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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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教育内容の減少

小中学校では,教えこむ量を拡大し続けた結果の「詰め込み」授業についていけない「落ちこぼれ」の子どもが急増していることを受け,80年度小学校,81年度中学校で実施された新学習指導要領では,初めて教育内容の量を減らし,「よとりある充実した学校生活」をめざすこととした。ところが,「落ちこぼれ」こそ減少したものの,80年代の中学校は荒れに荒れ,校内暴力,いじめ自殺などの深刻な問題が噴き出すことになる。

寺脇 研 (2013). 文部科学省:「三流官庁」の知られざる素顔 中央公論新社 pp.29
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大学拡充が裏目

70年代半ばから80年代は,戦後の文部省が単に量的拡大を図る事業メンテナンス官庁からふたたび政策官庁をめざす時期だったと言っていい。先に動きを見せたのは高等教育サイドだった。60年代後半に燃え上がった大学紛争の教訓を生かし,「開かれた大学」「柔軟な教育研究組織」「新しい大学の仕組み」を基本理念とする新構想大学として筑波大学(東京教育大学を73年に改組)を開設する。76年にはそれまでの各種学校のうち専門性の高いものを「専修学校」として位置づけた。さらに79年には放送大学構想を打ち出す。
 また,高等教育の整備を計画的に行うために「高等教育計画」を策定する。76年には,76年度から80年度までの高等教育整備の青写真である「昭和50年代前期高等教育計画」が発表された。量的拡大だけでなく質的充実をも意識した高等教育政策の立案が試みられたのである。当時の省内,特に大学局(現・高等教育局)の空気には,これで政策官庁をめざすんだ,との意気込み,気負いが感じられた。
 しかし皮肉なことに,「高等教育計画」が出たその年,それまで右肩上がりで伸びていた大学進学率が頭打ちになる。85年に進学率50%になることを前提に計画は立てられていたにもかかわらず,その年から38%前後で止まり続け,上昇に転ずるのはなんと,分母である18歳人口が急減期に入る90年代になってからであった。上昇するはずの分は,大学でなく専修学校にほうに流れた。

寺脇 研 (2013). 文部科学省:「三流官庁」の知られざる素顔 中央公論新社 pp.27-28

さざれ石

中庭の「さざれ石」は,その時代の象徴だった。国旗,国家をめぐって学校式典における掲揚,歌唱を進めようとする文部省と反対する日教組は各所で激しく争った。その闘争の過程で,本来細石=小石である「さざれ石」が「巌となりて苔のむす」なんて非科学的でありえないとの批判がなされるのだが,実際は,石灰岩が長い年月の間に雨水などで溶解されて,その時生じる乳状液が小石を凝固させて巨石になるのであり「石灰質角礫岩」という学名を持つ。その現物を後に,岐阜県から運んできたのだという。
 先輩たちにとっては日教組と争った結果の勝利記念碑に見えただろうが,後に入省してそれを見るわたしたちには,話の種になる程度の物珍しい展示物のひとつでしかなかった。わたしが文部省に入った70年代半ばは,長く続いた文部省vs.日教組の争いが一段落して次の時代へと進もうとする時期だったのである。

寺脇 研 (2013). 文部科学省:「三流官庁」の知られざる素顔 中央公論新社 pp.26

御殿女中

わたしが厚生省の面接を受けたときの最高幹部たちの対応は,この戦前の歴史に由来している。厚生省は旧内務省系官庁である。文部省はそれより明らかに格下。当時の霞が関では「三流官庁」と見下され,政治家の顔色を窺うだけの「御殿女中」だと揶揄されていた。その文部省が第一志望で,旧内務省の厚生省が第二志望という学生が現れたのでは,面白かろうはずがない。即不合格になるのも当たり前だった。

寺脇 研 (2013). 文部科学省:「三流官庁」の知られざる素顔 中央公論新社 pp.23

文科省はD字型

建物はD字型の回廊形式の6階建てで広い中庭があり,花の咲く時期には職員の目を楽しませてくれる桜の木や藤棚,金魚や泥鰌の住む池まであった。この中庭には,「君が代」の歌詞にある「さざれ石」の実物も置かれている。なぜ建物が方形でなくD字型なんだろうと訝ると,昭和の初めの霞が関整備で,警視庁が上空から見てA字型,旧内務省がB字型,外務省がC字型,文部省がD字型のビルになったらしいと聞かされ,なおのこと歴史の流れの中に身を置く思いがした。

