ある夢が,実生活で起こる一連の出来事と,いくつかの点で完全に一致する確率が,1万回に1回だと仮定しよう。これはとても起こりそうもない確率で,1万回夢を見ても,9999回は正夢ではないことを意味している。同時に,ある夢がいつか経験と一致するかどうかは,他の夢が別のときに経験と一致するかどうかとは無関係である,と仮定する。したがって,現実と一致しない夢が2度続く確率は,確率の掛け算の原理によって,(9999/10000)×(9999/10000)である。同様に,続けてN夜,現実と一致しない夢を見る確率は9999/10000のN乗。そして,1年間続けて正夢を見ない確率は9999/10000の365乗となる。
9999/10000の365乗はおおよそ0.964であるから,1年間,毎晩夢を見続けても,約96.4パーセントの人が一度も正夢を見ないことになる。しかし,これは同時に,毎晩夢を見ている人のうち約3.6パーセントの人が正夢を見る,ということでもある。3.6パーセントというのはそれほど小さな数字ではない。人々は年間に何百万という数の正夢を見ていることになる。たとえ正夢を見る確率を100万分の1に変えたとしても,アメリカほどの大きさの国では,偶然に正夢を見る人の数が膨大であることに変わりはない。別に超能力に頼らなくてもよいのである。正夢を見た人がたくさんいることを説明する必要はない。説明が必要なのは,このような夢を見る人がいない場合である。
ジョン・アレン・パウロス 野本陽代(訳) (1990). 数字オンチの諸君! 草思社 pp.79-80
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