年の報告)。現在では数千個の遺伝子を調べても,身長のバラツキの45%しか説明しないとされています。
 でも,もしそうだとするなら,あんまりだという気がします。遺伝によって身長が決まると言いながら,身長を決める遺伝子は数千個以上あるというのなら,個人の身長を説明しようにも説明のしようがありません。また,もしかして将来,身長を高くする薬を発明するとしても,これではいったい,身長を決定するどの要素を目標にして薬を開発するといいのか,目標の立てようがないでしょう。

土屋廣幸 (2015). 性格はどのようにして決まるのか:遺伝子,環境,エピジェネティックス 新曜社 pp.98

いじめにも影響

前述のラットの実験と併せて考えると,この結果は子どものとき親から十分な養育を受けることが,ストレスに対する耐性を獲得するうえできわめて重要であることを意味していて,子どもの時期に起きるエピジェネティックな調節は成人期に至るまで影響し,精神病理的な結果(自殺)をも引き起こすと考えられました。さらにこのエピジェネティックな変化は,次の世代にも引き継がれるのです。ただし,動物実験に関するかぎり,前述のように十分な養育をしてやったり,薬物投与によって元にもどすことが可能です。以上から連想することですが,現在,我が国ではいじめが大きな社会問題になっています。いじめの成立にも遺伝子,環境,そしてエピジェネティックスが関わっているはずです。いじめ問題の解決には広汎かつ深い分析が必要で,発達心理学的,また,行動遺伝学的理解も不可欠だと思います。

土屋廣幸 (2015). 性格はどのようにして決まるのか:遺伝子,環境,エピジェネティックス 新曜社 pp.58-59

説明割合

他の遺伝子についても言えることですが,単一の遺伝子で性格の違いを説明できる割合は小さく,性格に関連する遺伝子の違いが多数重なって,生まれつきの気質の違いが決定されると考えられます。性格特性に関連すると思われる遺伝子にある程度目標を定めて調べるやり方を,候補遺伝子アプローチと呼んでいます。この方法に対して,ゲノム全体に存在するスニップを網羅的に調べていって,疾患と対比するようなやり方を全ゲノム関連解析法(GWAS)と呼びます。

土屋廣幸 (2015). 性格はどのようにして決まるのか:遺伝子,環境,エピジェネティックス 新曜社 pp.48

7つの要素

ロスバートは乳児期の個性の発達に関わる7つの要素を時間の流れに沿ってまとめています。彼女によれば,(1)適応は新生児期から始まります。(2)不快感も新生児期から。(3)接近行動は新奇な物に近づこうとすることで生後2か月から。(4)いらだち/怒りも生後2か月から。(5)恐れは新奇なものを避けようとする行動で生後6か月から。(6)自己制御は10か月から。(7)親密な関係の時期は明確ではありません。
 新生児期にはいらだち/怒りと恐れの感情はまだ未分化状態にありますが,やがてこの2つは別のものとして分かれます。これら7つの要素のあいだには互いに亢進して高めあったり,抑制したりという相互作用が認められます。ロスバートは7つの要素の1つが欠けているような子どもの場合,残りの要素がそれを補うだろうと考えています。

土屋廣幸 (2015). 性格はどのようにして決まるのか:遺伝子,環境,エピジェネティックス 新曜社 pp.31-32

遺伝子と環境

これらの例から考えると,不利な遺伝子を持っていても,虐待を受けたり,ストレスの多い環境におかれなければ,これらの遺伝子の作用はおこらないので,遺伝子と環境は相互に作用していると考えられます。このことは子育てや教育学にも有用な知識となりますし,不利な遺伝子を持っていることが病的な状態につながる場合でも,薬剤による治療の可能性が考えられます。実際,遺伝子の発現を抑制したり高めたりする治療として,薬剤によるエピジェネティックな治療の可能性が検討されています。

土屋廣幸 (2015). 性格はどのようにして決まるのか:遺伝子,環境,エピジェネティックス 新曜社 pp.22-23

エピジェネティックス

そのうちの1つがエピジェネティックスです。エピという語はエピソード(挿話)という言葉にもあるように,「上」とか「外」という意味です。ジェネティックスは遺伝学です。遺伝学の中心はDNAです。そこでエピジェネティックスとはDNAの上または外に生じた変化,つまりDNAの修飾のことを言います。生体内のDNAの特定の部分(CpGアイランドとも呼ばれる,シトシンとグアニンに富む領域)が加齢や食事,化学物質等の外部環境の影響によってメチル化すると,その遺伝子は活性を低下させて少量のタンパク質しか作らなくなりますし,あるいはDNAと結合しているヒストンがアセチル化すると,アセチル化された遺伝子は逆にタンパク質が多く作られるようになります。このように環境の変化で特定の遺伝子が修飾を受け,作られるタンパク質が増減して,そのタンパク質の作用が弱くなったり強化されたりする現象をエピジェネティックスと呼んでいます。そうするとヒトの特定の性格が強調されたり,目立たなくなったりすることもおこることになります。

