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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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健康格差

健康格差は,たとえ喫煙や食事,運動やその他の健康に影響する行動を照らしあわせて確かめてみても,依然として大きいままである。特に衝撃的な例がマイケル・マーモット(Michael Marmot)の事務系公務員の研究である。心臓疾患による死亡率は下級官吏のほうが上級官吏よりも4倍高く,この違いは健康に関連する行動やコレステロール値,血圧,糖耐性や血糖値などの重要なリスク要因を考えにいれてもほとんど説明できないままだったのである。

リチャード・ウィルキンソン 竹内久美子(訳) (2004). 寿命を決める社会のオキテ—シリーズ「進化論の現在」— 新潮社 pp.16-17
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自己像の飾り立て

人はさらに,自分の記憶を持ち出してきて自己像を飾り立てることもある。たとえば成績について考えてみよう。ある研究者グループが大学1年生と2年生の計99人に,数年前を振り返って,高校の数学,科学,歴史,外国語,英語の各教科でどんな成績を取ったかを思い出してもらった。答えた内容は高校の記録と照らし合わせると伝え,実際に全員がそれを許可する書類にサインしたため,学生たちに嘘をつく動機はまったくない。
 合計で3220の成績の記憶をチェックしたところ,面白いことがわかった。何年か経っているのだから成績の記憶には大きな影響があったはずだと考えられるかもしれないが,実際にはそんなことはなかった。その間の歳月は学生の記憶にほとんど影響をあたえなかったようで,高校のどの学年における成績も,およそ70パーセントという等しい正確さで思い出した。それでも記憶には確かに欠落があった。忘れさせた原因は何だったのか?それは過ぎ去った歳月ではなく,成績の悪さである。記憶の正確さは,A評価の場合には89パーセントだったが,Bでは64パーセント,Cでは51パーセント,Dでは29パーセントと着実に下がっていった。だから,悪い評価を受けて落ち込んでいても,元気をだしてほしい。しばらくすればきっと忘れるのだから。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.322-323

自我は闘う

フロイト理論の大部分が実験心理学者に受け入れられていないことは,すでにいろいろと話してきたとおりだが,今日,フロイト派のセラピストと実験心理学者とのあいだで一致している点がある。「自我は自らの面目を守るために激しく戦っている」という考え方だ。この意見の一致を見たのは,比較的最近のことである。
 実験心理学者は何十年ものあいだ,人間は超然とした観察者として,さまざまな出来事を評価し,理性を使って真理を発見し,社会の本質を解き明かす存在であると考えていた。また人間は,自分自身に関するデータを集め,総じて正確で優れた理論に基づいて自己象を組み立てるとされていた。この従来の見方によれば,健全な人間は自己をいわば科学する存在であると考えられ,それに対し,思い違いによって自己像が曇っている人は,精神疾患に,まだかかってはいないとしてもかかりやすいとみなされていた。しかし今日では,その真逆のほうが真実に近いことが明らかとなっている。学生,教授,工学者,中佐,医師,経営者など,正常で健全な人は,たとえ実際とは違っていても,自分は単に有能なだけでなく敏腕でさえあると考えがちである。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.300-301

帰属意識は強力

数多くの研究から裏付けられているとおり,グループ単位の社会的帰属意識はきわめて強力であり,たとえ「彼ら」と「自分たち」を区別する規則がコイン投げに近いものであっても,わたしたちは「彼ら」と「自分たち」をひいきする。取るに足らない違いに基づいて自分がどのグループに属しているかを判断するだけでなく,たとえ,どのグループに属しているかが,何か重要な,または意味のある個性とまったく関係がなくても,それぞれのグループのメンバーを違うふうに見てしまうのだ。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.256

