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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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儲かるベンチャーキャピタリストとは

 数年前,当時クレアモント大学院にいた心理学者のジェフ・スマート博士は,51人のベンチャーキャピタリストを対象にした研究を行った。ベンチャーキャピタリストたちは高いリスクを冒し,数億円を無名の新興企業に投資する。決算書や過去の業績を分析できる,ある程度確立した会社に投資するパブライ氏やクック氏たちとは違い,彼らは若く野心的な起業家が描く荒削りな夢に大金を賭けるのだ。起業家たちが掲示できるのは,1枚の紙に描かれた落書きや,ろくに動かない試作品だけ,ということも多い。だが,グーグルやアップルもそのようにして始まった。ベンチャーキャピタリストたちは,次のグーグルを見つけ,それを所有しようとしているのだ。
 彼らはいったいどうやって投資の判断をしているのだろう。スマート博士は調べてみた。アイデアの質が最も重要な判断材料なのだろうと私は思っていたが,そうではないらしい。実は,良い起業アイデアを見つけるのはそれほど難しくない。だが,良いアイデアを実現させられるような人物を見つけるのはとても難しいそうだ。アイデアを具体的な形にし,朝早くから夜遅くまで働き,プレッシャーや挫折に耐え抜き,人の問題にも物の問題にも対処し,何年間も努力を続けられるような人が望ましい。だが,そのような人材は希少で,運良く目の前に現れても,それに気づくのは難しい。
 スマート博士はベンチャーキャピタリストたちを研究し,彼らが人物を見分ける方法を十数種類に分類した。方法と言うより,流儀と言った方がいいかもしれない。まず,「美術評論家」タイプ。彼らは起業家を一目で判断する。美術の評論家が絵画を見る時のように,勘と長年の経験を元に一瞬で決める。「スポンジ」タイプは時間をかけて調べる。面接,会社の見学,資料などから,ありとあらゆる情報を吸収する。だが,結局最後は直感に任せる。あるスポンジタイプの投資家に言わせると,「調べるというより,時間をつぶすという感じかもしれない」そうだ。
 「検察官」タイプは起業家を問い詰める。難問を投げかけ,知識があるか,様々な状況にどう対応するかなどを試す。「八方美人」タイプは,審査よりも,起業家に好かれることに専念してしまう。「ターミネーター」タイプは,起業家を評価するのは無理だと考え,人物の審査をしない。とにかく一番よいアイデアに投資し,経営者が無能だと思えば,すぐにクビにして代わりを雇う。
 そして「機長」タイプ。彼らは過去のミスや同業者の失敗を分析してチェックリストを作り,それを使って丁寧に仕事をする。この人なら絶対に成功すると直感的に思っても,自分を律し,手順を絶対に飛ばさない。
 スマート博士がベンチャーキャピタリストたちの成績を追ってみると,あるタイプが飛びぬけて好成績を収めていた。ここまで本書を読んでくださった方々ならば,どのタイプかおわかりだろう。機長タイプの成績が突出していた。彼らが不適任を理由に経営者をクビにする,または当初の評価は間違いだったと結論付ける確率はわずか10%,他のタイプでは50%以上だった。
 収益にも大きな差があった。機長タイプの投資リターン率の中央値は80%だったが,他タイプは35%以下だった。決して他タイプの成績が悪かったわけではない。きっと彼らの経験がものをいったのだろう。だが,経験にチェックリストが加わると,断然良い成績をあげられるのだ。

アトゥール・ガワンデ 吉田 竜(訳) (2011). アナタはなぜチェックリスト使わないのか?:重大な局面で“正しい決断”をする方法 晋遊舎 pp.195-197
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シンプルで明瞭に

 チェックリストは長すぎてはいけない。原則として項目の数は5個から9個にしておくと良い。人間の脳が1度に保持できるのもそれくらいだと言われている。だが,ブアマン氏によれば,これは絶対に守らなければならないわけではないそうだ。
 「20秒しかない場合もあれば,数分の猶予がある状況もある。そのチェックリストが使われる状況に合わせて作ればいい」
 ただし,1つの一時停止点に60秒から90秒かかってしまうと,チェックリストはかえって邪魔になってしまうことが多いそうだ。また,ずるをしたり,手順を省いたりされやすくなる。だから,ブアマン氏が“キラーアイテム”と呼ぶ,飛ばされがちだが致命的な手順に絞るべきだそうだ。航空業界では,どの手順が重要でそれがどれくらい忘れられるかというデータを重視する。いつもそのデータがあるとは限らないが。
 チェックリストの文章はシンプルで明確でなくてはいけない。その業界にいる人ならば誰でも知っている言葉のみを使うべきだ。そしてチェックリストの見た目も実は重要だ。理想的には1ページに収まり,余計な装飾や色使いは避け,大文字と小文字を使い分けて読みやすくしてあるものが良い。さらに,ブアマン氏は「ヘルベチカ」のようなサンセリフ書体を推奨しているそうだ。

