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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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非熟練者の恩恵

 ビジネスの世界以外でも,経験を積んだ人は熟練していない人の考えを聞くことによって恩恵をこうむることができる。たとえば,数学の能力の異なる二人の大学生を組ませることで,一人で考えた以上に,どちらの学生も難解な数学の問題でより高い実行能力を見せるようになる。数学に弱い学生が,数学に強い学生に教えてもらえば得するのは当然のことだが,数学に強い学生もペアを組むことで利益を得られるのは興味深い。これは,自分よりわかっていない相手に教えなければならない場合,時分でもその対象をよりよく学ぶ結果になるからだ。勉強のできない学生も,よくできる学生に問題を別の観点から,既成概念にとらわれずに考えるように促すことができる。そこから特殊な問題を新たに直感的な方法で解決するために,しばしば必要となるような創造性が生まれてくる。経験のある人でも,知識のない人の助けを借りることが,ときには重要なのである。
シアン・バイロック 東郷えりか(訳) (2011). なぜ本番でしくじるのか:プレッシャーに強い人と弱い人 河出書房新社 pp. 25-26

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チョーク

 「プレッシャーのもとでチョークする[硬くなる]」という言葉はこれまで耳にしたことがあるだろう。バスケットボールの試合で勝敗を決めるフリースローがはずれたときは「ブリック」すると言うし,ゴルフ・トーナメントで優勝できるはずの簡単なパットが途中で止まれば「イップス」だと言われ,コースの成績や大学の合否がかかっている重要な試験で失敗すれば,「クラック」すると言ったりする。さらに,いざ火事になると冷静に考えられず,避難訓練のときのように建物から脱出できなければ「パニック」になるとも言う。しかし,こうした言葉は実際には何を意味するのだろうか?
シアン・バイロック 東郷えりか(訳) (2011). なぜ本番でしくじるのか:プレッシャーに強い人と弱い人 河出書房新社 pp. 11-12

権力の獲得

 分裂病については暗黒の面ばかりではない。しかし,暗黒面を無視するのは,創造性や業績を無視するのと同様に非現実的で不適切である。分裂病患者,分裂病の遺伝情報を一部もった人は暴力的であったり,サイコパスであったり,犯罪を犯すこともあり得る。これらの資質はより優れた知性によって抑制,コントロールすることができれば,地位や認知,金銭を巡る争いにおいては計り知れない価値を持つ。これは特に,「ならず者」を除外できない社会,真の民主主義が実践されていない社会において真実である。そのためごく最近まですべての社会で,いや,今日でも民主的とされる多くの社会において,これらの特質を持つ節操のない人々が他人をさしおいて権力を獲得し,維持する機会を得ている。
デイヴィッド・ホロビン 金沢泰子(訳) (2002). 天才と分裂病の進化論 新潮社 pp. 253

マラリア治療法

 実験は繰り返しおこなわれ,多くの疾患が治癒した。もっとも,ワグナー・ヤウレックはこの治療効果のメカニズムを理解することはなかった。それが完全に解明されたのはずっと後のことで,梅毒スピロヘータが培養できるようになってからだ。梅毒スピロヘータ(梅毒トレポネーマ)はきわめて温度に敏感な少数のバクテリアの一つである。わずかな温度上昇で死滅する。マラリア発作における数度の体温上昇で患者が死ぬことはないが,それはスピロヘータを殺すには十分である。患者はマラリアに罹ったままだが,より深刻な病気は治癒する。マラリアの発作は標準的抗マラリア療法でコントロールが可能である。
デイヴィッド・ホロビン 金沢泰子(訳) (2002). 天才と分裂病の進化論 新潮社 pp. 191

精神科医のノーベル賞

 精神科医でただ一人ノーベル賞を受賞した人物がいる。1927年のことである。私はいつも若い精神科医たちにこう聞くことにしている。ノーベル賞を受賞した精神科医はだれか。受賞理由は何か。40歳以下の精神科医でこれについて正確に答えられたものはまだいない。
 それはオーストリアのユリウス・ワグナー・ヤウレックで,受賞理由はマラリアによる精神疾患治療を確立したことである。そう聞くと,若い精神科医たちはびっくりして,「なんて原始的なんだ」などとつぶやく。アメリカでは1950年代までマラリア療法がおこなわれていたと言っても,彼らはたいてい私の言うことを信じない。
デイヴィッド・ホロビン 金沢泰子(訳) (2002). 天才と分裂病の進化論 新潮社 pp. 189-190