いつも作話

「作話」という言葉は,記憶の空白を,真実であると信じる嘘の話で埋め合わせることを指す場合が多い。しかし人間は,自分の感情に関する知識の空白を埋めるためにも,作話をおこなう。誰もがそうした性向を持っている。わたしたちは自分自身や友人に対して,「なぜあの車に乗っているのか」「なぜあの男が好きなのか」「なぜあのジョークに笑ったのか」といった問いかけをする。研究によれば,わたしたちは,そうした問いかけに対する答えを自分でわかっていると考えるものだが,実際にはわかっていないことが多い。自分の考えを説明するように言われると,ある種の内省のように感じながら真実を探す。しかし,自分が何を感じているのかがわかっていると考えていながら,その内容も,その無意識の源も,わかっていないことが多い。そこで,真実ではない,あるいは一部しか正確ではないが,もっともらしい説明を考えだすのだ。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.285-286

自分の感情を理解できていない

ここまで説明してきた例から察するに,どうやらわたしたちは,自分の感情を理解できていないことが多いらしい。それなのに,自分の感情は理解できているとふつうは考えている。さらに,なぜこれのように感じるのかを説明してくれと言われると,ほとんどの人は,ちょっと考えてから苦もなくその理由を説明する。自分が思っているのと違う感情かもしれないのに,どこからその理由を見つけてくるのだろうか?そう,でっち上げるのだ。
 その現象を実証した1つの興味深い実験として,被験者に,女性の顔を写したトランプサイズの写真を右手で1枚,左手で1枚持って見せ,より魅力的な方を選ばせた。続いて2枚の写真を裏返し,選んだ方の写真を被験者の方へ差し出した。そして被験者に,その写真を手にとって,それを選んだ理由を説明するよう指示した。その後,写真を替えながら計10回ほど同じことを繰り返した。そのうちの何回かは,手先の早技を使って2枚の写真をすり替え,より魅力的でないと判断したほうの写真を被験者のほうへ差し出した。すり替えたことを被験者が見抜いたのは,およそ4回中1回だけだった。
 しかし本当に興味深いのは,見抜けなかった75パーセントのケースでどうなったかである。実際には気に入らなかったほうの顔を,なぜ気に入ったのか尋ねると,「笑顔がまぶしい。バーにいたらもう1人よりもこの人のほうを口説く」とか,「イヤリングが好きだ」「おばに似ている」「もう1人よりも魅力的だと思う」といったようなことを答えた。実際には気に入らなかった方の顔なのに,その顔を気に入った理由を,何度も繰り返し,自信たっぷりに説明したのだ。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.282-283

内集団は多様,外集団は均一

内集団と外集団の区別が及ぼすもう1つの影響として,わたしたちは,自分の内集団を外集団よりも多彩で複雑だと考える傾向がある。たとえば,医師,弁護士,ウエイター,美容師を対象とした先ほどの研究では,被験者全員に,それぞれの職業の人が独創性や順応性などの特性についてどれだけ多様であるかを評価してもらった。すると全員が,自分以外の職業の人は自分の内集団に属する人よりもはるかに似通っていると評価した。年齢,国籍,性別,人種,さらには,通っている大学や,所属している女子学生クラブに関しても,同じ結果が得られている。
 そのため,ある研究者グループが指摘しているように,おもに白人体制派向けに発行されている新聞には,「中東問題で黒人の意見が大きく二分」といった見出しが出て,まるで,アフリカ系アメリカ人が全員同じ考えを持たないのはおおごとだといった報じ方をされるが,その一方で,「株式市場改革で白人の意見が大きく二分」といった見出しが出ることはない。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.250

分類できなかったら

科学者は,もし分類する能力がなかったら人類は1つの動物種として生き延びられなかっただろう,と言う。私はさらに一歩進め,その能力がなかったら1人の人間としても生き延びられないだろう,と言いたい。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.235

人を分ける

私はいまも,またこれまで一度も,白人と黒人の社会的政治平等を何らかの形で実現することには賛成していない。……白人と黒人とでは身体的な違いがあり,そのため,2つの人種が社会的政治平等のもとでともに暮らすのは永遠に不可能だと思う。……そして,私も他の人と同じく,白人に高い地位を与えることに賛成である。