アトゥール・ガワンデ 吉田 竜(訳) (2011). アナタはなぜチェックリスト使わないのか?:重大な局面で“正しい決断”をする方法 晋遊舎 pp.142-143

良いチェックリスト・悪いチェックリスト

 ブアマン氏はいろいろ教えてくれた。良いチェックリストもあれば悪いものもある。悪いチェックリスト曖昧でわかりにくい。長すぎて使いにくく,実用に適さない。現場を知らないデスクワーカーによって作られる。彼らはチェックリストを使う人たちは馬鹿だと思い込んでいるから,全ての手順を細かく書き出そうとする。脳を活性化させるのではなく,眠らせてしまうようなチェックリストを作ってしまう。
 一方,良いチェックリストは明確だ。効率的で,的確で,どんなに厳しい状況でも簡単に使える。全てを説明しようとはせず,重要な手順だけを忘れないようにさせる。なにより実用的であることが良いチェックリストの条件だ。
 だが,どんなに良いチェックリストにも限界がある,ということをブアマン氏は強調した。やるべきことの優先順位を付けたり,チームワークを高めるきっかけを作ることもできる。でもチェックリストを渡しただけでは誰も使ってくれない。

アトゥール・ガワンデ 吉田 竜(訳) (2011). アナタはなぜチェックリスト使わないのか?:重大な局面で“正しい決断”をする方法 晋遊舎 pp.139

石鹸

 シンプルで,測定可能で,効果が拡散する。これらの必要条件を満たしている,私のお気に入りの研究をもう1つ紹介しよう。パキスタンの大都市カラチのスラム街に住む子供の死亡率の改善を目指している慈善団体「HOPE」と,アメリカ疾病予防管理センター(CDC)との共同プログラムだ。カラチには,400万人以上が非常に込み入った状態で暮らしている。道には汚水が流れ,汚染されていない飲み水などほとんどない。貧困と食糧不足のせいで子供の3割から4割が栄養失調だ。子供の10人に1人は5歳になる前に亡くなる。下痢と急性気道感染症が主な死因だ。
 問題は多様で根深かった。水道も汚水処理のシステムも不充分なうえ,教育が不足しているので基本的な健康や衛生の知識がない。地元の企業への投資がもっとあれば,雇用が増えて,人々が生活環境を改善できる。だが,腐敗した官僚政治と不安定な政情がそれを阻害していた。世界的に農作物の価格が低く,農業で生計を立てるのは無理なので,数十万人が仕事を求めて田舎から押し寄せ,都市はますます混雑した。政府と社会を一新しないと,子どもの健康を向上させるのは無理に思えた。
 だが,CDCの若き職員,スティーブン・ルービー氏には1つのアイデアがあった。彼はネブラスカ州のオマハで育った。彼の父はクレイトン大学の産婦人科の主任教授で,彼自身もテキサス大学サウスウェスタン医学部を卒業した。彼は昔から公衆衛生に興味を持っていたので,サウスカロライナ州の疫病を調査するCDCの仕事に就いたが,CDCのパキスタン事務所に空きができるとすぐに志願した。学校の先生をしていた妻と一緒にカラチに移り,調査を始めたのは90年代後半のことだった。
 彼は私にこう語った。
 「もしも僕の故郷のオマハのような水道と下水処理のシステムがあれば,問題は解決されるだろうね。でも主要なインフラを作るのには十年単位の時間が必要なんだ」だから彼はシンプルな解決策を探し,同僚に笑われてしまうほど地味な答えにたどり着いた。石鹸だ。
 ちょうどその頃,一般消費財メーカーのプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)がセーフガードという抗菌石鹸の有効性を示したがっていた。それを知ったルービー氏は,P&Gと交渉し,研究の予算と,抗菌剤入りと抗菌剤なしの石鹸をそれぞれ数箱もらえることになった。同僚たちには懐疑的な目で見られたが,彼はそれをものともしなかった。次に,カラチのスラム街の家庭を無作為に25か所選んだ。HOPEの職員は,各家庭に石鹸を週1回配り,6つの状況で石鹸を使うように奨励した。1日1回体を洗う時,排便の後,子供のお尻を拭いた後,食事前,料理をする前,食事を幼児などに与える前に,そして各家庭の子供の病気の発生率を追った。比較対象として,石鹸を与えていない11家庭のデータも集めた。
 ルービー氏たちは結果をまとめ,2005年に『ランセット』誌に発表した。各家庭は週に平均3.3個の石鹸を1年間受け取った。石鹸を与えられた家庭では,与えられなかった家庭に比べ,子供の下痢の発生率が52%も低かった。肺炎の発生率は48%低く,膿痂疹という皮膚の病気の発生率も35%低かった。驚くべき結果だ。貧困,低い教育水準,混雑などの諸問題は相変わらずあった。石鹸は使っていたが,飲み水も手を洗う水も汚染されたままだった。それでも,これだけの成果が出たのだ。
 皮肉なことに,P&Gは研究結果に失望していた。P&Gは抗菌剤の有効性を示したかったが,抗菌剤の有無は効果に影響がなく,普通の石鹸で充分なことがわかったからだ。

