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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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妥協できない

「考慮する条件が山ほどあり,パートナー候補の数も多いと,どうしても完璧を求めるようになります。身長,年齢,宗教をはじめ,他の45の条件を1つでも満たさない相手では,妥協できなくなるのです」。アリエリーは選択肢を捨てることの難しさを,コンピュータゲームを使ってさらに突き詰めていった。そのゲームではドアを開けて部屋の中にある商品を見つけると,本物の現金がもらえる。一番効率がいい戦略は,画面に現れる3つのドアを1つずつ開けて1番豪華な商品を見つけたらその部屋にとどまることだ。しかし何度か繰り返してその戦略を学んでも,新しい特徴が加わると,その戦略に従うのが難しくなる。しばらく部屋の外にいるとドアが小さくなってやがては消えてしまう,つまりドアが二度と開かなくなるという性質が加わったとする。そうするとプレイヤーはひどく気にして,ドアを閉めさせまいと部屋にすぐ戻る。たとえ手に入れた金額が減ってしまうことになってもだ。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.135
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)
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判定の負担

判定は精神的に負担の多い作業だ。判事が次々と決定を下していたとき,脳と体は(先述したとおり)意志力にとって重要な成分であるグルコースを消耗する。個人的にどんな信念を持っていようと——犯罪には厳しい措置を求めることで知られている,あるいは更生の可能性を重視するなど——それ以上の決定を行なう精神的エネルギーがほとんど残っていなかったのだ。そのため彼らは(自分にとって)リスクの少ない選択に傾いたと思われる。受刑者からすれば「判事がおやつを食べる前に審議を受けたからといって,なぜ刑務所にいる時間が増えるのか」と,ひどく不公平に感じるかもしれないが,このようなバイアスは他でもよく見られる。あらゆる状況で当たり前のように起こっているのだ。意志力と決定の結びつきは双方向のものだ。何かを決定すると意志力は消耗する。意志力が消耗すると,決定ができなくなる。あなたが1日中,難しい決断をする仕事をしているなら,ある時点で疲れ始め,エネルギーを温存する策を探し始める。たとえば決定を避ける,あるいは延期するといった方法が考えられるが,最も容易で安全なのは現状を維持することだろう。受刑者は刑務所に入れたままにしておくのだ。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.131-132
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

疲労困憊

この危険が最初に特定されたのは,バウマイスターの研究室でのことだ。博士課程修了後の研究者であるジーン・トゥエンジという学生が,自己コントロールの研究をしているのと同じ時期に,自分の結婚の準備もしていた。その研究室で以前行なわれた実験,たとえばチョコレートやクッキーを我慢すると自制心が消耗するといった内容のレポートを読んでいるとき,そのころ遭遇した個人的な疲れる経験を思い出した。それはブライダル・レジストリ——結婚祝い品の登録だった。米国には親戚や友人から贈り物を巻き上げる一助として,企業と協力して欲しい物をリストアップするというおかしな習慣がある。一般的には,サンタクロースの存在を信じる年齢を過ぎたら,特定の贈り物をねだるのは失礼とされているのに,ブライダル・レジストリに欲しいものを登録するのは,双方のストレスを軽減する社会的儀式として認められているのだ。客はわざわざ買い物をする必要がなく,結婚するカップルはスープ鍋ばかり37個も集まって,スープをすくうおたまが1本もないことを心配せずにすむ。しかしそれでストレスがまったくなくなるわけではない。トゥエンジはある晩,婚約者とともに店の結婚式専門の店員とともに,リストに何を入れるか相談しているとき,そのことに気づいた。お皿はどのくらい飾りのついたものがいいか。どんな模様がいいか。カトラリーは銀かステンレスか。グレービーソース用の容器はどれがいいか。タオルの材質は何で,色は何がいいか。
 「それが終わることには,誰に何を言われても納得してしまいそうだったわ」と,彼女は研究室の同僚に語った。意志力が消耗するという経験は,あの夜に感じたようなことに違いないと思った。彼女ともう1人の心理学者は,このアイデアをどうにかして検証できないかと考えた。彼女たちは近くのデパートが閉店のためのクリアランスセールをしているのを思い出し,研究室の予算で買える品物をどっさり買い込んできた。豪華な結婚祝いのギフトではないが,大学生にはじゅうぶん魅力的なものだ。
 第1の実験では,テーブル一杯に置かれた品物を被験者に見せる。そして実験が終わったときに1つ持っていっていいと告げる。そして一部の被験者には,2つの品物を見せてどちらかを選ぶといいう選択を何度か繰り返してもらう。それで最終的にどれをもらえるかが決まる。ペンかキャンドルか。キャンドルならバニラの香りかアーモンドの香りか。キャンドルかTシャツか。黒いTシャツか赤いTシャツか。それと平行して対照群の実験を行なうが,その被験者(ここでは非決定者と呼ぶ)は,同じくらいの時間,同じ品物を見て過ごすが,選択はしない。彼らはそれぞれの品物を評価し,過去6か月間にそれと同じようなものをどのくらい使ったかを報告する。その後,全員が自制心を測定する古典的なテストを受ける。手をできるだけ長く氷水に漬けておくというものだ。手を冷たい水の中にずっと入れておくには自制心が必要だ。すると前の実験で選択をした決定者のほうが,非決定者よりはるかに早く水から手を出した。数多くの選択をしたことで意志力が弱まったらしく,その影響が他の意思決定の場面で現れたのだ。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.122-124
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

