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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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嘘がバレても慌てない

サイコパスはうすがばれたりとがめられたりしても,慌てることはない。話の筋立てを変えたり,もう一度説明し直したりして,つじつまの合わないディテールを解きほぐし,信ずるに足る作品をもう一度編みあげるのだ。果てしない偽情報の羅列も,彼らの熟練の話術にかかれば,もっともらしい,合理的で筋のとおった話に変わってしまう。とくに話術が巧みなサイコパスは,ユートピアのような彼ら独自の世界観を相手の心のなかに植えつける。サイコパス本人も,その世界観が本物だと思い込んでいるかのように。

ポール・バビアク&ロバート・D・ヘア 真喜志順子(訳) (2007). 社内の「知的確信犯」を探し出せ ファーストプレス pp.74
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優越感と特権意識

サイコパスは優越感と特権意識が強く,他人の財産を勝手に使うのを何とも思っていない。自分が特別な存在だという誇大妄想を抱き,他人は自分の世話をするために存在しているのだと信じている。サイコパスという詐欺師の目には,たいていの人は,弱く,自分より劣っていて,たやすくだませるように見えるので,彼らがだまされるのは自業自得だと豪語する。ときには,優越感が強すぎて,自分に尽くすという栄誉を恵んでやっているのだと言ってはばからない。

ポール・バビアク&ロバート・D・ヘア 真喜志順子(訳) (2007). 社内の「知的確信犯」を探し出せ ファーストプレス pp.71

他人を利用・搾取

もちろん,すべてのサイコパスが遊び暮らしているわけではない。だが,サイコパスは,健康に何の問題もなく,自活できる状況にあっても,平気で他人を利用する。定職についているサイコパスでも,何かと他人にたかりたがる。同僚だろうと上司だろうとお構いなしだ。
 共感能力のないサイコパスは,おそらく,きわめて基本的な感情さえ持ち合わせていない。自分の身勝手な行動が他人に及ぼす経済的,感情的な影響には無頓着で,この弱肉強食の世界で生きている人々は,自分と同じように貪欲で非情だと思い込んでいる。また,彼らは他人の感情を正確に読み取れず,人は誰しも自分と同じように深みがなく無味乾燥な感情しか持っていないと決めつけている。
 サイコパスの精神世界では,自分以外の人間は皆,単なる物体か,標的か,障害物でしかない。さらにサイコパスは,自責の念や罪悪感を覚えることもない。一般の人々は他人を利用したり操ったり傷つけたりすることを妄想こそすれ,実際にそれを行動に移すのを思いとどまらせる道徳観念を持っているが,サイコパスにはそれがない。サイコパスは,良心から生じる疑念や懸念に苛まれることがないので,腕の良い捕食者になれるといえるかもしれない。

ポール・バビアク&ロバート・D・ヘア 真喜志順子(訳) (2007). 社内の「知的確信犯」を探し出せ ファーストプレス pp.68-69

サイコパスの戦略

サイコパスの行動プロセスで使われる戦略と作戦を3段階に分けて見ていこう。ただしこれは,サイコパスの性格から自然に生じるもので,意図的というより,無意識のうちに行われる場合が多い。
 最初は(1)評価段階で,サイコパスは相手が自分の要求をどの程度満たせるのかを見きわめ,相手の精神的な長所と短所を見つける。
 次は,(2)操作段階で,慎重に練り上げたメッセージを送って,その相手(この時点ですでに犠牲者候補)を操る一方で,相手の反応を絶えずうかがいながら,支配関係をつくり,それを維持しようとする。これは,ほとんどのケースで効果的な作戦であるばかりか,対立したり抵抗されたりした際に,うまく言い逃れをしたり,その場を切り抜けたりするのに役立つ。
 最後は(3)放棄段階で,サイコパスはそのゲームに飽きてしまい,散々振り回されて困惑する相手をあっさり見捨てるのだ。