アトゥール・ガワンデ 吉田 竜(訳) (2011). アナタはなぜチェックリスト使わないのか?:重大な局面で“正しい決断”をする方法 晋遊舎 pp.110-112

3種類の問題

 ヨーク大学のブレンダ・ジマーマン教授とショロム・グルーバーマン教授は,複雑性について研究を重ねてきた。2人によれば,世の中の問題は3つに分類できるという。
 1つ目は「単純な問題」だ。ケーキの焼き方などがこれにあたる。いくつかの基本的な技術を学ぶ必要はあるかもしれないが,それらを覚えてレシピ通りにやれば高確率で成功する。
 2つ目は「やや複雑な問題」だ。ロケットを月へ飛ばすのはこれにあたる。複数の「単純な問題」に分解できることもあるが,単純なレシピは存在しない。予期せぬ困難が頻発し,チームワークと専門知識が成功には不可欠だ。タイミングや協調が重要な課題となる。
 3つ目は「複雑な問題」で,子育てが良い例だ。月へのロケットは,1度やり方がわかれば,また同じやり方で飛ばせる。何度も繰り返すことによって,飛ばし方を改良していくこともできる。だが,子供は1人1人が違う。1人子供を育てたからといって,次がうまくいく保証はない。経験は有用だが,それだけでは不充分だ。次の子には全く違う育て方が必要かもしれない。「複雑な問題」は先行きが非常に不透明なのだ。だが,うまく子供を育てるのが不可能というわけではない。複雑だというだけだ。

アトゥール・ガワンデ 吉田 竜(訳) (2011). アナタはなぜチェックリスト使わないのか?:重大な局面で“正しい決断”をする方法 晋遊舎 pp.60-61

専門化

 専門化は現代医療の根本理念だと言っても過言ではない。20世紀の初頭ならば,高校を卒業し,医学学校に1年間通えば医者になれた。だが現在では,4年制の大学と4年制のメディカルスクールを卒業し,小児科,外科,神経内科などの専門を1つ選んで3年から7年の研修を修了しなければならない。さらに最近の若い医者の多くはフェローシップに進む。そこで専門トレーニングを1年から3年受け,内視鏡手術,小児代謝疾患,乳がんの画像診断,集中治療などの超専門家になるのだ。だから最近の「若い医者」はあまり若くない。30代半ばまで独り立ちできないのが普通だ。
 現代は超専門家の時代なのだ。医者は特定の狭い分野で訓練に訓練を重ね,超専門家になる。超専門家たちは普通の医者よりも細かい知識を持ち,より複雑な問題にも対応できる。だが,医療はあまりに高度化し超専門家でさえも日常的にミスを完全に防ぐのは不可能になってきている。

アトゥール・ガワンデ 吉田 竜(訳) (2011). アナタはなぜチェックリスト使わないのか?:重大な局面で“正しい決断”をする方法 晋遊舎 pp.38

毎日ミスが

 50年前には,ICUはほとんど存在しなかった。だが,現在の多くの病院では,ICUは主要な部門だ。私の病院を例に取れば,1日あたりの患者約700人のうち,155人がICUに入れられる。平均滞在日数は4日,生存率は86%もある。危険な状態なのは間違いないが,人工呼吸器を取り付けられ,多数の管や電極を繋がれても,大半は助かる。ICU入室は必ずしも死の宣告ではないのだ。
 だが,ICUケアを成功させるためには,メリットがリスクを上回っていることが肝要だ。これは非常に難しい。15年前にイスラエルの科学者たちが出した論文がある。ICUを24時間観察して得たデータをまとめたものだ。それによれば,患者1人あたり,1日に平均178もの手順が必要だった。投薬から痰の吸引まで様々な手順があり,それぞれにリスクがある。医者や看護師はこれらの手順のわずか1%でしかミスをしなかった。だが,わずか1%でも,178の1%は約2となり,患者1人あたり1日に約2つのミスが起きる計算になる。