寺脇 研 (2013). 文部科学省:「三流官庁」の知られざる素顔 中央公論新社 pp.17-18

計画錯誤に注意

目標を決めるときは,心理学で言うところの「計画錯誤」に気をつけよう。若い学生からベテランの企業役員まで,誰でもこの症状に冒される。ハイウェーや建物が,予定より6か月早く完成したという話を聞いたことなどあるだろうか?予定は遅れ,予算はオーバーするのがふつうだ。
 計画錯誤については,学位論文を書いている大学4年生を対象にした実験で数値化されている。ロジャー・ビューラーという心理学者と同僚たちは,論文を書いている学生にいつごろ書き終わるか尋ね,最短のケースと最長のケースを予測してもらった。学生たちが予想した日数は平均34日だったが,実際かかった時間はその2倍近くの56日だった。最短のケースの日数で書き終えた学生は,ほんの一握りしかいなかった。最長のケースは,すべてがうまくいかないという前提で考えたスケジュールなのだから,守るのはたやすいだろう。すべてがうまくいかないことはめったにないのだから。ところがそれは違った。最長のケースと予想した日数で書き上げた学生は,半分もいなかったのだ。計画錯誤は誰でも陥る可能性があるが,どたんばになって集中的に仕事を終わらせる先延ばし常習者にとっては,大きな打撃となる。締め切り前に相当な時間を取っていれば,その戦略もうまくいくかもしれないが,そんなことはしないだろう。仕事にかかる時間を少なく見積もりすぎて,あとになってじゅうぶんな時間がないことに気づく。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.314-315
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

少しずつ

大きな変化を急激に起こそうとすると,それが無理だと思えたとき逆効果となる。完全な禁煙ができないなら,1日に吸う数を2,3本に減らすことを目指してみよう。飲み過ぎだとわかっていても完全にアルコールを断てないなら,週単位で計画を立てて,飲むのは週末だけにする,あるいは週に何日か飲まない日を決めて,あとは何を飲んでもいいことにする。それなら我慢できるかもしれない。あなたは飲んでいるとき,何時間か飲むのをやめて自分の状態をチェックし,また飲み始めるかどうか考えられるだろうか。もしできるなら,それを実行することがダメージを最小限に抑えるよい方法になるだろう。けれどもあなたがそういうタイプでないなら,自分をごまかすのはやめよう。効果的なのは,意志力の使い方まで計画することだ。今日,今夜,そして来月,意志力をどのように使うか。この先,税金を払うとか旅行をするとか,特にたいへんなことが予定されているなら,余分な意志力をどこで調達するか考えておこう。たとえば他の作業に使う意志力を削ってそちらに回すといったことも考えられる。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.312-313
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

衝動性

問題に思える性質は「衝動性」で,それは先延ばしの研究で繰り返し現れる。先延ばしは女性よりも男性,特に若い男性にとって大きな問題であることが,最近の研究で証明されたが,このことも衝動性説を裏付けるよすがになる。男性のほうがコントロールするのが困難な衝動を持っているのだ。難しい仕事に不安を感じるとき,あるいは日常の雑務に退屈しているとき,何か他のことをして気分を高めたいという衝動に負けてしまう。彼らは目の前にある楽しみに飛びつき,期末レポートを書く代わりに,ビデオゲームをしたりキッチンの掃除を始めたりする。そしてそれが長期的にどんな結果をもたらすかは無視しがちだ。締め切りのことが思い浮かんだら,最後の最後まで待つほうが賢明だとさえ考える。「締め切りのプレッシャーを受けながら仕事をするときが一番はかどるんだ!」。しかしほとんどの場合,彼らは自分をごまかしていることを,バウマイスターとダイアン・タイスが突き止めた。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.303
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

