1950年代にロックミュージックが突如として登場したとき,政治家や聖職者はそれが道徳を腐敗させ不法行為を助長するものだとして非難を浴びせた(オハイオ州クリーブランドにあるロックンロール・ミュージアムに行くと,頭の古い人びとが声高にロックを非難している笑えるビデオが見られる)。では私たちは,そうした人びとが正しかったと(ウグッ)認めるべきなのだろうか。1960年代の大衆文化の価値観を,その時代の暴力犯罪の増加と結びつけることはできるのか?もちろん,直接の結びつきはない。相関関係は因果関係ではなく,おそらくは第3の要因——文明化のプロセスの価値観に対する反発——が,大衆文化における変化と暴力行為の増加の両方を引き起こしたと考えられる。さらに,ベビーブーマーの圧倒的多数は暴力をふるうことなどいっさいなかった。それでも,人びとの考え方と大衆文化は互いに強化しあうことは確かであり,影響を受けやすい個人やサブカルチャーがなんらかの形でその影響力にさらされる可能性の高い辺縁部では,非文明化的な思考が実際の暴力の促進を引き起こすという因果の矢が生まれるのは,ありうることなのだ。
スティーブン・ピンカー 幾島幸子・塩原通緒(訳) (2015). 暴力の人類史 上巻 青土社 pp.218
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