アトゥール・ガワンデ 吉田 竜(訳) (2011). アナタはなぜチェックリスト使わないのか?:重大な局面で“正しい決断”をする方法 晋遊舎 pp.32

複雑性への対処

 もしかしたら,私たちは医療に過剰な期待を抱いてしまったのかもしれない。ペニシリンのせいで勘違いしてしまったのかもしれない。1928年にアレクサンダー・フレミングが発見したペニシリンは,それまで治療法がなかった様々な病気に有効だった。1つの薬で多種多様な病気を治せた。ならば,きっと様々ながんに効く特効薬も見つかるはずだ。やけどを消してしまう薬,脳梗塞や心臓病を治せる薬も見つかるに違いない。将来はどんな病気や怪我も薬1つで治せるようになる。ペニシリンはそのような幻想を作ってしまった。
 だが,現実にはそうならなかった。1928年から現在までに数々の発見があり,多くの病気は独自の特徴を持っていて,治療も難しいということが判明した。ペニシリン1つで全て治せると思われていた感染症でさえ,亜種には効かなかったり,今まで効いていた種類にも耐性ができてしまったりすることがわかった。現在では感染症の治療法は細分化されている。菌の抗生物質への耐性,患者の容態,感染している器官などを考慮したうえで治療法を選ぶのだ。現代の医療はペニシリンのようなシンプルな特効薬から遠ざかり,溺れた少女の救命のように複雑なものとなっているのだ。だから,複雑性にいかに対応するかは現代医療の命題だ。私たちが身につけられる知識と技術の限界が試されているのだ。

アトゥール・ガワンデ 吉田 竜(訳) (2011). アナタはなぜチェックリスト使わないのか?:重大な局面で“正しい決断”をする方法 晋遊舎 pp.27

人を気にする

 珍奇ネームをつける親の特徴として,周囲の人の目を執拗に気にし,かつ周囲の人にさからうことが苦手という点があげられます。たとえば,私に相談に来られた人の中にこのようなやりとりが多々あります。
 「個性のある名前にしたいんです。教えてください」
 「めずらしい名前のリストはお見せできますが,でも,他人に『個性的だ』と教えてもらうことが個性といえるでしょうか?」
 珍奇ネームにこだわる人は,このようにまわりの意見がとても気になり,何でも周囲の人のすることを基準にしたり,ちょっとでも意見がくいちがいそうになったりすると,話そのものをしたがらなくなる方が非常に多いのです。
 しかし,そうした方々には全く反対の特徴として,自分の意見に固執するといった傾向も見てとれます。
 こんな人がいました。読みようのない珍奇ネームをひとつだけ見せて,「字の意味はいいですか?」と聞いてこられました。字のことだけをいえば,意味のよい漢字が使われていたので,私は「はい……」と言いながら,話をはじめようとしたところ,「ありがとうございます」と叫んで,走り去ってしまったのです。
 逃げ足の速さにびっくりした私は,「きっと,専門家がいいと言ったとまわりに主張したいのだろう。よほど自信がなかったのだな」と思いました。
 このように先回り社会を生きる私たちのなかには,「人の眼を気にしながら生きる」といった価値観と「自分の意見をとおし,主体的に生きていたい」という相反する価値観が同居しているのです。

牧野恭仁雄 (2012). 子供の名前が危ない KKベストセラーズ pp.164-165

誰が?