ポール・バビアク&ロバート・D・ヘア 真喜志順子(訳) (2007). 社内の「知的確信犯」を探し出せ ファーストプレス pp.64

時間と空間の見方は均等ではない

これらすべてに,ややわかりにくい要素がある。私たちの時間と空間の見方は,対称ではないということだ。誰かに3つ並んだ電球を見せて1つずつ点灯する。1つが点灯してから,次の電球が点灯するまでの時間がどのくらいだったか評価してもらう。すると電球の間の距離が離れているときのほうが,次の電球が点灯するまでの時間が長いと答える。これは“カッパ効果”として知られている。いくつもの点がコンピュータ画面上を動くのを見る研究とよく似ていて,時間と距離を逆にしても成り立つ。電球を1つずつ点けるのは同じだが,電球と電球の間の距離を尋ねると,すばやく点灯させたときのほうが,距離が短いと感じる。こちらは“タウ効果”と呼ばれる。ライオンは大きいという知識から,おそらく速く走れると思ってしまうように,スピードと距離についての知識を無視するのは難しい。そのため,速い=近いと思ってしまうのだ。しかしボロディンスキーとカサントが,空間と時間の関係のアンバランスさを指摘した。私たちは空間を時間の言葉で考える以上に,時間を空間の言葉で考えている。これで1回りして,また言語と「4分の長さの道路」といった表現がないという話に戻ってくる。

クラウディア・ハモンド 度会圭子(訳) (2014). 脳の中の時間旅行:なぜ時間はワープするのか インターシフト pp.118

演技性パーソナリティ障害の場合

演技性パーソナリティ障害には,さまざまな特徴があるが,とくに顕著なのは,多情であることと,過剰と思えるほど強く認めてもらいたがることである。このタイプの人は,極端に大げさな態度をとり,感情表現がオーバーで,ときには,自分が置かれた社会的状況にそぐわない芝居がかった行動をとる。周囲の関心を集めるために着飾り,こびるような態度をとることもある。だが,ナルシシストとは異なり,つねに優越感に浸りたがるわけではない。彼らは,必要とする精神的な支えを得るためなら,脇役に徹することもできる。

ポール・バビアク&ロバート・D・ヘア 真喜志順子(訳) (2007). 社内の「知的確信犯」を探し出せ ファーストプレス pp.63

ナルシシストの場合

ナルシシストは,自分の周囲で起こることは,他人の言動も含め,すべて自分に関することだ,あるいはそうあるべきだと考える。思いどおりにならない状況でも,自分だけがしゃべり続けるとか,他人を見下した態度をとるなど,つねに自分がものごとの中心になるような行動を取る。
 他人の要求や願望を気にかけるとか,相手の話に耳を傾けるとか,相手の関心と反応を得るために働きかけるといった選択肢がない。彼らにいわせれば,ナルシシストと呼ばれるのは必ずしも悪いことではなく,極端なうぬぼれは,完璧な存在である自分自身へのごく自然な反応にすぎないという。ナルシシストは,自分の才能や長所は,自ら背負うべき重荷だとさえ言いかねない。
 ナルシシストは決まりきった行動しかとれない場合が多いが,ほかのパーソナリティ障害と同様に,時間をかけて,だれかにサポートしてもらえば,自分の行動や他人に及ぼす悪影響をある程度改めることができる。周囲にとっていちばん厄介なのは,彼らの自己愛的な性質,とりわけ,共感の欠如と特権意識が,反社会的で有害な行動に変わっていくことだ。これは,攻撃的なナルシシズム,あるいは悪性のナルシシズムと呼ばれ,このような状態になると,サイコパスと見分けるのが困難になる。

