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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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カトリックの場合

カトリック系の神父・修道女の活動は教育分野ではなく,孤児院・授産所・施療院などでの社会的な慈善事業に従事することが多かった。なぜ文化や教育の事業に取り組まなかったかといえば,プロテスタントの諸宗派が既に私塾や学校をつくって活動を行っていたので,出る幕がなかったという事情がある。とはいえカトリックは社会福祉の事業に関与することによって,民衆との直接の接触に関心を持っていたことも重要な理由である。

橘木俊詔 (2013). 宗教と学校 河出書房新社 pp.74
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各派の学校

アメリカ聖公会は1874(明治7)年に東京で聖保羅(後の立教学院),77年には立教女学校(後の立教女学院)を設立している。英国国教会も長崎,大阪などに私塾や学校をつくって,教育を始めた。現代でも残っている学校としては大阪のプール学院,桃山学院などがある。なお設立当初にあってはアメリカ聖公会と英国国教会は別組織であったが,その後両者は日本では日本聖公会として統一され,1つの宗派になっている。現代でも立教学院,立教女学院,桃山学院,平安女学院(京都),プール学院,神戸松蔭女子学院などがこの宗派の学校である。
 アメリカ長老会(プレビステリアン),アメリカ・オランダ改宗派教会(リフォームドチャーチ):プロテスタント派の中でもカルヴァン派の流れを汲む宗派である。アメリカではこの派は南北に分裂したが,北長老教会が日本に来て布教を始めた。既に横浜でのJ.C.ヘボンを紹介したが,彼はこの派の宣教師であった。ヘボンの名はヘボン式ローマ字を開発した人として有名である。ヘボンの妻も1863(文久3)年に横浜で男女共学の英語塾(ヘボン塾)を開くこととなった。
 改革派教会とは,もともとカルヴァン派がオランダで改革派という一派を形成した宗派であるが,アメリカにも波及してアメリカ・オランダ改革派教会と呼ばれるようになった宗派である。S.R.ブラウンが横浜で1873(明治6)年に私塾を開講したのである。
 長老派にあっては,カロゾルス夫妻が私塾の後に,A6番女学校(後の女子学院)を,D.タムソンが,B6番女学校(後の女子学院)をつくったりする。

橘木俊詔 (2013). 宗教と学校 河出書房新社 pp.57-58

布教と学校

ここで述べた6つの理由を総括しておこう。キリスト教への信仰心の強い信者と宣教師が純粋な気持ちから,キリスト教を世界各地に広めて,そういう人にも救いがあるようにという熱意の発露があった。すなわち第3で述べたことが最大の理由とは思うが,必ずしもそれだけではない。政治や経済の目的から植民地を得たり,重商主義の遂行という行為を欧米の為政者,資本家は実行したのであり,キリスト教の布教はその目的達成のために間接的にせよ支援することに役立つと考えた。このことは為政者や資本家が,宣教師の活動を経済的にあるいは諸々の援助を陰に陽に行っていたことでわかる。現地にミッション・スクールを創設することも,その目的を成就するために一定の役割を果たしており,本書での分析のテーマにもなっている。

橘木俊詔 (2013). 宗教と学校 河出書房新社 pp.47

寺子屋

寺子屋に入学するのは。7〜9歳の子どもであり,在学年数も3年から6年という幅の広いものであった。男子と女子の生徒数は石川(1972)によるとそれぞれ59万2754名と14万8138名であり,男子が女子の約4倍の多さであるから,江戸時代にあっては初等教育では女子よりも男子がはるかに重視されたのである。封建時代の男尊女卑という特色が背景にあった。寺子屋修了後に通う学校であった,前節で述べた藩校にいたっては,ほぼ全員が男子のみの入学だったので,女子教育,特に中等教育にあっては女子は排除されていたといっても過言ではない。寺子屋でどういう教科を教えていたかといえば,読み・書き・習字が主であった。学校によっては商人になる人のために算術を教えていたし,僧侶の教える学校では漢学,仏学,修身なども教えていた。

橘木俊詔 (2013). 宗教と学校 河出書房新社 pp.35

種智院

綜藝種智院の特色として次の4点がある。第1に,教育のためには,例えば寺に近いという良い立地条件と自然環境の優れた場所を用意したこと。第2に,儒教,仏教,道徳を教える総合教育であること。すなわち,仏教だけを排他的に教えることはなかったのである。第3に,入学する人を庶民にまで広げたこと。第4に,先生・生徒に給費を支給して,職なくして学問なし,の精神を尊重した。独善的な教育をせず,しかもかなり平等性に富む教育機関であったことを暗示させる特色であるが,これらは空海の教育論の発露とみなしてよい。
 綜藝種智院はおよそ20年間の存在期間にすぎず,空海の没後10年で閉鎖に至る。主として資金不足がその理由とされているが,真言宗の教義を伝えていくための伝法組織になってしまったから閉鎖に至ったという説もある。すなわち,真言宗を教えてそれを布教することになる僧侶の養成が中心となってしまったのである。短期間しか存在しなかった学校であるが,宗教(すなわち仏教)と教育の関係を理解する上で,しかも私学の意義と限界を知る上で,綜藝種智院は貴重な教育機関だったのである。