 2004(平成16)年に法務省は,漢字の範囲を広げるに当たって,あらたに認めてほしい漢字を募集し,そこにはたくさんの希望が寄せられました。ところが希望の多かったとされる字は,私が命名相談を何十年もお受けしたなかでは,ほとんど見たことのないような字ばかりでした。
 もっとも希望が多かったとされるのが「掬」の字です。「キク・すくう」と読みますが,名前が作りにくく,名づけ相談でも一度も出されたことがありません。それがなぜか1位で,人名用の漢字に加えられました。その後も,名づけ相談には一度も出てきていません。いったい誰が,あんな字を法務省にリクエストし,実際に我が子の名前に使ったというのか,皆目見当がつきません。

牧野恭仁雄 (2012). 子供の名前が危ない KKベストセラーズ pp.141

個性

 珍奇ネームをつけることは,親の個性の強さを象徴しているといったように思われることもありますが,本当の人間の個性とは,そんなものではありません。
 個性のある人というのは,名づけの際に「自分はこうしたい」と本音をズバッと主張し,世の中に少ない名前をつけることもあれば,非常に多い名前をつけることもあります。世間に多いか少ないかなど関係がなく,自分のしたいようにするのです。
 ところが「人のつけない名前を」とこだわる人は,43頁の『まれに見るバカ』でも指摘されていたように,裏を返せばつねに「人」の目が気になる人です。
 そして,常識とちがうことを成し遂げた,自分だけ思いついた,ということがあらわれた名前でないと,自らの力を感じられないのです。
 名づけこそ,自分が主導権をもって行った証であり,なおかつめずらしく見た目もよければ,自分の心が満たされることにもつながります。だからそういう名前をキラキラネームと呼びたくなるのでしょう。言いかえれば「主導権がない」という欠乏感,「力がない」という無力感が,珍奇ネームを生んでいるのです。
 しかし,そうした名前が結果として人に不快感を与えてしまうため文字通りの暴走族や不良のイメージと重なり,ドキュンネームと呼ばれる皮肉な結果となっていきます。

牧野恭仁雄 (2012). 子供の名前が危ない KKベストセラーズ pp.112-113

「子」

 そもそも子の字というのは,もとは男性を意味する字でした。いまでも「王子と王女」「息子と娘」という言葉にそれが表されています。
 そして古代の中国では,孔子,孟子というふうに,男性を尊敬して使う字でした。古代日本でも,小野妹子,蘇我馬子という男性がいたのは有名です。
 子の字は,奈良時代の皇族のあいだで,はじめて女性に使われはじめたようですが,その後も皇族や,身分の高い女性にしか使われませんでした。有名なのは日野富子,北条政子などです。
 名字になって一人一氏名の制度となったとき,まず皇族の女性たちに子のつく名前がつけられました。それからだんだんと,一般庶民に広まっていったのです。
 男の子の名でも,典,亮,介,輔,佑,夫,将,士,司,史,蔵,守,平(兵衛)などの字が増えましたが,それらももともとは官職をあらわす字でした。
 明治のころは「高い地位」「上流社会」にたいする庶民のあこがれがあったようです。
 昭和50年代のなかばごろから,○子という名前のパターンがくずれ,名前の種類が急激に増えてきて,子のつく名前は減っていきました。

牧野恭仁雄 (2012). 子供の名前が危ない KKベストセラーズ pp.80-81

珍名

 珍奇でわかりにくい,といっても,名前というのは人によって好みや印象がちがいます。同じ名前でも人によっては「素敵」ととられたり,ある人によっては「異様」と思われたりします。
 たとえば,明治安田生命の調査による「2011 名前ランキング」によると男性の1位は大翔(「ひろと」などと読む),蓮,女性の1位は陽菜,結愛です。とりわけ,大翔という漢字ではヒロトとは読みませんから,年配の方々には奇妙でけしからん名前に見えるかもしれません。しかし若い親にとっては人気のある流行の名前であり,まちがった読み方だとも気づかずにつけてしまう人も多いはずです。
 これほどに名前というのは,人によって好み,印象がちがうのです。
 また珍奇かどうか決めにくいグレーゾーンの名前もたくさん存在します。世の中の流れによって人々の価値観は変わり,それが珍奇か否かといった印象も変わっていきます。

牧野恭仁雄 (2012). 子供の名前が危ない KKベストセラーズ pp.22-23

CCDカメラ

 天文学の分野で育った技術が生活の中で使われているという意味では,CCDカメラもそうです。軍用の技術としても開発されてきましたが,もとは天文学の分野で技術発展してきたものです。暗いものを見る技術は,天文学の要請でつくられたものなのです。
 デジタルカメラがわずかな期間にどんどん性能がアップしたのは,そうした技術的な下地がしっかりあったからです。

懸 秀彦 (2012). オリオン座はすでに消えている? 小学館 No.1563/1700(Kindle)