ポール・バビアク&ロバート・D・ヘア 真喜志順子(訳) (2007). 社内の「知的確信犯」を探し出せ ファーストプレス pp.62-63

心を読み,話術が巧み

第1に,サイコパスは他人の心理を読み取ろうとする意欲が旺盛で,その能力が高く,しかも,相手の好き嫌い,目的,要求,欠点,弱みを短時間で見抜くことができる。人には,そこを突かれると過剰反応してしまう“つぼ”があるものだが,サイコパスは一般の人に比べて,つねに相手のつぼを刺激してやろうと待ち構えている傾向がある。
 第2に,多くのサイコパスは優れた話術を持っている。たいていの人が感じる社会的な遠慮をすることなく会話に飛び込んでくるので,実際以上に話し上手に見えるのだ。人は話の中身よりも話術の巧みさに引かれる傾向があるという事実をうまく利用している。会話に中身がなく,誠意が感じられなくても,自信と迫力に満ちた話しぶり——専門用語,決まり文句,美辞麗句を散りばめることが多い——でそれを補うのだ。このテクニックに,自分はどんなことをしても許される人間だという思い込みが加わり,サイコパスは,相手について知りえたことを,会話の中で効果的に使うことができる。相手を感化するには何をどんなふうに言えばいいのかを心得ているのだ。
 第3に,サイコパスは周囲に与える自分の印象を自在に変えられる。他人の心理を読む力と,深みはないが説得力のある話術の巧みさをもってすれば,状況や作戦に応じて表向きの人格をいかようにも変えることができる。つき合う相手によって仮面を次々につけ替え,変身を繰り返す。そして,狙いをつけたターゲットに好かれるように振る舞うのだ。サイコパスは,ナルシストの目には,注目を集めたいという願望を満たしてくれる人のように映り,心配症の人の目には,安らぎを与えてくれる存在に映るだろうし,多くの人にとって,サイコパスは一緒にいて愉快な存在なのだ。自分の性格や弱みにつけ込んでいると疑う人はほとんどいないだろう。だが,人生という大勝負で,サイコパスはあなたの手持ちのカードを読み取ったうえで,ペテンにかけるのだ。

ポール・バビアク&ロバート・D・ヘア 真喜志順子(訳) (2007). 社内の「知的確信犯」を探し出せ ファーストプレス pp.59-60

サイコパス・スペクトラム

サイコパシーは段階的に診断される症候群であり,血圧と同じように,低すぎて危険な域から高すぎて危険な域に至るまで,大きな幅がある。最低血圧と最高血圧が極端に低かったり高かったりする人を,低血圧,高血圧と呼ぶが,この両者の間にはさまざまな血圧値があり,正常と診断される人もいれば,病気までとはいえないが,さまざまなレベルで要注意とされる人もいる。
 血圧と同様に,サイコパシーの特性の数と深刻度も,限りなくゼロに近い状態から,異常レベル,問題を引き起こす重症レベルへと上昇し,このなかで高いほうの領域にある人間がサイコパスと呼ばれる。彼らには,サイコパスを定義づける対人関係,感情,ライフスタイル,反社会性に関する特性がきわめて多く見られる。
 たいていの人は最低値と最高値の中間領域に属し,その多くがゼロに近いところに集中している。ちょうど中間域にある人々は,サイコパシーの特性を数多くは持っているが,厳密な意味ではサイコパスといえない。

ポール・バビアク&ロバート・D・ヘア 真喜志順子(訳) (2007). 社内の「知的確信犯」を探し出せ ファーストプレス pp.49

サイコパシー,ソシオパシー,反社会性パーソナリティ障害

サイコパシー(精神病質),ソシオパシー(社会病質),反社会性パーソナリティ障害(APD)は,しばしば混同される。一般人,専門家を問わず,それぞれ置き換え可能な用語として扱う場合もあるが,症状に関連性はあっても,特徴がまったく同じというわけではない。
 サイコパシーは本書のテーマの根底を成す性質や行動に特徴づけられるパーソナリティ障害であり,サイコパスは良心も,他人への共感,罪悪感,忠誠心も持たない。
 ソシオパシーは精神疾患を示す正式な用語ではない。一般社会で反社会的行為や犯罪行為をみなされる態度や行動パターンを総称する言葉である。反社会的と言っても,当人が育った社会環境や文化のなかでは正常,あるいは当然とみなされる行為もあり,その点では,ソシオパスは十分な善悪の判断力も,他人への共感,罪悪感,忠誠心をもつ能力も備わっているといえる。ただ,自分の属する文化やグループの規範や予測に基づいて善悪を判断する傾向があるというだけだ。犯罪者にはソシオパスが多いといえるかもしれない。
 アメリカ精神医学会が発行した『DSM-IV 精神疾患の診断・統計マニュアル』(American Psychiatric Association著,高橋三郎訳,医学書院)を見ると,APDの診断項目は多岐にわたっている。診断基準の中心は反社会的行動や犯罪行動であり,その意味ではソシオパシーに類似している。APDの症状がある人の一部はサイコパスだが,大多数はそうではない。サイコパシーには他人への共感の欠如,誇張癖,情緒の乏しさがあるが,APDの診断基準では,これらの特性は必須項目ではない。
 一般社会においても刑務所においても,APDはサイコパシーよりも3,4倍多く見られる。ソシオパシーと判断される者の比率は不明だが,APDと比較すると,ソシオパシーのほうがかなり多いと推測される。