計画を立てろ!

つまりザイガルニック効果は,それまで何十年も考えられていたように,ある作業が終わるまで,それを思い出すよう仕向けるものではなかった。未完成の作業をときどき思い出すのは,無意識の脳が仕事を忘れていないことを示すシグナルではない。また仕事をすぐに終わらせろと,意識的な脳に小言を言っているわけでもない。無意識が意識的な脳に計画を立てるよう求めているのだ。無意識の脳は独力ではそれができないらしく,意識的な脳にしつこく迫って,時間,場所,機会など,細かい計画を立ててもらう。計画が決まると無意識な脳は迫るのをやめる。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.114
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

ザイガルニック効果の発見

心理学者たちの間の伝説によれば,その発見のきっかけとなったのは1920年代半ば,ベルリン大学近くでの昼食の席だった。大学関係者がおおぜいでレストランへ行き,1人のウェイターに注文をしたが,そのウェイターは何も書き留めなかった。ただうなずいただけだ。それなのに彼は全員の注文を正確に給仕し,その記憶力に全員が舌を巻いた。食べ終わって店を出ると,そのうちの1人が(伝説でははっきり誰とはわからない)忘れ物をしたことに気づき,それを取りに店に戻った。さっきのウェイターを見つけて,彼のすばらしい記憶力が助けになってくれるのではないかと期待しながら用件を告げた。
 ところがウェイターは,ぽかんとするばかりだ。彼は戻ってきた男が誰なのか,どこに座っていたのかさえ忘れていた。すべてをそれほどすばやく忘れてしまうものか尋ねると,彼は注文をおぼえているのは給仕が終わるまでなのだと説明した。
 その店で食事をした1人,ブルーマ・ザイガルニックという若いロシア人の心理学科の学生と,その指導者である大御所クルト・レヴィンはこの経験についてじっくり考えて,そこに何か一般化できる原則があるのではないかと思った。人間の記憶は仕事を終える前とあとでは,大きく違っているのだろうか。そこで彼らは,被験者にジグソーパズルをしてもらって,途中で邪魔が入るとどうなるかという実験を始めた。この実験はその後何十年にもわたって行なわれ,のちに「ザイガルニック効果」と呼ばれる現象が確認された。終わっていない仕事や達成されていない目標は,頭に浮かびがちだという現象だ。逆に仕事が完成して目標が達成されると,頭にそれが何度も浮かんでくる現象はストップする。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.110-111
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

計画の細かさ

目標に到達するには,どれくらい細かな計画をたてるべきなのだろうか?ある入念に設定された実験で,勉強の技術を向上させるプログラムに大学生を参加させた。時間の有効な使い方についての一般的な指示をしたあと,条件の違う3つのグループに分ける。第1グループは毎日,何を,いつ,どこで勉強するか細かく計画を立てる。第2グループは毎日ではなく,月ごとに同様の計画を立てる。そして第3グループは対照群で,何も計画を立てずに勉強する。
 実験者は,毎日計画を立てたグループが一番よい結果が出るはずだと予測した。しかしそれは間違いだった。月ごとの計画を立てたグループが,勉強の習慣を身につけるという点でも,勉強への姿勢という意味でも,一番成長が見られたのだ。成績がよくない学生(もとから成績のよい学生ではなく)の間でも,月ごとの計画を立てた学生たちのほうが毎日の計画を立てたグループより,はるかに成績が伸びた。そして実験が終わったあとも,その習慣が続く確率が高かった。実験が終わって1年後,どちらのグループの学生も計画を立てるのはやめていたが,月ごとの計画を立てた学生たちのほうが,毎日の計画を立てた学生よりもよい成績をとっていた。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.99
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