 これは,エイブラハム・リンカーンが1858年にイリノイ州チャールズタウンでおこなった討論のなかで発した言葉だ。リンカーンは当時としては信じられないほど進歩的だったが,それでもなお,法的な面は別として社会的な人種の分類は永遠に続くと考えていた。
 だがそこから人類は進歩してきた。今日多くの国では,真剣に国政に携わろうとする人のなかで,リンカーンのような考え方を唱える人物か,あるいは少なくとも,国民の権利に否定的だとみなされそうな人物を思い浮かべるのは難しい。今日の文化は十分に進歩し,ほとんどの人が,カテゴリー的な身元から推測した特性を理由に,故意に誰かの機会を奪うのは,間違っていることだと感じられるようなレベルにまで達している。しかし,こと無意識の偏見については,理解の手がかりしかつかめていない。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.232

ステレオタイプ

「現実の身の回りの環境は,あまりに大きく,あまりに複雑で,あまりにはかないため,直接知ることはできない。……わたしたちはそんな環境のなかで行動しなければならないが,それには,その環境をより単純なモデルに再構成しないと,うまくやっていくことはできない」
 そのより単純なモデルを,リップマンは「ステレオタイプ(固定観念)」と呼んだのだ。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.219

カテゴリ内と外

別の研究では,ある都市の住人に6月1日と6月30日の気温の違いを見積もってもらうと,実際よりも小さく見積もる傾向があり,同じ人たちに6月15日と7月15日の気温差を見積もってもらうと,実際よりも大きく見積もることがわかった。日にちを恣意的に月ごとにグループ分けすることで認識が歪められ,同じ月に含まれる2つの日を,間隔はそれとまったく同じだがそれぞれ違う月に含まれる2つの月よりも,互いに似ているととらえるのだ。
 これらのいずれの例でも,人間は分類をおこなうと,偏重した考えを持つようになる。何らかの恣意的な理由で同じカテゴリーに属すると考えた者どうしを,実際よりも似ているととらえ,異なるカテゴリーに属するものどうしは実際よりも大きく違うととらえるのだ。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.217

社会的地位と声の高さ

一方,ある科学者グループが最近発見したところによると,男性は,自分が競争相手に対して優位階層のどこに位置するかを判断し,それに合わせて無意識に声の高さを調節するという。200人の20代男性を対象としたその実験では,1人ひとりに,隣の部屋にいる魅力的な女性とのランチデートを賭けて別の男性と競うよう指示した。競う相手は2つ隣の部屋にいると説明した。
 被験者は女性とデジタルビデオ映像で話ができるが,競う相手と話をするときには声しか聞こえず,姿を見ることはできない。実際には,競う相手も女性も研究者の仲間であり,決められた台本に従っていた。被験者は,自分がほかの男性に尊敬または評価されている理由を,女性および競争相手と話し合うよう指示された。そして,バスケットボールコートでの優れた技量や,ノーベル賞を受賞できる潜在能力,あるいはアスパラガスキッシュをつくる腕前について本音を話しはじめたら,そこで会合を打ち切り,被験者に,自分自身と競争相手と女性を評価するいくつかの質問に答えてもらう。そして被験者には退散してもらう。悲しいかな,誰も勝者には選ばれない。
 研究者たちは男性被験者の声の録音テープを解析し,また質問票に対する答えを精査した。質問票を使って調べた事柄の1つは,被験者が,競争相手と比べて自分の肉体的優位をどのように評価したかである。自分のほうが肉体的に優位である—つまり力が強く攻撃的である—と考えたときには,声の高さを下げ,相手のほうが優位であると考えたときには声の高さを上げたが,いずれの場合にも,自分がそうしていることには気づいていないようだった。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.191-192