オプラ・パラドックス

これを私たちは「オプラ・パラドックス」と呼んでいる。いくら自己コントロールに長けた人でも,体重のコントロールには苦労する。彼ら,彼女らはその意志力により,さまざまな形で活躍する。学校や職場で,人間関係においても,自分の内なる感情の世界でも。しかしスリムな体型を保つことに関しては,他の人たちより優れているわけではない。バウマイスターとオランダの研究者たちが自己コントロール能力の高い人を分析したところ,彼らは体重のコントロールについても平均以上の成果をあげるが,その差は他の分野で見られるほど顕著ではなかった。このパターンは減量プログラムに参加している肥満の大学生の間でも見られた。それはバウマイスターとジョイス・エルリンガー,ウィル・クレシオーニ,そしてフロリダ大学の研究者たちが大学生を対象に行なった実験で,プログラムが始まったばかりのころは,性格診断テストで自己コントロール能力が低い学生に比べると,始めた段階での体重もやや少なく,運動もしていた。そして12週間のプログラムを進める間に,その優位性は高まった。それは彼らが食事制限や運動量の増加というルールをきちんと守れたからだ。しかし自制心が体重コントロールに役立つとはいえ,実験の前にも,実験中でも,その違いはさほど大きくないようだった。自己コントロール能力が低いより高いほうが有利だ。しかしそれほど大きな差は生じない。
 プログラム終了後に学生たちの追跡調査を行なえば,ほとんどの学生はすぐに体重が増加し,オプラ・ウィンフリーをはじめ,多くのダイエット挑戦者と同じ道をたどったという結果が出るのは間違いないだろう。自己コントロール能力はエクササイズの習慣を維持するのに役立つが,エクササイズをすれば確実に減量できるわけではない(しかし自己コントロール能力は,多くの理由からやはり価値のあるものだ)。自己コントロール能力が高かろうと低かろうと,エクササイズをしてもしなくても,ダイエットに挑戦しても,体重を落としてそれをずっと維持できる可能性は少ない。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.275-276
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

自尊心の利点

調査委員会によれば,自尊心の高さの利点としてはっきり実証されていることは2つしかないという。1つは自主性が高まること。これはおそらく自分に自信があるからだ。自尊心の高い人は信念に基づいて行動し,信じるものを守り,他人に近づき,新しい仕事のリスクを引き受ける強い意欲を持っている(残念ながら,その性質のために,たとえ周囲の人すべてが反対しても,ばかげたことや破滅的な行為に意欲的になってしまうときがある)。2つ目は,機嫌よく過ごせることだ。自尊心の高い人は常に前向きな気持ちで行動しているようにみえる。全体的に満足を感じているので,困難を克服したり,憂鬱な気分を吹き飛ばしたり,失敗から立ち直ったりするために,自信が必要なときには都合がいい。たとえばセールスで何度拒絶されても立ち直れるというように,こうした性質が役に立つ仕事もあるが,その種のしつこさにはよい点もあれば悪い点もある。思慮深い助言に耳を貸さず,同しようもない目的に,無駄な時間と金を注ぎ込み続けることになりかねない。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.243-244
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

自信を持っている

他にも学生の自尊心が高くなると成績は下がるということを示す証拠が,全国で見つかった。成績が下がっても自分に不満を感じないのだ。バウマイスターは独自の研究で,本当にひどいことをする人間が(たとえばプロの殺し屋とか連続婦女暴行犯人など),著しく高い自尊心を持っていることがあると指摘し,首をひねっている。
 科学論文を審査した調査委員会の心理学者たちは,現代社会に自尊心の低い人が満ちているという考えは間違いだと結論した。少なくともアメリカ,カナダ,西ヨーロッパではそのような現象は見られない。ほとんどの人がすでに自分にかなり満足している。特に子供たちは最初からとても自信を持っている。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.242
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

※日本の場合は他国に比べ自尊感情は低く,近年低下傾向にあります。

自尊心の研究

こうしてお互いを認め合うのは楽しいし,伝統的な勉強法より長期的な利益があるということになっている。カリフォルニア州が自尊心を高めることの効果を評価するよう研究者に依頼したとき,その仮説には大いに期待ができると思えた。報告書をまとめたカリフォルニア州バークリー校の有名な社会学者ニール・スメルサーは,最初のページでこう断言している。「ほとんどとは言わないまでも,社会に蔓延している問題の多くの根は,この社会を構成する人たちの,自尊心の低さにある」
 彼らはさらに「今のところ」その確実な科学的証拠が見つからないのは「残念だ」と述べているが,しかしもう一度調査が行なわれれば,もっと良い結果が出るだろうと期待されていたため,自尊心の研究には潤沢な資金が提供された。研究は続けられ,やがて別の機関が調査を依頼した。今度はカリフォルニア州のような政治機関ではなく,科学的な機関である心理科学協会だった。その結果は,ホイットニー・ヒューストンやレディ・ガガのインスピレーションに満ちたパフォーマンスを刺激するようなものではなかった。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.240-241
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