橘木俊詔 (2013). 宗教と学校 河出書房新社 pp.33

(引用者注:京都にある種智院大学はこの教育機関から名前をとっている)

朱子学

江戸時代における宗教と教育を特色づければ,儒教(特に朱子学)の教義が学校での教育方針を支配していた,といっても過言ではない。幕府と各藩は封建的な幕藩体制を維持するために,朱子学の教え(すなわち「孝」と「忠」)を武士を筆頭に庶民にも浸透させることが有効と判断したのであった。江戸時代の前半では幕府や藩が強かったのでそのことを強制しなくとも,幕藩体制を維持できたが,中期,後期になると幕藩体制が弱体化して,その教義をむしろもっと強制するようになり,昌平黌や藩校では朱子学を唯一の学問と認めて,他の学問を異端とする強攻策に出たのである。

橘木俊詔 (2013). 宗教と学校 河出書房新社 pp.29

儒教

日本において儒教がもっとも重宝された時代は江戸時代である。幕藩体制を強化するために,為政者(すなわち江戸の徳川幕府と各地の諸大名)は儒教の教えを支配原理として用いようとしたからである。時代によって色々と考え方に種類のある中国の儒教の中でも,宋の時代(具体的には南宋)における朱熹による朱子学の思想が13世紀に日本に移入されており,江戸幕府はこの朱子学を政治哲学として重宝したのである。具体的には林羅山とその後継者による儒学者の教えを幕藩体制の教学ないし正学としたことが大きい。ここで正学とは,幕府公認の学問・思想であり,この教義を政治を行うための唯一の学問体系であると宣言した,と理解してよい。その宣言は「寛政の改革」を実行した老中・松平定信の時代,すなわち1787(天命7)年頃である。他の学問・思想は異学として排除した,と言ってもよいほどである。ここで江戸時代における異学とは,儒学の中にあっても朱子学以外の思想,例えば陽明学や古学であるとともに,儒教以外であれば仏教やキリスト教である。キリスト教は江戸時代に異端として弾圧されたことは有名であるが,仏教は為政者,民衆ともに信者が多かったので,異端や異学とするのは言いすぎである。仏教の場合には統治のための学問・思想としてさほど重宝しなかっただけであり,弾圧やそういう圧力をかけることはなかった,といった方が正確である。

橘木俊詔 (2013). 宗教と学校 河出書房新社 pp.15

有害な場合も

診断検査も,役に立たないどころか,有害な場合さえある。最近では,前立腺がんの検診がその例である。PSA測定法による検査が広く行なわれるようになったが,この検査では,ほとんど進行していない多くの腫瘍が発見される。そういう事情で,1975年から95年の間に,前立腺がんの件数は3倍に増加した。その結果,多くの手術が行われ,術後に深刻な問題(性機能障害や失禁)を抱える者も現れた。ところが,発見されたこれらの腫瘍の大部分は,進行が非常に遅く,高齢者であれば,手術を実施するかどうかの判断は慎重に行われるべきであることがわかった。つまり,往々にして何もしないほうが良いことがわかったのである。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.187

価値はあるのか

人々が遺伝子検査に大いに期待する一方で,彼らが提案する遺伝子検査は,他の子どもよりも少しだけ自閉症になりやすい子どもを見つけ出すことに,ほんの少し貢献するだけであることを,どのように説明したら,わかってもらえるだろうか。さらにそういう情報は,本当に1000ユーロ以上の価値があるのだろうか。自閉症になるリスクが平均よりも(少しだけ)高いことが検査をしてわかった子どもは,「自閉症予備軍」として,親の心配な眼差しが,これまでの10倍以上も彼らに注がれることになるのではないだろうか。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.184

イカサマ

要するに,宣伝文句の趣旨は,DNA分析ではごく一般的な異常を探し出すことはできるが,自閉症を完全に見つけ出すことはできないので,おもに食餌療法によって自閉症を治そうということだ。これらのすべては,イカサマに近い。両親にとっては多額の出費である。最低価格の治療でも9000ドルであり,多くの検査や,パーソナライズされたと謳う(まったく効果のない)治療を行えば,数万ドルにもなる。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.152

