次のような問題を例に考えてみよう。
(1) 前提 哺乳類はすべて歩ける。犬は哺乳類である。
結論 犬は歩ける。
この結論は前提から論理的に導かれるだろうか?
では,次の問題はどうだろうか?
(2) 前提 哺乳類はすべて歩ける。イルカは哺乳類である。
結論 イルカは歩ける。
この結論は前提から論理的に導かれるだろうか?
イルカは歩けない。しかし,双方の前提が正しいのであれば,答えはどちらも「はい」になるはずだ。
このように出題されると,ほとんど誰もが最初の問題は正しいと答える。最初の問題では,前提から得られる結論が論理的であり(二つの前提からそのような結果になる),かつ信じうる(実際,犬が歩けることを私たちは知っている)からだ。ところが,二番目の問題では,うまく対処できる人とそうでない人がでてくる。なぜだろうか?二番目の問題は論理的な思考のプロセスが必要となるだけでなく,結論の信憑性に関して情報を制限することが必要となる。意思決定の過程にひそかに入ってくる情報だ。このような論理的作業をうまくこなせるかどうかを予測するものとして知られる認知能力の一つが,ワーキングメモリーなのである。
シアン・バイロック 東郷えりか(訳) (2011). なぜ本番でしくじるのか:プレッシャーに強い人と弱い人 河出書房新社 pp. 84-85