宗教の代替物

聖書を放棄した人が生きるための新しいルールを説く本を,山ほど買うようになるのも偶然ではないはずだ。彼らは十戒の代わりに12ステップや7つの習慣に従う。彼らはモーセを信じなくても,聖なる石版に書かれた言葉は大好きなのだ。こうしたルールや教義に白けてしまったり,不安になったりする人もいるかもしれないが,それを役に立たない迷信と退けてはいけない。これらのルールに対する別の見方があり,それは多くの統計やゲーム理論,そして誰より世俗的な科学者たちを喜ばす経済用語によって語られている。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.232-233
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

宗教と意志力

さらに重要なのは,宗教は自己コントロールの2つの中心的なメカニズムに影響するということだ。それは意志の力を築くこと,監視を強化することだ。1920年代ですでに,日曜学校で長い時間を過ごす生徒ほど,自制心を測るテストでの得点が高いという報告がある。信仰心が厚い子供は,親からも教師からも,比較的,衝動性が低いと評価された。日常的な祈りや礼拝などと自己コントロールの因果関係に絞って調査した研究は見当たらないが,おそらくそのような儀式は,背筋を伸ばして座るとか,はっきりとした言葉でしゃべるとか,これまでにその効果が調べられてきたエクササイズと同じように,意志力を強化すると思われる。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.228-229
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

毎日書こう

たとえば大学教授にとっては,終身在職権を得ることが大きなハードルでもあり区切りでもある。ほとんどの大学で,それは独創的で質の高い研究を発表しているかどうかで判断される。ボブ・ボイスという研究者が,まだキャリアの浅い若い教授たちが執筆するときのやり方を調べ,その後,どのようにキャリアを積むかを追跡した。特に上司もいない,他人からスケジュールを強制されない,他人に指示されることがない仕事なので,当然ながら若い教授たちの仕事の進め方はさまざまに違っていた。資料をじゅうぶん集めてから,1日中,あるいは眠る時間を惜しみ,集中して1週間か2週間で一気に論文を書くタイプも入れば,毎日こつこつ1ページか2ページ書き進めていくタイプもいた。その中間のタイプもいた。数年後,その教授たちがどうなったか追跡調査をしたところ,彼らの命運ははっきり分かれていた。1日1ページ派は順調で,だいたい終身在職権を手に入れていた。一方,一気に書き上げる派はそこまで順調ではなく,研究者としてのキャリアを終わらせた人も多かった。この結果から考えると,若い作家や出世を目指す教授たちへは,毎日書くことをお勧めする。自己コントロール能力を発揮して毎日の習慣にしてしまえば,長い目で見たとき,無理をせずに多くの仕事ができるようになる。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.202-203
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

食事とダイエトには役立たない

メタ分析によるもう1つの思いがけない発見は,自己コントロールは仕事や勉強には役立つが,食事とダイエットに関してはあまり効果を発揮しないということだ。比較的自己コントロール能力が高い人は,体重もそこそこうまく管理できるが,他の性質に比べると効果はそれほど大きくない(その理由については,あとの章で述べる)。感情の調整(満足を感じる,健全な自尊心を持つ,絶望しないなど)や,親しい友人,恋人,親戚とうまくつきあうことなどにも,自己コントロール能力は適度な恩恵をもたらしてくれる。しかし最も効果を発揮したのは学校や職場である。優秀な学生や労働者が良い習慣を身につけていることは他でも証明されているが,それを裏付ける結果が出た。卒業生代表になるような学生は,大きな試験の前に徹夜で勉強するタイプではなく,学期の最初から最後までこつこつ勉強するタイプだ。長期にわたって着実に仕事をこなす労働者が,長い目で見ると最も成功しやすい。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.202
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

パワーとスタミナ

この実験によって自己コントロールには2種類の強さがあるという重大な事実が明らかになった。それは「パワー」と「スタミナ」だ。最初の実験では,被験者にまずバネ式のハンドグリップをできるだけ長く握っているよう指示した(これは別の実験で,体力だけでなく意志力を測るにも適していることが示されている)。そして古典的な「シロクマのことを考えるな」テストで精神的エネルギーを消費したあと,再びハンドグリップを握るテストを行なった。2週間後,姿勢に気をつけて生活していた被験者を再び集めて同じ実験を行なったところ,最初のハンドグリップをできるだけ長く握っているテストの成績はそれほど向上していなかった。つまり意志力の筋肉が強化されたわけではなかった。しかし消耗したあとのテストでは成績が向上し,スタミナがはるかに増加していたことが実証された。姿勢を正すエクササイズのおかげで,学生たちの意志力が以前ほど速く消耗することはなく,そのため他の作業もできるスタミナが残っていたのだ。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.170-171
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