視線と社会的優位性

わたしたちは,相手の目を見る時間を自分の相対的な社会的地位に合わせて機械的に調節するが,それをふつうは,自分ではそうしていると気づかずにやっている。ちょっと信じられない話に思える。どんな相手でもじっと目を見つめようとする人もいるかと思えば,CEOと話すときでも,あるいは近所のスーパーでバッグに鶏もも肉のパックを放り込もうとしている子供に話しかけるときでも,つねに視線を逸らしがちな人もいる。では,どのようにすれば,凝視行動を社会的優越性と関連づけられるだろうか?
 それは,しゃべっている相手を見つめる全体的な傾向ではなく,聞き手と話し手の役割を切り替えたときに自分の行動をどのように調節するかにある。その行動は1つの数値的指標として特徴づけることができ,それを使って心理学者は注目すべきデータを導き出している。
 その指標を計算するには,自分が話しているときに相手の目をどれだけの時間見ているか,その割合を求め,それを,自分が話を聴いているときに同じ相手の目を見ている時間の割合で割る。たとえば,自分と相手のどちらが話しているかに関係なく,同じ時間だけ目を逸らせば,この比は1.0となる。しかし,相手の話を聴いているときよりも自分がはなしているときのほうが,より多く目を逸らす傾向があれば,この比は1.0より小さくなる。聴いているときよりも話しているときのほうが目を逸らす時間が短ければ,1.0より大きくなる。
 この比は重要な意味を持っていることが,明らかとなっている。これは「視覚的優越性比率(visual dominance ratio)」と呼ばれ,社会的優位階層のなかで自分が会話の相手に対してどのような位置にいるかを反映している。相手に比べて社会的優位性が高い人では,視覚的優越性比率は1.0近くか,またはそれより大きい。1.0より小さいと,優位階層のなかで低い位置にいることがうかがわれる。要するに,視覚的優越性比率が1.0かそれより高い人はおそらくボスであり,0.6近辺の人はおそらく部下であるといえる。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.175-176

動物ですから

人間が動物としての機械的な特性を持っていることを示すもっとも際立った証拠の1つが,脳のなかでバソプレシン受容体を制御している遺伝子に見られる。この遺伝子のある特定の型を2つ持っている男性は,乱交性のハタネズミのように,バソプレシン受容体が少ない。そして確かにハタネズミのような行動をとる。バソプレシン受容体の少ない男性では,多く持っている人に比べ,夫婦間の問題や離婚の危機を経験する可能性が2倍で,結婚している割合も半分なのだ。
 このように,わたしたちの行動はヒツジやハタネズミよりもはるかに複雑ではあるが,人間もまた,動物としての過去の名残である,何らかの無意識の社会的行動を生まれつき持っていると言える。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.138

しょっちゅう間違っている

たとえば,ジョン・ディーンの研究をおこなったアルリック・ナイサーは,スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故の翌朝,エモリー大学の学生たちに,そのニュースを最初にどのように知ったかを尋ねた。すると学生は全員,自分の経験をはっきりと説明した。それからおよそ3年後,大学に残っていた44人の学生に,再びそのときの経験を思い出してもらった。
 すると,誰一人として完全に正しくは説明できず,およそ4分の1の人は完全に間違っていた。ニュースを聞いたときの行動は成り行き任せのものでなくなり,バートレットなら予想したであろうとおり,誰かに話して聞かせることを前提とした,もっとドラマチックで型どおりのものに変わっていた。たとえば,カフェテリアで友人とおしゃべりをしていてそのニュースを聞いたある被験者は,のちの報告では,「女の子がこっちに向かってホールを走りながら,『スペースシャトルが爆発した』と叫んだ」と語った。宗教学のクラスで何人ものクラスメイトからそのニュースを聞いた別の学生は,のちの報告では,「寮の新入生部屋でルームメイトと座ってテレビを見ていた。するとニュース速報が流れて,2人とも大きなショックを受けた」と回想した。
 このように記憶が歪められたことよりもさらに注目すべきなのが,自分が最初に説明した内容を聞かされたときの学生たちの反応である。多くの学生は,のちの記憶のほうが正確だと言い張ったのだ。以前に自分でその場面を描写した文章は,筆跡が自分のものであるにもかかわらず,受け入れようとしなかった。ある学生は,「確かに私の筆跡ですが,やっぱり違うふうに記憶しています!」と言ったという。
 これらの実例や研究結果がすべて奇妙な統計的偶然でもない限り,わたしたちは自分自身の記憶を,とくに他人の記憶と食い違っている場合には,考えなおさなければならないことになる。はたして人間は,「しょっちゅう間違っていながらも,けっして疑わない」のだろうか?記憶が鮮明に思えるときでも,少し疑ってかかれば得るところがあるかもしれない。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.98-99.