睡眠と倫理違反

ちかごろ行われたある研究で,上司に社員を評価してもらったところ,睡眠をじゅうぶんにとっていない社員はきちんと寝ている社員に比べ,職場で倫理に反する行為をする傾向があることがわかった。たとえば睡眠不足の社員はそうでない社員よりも,他人のした仕事を自分の手柄にすることが多かった。研究室の実験でも,学生を対象に賞金のかかったテストを行なうと,睡眠不足の学生は,チャンスがあれば「ずる」をする傾向があった。睡眠不足は心身にさまざまな悪影響を与えるものだが,そういった種々の影響にかくれて,自己コントロール能力を低下させ,意思決定などのプロセスにも影響を与えるのだ。意志力を最大限に活用するためには,じゅうぶんな睡眠時間を確保することに意志力を使わなければいけない。一晩ぐっすり眠れば,より正しくふるまえるようになる。そのうえ次の日の寝つきもよくなるのだ。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.84
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

GI値と自己コントロール

自己コントロール能力を一定に保つためには,GI値の低い食べ物を食べた方がいい。ほとんどの種類の野菜,ナッツ類(ピーナッツやカシューナッツなど),生の果物(リンゴやブルーベリーや梨など),チーズ,魚,肉,オリーブオイルやその他の「体によい」油脂などがこれにあたる(GI値の低い食べ物は,肥満予防にもいいかもしれない)。正しい食事をすると効果があることは,PMSのある女性を対象にした実験で明らかになっていて,女性たちは健康な食事をするとPMSの症状が減ると報告している。矯正施設で何千人もの10代の女の子を対象に行われた一連の実験でも,健康な食事の効果を示すことに成功している。施設で出す砂糖が入った食べ物と精製された炭水化物の食品のいくつかを,果物,野菜,全粒粉のパンなどに変えたところ,脱走や暴力などの問題行動の件数が急減したのだ。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.82-83
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

内なる悪魔

悪魔には,食べ物を与えること——悪魔といっても,魔王ベルゼブブのような悪魔のことではない。あなたやそばにいる人の中にひそむ,内なる悪魔のことだ。グルコースが不足すると,最高に魅力的な相手もモンスターに変身しかねない。朝食をきちんと取れという古くからの忠告は,朝だけでなく1日中あてはまるもので,体や心のストレスが多い日は特に重要になる。グルコース不足の状態で試験や大切な会合や重要な仕事に挑んではいけない。昼食後4時間もたってから上司と議論を始めてはいけない。ディナーの前に,恋人や妻や夫と深刻な問題を話し合ってはいけない。ヨーロッパでロマンチックなドライブ旅行をするなら,城壁で囲まれた中世の街へ午後7時に空腹で入って,予約したホテルを見つけようとしてはいけない。玉石が敷かれた迷路のような町を車は無事に抜けられるだろうか。恋人との関係は無事ではすまないかもしれない。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.80-81
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

甘いモノがほしい

自己コントロールを発揮してグルコースを消費すると,体は甘いものを強く欲する——これは甘いものを控えようと考える人にとっては悪いニュースだ。ふだんの生活でも,自分をコントロールしなければならないときほど,甘いものへの欲求が強くなる。どんな食べ物でもいいからたくさん食べたいという単純な話ではなくて,とりわけ甘いものへの欲求が強くなるようだ。実験でも自己コントロールが必要な課題を行なった学生たちは,課題前よりも甘いお菓子を多く食べるようになるが,甘くない(塩味の)スナックを多く食べるようにはならない。自己コントロールが必要になりそうだと考えるだけでも,人は甘いものが欲しくなるようだ。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.72
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

グルコースなくして

グルコースなくして意志力なしというわけだ。被験者と条件を変えて同様の実験が繰り返されているが,そのたびにグルコースと意志力との間には関係があるという結果が出ている。犬を対象にした実験も行われたほどだ。人間は文化的な動物になる過程で自己コントロールの能力を幅広い物事に対応できるように発展させてきており,そういった意味ではとても人間的な性質と言えるかもしれない。しかしそれは人間の専売特許というわけではない。人間以外の社会的な動物も,お互いにうまくやっていくためには,ある程度の自己コントロールが必要になる。犬は人間と暮らしているため,多くの場面で,たとえば客の股の匂いをかいではいけない(少なくとも人間の股は)というような,犬から見るとばかげた気まぐれなルールに従って行動することを覚えなければならない。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.69
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

