チーズの歴史を語る観点からさらに面白いのは,アブラハムがカード,あるいはフレッシュチーズは神の栄光の食卓に載せるのにふさわしいと考えていたことである。これはチーズが信仰にかかわっていたことを示す最古の記録であることは間違いない。この時期までにチーズは,メソポタミアの地において宗教上の儀式などで欠くことのできない存在となってすでに千年以上が経過していた。実際に,紀元前3世紀,寺院ではチーズとバターの日常的な供え物がごく普通になされるなど,宗教儀式のなかに組み込まれていたのである。制度としての宗教体系を通じてこうした儀式は周辺に伝播し,人類の最初の文明の成立に際しても中心的な役割を果たした。その結果,近東とギリシャ,ローマさえも含む,その後に続くほとんどすべての文明に影響を及ぼすこととなったのである。
ポール・キンステッド 和田佐規子(訳) (2013). チーズと文明 築地書館 pp.34-35
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