情報公開

情報を公開することで,自分の恥をさらす可能性はある。自分では当たり前すぎて気づかない進歩の兆候を,第三者に指摘されて励まされることはよくある。そしてうまくいかないとき最も効果的な解決法は,どこかに助けを求めることなのだ。人気QSアプリケーションの「ムードスコープ」を開発したのは,うつ病と闘い自分の体調を監視する助けを求めていた,ある起業家だった。彼は自分の気分を測定する簡単なテストを受けられるアプリケーションを考案した。自分の感情の起伏を記録し,そのパターンと原因を考えるのに使えるだけでなく,結果が自動的に友人たちに送られるという機能をつけた。こうすれば気分がふさいでいるとき,友人たちがデータを見て連絡をくれる。
 「こういうデジタルツールは,自分や互いのモチベーションを高めるための触媒にすぎません」とダイソンは言う。「自分に合ったモデルが見つかるはずです。友人たちと数字を比べるのは,彼らの前で恥をかきたくないとか,チームの足を引っ張りたくないとかいう気持ちが起こるのを期待してのことかもしれません。人によってモチベーションの高め方は違いますから」

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.159-160
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

自己認識が不快な時

自己認識は本質的に不快なものだという考え方は,思春期以外の多くの人が,自分のことを考えたり,鏡を見たりするときに楽しさを感じるという事実とも矛盾している。さらに研究が進められると,人は「平均的な人間」と自分を比べることで満足を感じられるということがわかった。私たちはみんな,自分は平均より上だと思いがちだ。また今の自分を過去の自分と比較して喜びを感じることもあるが,それは年を重ねるに従って進歩すると思っているからだ(体は衰えるにもかかわらず)。
 しかしゆるい規範と自分を比較すれば満足を得られると考えても,人間の自己認識の進化を説明することはできない。人がよい気分になるかどうかは進化には関係ない。生存と生殖の可能性を高める性質が選ばれて残るのだ。では自己認識能力には,どんな利点があるのだろうか。それに対する最高の答えは,心理学者のチャールズ・カーヴァーとマイケル・シャイエーがたどりついた重要なアイデアにあった。自己認識が進化したのは,自己コントロールを助けるためだ。彼らはデスクに向かって座らせた被験者を観察するという,独自の実験を行なった。デスクの前にはさりげなく鏡が置いてあるのだが,特に重要な意味を持つようには見えない。実験の説明をするときにあえて触れることもない。しかしこれがあらゆる種類の行動に大きな変化を起こした。鏡で自分の姿が見える被験者は,他人の命令よりも自らの信念に従って行動する傾向がある。他の人に電気ショックを与えるよう指示されたとき,鏡が見える被験者は,鏡が見えない対照群の被験者よりも自制心が働き,攻撃的になりにくい。また与えられた作業に熱心に取り組み続けた。意見を変えるよう脅かされても,脅しに屈せず自分の意見に固執し続けた。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.148-149
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

自己認識の意味は

自己認識は動物に見られる非常に特殊な性質だ。犬は鏡を見ると激しく吠えるが,それは目の前にいるのが自分だと気づかないからだ。ミラーテストと呼ばれる実験を行なうと,他のほとんどの動物でも同じような反応を示す。ミラーテストとは動物の体に匂いのない染料で印をつけて鏡の前へ連れていき,そのしみが自分の体についていると気づいている仕草(しみをよく見えるよう体の向きを変えるなど)をするかどうか調べるものだ。チンパンジーをはじめ,人間に近いサルはこのテストにパスできる。他にはイルカ,ゾウなども自分を認識できるが,ほとんどの動物が不合格だ。しみにさわろうと,自分の体ではなく鏡のほうに手を伸ばす。人間の幼児も幼いころはそのような反応をするが,2歳の誕生日を迎えるまでに,ほとんどの子供が合格する。2歳児はしみをつけられたことに気づいていなくても,すぐ自分のおでこを触ろうとする。これが自己認識の最初の段階だ。まもなくこの性質は思春期の苦労へと変わる。ティーンエージャーになると自分に欠けているものに過度に敏感になり,幼児期の無責任な自信は困惑と恥ずかしさに打ち砕かれる。彼ら,彼女らは鏡を見ては同じ質問を繰り返す。その問いについて心理学者は何十年も研究し続けている。自分を知るとみじめになるばかりならば,自己認識の意味はどこにあるのだろうか?

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.146
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

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