自分との戦い

ジム・ターナーは自己コントロールの困難を克服するために,直接的な——おまけに愉快な——方法をとった。『糖尿病:自分との戦い』と題した1人舞台を演じたのだ。ターナーは10代の息子と言い争いをしたときに,最終的には自分のほうが大人げなく怒り狂い,外へ出て愛車をけとばし,修理できないほどのへこみをつけた経験などを語った。「私はよく,息子にもわかるほど自分をコントロールできない状態になるんですが,息子はそのたびに私にむりやりジュースを飲ませたり,父親がまともな精神状態にないのを心配したりしなければならないんです」

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.66
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

耐糖能異常

この件に関して,フィンランドの研究者が優れた研究を行なっている。刑務所で出所間近の受刑者の耐糖能(グルコースの処理能力の指標)を測り,どの受刑者が出所後にまた罪を犯すか調べたのだ。当然ながら,もと受刑者が更生できるかどうかは,周囲からのプレッシャーや結婚,職につける見通し,薬物の使用など,多くの要因に左右される。だが,どの受刑者が再び暴力的な犯罪に手を染めるか,耐糖能のテストの結果だけから80パーセント以上の精度で予想することができた。犯罪を繰り返す受刑者たちは,どうやら耐糖能異常という病気で,食べ物を体のエネルギーに変える働きに問題があり,そのせいで自己コントロール能力が低くなっているらしい。この病気になると,食べ物をグルコースに変えることはできるが,それが血流にのって体内を循環しても吸収されず,血中のグルコースが過剰になりやすい。それはよいことに思えるかもしれないが,この状態は,焚き木がたくさんあるのにマッチがないようなものなのだ。グルコースは脳や筋肉の活動に活かされることなく無駄に体内を巡る。そしてこの量が一定以上高いレベルになると,糖尿病と診断される。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.64-65
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

パフォーマンス・コントロール

4つ目はパフォーマンス・コントロールと呼ばれるもので,そのとき取り組んでいる作業にエネルギーを集中させ,適正なスピードと正確さの組み合わせを探って時間を管理し,作業をやめたいと思ってもやり通す能力のことだ。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.54
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

衝動コントロール

3つ目は衝動のコントロールと呼ばれるもので,意志力と聞いたときに大方の人が思い浮かべるのがこのカテゴリーだ。アルコールの誘惑や,たばこやシナモンロールやバーのウェイトレスの誘惑に逆らう能力がこれにあたる。「衝動のコントロール」という呼び方は厳密に言うと正しくない。人が実際にコントロールできるのは衝動ではないからだ。オバマ大統領ほど並外れて自制心のある人物でさえ,たばこを吸いたいという衝動が時々わくのを抑えることはできない。その衝動に対してできるのは,対応の仕方をコントロールすることだ。オバマ大統領の場合は衝動を無視したのだろうか?それともニコチンガムを噛んで我慢するか,こっそり抜けだしてたばこを吸ったのだろうか?(ホワイトハウスによると,大統領はふだんタバコを吸うのを我慢していたが,吸ってしまうこともあったという)

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.53-54
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

感情制御

2つ目は感情のコントロールだ。特に気分や機嫌についてコントロールすることを,心理学では「感情制御」と呼ぶ。人はふつう不機嫌な状態や不愉快な考えを避けようとするが,ごくまれに楽しい気分を避ける場合もあるし(葬儀の支度をするときや,悪い知らせを伝えるとき),怒りを維持しようとすることもある(苦情を申し立てるのにふさわしい心理状態でいたいとき)。感情のコントロールには特有の難しさがあるが,それは一般的に,意志力で感情を変えることが難しいためだ。人は自分の考えや行動は変えられても,無理強いされて幸せな気持ちにはなれない。義父母に礼儀正しく接することはできても,彼らの1か月の滞在を喜ぶよう自分に強いることはできない。人は悲しみや怒りの感情を避けるため,他のことを考えて気をそらせたり,ジムで運動したり,瞑想したりという間接的な方法をとる。テレビ番組に夢中になったり,チョコレートを大食いしたり,買い物三昧で気をまぎらわせる。そうでなければ,酒を飲んで酔っぱらう。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.53
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