分裂病の遺伝

 双生児研究から得られたもっとも衝撃的な事実は,一卵性双生児の一方が分裂病だからといって,もう一人も分裂病であるとはかぎらないということである。二人がともに分裂病である一卵性双生児は40パーセントから50パーセントである(一致)。50パーセントから60パーセントは一人だけが分裂病である(不一致)。
 これは,遺伝子が人格,精神の健康度,精神病を総合的に決定する決定因子ではないという動かしがたい証拠である。遺伝子がそれを決定する唯一のものだとすれば,一致はほぼ100パーセントのはずだ。遺伝子をすべて共有している一卵性双生児の場合でさえ,一致するのは50パーセントに過ぎない。これは分裂病の遺伝的危険率が高い人の発症については,環境が大きく影響することを示している。
デイヴィッド・ホロビン 金沢泰子(訳) (2002). 天才と分裂病の進化論 新潮社 pp. 172-173

分裂病の遺伝子

 従って,遅くとも約六万年前までに,一番早くて十五万年前に,すべての人種が分裂病の遺伝子を獲得したということになる。これは人類史上もっとも重要な出来事の一つであろう。大きな脳をもち,善良だが想像力にかける先行人類から,創造的だが落ち着きのない,われわれ現生人類への転換点であったのだろう。これが本当の人類創生物語なのだろうか?
デイヴィッド・ホロビン 金沢泰子(訳) (2002). 天才と分裂病の進化論 新潮社 pp. 155

相関と因果関係

 しかし,相関があるからといってそれが因果関係を示すことにはならない。たしかに相関は,ある事象がもう一つの誘因であることを意味する場合もある。しかし,両者が第三の要因によってひきおこされ,相関がみられることもあるのだ。たとえば次のような例がある。第二次大戦後,自動車と洗濯機の所有が劇的に増加した。それらを一年ごとに座標で位置を定め比較すると,自動車と洗濯機の購入とのあいだに密接な関係があることはあきらかだった。だからといって,自動車の購入が洗濯機の購入の誘因だということにはならない。両者には相関がみられるが,それは一方が他方をひきおこしたということではない。両者の数字は一般的な購買数の増加の指標なのである。相関はつねに注意深く正当に解釈されるとはかぎらない。
デイヴィッド・ホロビン 金沢泰子(訳) (2002). 天才と分裂病の進化論 新潮社 pp. 119

脳内の伝達

 どうやら脳内のできごとを単純化しすぎてしまったようだ。本来,その複雑さは私の拙い描写など及びもつかないほどで,脳をコンピュータにたとえられないのはそのためだ。コンピュータでは,各々の段階で電気インパルスは通過するかしないかのどちらかで,中間の状態がない。介入する手順,代替の手順が増えるほど,ものごとは複雑かつ微妙になる。しかし神経系においては,各々の段階は「よし,通せ」あるいは「だめだ,止めろ」というような単純なものではない。十万段階もの「かもしれない」というレベルがあるのだ。各々の神経細胞間の交信についてその流動性を考慮に入れ,さらに一千億の交信するニューロンを加えて考えてみよう。人間の脳は宇宙のなかで最も複雑な構造をもっていると言っても過言ではないことが理解できるだろう。
デイヴィッド・ホロビン 金沢泰子(訳) (2002). 天才と分裂病の進化論 新潮社 pp. 111-112

脳とコンピュータ

 このような違いにもかかわらず,脳とコンピュータには基本的な共通点もある。電気を通す伝導路と効果的な絶縁が必要なのである。特別に要求されたとき以外は伝導路間の交信をとめるためである。ここでリン脂質が登場する。リン脂質はほぼ完璧な絶縁体となり得る。決して簡単には開かず,電気インパルスと特定の化学物質のみを通す。神経細胞の細い突起部では,リン脂質という絶縁体のチューブが,電気を通す液体の溶解物質の柱をおおっている。多発性硬化症においてはこの絶縁の喪失が問題の一つである。隣り合った神経細胞間で不適切な交信がおき,脳の一部が機能不全をおこすのである。
デイヴィッド・ホロビン 金沢泰子(訳) (2002). 天才と分裂病の進化論 新潮社 pp. 106

