再就職は,50代半ばで役所から退官しなければならないという人事ルールに従って去るときに,おおむね65歳を目処に用意される働き場所である。人事ルールによれば,同期が事務次官になるときはそれ以外全員が退官することになる。文部省時代は,事務次官には若ければ54,55歳で就任していたから,同期入省者はそのくらいで役所での職を失う。事務次官自身も,若くて56歳,年長でも59歳で退任するのでその後数年から10年ほどの仕事の場が必要になる。
その際,何年か毎に勤め先を変えるのが「渡り」であり,退職金を何度ももらうために世間の批判の対象になってきた。これは,再就職先にもルールがあって,たとえば事務次官が退官後にすぐ行くのがCという特殊法人というように決まっており,次の次官が退官するとCのポストを後輩次官に譲って自身はもうひとつ格上のBというところに移る。それまでBにいた先輩次官はさらに格上のAに移る……という具合に再就職先にランク付けがあって「昇進」していくためにそうなってしまうのである。いくらなんでも,退職金目当てではないだろう。現役時代の延長の「昇進」コースがあるためだと思う。
そういった慣例のある省庁とは違い,文部省の場合,退官した先輩は1ヶ所にずっと勤めるのが通例だった。次のポストへ移ることはまったくないわけではないにしろ,きわめて稀だ。つまり,退官した先輩たちは再就職したポストに数年,長ければ10年近く在職することになる。現役の頃,ひとつのポストにいるのは平均2年程度だから,破格の長期在任である。
寺脇 研 (2013). 文部科学省:「三流官庁」の知られざる素顔 中央公論新社 pp.221-223