土屋廣幸 (2015). 性格はどのようにして決まるのか:遺伝子,環境,エピジェネティックス 新曜社 pp.9-10

見当外れの権威志向

昨今では,日本の学歴秩序の「さらに上」を狙って直接ハーバードへの入学を目指す,などという親子もあると聞く。たしかにハーバードはよい大学だが,受験生を成績順に並べて上から取るなどということはしないし,合格した学生でも2割は別の大学を選ぶ。アメリカでは大学そのものも目的や構成が多様で,日本のように一元化した序列には乗らない。このような見当外れの権威志向が一般の人びとばかりでなく政府にも大学にもメディアにも蔓延しているうちは,日本に真正の反知性主義が開花することは難しいだろう。

森本あんり (2015). 反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体 新潮社 pp.272-273

知性と権力の固定化への反感

知性が大学や研究所といった本来あるべきところに集約され,それが本来果たすべき機能に専念していると見なされる場合には,反知性主義はさして頭をもたげない。しかし,ひとたびそれらの機関やその構成員が政治権力にお墨付きを与える存在とみなされるようになったり,専門以外の領域でも権威として振る舞うようになったりすると,強い反感を呼び起こす。つまり反知性主義は,知性と権力の固定的な結びつきに対する反感である。知的な特権階級が存在することに対する反感である。微妙な違いではあるが,ハーバード・イェール・プリンストンへの反感ではなく,「ハーバード主義・イェール主義・プリンストン主義」への反感である。特定大学そのものへの反感ではなく,その出身者が固定的に国家などの権力構造を左右する立場にあり続けることに対する反感である。日本なら,ここに「東京大学」などと代入すればわかりやすい。

森本あんり (2015). 反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体 新潮社 pp.262

政教分離の実質化

実はここにも歴史的な背景がある。それは,政教分離の実質化である。アメリカは憲法文書に政教分離を明記した史上初の世俗国家であるが,その実態は複雑で,各州のレベルや生活実態としてはなかなか分離が進まなかった。連邦憲法をめぐる最高裁の判断が問題になるのは,20世紀もようやく半ばを過ぎてからのことである。その争点はいろいろだが,政教分離がいちばん具体的に見えるのはお金である。教会は,国民の税金によってまかなわれるのではなく,自分たちで集めた献金によって運営されねばならなくなった。
 それぞれの宗教団体は,市民の自発的な参加と支援なくては存続できない。だからどの教会も,市場原理による自由競争にさらされ,人を集めなければ解散という憂き目に遭うことになる。どんなに立派な説教を語っても,つまらなければ人は来ない。20世紀はじめの伝統的な教派では「毎日のようにどこかの教会が売りに出され,ガレージとなっている」という嘆きが聞かれたほどである。

森本あんり (2015). 反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体 新潮社 pp.246-247

反知性主義の原点=平等主義

反知性主義の原点にあるのは,この徹底した平等主義である。本書の冒頭で説明したように,反知性主義は,知性そのものに対する反感ではない。知性が世襲的な特権階級だけの独占的な所有物になることへの反感である。つまり,誰もが平等なスタート地点に立つことができればよい。世代を越えて特権が固定されることなく,新しい世代ごとに平等にチャンスが与えられればよいのである。

森本あんり (2015). 反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体 新潮社 pp.235

「たたき上げ」思想

ムーディは,反知性主義の翼に実利志向のビジネス精神という強力なエンジンを備え付けた人物として記憶される。ホフスタッターの表現では,リバイバリズムが反知性主義の「種を植え付け」,ビジネス的な実用主義がそれを「最先端まで推し進めた」,ということになる。アメリカの反知性主義に特徴的なのは,この宗教的な平等理念と経済的な実用主義との奇妙な結びつきである。
 この両者を結びつけたのは,「天はみずから助くる者を助く」という信念であった。「たたき上げ」(self-made)の思想である。目標に向かう強い意志の力を養い,倹約と勤勉と忍耐を続けた人だけが,成功するにふさわしい人格になる。そして,神もまたそのような真面目な努力に祝福を与えるのである。ここには,「敬虔が人格を作る」というプロテスタント的な道徳規範が明確に表現されている。そして,信仰は成功をもたらす。日本でもよく知られているフランクリンの言葉の通り,早寝早起きという徳が人を健康にし金持ちにするのである。