意志力

意志力を使用することがらは,大きく分けて4つのカテゴリーに分類できる。1つは思考のコントロールだ。思考をコントロールしようとしてもうまくいかないことがある。たとえば何か深刻なことを無視したいとか(「消えてしまえ!忌まわしい染み!」),頭の中でぐるぐる回る歌詞のフレーズを追い払いたいとか(「アイ・ガッチュー・ベイブ,アイ・ガッチュー・ベイブ」)。それでも後でお話しするように,集中する方法を身につけることはできる。強い動機がある場合にはなおさらだ。
 そもそも人は完璧な答えや最善の方法を探すかわりに,あらかじめ決められた答えで間に合わせて意志力を温存することが多い。神学者やキリスト教信者の場合は,信仰上の譲れない主義を貫くために余計なものを視野に入れないで生きる。売り上げナンバーワンのセールスマンの多くは,一番先に自分をだますことで成功してきた。サブプライムローン担当の銀行員は,信用度の低いNINA(No Income, No Assets:収入資産証明なし)層の顧客に,住宅ローンを融資しても何の問題もないと自分に言い聞かせていた。タイガー・ウッズは,一夫一婦制のルールなど自分には関係ないし,なぜか世界的に有名な選手のお遊びに気づく人はいないと自分を納得させていた。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.52-53
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

消耗のサイン

だが現在では,バウマイスターらが新たに行った実験のおかげで,人は自我が消耗したときにあるサインを出すことがわかっている。バウマイスターが長年の共同研究者であるミネソタ大学の心理学者キャサリン・ヴォス率いる研究チームとともに行ったその実験では,被験者を(またしても)自我消耗の状態にしたところ,感情にはっきりした変化は現れなかったが,すべてのことに対する反応が強くなったというのだ。自我が消耗した人は,そうでない人に比べて,悲しい映画を見るとより悲しく感じ,楽しい絵を見るとより楽しい気持ちになり,物騒な絵を見るとより恐怖を感じて動揺し,冷たい氷水をより苦痛に感じたという。感情だけでなく欲望も強く感じるようになり,クッキーを1つ食べたあとに,もう1つどうしても食べたくなり,可能なら実際に追加のクッキーを食べた。またラッピングされた箱を見ると,開けてみたいという特に強い欲求を感じたという。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.44
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

自我消耗

それでも自己に関するフロイトのエネルギーモデルには見るべきものがあった。芸術家村内での男女関係を説明するには,たしかにエネルギーは本質的な要素なのだから。性的衝動を抑制するにも創作活動を行なうにも,エネルギーが必要だ。創作活動にエネルギーを注げば,リビドー(性的衝動)を抑えるためのエネルギーは減ってしまう。フロイトはこのエネルギーの出処とそれがどう働くかについては明言していないが,少なくとも彼の提唱する説の中ではエネルギーが重要な位置に置かれていた。バウマイスターはこの洞察に敬意を表して,フロイトが使っていた自己を指す用語「自我(エゴ)」を使うことに決めた。こうして生まれたのがバウマイスターの造語である「自我消耗」で,これは人の思考や感情や行動を規制する能力が減る現象を指す。人は精神的疲労に勝てることもあるが,意志力を発揮したり決断を下したり(これも自我消耗の一種で,のちに述べる)することでエネルギーを使い果たせば,やがて誘惑に負けてしまう。自我消耗によって人のさまざまな行動を説明できることがわかると,この用語は何千本もの科学論文で使用されるようになった。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.41
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

成功に必要なこと

人間は200万年前に大きな脳が発達したおかげで,分別を備えることができた。人が行なっている自己コントロールの多くは無意識のものだ。ビジネスランチの場では,特に意識しなくても,上司の皿から肉を食べないよう自制する。無意識の脳が社会的な大失敗をしないよう常に手助けしてくれているのだ。その働きは多岐にわたり,巧妙で強力なため,無意識の脳こそが本当の支配者だと考える心理学者もいる。無意識で起こるこの働きがもてはやされるようになったのは,研究者による基本的な誤りが原因だった。彼らは分析する行動の単位をどんどん細切れにして,意識が司るには早すぎる反応ばかりを同定していた。ある行動の要因をミリ秒(1000分の1秒)単位の時間枠で考えれば,行動の直接的な原因は,脳と筋肉とをつなぐ神経細胞の発火ということになる。その過程に意識はまったく関係していないし,神経細胞が発火したことに気づく人もいない。意志の働きはもっと長い時間の流れの中で見えてくるものだ。これは現在の状況を全体的な(長い目で見た)パターンの一部として考えることと関わっている。たばこを1本吸うくらいで健康を損ねはしない。ヘロインを1度使ったくらいでは中毒にならない。ケーキを1個食べるくらいでは太らないし,仕事を1度くらいさぼってもキャリアに傷はつかない。しかし健康を保ち,仕事を失わないでいるためには,これらの(ほぼ)すべての場面を,誘惑に勝つのに必要な一歩ととらえなければならない。意識による自己コントロールはこのような場合に働く。だからこそ人生のあらゆる場面で,成功するか否かを左右するのだ。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.27
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

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