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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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ウエストナイルウイルス蔓延の理由

こうしてカラスの大量死に始まったベーカーズフィールドの謎が解けた。この都市では,ウエストナイルウイルスが蔓延する前に住宅の差し押さえが蔓延していた。つまり「フォークロージャー危機」が起きていたのである。アメリカの住宅のバブルは2006年にピークを迎え,その後は崩壊へと向かい,2008年までに住宅ローンの債務不履行件数が225パーセントも増えた(2006年から2013年までに600万軒以上の住宅が差し押さえられることになる)。なかでもひどかったのがカリフォルニア州だが,ベーカーズフィールドはカリフォルニア住宅バブルの中心地の1つだったので,バブルがはじけると住宅ローン危機の中心地ともなった。ベーカーズフィールドの住宅ローン債務不履行件数は3倍に跳ね上がり,この増加率は全米の都市のなかで8番目に高かった。住宅所有者のおよそ2パーセントが債務不履行に陥り,人口約30万人のこの都市で5000軒以上の家が差し押さえられた。家が銀行によって差し押さえられると,庭の手入れなど誰もしなくなる。やがて雑草が生い茂り,プールの水は淀み,藻が水面を覆い,蚊にとって願ってもない産卵場所となっていた。

デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.215-216
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失業・精神衛生・自殺

スウェーデンとフィンランドの実績からわかるように,失業が精神衛生上のリスクを伴うものだとしても,それが自殺という結果を生むかどうかは国の政策次第である。また,うつ病患者や自殺者・自殺未遂者の増加といった問題を医療で解決できるとできるのも誤りである。もちろん抗うつ薬のおかげで,失業という現実に立ち向かう元気を取り戻す人も少しはいるだろう。しかし,うつ病の根本原因が失業である場合,そこをどうにかしなければ患者は戻らない。スウェーデンはそれを理解していたからこそ,ALMPに積極的な投資を行ってきた。

デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.209-210

不況と精神疾患

そこでわたしたちは,具体的にどういう人々がうつ病の症状で受診したかを調べることにした。取り上げたのは,スペインで不況前と不況期に精神疾患により受診した患者のデータで(不況前の2006年の受診者7940名と,不況期の2010年の受診者5876人),スペイン各地の診療所・病院から集められたものである。今回の大不況で,スペインは世界でも最悪の失業率上昇に苦しめられたが,その間もうつ病に関する調査が一貫して続けられていたので,不況前との比較に大いに役立った。そのデータで2006年と2010年を比べると,大うつ病性障害の症状で受診した患者は受診者の29パーセントから48パーセントに増えていた。また,少うつ病性障害の患者は6パーセントから9パーセントに,パニック発作の患者は10パーセントから16パーセントに,さらにアルコール依存の患者も1パーセントから6パーセントに増えていた。そして,データを多変量解析モデルを用いて分析したと小ろ,これらの精神疾患の増加と最も関係が深い説明変数の1つが失業率であることが明らかになった。また,以前からうつ病だったかどうかや,メンタルヘルスケアを受けやすい環境にあったかどうかなど,他のさまざまな要因を調整しても,この結果は変わらなかった。

デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.197-198

不況と自殺

このように,不況が自殺増加の主要因の1つであることは間違いないが,不況でなくても自殺が増えることはあるし,逆に不況だというだけで自殺が増えるわけでもない。イタリアとアメリカの例のように,政府が失業による痛手から国民を守ろうとしなかった場合には,だいたいにおいて失業の増加と自殺の増加にはっきりした相関が表れる。しかしながら,政府が失業者の再就職を支援するなど,何らかの対策をとると,失業と自殺の相関が低く抑えられることもある。たとえば,スウェーデンとフィンランドは1980年代から1990年代にかけて何度か深刻な不況に見舞われたが,失業率が急上昇した時期にも自殺率はそれほど上がらなかった。それは,不況が国民の精神衛生を直撃することがないように,特別の対策がとられたからである。

デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.195

経済危機に強い医療制度

これに対し,他の多くの先進国の医療制度はもっと経済危機に強いものだった。カナダ,日本,オーストラリア,そしてほとんどのヨーロッパ諸国は,医療を市場任せにするのではなく,国による国民皆保険制度を土台にしてきた。これらの国々では,医療分野では市場原理がうまく働かず,「さかさま医療ケアの法則」という罠にはまる危険性があることを承知していた。
 そうした国々とアメリカとの違いは,今回の大不況でも大きな差となって表れた。アメリカでは何百万人もの人々が医療を受けにくい,あるいは受けられない状態に陥ったが,イギリス,カナダ,フランス,ドイツなどでは,医者に行くのを控えたり,予防医療を受けるのをやめたりした人はずっと少なかった。これらの国々では医療は市場財ではなく人権の1つと考えられていて,職や収入を失っても受けられる医療サービスにはあまり影響がなかったからである。つまり,経済が打撃を受けても,国民が「破産か健康か」という選択を迫られるようなことはなかった。

デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.182

医療の市場原理は

かなり前から繰り返し指摘されてきたことだが,医療の世界では市場原理はうまく働かない。ノーベル経済学賞受賞者のケネス・アローも,1963年に発表した画期的な論文のなかで,市場原理だけに任せておくと,安くて質の高い医療はなかなか提供されないと述べた。医療は主に次の2点で一般的な市場財とは異なる。1つはニーズの予想が難しいこと。もう1つは思いもかけず高額になる場合があること。たとえば,心臓発作を起こして冠動脈バイパス手術を受けるといったことは,いつ起きるのか事前にはわからない。そのためにいつ金を用意しておけばいいのかもわからないし,少々貯金してみたところで,大きな手術を受ければすぐに底をついてしまう。だからこそ保険に入るのだが,それで問題がすべて解決されるわけではない。なぜなら,保険に入るということは,どういう治療は受けられて,どういう治療は受けられないのかを他人に決めさせることを意味するからである。
 一方,民間の保険会社は企業として利益を生むことを求められる。そして利益を増やそうとすれば,方法は2つしかない。売上を増やすか,原価を削るかである。保険会社の売上は被保険者が毎月支払う保険料であり,原価は会社の経費と会社が支払う保険金である。つまり,医療を受けずにすむような人々に加入してもらい,医療を必要とする人々を加入させなければ(前述のパージング),確実に利益が増える。

デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.179-180

保険会社は得をした

一方,この状況で得をした人々もいた。保険会社である。2009年にアメリカの健康保険会社の上位5社は,合わせて122億ドルの利益を上げた。これはなんと前年比56パーセント増である。2009年には290万人が保険を失ったのだが,その同じ年に大手保険会社は56パーセントも利益を伸ばしていた。しかも利益の伸びは単年度にとどまらず,2010年9月までに平均でさらに41パーセント伸び,大不況のなかにありながら,保険業界の過去最高記録を更新した。この利益増は保険会社の営業努力によるものではなく,一部の人々の犠牲の上に成り立った“濡れ手に粟”のもうけである。保険料をつり上げたり条件を厳しくしたりして,自社にとって得にならない顧客を「パージング」したことで,保険料の支払いが減り,利益が増えたのである。保険業界では,かつては加入者の多さが成功の鍵とされていたが,それはもう過去のものとなった。ウェルポイント社のCEOアンジェラ・ブレイリーなどは2008年にこう言い切った。「加入者を増やすために利益を犠牲にすることはない」
 金持ちはますます金持ちになり,病人はますます追い詰められて症状が悪化する——これが大不況期にアメリカの医療が置かれていた状況だった。

デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.178-179

インドネシアの場合

東アジア通貨危機から10年後に,今度は世界第不況の波がインドネシアを襲った。だがこのとき,インドネシアは過去の教訓を生かし,貧困層への補助金の一部を増額した。そのおかげで,2008年と2011年に食料と燃料の価格が高騰した際も,貧困層への打撃を和らげることができた(食料価格が高騰したのは,サブプライムローン問題が顕在化したあと,投資家が不動産から食料へと投資先を切り替えたからである)。

デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.107

不況対策の自然実験

このように,通貨危機後の東アジアは複数の不況対策論の真偽を問う自然実験の場となり,その結果次のことが明らかになった。貧困に陥る危険性が高まった原因は不況そのものにあった。しかしそれが公衆衛生上の大惨事へと発展したのは,食糧費補助や失業者支援の予算が削られたからである。つまり不況の影響をどの範囲で食い止められるかは政策次第ということであり,そのことをマレーシアが示してくれた。マレーシアはIMFや諸外国からの政治的圧力に屈することなく,投機的な資本の流れから国内経済を守り,社会保護政策への支出を増やした。そのおかげで,国民はそれほど苦しまずにすんだ。一方,IMFの処方箋に従って緊縮政策という強い薬を飲んだタイ,インドネシア,韓国では,国民がその副作用に苦しめられた。

デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.98

緊縮財政をとるかどうか

アジア通貨危機の直撃を受けた国々では貧困率が上がった。しかし社会保護政策の予算を削減した国とそうでない国を比べると,後者の貧困率の上昇は前者ほどではなかった。韓国,タイ,インドネシア,マレーシアで34パーセント下がった。しかし貧困率を見ると,前述のようにインドネシアでは1997年の15パーセントが1998年には33パーセントと急上昇し,韓国でも11パーセントから23パーセントへと上昇したのに対し,マレーシアは7パーセントから8パーセントと小幅な上昇にとどまり,しかもその後は下降した。もともと社会保護政策が弱かったこれらの国では,IMFの勧告に従って緊縮財政をとった国とこれを拒否した国の間ですぐに貧困率の差が現れたと考えられる。
 また,緊縮財政による貧困率の上昇は精神衛生面でも国民の大きな負担となった。韓国では失業率が急増し,IMFはI am fired(くびになった)の略だと言われるほどになり,そのあおりで自殺も急増した。韓国の男性の自殺率はその10年前から少しずつ上がっていたが,アジア通貨危機後には一気に45パーセント上昇した。タイでも60パーセント以上上昇し,他の死亡率のなかでも突出して上昇幅が大きかった。

デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.95-96

データの加工

続いて巧妙な方法の反論も出てきた。わたしたちの論文掲載から2週間後のこと,ショック療法を支持していた英エコノミスト誌が論説で「間違いはあったが,それはロシアの改革が速すぎたことではなく,遅すぎたことだ」とし,わたしたちの研究結果を否定した。しかもこの論説の執筆者たちはデータを巧みに扱って,ロシアの“死亡危機”を消してみせた。5年移動平均をとることで(5年というのも効果を考えて選んでいる)1990年代の平均寿命の推移を平滑化し,極端な低下(つまり死亡率の急上昇)などなかったかのようにしてしまった。移動平均を意図的に使えばこうして簡単に嘘がつけるのだが,学生が期末論文でこんな手を使ったら学長に呼び出される。1930年代のスターリンはペンを走らせるだけで何百万人も死に追いやったが,英エコノミスト誌はマウスをクリックするだけで何百万人もの死者をよみがえらせた。

デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.83-84

ショック療法をとるかどうか

何度も繰り返すようだが,ショック療法には共産主義時代の国の統制構造を壊すという狙いがあった。というのも,欧米諸国はこれを“腐敗”と考えていたからである。ところが意外なことに,急激な民営化によって腐敗は悪化してしまった。そもそもロシアの民営化のなかには,内部関係者が裏取引で国有企業を引き継ぎ,事業に投資することもなくただ資産を剥奪し,スイスの銀行口座の残高を増やしただけというお粗末な事例が多かったのである。わたしたちは実際に企業がどうなったのか知りたくて,旧東側24カ国の3550の企業経営者を対象にした調査データを詳しく調べた。すると,外資が入った民営化に成功例が多いことがわかった。チェコのフォルクスワーゲンとの提携のように,企業がうまく再編され,競争力がついて,結果的にその国の投資と雇用の促進に一役買うというケースである。一方,自国のノーメンクラトゥーラが国有企業を引き継いだだけだったロシアでは,期待されていたような民営化の成果は上がらなかった。いや,それどころか経済は悪化し,民営化以前よりも贈収賄や資産剥奪が増えた。結局のところ,急ぎすぎた民営化は経済の停滞を長引かせたばかりか悪化させたのであり,ショック療法を選択した国々の1人当たりGDPは民営化断行によって平均16パーセント落ち込んだと試算される[民営化以外の価格自由化,民主化等による影響を除いた試算]。今回の世界大不況の直撃を受けた国々と同程度の落ち込みである。

デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.77-78

政府の舵取り

大恐慌とニューディール政策がわたしたちに教えてくれたのは,たとえ未曾有の経済危機に陥ろうとも,政府が舵取りを間違えなければ,国民の命と健康を守ることができるということだった。わたしたちが今迫られている政治的選択は,大恐慌の教えを生かすのか,それとも大きなリスクを冒して別の道を進むのかという根本的な選択なのである。

デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.56

政府債務と個人債務

政府債務と個人債務を同列に語ることはできない。個人の場合,たとえば住宅ローンの返済を怠れば信用格付けが下がるし,場合によっては家を失うことになるかもしれない。借金があるなら,できるかぎり早く返済する方法を考えなければならない。しかし政務債務の場合は,あわてて一気に返済する必要はない。むしろそんなことをしたら危ない。経済とは運命共同体のようなもので,誰かの消費がほかの誰かの収入につながっている。つまり政府が急激に支出を抑えれば,国民の収入が減り,ものが売れなくなり,企業のもうけが減り,ますます収入が減り……と悪循環が生じて経済が失速する恐れがある。
 国の債務管理にとって肝心なのは,債務を持続可能な状態に保つことである。そのためには,国際の名目利子率が名目経済成長率より低いか等しくなければならない。景気刺激策によって税収が増えれば,債務を徐々に減らしていくことも可能になる。しかしイギリスの場合,大規模な歳出削減によって経済が失速してしまった。そしてまさにそのせいで,最新のデータが示すように,支出を抑えたにもかかわらず債務残高は増え続けている。

デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.33-34

不況は体にいい?

たとえば,ギリシャは大不況以前にはヨーロッパで最も自殺率が低い国だったが,2007年以降そのギリシャで自殺率が急増し,2012年までに自殺率が倍になった。ギリシャにかぎらず,他のEU諸国でも同じ傾向が見られ,大不況以前は自殺率が20年以上一貫して低下してきたのに,大不況によって一気に上昇に転じた。
 その一方で,逆の現象も起きていた。経済危機によって健康が改善した地域や国があったのだ。たとえばアイスランドは史上最悪の金融危機に見舞われたが,国民の健康状態は実質上よくなっていた。スウェーデンとカナダも今回の不況で国民の健康状態が改善したし,ノルウェー人の平均寿命は史上最長を記録した。北方の国ばかりではない。日本も同様で,「失われた10年」いや「20年」と言われるほど不況が長期化して苦しんでいるが,健康統計では世界トップクラスの結果を出している。
 こうした明るいデータを見て,安易に「不況は体にいい」という結論に飛びつくエコノミストもいる。彼らは不況で収入が減ると飲酒量や喫煙量が減るし,車に乗らずに歩くようになるなど,健康にいいことが増えるからだと説明する。そして多くの国や地域で不況と死亡率の低下に相関関係が見られると説く。なかにはまことしやかに,不況が終わったらアメリカでは6万人が死ぬことになると予言する人までいる。
 だが,彼らはその逆を示す世界各国のデータを無視している。今回の大不況の間に,アメリカのいくつかの郡では40年ぶりに平均寿命が短くなった。ロンドンでは心臓麻痺が2000件増えた。自殺も増え続けているし,アルコール関連の死因による死亡率も増加している。

デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.24

ゲーマーは参加容量供給源

ひとつは,ゲーマーはきわめて貴重な——そしてほとんど活用されていない——参加容量提供源だということです。彼らを現実世界の仕事に効果的に関与させる方法を最初に考え出す人は,莫大な便益を手にすることになるでしょう。(ガーディアンの「地元選出議員の経費を調べよう」は,その明らかにその草分け的な試みでした)
 ふたつ目は,クラウドソーシングプロジェクトは——本当に意欲的な目標を達成できるだけの参加容量を集められる見込みが多少なりともある場合には——優れたゲームが与える報酬と同じような内発的報酬を与えるように,意図的にデザインする必要があるということです。そうすることが利用できる総参加容量を劇的に増やす唯一の方法だと,私は確信しています。質の高い熱心な活動に能動的に関わることに,みんながゲーマーと同じくらい長時間費やすならば,私たちは乏しいクラウド資源を奪い合わなくてもよいでしょう。重要な集団的活動に注ぎ込まれる精神的時間が,今よりはるかに多くなるでしょう。

ジェイン・マクゴニガル 妹尾堅一郎(訳) (2011). 幸せな未来は「ゲーム」が創る 早川書房 pp.329-330

セルフヘルプのパラドックス

私たちが単独で単純な幸せ活動を実践するのを妨げるふたつ目の障害は,私が「セルフヘルプのパラドックス」と呼んでいるものです。セルフヘルプは一般に個人的で私的な活動です。ある種の活動——恐怖を克服する,キャリアの目標を見つける,慢性的な痛みに対処する,定期的な運動を始めるなど——に関しては,セルフヘルプは確かに成果をあげるでしょう。でも,日々の幸せに関しては,個人的で私的な活動は決して成果をあげません。なぜなら,ほとんどの科学的な研究結果によれば,自分ひとりで長期にわたって幸せになるよい方法は皆無に近いからです。

ジェイン・マクゴニガル 妹尾堅一郎(訳) (2011). 幸せな未来は「ゲーム」が創る 早川書房 pp.265-266

幸せ活動の弊害

ポジティブ心理学者のマーティン・セリグマンは,「幸せ活動は本物ではないという広く行き渡っている考え」は,ポジティブ心理学を実践するうえで「深刻な障害」になると,述べています。本能的な理屈抜きの反発が相手では,科学に勝ち目はありません。それに,ポジティブ心理学者たちが提供できる最善のアドバイスは,残念ながら,私たちの皮肉で懐疑的な見方を強めるだけのようです。多くの人にとって,幸せ活動は,よいことをしてよい気分になるという構図がさほどあからさまではなく,直感的により魅力的に思えるパッケージに組み込まれる必要があるでしょう。

ジェイン・マクゴニガル 妹尾堅一郎(訳) (2011). 幸せな未来は「ゲーム」が創る 早川書房 pp.265

何かを残したい

集団的な努力に参加したり,畏敬の念を受け入れたりすることは,意味ある人生を送り,世界に意味のある足跡を残すための潜在能力を解き放つ助けとなります。
 仮想的な世界のことであっても,何らかの証を残すことができれば,私たちは,大いなる目的のために貢献する感覚がどういうものかを学べるのです。私たちの頭脳や身体が,壮大な意味に感情的な見返りとしての価値を感じ,それを探し求めるための準備になるのです。それに最近の研究結果で示されているように,ゲームの世界がそのように壮大な意味を見返りとして与えてくれるのを楽しめば楽しむほど,私たちは実生活にも同様の見返りを求めようとするのです。

ジェイン・マクゴニガル 妹尾堅一郎(訳) (2011). 幸せな未来は「ゲーム」が創る 早川書房 pp.164

すぐに没入できる

考古学者たちは,崇拝者は数百マイル以上も徒歩で移動してギョベクリ・テペ遺跡を訪れ,それも人生で一度きりの訪問だったのではないかと考えています。現代では,私たちが望むときにいつでも気軽に,そうした環境に没入できます。本物の大聖堂をたった一度だけ目にするために長い距離を移動せずとも,私たちは世界のどこからでも,大作ビデオゲームを起動するだけでそのような場所を訪れることができるのです。

ジェイン・マクゴニガル 妹尾堅一郎(訳) (2011). 幸せな未来は「ゲーム」が創る 早川書房 pp.155

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