勉強する部屋を変えたほうが,同じ部屋で勉強するよりも思い出しやすくなるのはなぜか?その理由は誰にもわからない。一つの可能性としては,最初の部屋で勉強したときに単語に付随する情報と,それとは若干異なる別の部屋で覚えたときに付随する情報が,脳内で別々に記憶されていることが考えられる。この2種類の情報には重なる部分があるが,情報は多い方がいい。あるいは,2種類の部屋で覚えることで,勉強した単語,勉強中に目や耳に入った事実,勉強中に思ったことを思いだす手がかりの数が2倍になるのかもしれない。
たとえば,最初の部屋で「fork」を覚えたときは,ベージュの壁,蛍光灯,乱雑に積み重ねられた本がその記憶を彩り,次の部屋で「fork」を覚えたときは,窓から降り注ぐ太陽光,庭に立つ立派なオークの木,空調の音が結びついているかもしれない。そうすると,「fork」には2種類の知覚の層が組み込まれるので,勉強したときの環境を脳内で「よみがえらせ」て,単語もしくはその意味を思いだす機会が少なくとも2回生まれる。1号室の記憶がダメなら,2号室の記憶から想起を試みるというわけだ。
ベネディクト・キャリー 花塚 恵(訳) (2015). 脳が認める勉強法:「学習の科学」が明かす驚きの真実! ダイヤモンド社 pp. 91-92