ポール・バビアク&ロバート・D・ヘア 真喜志順子(訳) (2007). 社内の「知的確信犯」を探し出せ ファーストプレス pp.37-38

ハイリスク・ハイリターンを好む

第4に,ルールや規制を無視し,悪賢く他人を欺くことに長けたサイコパスにとって,このような新しい柔軟性のある企業構造が魅力的だったという点だ。サイコパスの素質を持った人間にとって,スピーディで競争が激しく効率のよい“過渡期”企業,とりわけ拘束が少なく,報酬も高い企業には,抗しがたい魅力がある。こうして彼らは,スピーディでハイリスク・ハイリターンのビジネス環境を持つ職場にますます引きつけられていく。

ポール・バビアク&ロバート・D・ヘア 真喜志順子(訳) (2007). 社内の「知的確信犯」を探し出せ ファーストプレス pp.5

自信と強靭さ,冷静さ

不幸にも,変化にさらされ混乱状態に陥った企業には,自信と強靭な精神力,冷静さを兼ね備えたサイコパスは救世主に見えてしまいやすい。さらに悪いことに,そういった特性を持つ人材の採用が,いかにも正しい判断のように思われる。目まぐるしく変化する非常なビジネス界で生き残るために必要な能力とスキルがあるなら,自己中心,無神経,無感覚といった欠点には目をつぶってもいいという考えが,突如としてまかりとおるようになったのだ。

ポール・バビアク&ロバート・D・ヘア 真喜志順子(訳) (2007). 社内の「知的確信犯」を探し出せ ファーストプレス pp.4-5

サイコパスを採用する理由

第1に,サイコパシーの中核を成す特性——才能とも呼ぶべきもの——が,企業にとっては求職者の資質として魅力的に見え,採用の決め手になるからだ。サイコパスはチャーミングで,ベテランの面接官さえも自分のペースに巻き込んでしまう巧みな話術を持っている。自分に有利になるとあれば,持ち前のカリスマ性を発揮して,人一倍警戒心の強い人間をも油断させ,だますことができる。不覚にもサイコパスと結婚してしまった人が,後になって相手の策略と虐待と苦痛の網にかかったと気づくように,企業もまた,誤った採用決定を下し,後々厄介な事態に陥ることがある。世間の目を欺くことに長けたサイコパスにとって,採用面接は自分の才能を発揮できる格好の機会だ。
 第2の理由は,採用担当者が,サイコパス特有の態度に“リーダーとしての適性”があると思い込み,本性を見抜けないまま雇ってしまうことにある。たとえば,采配を振る,決断を下す,他人を意のままに動かす,といった要素は,リーダーや経営者に求められる典型的な特性だが,じつはそれが,周囲を威圧し,支配し,欺く姿勢を覆い隠す体裁のよい包装にすぎない場合もある。型どおりのリーダーシップという化けの皮の下に隠れたパーソナリティの内部作用を見抜けないと,取り返しのつかない採用決定をすることになる。
 第3に,ビジネスそのものの質の変化が,サイコパスの採用を促したともいえる。20世紀初頭,多くの職業が相互に関連するようになり,それに携わる多数の従業員の作業を調整し,効率を高める際に生じる問題解決のビジネスモデルとして,“官僚主義”が発達した。競争が複雑化するにつれて,企業を支える体制が複雑化し,下部組織の規模も拡大した。その結果,官僚型組織の常として,従業員数が膨れ上がり,業務プロセスや手順が煩雑になり,コストも増加した。その結果,官僚体制は非効率だという悪評を買うようになった。

ポール・バビアク&ロバート・D・ヘア 真喜志順子(訳) (2007). 社内の「知的確信犯」を探し出せ ファーストプレス pp.3-4

良い活動からやめる

もしあなたがスケジュールを整理しようと決心したのなら,もう1つ,考慮しなければならないことがある。オックスフォード大学の臨床心理学者で,マインドフルネスの心理的利点について研究しているマーク・ウィリアムズは,人がストレスを感じ,忙しい生活に押しつぶされそうになると,何よりも健康によい活動をやめてしまう傾向があると指摘している。その理由はすぐにわかる。家族や仕事に関することをやめるわけではいかないが,聖歌隊で歌うとか,運動をするとか,夜間の美術クラスに通うとかいったことはやめられる。こうした活動はどうしても必要なわけではないので,効率的な時間の使い方と見なすのは難しいかもしれない。しかし現実には,これらの活動はストレスを減らし,幸福度を高めることが実証されている。