森本あんり (2015). 反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体 新潮社 pp.218

滑稽・機知・ユーモア

こういう人びとは,この時代のアメリカに特徴的である。マーク・トゥエインによると,イギリス人は「滑稽」(comic)を好み,フランス人は「機知」(wit)を好むが,アメリカ人が求めるのは「ユーモア」(humor)である。滑稽や機知は,内容そのものが笑いを誘うため,誰が語っても面白いが,ユーモアは話の筋というよりいわば話芸を楽しむもので,話し方の上手下手で大きく違う。それを誰が話すかで,面白さが決まるのである。つまり,ユーモアを求める心は,ヒーローを求める心と同じである。

森本あんり (2015). 反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体 新潮社 pp.170-171

ジェントルマンの凋落

ホフスタッターは,ジャクソン大統領の時代を「ジェントルマンの凋落」と特徴づけている。それ以前は,アダムズ家に代表されるような上品で教養ある貴族的人物が政治を動かしていたのに,大衆民主主義に押されてジェントルマンが不要になってしまったからである。「不要になった」というよりも,「不利になった」と言うべきかもしれない。上流階級の生まれであるとか,知識人であるとかいうことは,むしろマイナスに数えられるようになった。時代の要請は,「下層階級の人びとの好奇心を刺激し,享楽の欲望を満たし,支持をとりつけるために低俗で野卑なものを提供すること」であった。反知性主義とは,このような背景をもった大衆の志向性である。そして,その同じことが政治の世界だけでなく,宗教の世界にも起こってゆくのがアメリカである。

森本あんり (2015). 反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体 新潮社 pp.167-168

読み書きのできるバプテスト

もともとプロテスタントは「聖書のみ」を掲げて出発しているが,アメリカではこれが特定の教義を妨げない「神学なし」「信条なし」という意味になる。それに代わって各教派の違いを色分けするのが,所属会員の地位や収入や学歴である。だからさきほどの「読み書きのできるバプテスト」のような言い方が流行るようになる。他にも,メソジストは「靴をはいたバプテスト」,長老派は「大学に進学したメソジスト」,アングリカン派は「投資の収入で暮らす長老派」などという序列で語られた。

森本あんり (2015). 反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体 新潮社 pp.152-153

無学で素朴な自然人

説教は,学校で勉強すればできるというものではない。神学を学べば牧師が育つと考えるのは,牧師を医者や弁護士のような世俗の職業と同列に考えることである。ペテロはイェール大学に通ったこともない,無学な漁師だったではないか。だが主キリストは,そのペテロを教会の礎とされた。だから神は,大学卒のジェントルマンではなく,わたしのように無学で素朴な自然人をお用いになるのだ!これが反知性主義の心意気である。

森本あんり (2015). 反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体 新潮社 pp.148

政教分離=宗教への熱心さ

しかしアメリカではまさにその反対で,政教分離は世俗化の一過程ではなく,むしろ宗教的な熱心さの表明なのである。連邦成立時に採用された厳格な政教分離政策は,宗教の軽視でも排除でもない。むしろそれは,各人が自由に自分の思うままの宗教を実践することができるようにするためのシステムである。この自由は,国家が特定の教会や教派を公のものと定めている間は,けっして得ることができない。だから,国家そのものを非宗教化することによって,各人の信仰を最大限に発揮し実践することができる自由な空間を創出したのである。国家が宗教と公式に手を切るという歴史的な実験そのものが,深く神学的な意図に貫かれているのである。

森本あんり (2015). 反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体 新潮社 pp.118-119

政教分離国家の誕生

バプテストら宗教的少数者が迫害されたのは,ヴァジニアに公定教会制度があったからである。つまり,政府がある一つの教会を公の教会と定めて,すべての人がその教会を支え,その教会に出席することを求める,という制度である。政治家となったマディソンは,ジェファソンと協力しつつ,長い努力の末に,多くの体制派牧師の反対を押し切ってこの制度を廃止した。彼らの努力は,政教分離と信教の自由を明記した連邦憲法の「権利章典」にも結実する。マディソンの確信によれば,信仰や良心の自由は「すべての権利の中でもっとも神聖なもの」であり,いかなる政治権力もこれを妨げてはならないのである。
 つまり,一方にいるのは,熱心で福音主義的なキリスト教徒たち,とりわけ主流派教会から有形無形の迫害を受けていたバプテストやクエーカーら少数派のキリスト教徒たちである。他方にいるのは,合理主義的な思想の持ち主で,宗教にはあまり関心がないけれど,各人の自由と権利を侵害することには断固として反対する,という世俗的な政治家たちである。両者の思惑は,公定教会の廃止すなわち「政教分離」という点でぴたりと重なり,ここでがちりと手を組んだわけである。新興国アメリカは,通常ならありえないこのような二勢力の協力関係により,史上初の政教分離国家として出発することになる。

森本あんり (2015). 反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体 新潮社 pp.117-118

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