40個以上で5%しか

糖尿病とは別の例を挙げると,大人になったときの身長は,最も遺伝に関係する特徴の1つであり,遺伝率は0.8である。つまり,ある集団における身長の違いの80%は,遺伝子が原因だということだ。ゲノムワイド関連解析を使った,身長の違いに関するさまざまな研究により,現在までに身長に影響をおよぼす遺伝子が,40個以上も見つかった。ところが,これらすべての遺伝子によっても,身長に関する遺伝率の5%しか説明できない。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.118

遺伝率低い

したがって2000年初頭に,詳細かつ完全な「ゲノムスキャン」ができる技術が開発されると,医学界は大きな期待を抱いた。(2型糖尿病の場合を再び例にとると)10個から20個の遺伝子が発見され,それらの個々の遺伝子の影響を足したものが,観察される遺伝率であり,そうした発見によって,信頼性の高い早期診断検査が可能になると同時に,病気の原因の理解も深まるので,より効果的な治療法が見つかるはずだと期待された。ところが,変異があると糖尿病のリスクが高まる18個の遺伝子が,再現可能かつ確実に見つかったにもかかわらず,それらの個々の遺伝子の影響はきわめて弱く,全部の遺伝子を足しても,遺伝率の10分の1しか説明できなかった。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.117-118

自閉症遺伝子が見つかったとして?

遺伝子分析によって,糖尿病になるリスクが高いことがわかった子どもの家族は,食生活や体重に気をつかうように指導されるだろう。糖尿病の初期症状が見られるようであれば,血糖値を定期的に計測することになるかもしれない。だが,そのような対応により,その子どもと家族の関係が根本的に変化することはなく,良心の不安な眼差しが,子どもの重荷になることもないだろう。
 糖尿病の場合と異なり,すでに自閉症の子どもを抱え,大変な生活をしている家族にとって,遺伝子検査を受けた弟が自閉症になるリスクが(たとえば)35%であることがわかった場合,家族はその子も自閉症として扱うことになるのではないか。自閉症には,血糖値のように客観的に証明できる基準がないため,その子は予防措置として治療を受けることになるが,そうなれば,その子は必然的に同年齢の集団から隔離されることになるだろう。イェルク・ハーガーは,「行動療法が子どもに悪影響をおよぼすことはない」と私に請け合った。私は,この見解に同意できない。たしかに,(他の治療法と比較して)行動療法が有害であるとは思わないが,その子が65%の確率で自閉症ではないのに,集中的な治療を受ければ,何らかの影響はあるだろう。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.107-108

パッキング?

パッキングは,フランスで一部の医療グループが実践している治療法である。これは,少なくとも1時間ほど冷蔵庫で冷やした湿った布で,自閉症の子どもを包むというものである。治療者は実施中に,冷えたシーツに身体を包まれた患者に,自分の肉体の限界を意識するよう話しかける。この治療法は,自傷行為に走る傾向のこどもに効果があるというが,その科学的根拠は一切なく,臨床研究だけが頼りである。にもかかわらず,フランスでは,パッキングにかなりの支持がある。病院で働く者の中にも支持者が多く,たとえば精神医学者のピエール・デリオンは,パッキングをテーマとする「養成講座」の主催者を務めている。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.71

単一ではない

自閉症が単一遺伝子疾患でないのは明らかである。なぜなら,家族内における遺伝がメンデルの法則に従わないからである。研究者の予測では,自閉症にはおもに3つの遺伝子が関与しているのではないか,と考えられてきた。もしそうであるなら,1990年代後半に開発された分析手法を用いて,3つの遺伝子それぞれが,はっきり確認できる大きな影響力をもつことが判明するはずだった。
 ところが現実には,そうはならなかった。自閉症患者が子どもをもつことはあまりないため,遺伝的研究には限界がある。つまり,世代を超えて遺伝すると思われる家族の,家系図を用いた直接的な研究ができないのだ。そこで,間接的であまり有効でない手法による研究を行うことになる。すなわち,子どもが2人とも自閉症であるような,いわゆる「自閉症多発型家族」を対象とする研究に専念することになる(しかし自閉症の子どもをもつ親は,もう1人子どもをつくることを断念することが多いので,そのような家族は稀である)。そして,染色体のどの特定領域が,両親から子どもに受け継がれたのかを調べる。複数の家族員に同じ領域が見つかるなら,それらの領域には原因遺伝子があり,それらのある種のバージョンが発病を促すのではないかと推論できる。その推論に基づき,DNAのそれらの領域を丹念に調べ,そこに含まれる遺伝子の一覧表をつくり,それらのうちどの遺伝子が自閉症の子どもの場合では異なっているのかを,見つけ出せばよい。
 これとは別に,「候補遺伝子」という方法もある。それは,自閉症に関わると思われる遺伝子の中から,事前にいくつかの遺伝子を選んで調べる方法だ。つまり,神経細胞の接続および脳の代謝において重要な役割を担う数百個の遺伝子を調べるのだ……。そこで自閉症の子どもと正常な子どもを対象にして,遺伝子の変異の分布を調べる。特別な変異が,正常な子どもよりも自閉症のこどもに,きわめて頻繁に見つかるとすれば,自閉症の原因に関する手がかりが見つかるかもしれない。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.62-63