クラウディア・ハモンド 度会圭子(訳) (2014). 脳の中の時間旅行:なぜ時間はワープするのか インターシフト pp.255-256

時間志向テスト

ジンバルドの「時間志向テスト」では,時間的なバイアスを評価し,6つのカテゴリーに分類している。過去否定型,過去肯定型,現在宿命論型,現在快楽型,未来型,超越未来型である。彼のテストを使えば,あなたの志向がどのカテゴリーにどの程度入っているかがわかる。人は1つの時間枠だけを考えて過ごしているわけではないが,たいていの人は,この6つのカテゴリーのうち2つか3つが優位を占めている。現在快楽志向の人は今この瞬間を生きているので,ギャンブルや飲酒にはまったり,危険運転をしたりしやすい。一方,未来志向の人(今,少額のお金をもらうより,将来,多くのお金をもらえるのを待てるティーンエージャー)は,試験でよい成績をとる傾向があり,歯のフロスティングもきちんとすることが多い。
 ではどの時間志向が最も幸福に結びつきやすいのだろうか。過去否定型はあまり望ましいとは思えないが,過去を失ってしまったことを嘆くのではなく,過去を懐かしむという見方であれば,過去肯定型なら好ましいとジンバルドは考えている。未来志向の人は一般的に幸福度が高いと考える研究者が多いが,ジンバルドは違う意見だ。未来志向も度を過ぎると,仕事中毒,社会とのつながりの欠如,連帯意識の希薄化につながると警告している。彼の研究によれば,1つの志向タイプを目指すのではなく,バランスを取ることが大切だ。しかしこれは口で言うほど簡単ではない。ジンバルドの同僚の研究によれば,完全にバランスのとれた時間志向の持ち主は,調査の参加者の8パーセントにすぎなかった。彼は幸せになるにはこのバランスが必要だと信じているが,幸福度を調べる調査では,はるかに高い割合の人々が自分の生活に満足していると答えている。

クラウディア・ハモンド 度会圭子(訳) (2014). 脳の中の時間旅行:なぜ時間はワープするのか インターシフト pp.231-232

計画錯誤

作業にかかる時間を過小評価するこの傾向は,“計画錯誤”と呼ばれる。その原因は,すでに述べた,将来を考えるときの性質にある。それは細部を考えないということだ。遠い将来を考えるときほど,私たちは細部を無視する。ところがおもしろいことに,誰か他の人の将来を考えるときは,細部まで考えるのだ。自分以外の人が何かをしようとするときは,その人が同様の作業をしたときはどのくらい時間がかかったか,そして途中で妨げとなりそうな要素もいろいろ考える。病気,思いがけない友人の訪問,疲労など。ところが自分が何かしようとしているときは,そうした情報をすべて無視して,その作業の本質だけを考える。これを最もよく実証した実験のよいところは,架空の状況を使わなかったことだ。架空の状況下の実験では,人が実際にそうふるまうかどうか確かめる術がない。その実験を行なった研究者は,論文を終わらせようとしている学生を対象にした。すると他の学生が論文を終わらせるのにかかる時間は,かなり正確に予測した。しかし自分の論文となると,たまに以前の経験を持ち出すことはあったが,正確な予測はできず,楽観的な予測の理由を説明しようとするばかりだった。彼らは過去に,自らの意欲が思いがけない出来事で邪魔されたことを,すべて忘れてしまっているようだった。