表層構造と深層構造

言語学者によれば,言語構造には「表層構造」と「深層構造」の2種類があるという。表層構造は,考えたことを表現する具体的な方法,たとえば使う単語やその順序などを指し,深層構造は,考えた事柄の要点を指す。ほとんどの人は,入り乱れる言葉に翻弄されるという問題を避けるために,要点は保持したまま,細部は進んで破棄する。その結果,深層構造,つまり言われたことの意味は長期間保存できるが,表層構造,つまり発せられた単語は,わずか8から10秒のあいだしか正確には記憶できない。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.89

記憶の特徴

ミュンスターバーグは記憶に関する自身の考え方を書物にまとめて発表し,その本“On the Witness Stand: Essays on Psychology and Crime”(『証言台にて—心理学と犯罪に関する評論集』)はベストセラーとなった。そのなかで詳しく述べられている数々の重要な概念は,いまでは多くの研究者が,記憶の実際の働きと対応していると考えている。第一に,人間は出来事の一般的な要点はよく記憶できるが,記憶の実際の働きと対応している考えている。第二に,正確に話そうと誠実に対応する善意的な人間でさえ,覚えていない細部を問い詰められると,うっかりでっち上げて記憶の欠落を埋め合わせてしまう。そして第三に,人間は自分がでっち上げた記憶を信じてしまう。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.85

目撃証言は不正確

これを真似たある実験では,ごった返した科学の会合に,それを追って銃を持った男が駆け込んでくる。男とピエロは言い争って喧嘩を始め,銃を発射して部屋から出て行く。すべて20秒以内に起こる。科学の会合にピエロが登場したという話は聞いたことがなくもないが,実際にピエロの衣装を着ていることなどめったにないのだから,聴衆は,この事件が芝居であることに気づいて,その理由も見抜けると考えて差し支えないだろう。
 ところが,目撃者はのちほど質問されることに気づいていたというのに,その報告はひどく不正確だった。報告のなかでは,ピエロの服装がそれぞれ大きく異なっていたり,また,銃を持った男がかぶっていた派手な帽子について細かく説明されていたりした。当時,帽子は一般的なものだったが,銃を持った男は帽子をかぶっていなかった。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.84

記録より記憶?

慎重な陪審員が,法廷で聞いた証言の記憶を公判記録で確認しようとしても,法廷はそれを認めない。たとえばカリフォルニア州では,裁判官は陪審員に「書かれた記録よりも自分の記憶を優先すべきだ」と話すよう推奨されている。法律家なら,この方針はたとえば,陪審員が公判記録を精査していたら審議が長くなりすぎてしまうといった,実際的な理由があると言うはずだ。
 しかし私に言わせると,それはとんでもない話であり,まるで,事件の様子そのものを写したフィルムよりも,その事件に関する誰かの証言の方を信じるべきだと言っているようなものだ。ほかの分野で,そのような考え方に甘んじることなどけっしてありえない。アメリカ医師会は医師に,患者が話す病歴を信用しないよう勧告している。「心臓の音ですって?私に心臓の雑音があったなんて,記憶にありません。その薬はやめましょうよ」

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.76

擬陽性

アメリカの警察では毎年およそ7万5000件の面通しがおこなわれており,統計によれば,そのうちの20から25パーセントで,目撃者は,警察が間違いであると知っている人物を選んでいる。そう断定できるのは,警察が人数合わせのために「無実であるとわかっている人」や「人数合わせの要因」として揃えた人物を,目撃者が選んだためである。刑事本人であったり,地元の刑務所から連れてきた受刑者であったりすることが多い。
 このような誤認では誰も困ることはないが,それが暗に意味している事柄を考えてほしい。5分の1から4分の1のケースで,明らかに犯罪と無関係な人物を目撃者が指差すことを警察は知っているというのに,目撃者が容疑者を指差した場合には,警察や法廷は,その人物特定は信頼できるものと決めつけてしまうのだ。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.74-75

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