記録から完全に消す

1998年,査読制の医学雑誌『ランセット』に掲載された論文は,ワクチン的には科学的裏付けがあると主張した。その論文は,新三種混合ワクチン(MMRワクチン)の予防接種と自閉症との関連を示唆したのである。調合物に含まれるワクチン株の影響により,腸に炎症が生じ,そこから神経に有毒な物質が血液に流れ込んで,神経系の発達が止まると説明していた。しかし,その後の多くの研究により,この論文の内容は否定された。そして主要執筆者のアンドリュー・ウェイクフィールドは,競合するワクチンの特許をもっていたことが明らかになり,さらには自身の研究データを改ざんしていたことも判明した。最終的には,2004年に13人の執筆者のうち10人がこの論文を撤回し,「論文の内容の一部は(……)誤りであった」と認めた。2010年に『ランセット』は,この論文を「記録から完全に消す」ことを決めた。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.59

自閉症と予防接種

多くの一般市民は,がんの頻度は増加し続けていると考えているようだ(これはおもにメディアの影響だ)。そしてがんが増えたのは,環境や食品の汚染の拡大が原因だと思っているらしい。現実には,人口の高齢化を考慮すれば,ほとんどのがんの発生率は安定的あるいは減少傾向にある。すべての疫病調査によると,たとえば,公害(タバコは除く)ががんの原因である場合は,最大に見積もって5%程度だという。
 自閉症に話を戻すと,最も頻繁に犯人扱いされるのは予防接種ワクチンである。予防接種ワクチンという措置や,食品の成分に対する不信感が高まっていることも,その背景にある。遺伝子組み換え作物に対する,ある種のヒステリックな対応や,自然食品や有機栽培の食品に偏執する態度も,そうした風潮を助長している。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.57-58

偽陽性と偽陰性

どのような診断テストであっても,当然ながら「偽陽性(病気でないのに,病気であると診断される者)」や,「偽陰性(病気であるのに,病気でないと診断される者)」が,ある程度の割合で存在する。しかしそれは,検査の利用法とのかねあいで考察されるべきものだ。たとえば,HIV検査のように大規模に実施する検査では,血清陽性者を見逃さないために,できる限り偽陰性を減らすことが望ましい。その際に,ある程度の擬陽性を許容することになる。そのような検査の次に,陽性と判断された者たちだけを対象に,費用のかかる,より精密な診断法を実施して,偽陽性を除くのだ。その結果,病気でないのに病気であると診断された者も安堵する。
 しかし,自閉症の検査の場合,そのような二次検査は,これもまた不確実な臨床検査を除いて存在しない……。自閉症は人間関係の問題でもあるので,このようなきわめて曖昧な検査結果から生じる予測が,子どもを自閉症にしてしまうリスクがある。つまり,「高いリスク」をもつと見なされる子どもは,両親たちの不安が向けられる対象になってしまう。極端な場合,自閉症ではないのに子どもが自閉症になってしまうかもしれない……。自閉症の検査は,予測には役立つとしても,従来の生体検査とはかなり性格が異なるのだ。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.42-43

主要な遺伝子は存在しない

こうした分析から導き出せる唯一の結論は,次の通りだ。躁うつ病にしろ,統合失調症にしろ,これらは遺伝子の欠陥バージョンが深刻な影響をおよぼすような,「主要な遺伝子」というものが存在しない。それらの病気が遺伝子要因になることはまちがいないが,その原因には,疑わしい複数の遺伝子が関係している。だが,個々の遺伝子の影響は小さいため,それらを明らかにすることは難しい,と。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.30

環境も

ここで注意すべきは,一卵性双生児は,一方の子が自閉症であればもう一方の子も必ず自閉症である(あるいは自閉症になる運命にある)のではないということだ。高い一致率が意味するのは,一卵性双生児の双子が同じ環境に置かれたならば,同じように成長する確率が高いということだ。言い換えると,このような強い遺伝子的影響も,環境の役割を完全に打ち消すものではなく,環境を変えれば,その子が自閉症に罹るリスクは減るだろうということである。この場合は,誕生時から別々の家で暮らす一卵性双生児の事例を研究すればよいことになる……。だが,そのような事例は稀であり,また研究対象にするには注意が必要である(完全に別々に暮らしていない場合や,きわめて似通った家族と暮らしている場合などがある)。そのような研究から確たる結論を導き出すには,統計データが少なすぎるのだ。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.17-18

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