脂肪

 脂肪が重要な役割を果たす驚異の器官が脳である。脳は何からできているのかと聞かれて,ほとんど水であると答えられる者も少しはいるだろう。たしかにそれは正しい。しかし,水以外の成分で最も重いものをあげろと言われて,脂肪と答えられる人はほとんどいないだろう。脂肪なのである。脳の水以外の成分,その60パーセントが脂肪である。人間の脳は脂肪で満ちている。それが人とチンパンジーの違いなのである。
デイヴィッド・ホロビン 金沢泰子(訳) (2002). 天才と分裂病の進化論 新潮社 pp. 88

変異と環境

 進化における変化は,選択されるべき有利な突然変異がなくてはおこり得ない。変化に必要なものは二つある。環境条件の変化と,あらたな環境条件によって選ばれ得る変異型の存在である。前にのべた定期的な飢饉の例では,初期人類の変化は環境に由来するものだった。しかし,それだけでは新変異型,新しい種への進化のための十分条件とはいえない。環境因子は,その時点ですでに存在している遺伝子への反応,変異型すなわち突然変異と適合しなければならない。この潜在する突然変異は,それまでの環境のもとでは害も益もないが,環境がかわると急に重要で有益なものとなる。当初はほとんど価値のない突然変異も,はからずも,将来の環境変化にたいする備えとなることがある。
デイヴィッド・ホロビン 金沢泰子(訳) (2002). 天才と分裂病の進化論 新潮社 pp. 66

適者とは

 進化においては,生き残り,十分な数の子孫を残すものが競争に勝つ。「最も適した」ものが生き残る,「適者生存」である。それは最も頭のよいものでも,最も速く走ることができるものでも,最も狩に長けたものでもない。それらは価値ある特技ではあるが,「適者」とは,最も効率的に繁殖し,最も多く生きた子孫を残すものである。環境が安定している時には種や生態も安定し,繁殖は成功裏につづく。しかし,環境が変化すると,それまで成功していた生体の特性がうまく機能しなくなり,繁殖の成功は難しくなる。やがて個体とそれが属しているグループは絶滅してしまう。
デイヴィッド・ホロビン 金沢泰子(訳) (2002). 天才と分裂病の進化論 新潮社 pp. 64

手斧

 ハンドアックスに関して最も重要なことは,その製作と使用にあたって,人間は三つの関連した行動をとる必要があったということである。最初に,製作者はハンドアックスに適した石をみきわめ,原石のうえに形状を思い描かねばならない。次にしっかりした台に腰掛け,槌で石をハンドアックスの形状に削らねばならない。最後に,使用者はハンドアックスをかなり遠い獲物めがけて正確に投げるための運動機能を養わねばならない。
 石のなかに完成した形を思い描くことは,世界中にホモ・エレクトゥスとその亜種が君臨していた時代に発達した人間の新しい特性である。「彫刻家の技とはそこにすでに存在しているものを明るみに出すことだ」というミケランジェロのことばそのものだ。きわめて興味深いことに,三次元の形を視覚化することは,現代の建築家,彫刻家にも共通した特性である。彼らはしばしば「読字障害」である。文字言語の処理に問題がある学習障害だ。しかし,多くの読字障害者には特別な能力があることもよく知られている。そこにあらわれていない形を見る能力,それが形となってあらわれる前に,現代ならコンピュータグラフィックスによって視覚化される前に,三次元の構造物を視覚化する能力である。のちに述べるが,読字障害は分裂病患者の家系にもよく出現する。このような遺伝子の「異常」がうみだした能力が,人間の歴史において,きわめて積極的な役割をはたしていたのかもしれない。
デイヴィッド・ホロビン 金沢泰子(訳) (2002). 天才と分裂病の進化論 新潮社 pp. 49-50

人間と他の遺伝子

 人間とその他の種の遺伝子構造は驚くほど似ている。人の遺伝子のうち40パーセントがアルコールやパンを作るのに使うイースト菌と共通である。60パーセントはミミズと同じで,ネズミやウサギといった,人間とは特に深い関係のない哺乳類でも80パーセントから90パーセントの共通遺伝子を持っている。チンパンジーや他の類人猿とは98から99パーセントの遺伝子を共有している。つまりゲノムについては,人とチンパンジーは違いより類似点のほうがはるかに多い。
デイヴィッド・ホロビン 金沢泰子(訳) (2002). 天才と分裂病の進化論 新潮社 pp. 30