クラウディア・ハモンド 度会圭子(訳) (2014). 脳の中の時間旅行:なぜ時間はワープするのか インターシフト pp.225-226

もしもの備えの想像

つまり私たちの脳は常に働いていて,考えられうる将来を想像しているのだ。ではなぜ休めるチャンスに休もうとしないのだろう?もし脳がこれから起こることや具体的な計画についてずっと考えているのなら,将来についてとりとめもなく考えてしまうのも理解できる。しかし私たちは,実際にはほぼ起こらないような状況(本当に起こったら人生を変えるような大事件)を思い浮かべている。白昼夢が将来を考える助けとなる場合があるのは間違いない。しかしハーバード・メディカル・スクールのモッシュ・バーは,さらに踏み込んだ主張をしている。彼は白昼夢の効果は,間接的なものだと言う。白昼夢により起こっていないことの記憶が生まれるが,それはその記憶が必要になったときの備えだというのだ。飛行機に乗ろうとしている人はだれでも,墜落したらどうなるか考える。本当に墜落したとき,たとえ白昼夢のようなとりとめもないことでも,前に飛行機に乗ったときの経験からあれこれ考えたことが,命を救う役に立つかもしれないというのがバーの考えだ。

クラウディア・ハモンド 度会圭子(訳) (2014). 脳の中の時間旅行:なぜ時間はワープするのか インターシフト pp.215-216

将来を想像する

私たちが過去の経験から学んでいるのは当然だが,これを一歩先に進めると,記憶の根本的な目的は過去を振り返ることではなく,前を見て将来の可能性を想像することに関わっているのではないか。これは目新しい考えではない。頭の中を描いた14世紀の古い挿絵では,記憶は想像に入り込むヘビとして描かれている。それよりはるか以前,アリストテレスとガレノスが,記憶は生活の保管庫ではなく,想像のための道具であると説明している。スウェーデンの神経科学者デイヴィッド・イングヴァルは,1985年にこの考えの現代版を提唱している。それ以来,将来思考についての研究が次々と行われているが,前述したとおり,記憶に関する研究に比べると注目度はまだ低い。

クラウディア・ハモンド 度会圭子(訳) (2014). 脳の中の時間旅行:なぜ時間はワープするのか インターシフト pp.204-205

これからすること

ラジオ番組でインタビューを始める前に,私は音響レベルを確認するため,ゲストに何か質問をする。古典的なのは「朝食には何を食べましたか?」だが,大半の人が「何も」とか「トースト」とか,ひとことで答えてしまう。短すぎて機械のテストには使えない。そこで私はその日の午後,あるいは翌日の予定について尋ねるようになった。先週,出演してもらったある女性は,まっすぐ家に帰ると答えた。それは家を出る前に,2人の樹木医が庭の木の整理をするためにチェーンソーを持って彼女の家に来たのだが,どうも酔っ払っているように見えたからだという。速く戻って庭がどうなっているか,そして樹木医がどうなっているのか確かめたかったのだ。これほど興味をそそる答えはめったにない。これは簡単な質問だが,あくまで大人だったら,の話だ。3歳の子供にとっては,実ははるかに難しい質問なのだ。ある実験では,翌日何をするかという質問にまともに答えられたのは,3歳児では3分の1しかいなかった。これがあと1年か2年たつと将来を思い描く能力が発達して,3分の2が答えられるようになる。

クラウディア・ハモンド 度会圭子(訳) (2014). 脳の中の時間旅行:なぜ時間はワープするのか インターシフト pp.200-201

大人の時間

中年になっても,予期的に時間を評価した時の1時間はいつも通りの速さで進み,1日が過ぎる速度も変化はしない。人は1ヵ月や1年が過ぎるのが速すぎるとショックを受けることはあっても,1時間が速く過ぎるようになったとは感じない。時間の流れの目印は,年月が過ぎるのを常に私たちに知らせてくる。ベルリンの壁崩壊からもう20年が過ぎたと聞いて,私たちは驚く。自分が今も使っている物が,ヴィンテージ・ショップで売られているのを発見する。何よりもショックなのが,90年代生まれの同僚たちの存在だ。彼らはまだまだ学生のはずなのに!こういった目印が知らせる経過時間と,私たちが新たな記憶の数をもとに追想的に評価した経過時間は,大きく食い違う。中年以降は新たな経験の数が少なく,したがって新たな記憶の数も少ないため,私たちは予期的に評価した経過時間と,追想的に評価した経過時間とのずれを何度でも感じる。

クラウディア・ハモンド 度会圭子(訳) (2014). 脳の中の時間旅行:なぜ時間はワープするのか インターシフト pp.185-186

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