脳と脂肪

 脂肪は無駄な厄介もの。先進国の人間にとっては大問題だ。われわれはいつのまにかそう考えるようになり,脳がほとんど脂肪でできているという事実を見落としてしまう。もちろん特別のタイプではあるが脂肪には変わりない。進化の過程における脳の発達は脂肪組織の増大にほかならない。そのうえ,何百万という神経細胞間の極細の接続も,「脂肪に満ちた」細胞同士をつなぐ「脂肪に満ちた」接続なのである。それが人間の知性と創造性の構造的な土台である。
 人間の進化において,脂肪に満ちた脳の発達は,皮下脂肪の増大,胸と尻という特別な箇所への脂肪の蓄積と並行しておきた。同じような生化学的作用によって脳,胸,尻は大きくなったのだろう。人間と人間にもっとも近い類人猿とを区別する重要な解剖学的特徴,それが脂肪なのである。
デイヴィッド・ホロビン 金沢泰子(訳) (2002). 天才と分裂病の進化論 新潮社 pp. 22-23

言語カテゴリーモデル

 オランダの社会心理学者セミンらは,対人関係を表す述語を次のように4タイプに分けることを提案した。言語的カテゴリーモデル(LCM:linguistic category model)と呼ばれる。
 描写行為動詞:特定の単一の行動に言及。観察できる出来事を客観的に記述する。呼ぶ,会う,蹴る,など。
 解釈行為動詞:特定の単一の行動に言及するが,記述を超えた解釈を行う。騙す,助ける,禁止する,など。
 状態動詞:単一の事象から抽象された持続的状態に言及する。単なる記述を超えた解釈をする。尊敬する,憎む,好む,など。
 形容詞(日本語では形容動詞も含まれる):高度に抽象された人の特性を示す。高度に解釈的で,特定の行動からは切り離されている。正直だ,優しい,冷たい,など。
 これらはヨーロッパ語の観察に基づくが,日本語でもおおむね当てはまると考えられる。
岡本真一郎 (2016). 悪意の心理学 中央公論新社 pp. 231-232

伝言ゲームの特徴

 子どものころに伝言ゲームをした経験はお持ちだろう。何か短い物語を順に耳打ちしていくというゲームである。このゲームでは内容は次第に変化していくし,最初とは似ても似つかない話になることもある。この伝言ゲームを正確な手続きで行った研究(系列的再生)の実験結果を分析すると,次のようなことが分かる。
 (1)平均化:内容がだんだん簡潔化される。
 (2)強調化:一部だけが強調される。
 (3)同化:伝達者の知識,先入観,価値観などに影響されて内容が変化していく。
岡本真一郎 (2016). 悪意の心理学 中央公論新社 pp. 215

嘘の手がかり

 相手の嘘を疑う場合については,これも先に述べたことだが,嘘を見破る手がかりというのは当てにならないことには注意すべきである。たとえば「話し手が視線を避ける」ことは手がかりにはなりにくい。このため,実際は話し手は正直に話しているのに聞き手の側は嘘を言っていると思い込んでしまうことが結構起こりうる。そもそも聞き手が話し手を疑っているとき,また話し手が聞き手に疑われていると感じているときは,とくにそうした間違いは生じやすいだろう。これは,話し手にとっても聞き手にとっても不幸なことに違いない。
岡本真一郎 (2016). 悪意の心理学 中央公論新社 pp. 207

真実性へのバイアス

 日頃の他者とのつきあいでは,相手の一言一言が嘘だと疑ってかかっているわけではない。いちいちそんなふうに接したら失礼にあたる。つまり「性善説」をデフォルト(基本)として相手と接するのが普通だろう。相手の発言は真実だと思ってそれを基準に判断するから,それを嘘だろうと見直すのは難しい。そうすると,仮に多少不自然な言い方やしぐさがあったとしても,そしてそれが実際に嘘の手がかりとして有効であったとしても,見落としてしまう可能性がある。これらを真実性へのバイアスと呼ぶ。
岡本真一郎 (2016). 悪意の心理学 中央公論新社 pp. 200-201

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