ビッグバン

 宇宙が膨張する以前はどうだったかと一生懸命考えたのが,ロシア出身の理論物理学者ジョージ・ガモフでした。
 ガモフはまず宇宙を形づくっている元素の分布に注目しました。中でも水素に目をつけ,水素ガスは陽子と電子でできており,これを圧縮していくと陽子と電子が結びついて中性子になる,つまり宇宙の最初の状態は中性子に満たされた超高密度の高温状態であると仮定しました。なぜそう考えたかというと,宇宙が冷たい状態ならヘリウムが少ししか生まれない,これほど多くのヘリウムが存在するには,宇宙が高温高圧の火の玉状態である必要があると考えたのです。
 ガモフは,宇宙が膨張するずっと前の段階では,「とてつもなく密度が高い火の玉の状態がどこかにあるはずだ。そうでないと辻褄が合わない」と考えました。これを「αβγ(アルファ・ベータ・ガンマ)理論」といいます(1948年に発表)。
 この考えに異議を唱えたイギリスの天文学者フレッド・ホイルが,出演したラジオ番組の中で,「やつらは宇宙が大きな爆発(ビッグバン)ではじまったといっている」といって揶揄したのを,ガモフがおもしろがってあちこちで使っているうちに「ビッグバン」という名称が定着していったそうです。

懸 秀彦 (2012). オリオン座はすでに消えている? 小学館 No.829-837/1700(Kindle)

超新星

 時計の針を1572年まで進めます。
 冬のある夕暮れのころ,デンマークの貴族で天文学者のティコ・ブラーエが馬車で家に向かっていました。すると,道端で人々が集まって空を見上げていたのです。すぐに馬車を降りたティコは自分の目で,人々が指さす方向を見てみました。
 そこにはこれまで見たこともないほど明るい星が輝いていました。自分の目が信じられなかったティコは,通りすがりの人を捕まえて「お前にもあれが見えるか」と確認したほどでした。
 ティコは他の天文学者と共同で観察をはじめました。観察を続けていくうちに,この「新たな星」は彗星のようなものではなく,観察者の位置が変わってもまったく動かないことを突き止めました。これをティコは「新星」(ノヴァ・ステラ)と呼んだのです。
 しかし,この明るく輝く星こそが超新星爆発によるものでした。このときの星は「ティコの新星」と名付けられました。ティコの新星は超新星爆発を起こすまでは暗くて認識されていない星でした。そこへいきなり明るく輝く星として見えるようになったので,「新しい星」が誕生したと彼らは考えたのです。
 新しい星が生まれるにせよ,古い星が崩壊するにせよ,当時の人にとってそれは受け入れ難いことでした。というのも,当時のヨーロッパを支配していたのはキリスト教の考え方で,宇宙の中心は地球であり,神がつくった宇宙は不動で永遠のものと考えられていたからです。1543年にニコラウス・コペルニクスが地動説を発表して,地球は太陽の周りを回っていることを提唱しましたが,当時はまだ仮説のひとつと見なされているに過ぎませんでした。
 その後,1931年になってスイスの天文学者フリッツ・ツヴィッキーがこのように飛び抜けて明るい星のことを「超新星」(スーパーノヴァ)と呼ぶようになり,現在に至っています。

懸 秀彦 (2012). オリオン座はすでに消えている? 小学館 No.389-407/1700(Kindle)

大絶滅

 これまでわかっているだけで,地球では過去5億年の間に5回も生物の大絶滅が起きています。それも50〜90%もの生物が絶滅しているのです。
 1度目は,4億4000万年前のオルドビス紀末のこと。サンゴやオウムガイ,三葉虫のような節足動物が栄えていましたが,こうした海洋無脊椎動物の57%が絶滅しました。
 2度めは,3億7000万年前のデボン紀末のこと。このころになると海中で魚類が栄えており,陸上に進出する動物も現れてきた時代でしたが,50%もの生物が絶滅しています。
 3度目は,2億5000万年前のペルム紀末のこと。海洋中の脊椎動物の半分がぜ爪と。全体でも53%の生物が絶滅しています。
 4度目は,2億年前の三畳紀末のころ。このころは爬虫類が栄え,哺乳類も登場していましたが,海綿類やアンモナイトの多くが絶滅しています。
 5度目は,6500万年前の白亜紀末のころ。繁栄を極めていた恐竜が全滅しました。この5度目の絶滅の理由は,現在のところ巨大隕石が地球に衝突したという「隕石説」が有力です。隕石の衝突で大津波が発生,粉じんによって日光がさえぎられ寒冷期が到来したとされています。
 このうち,4億4000万年前のオルドビス紀末に起こった大絶滅が超新星爆発に関係があるのではないかとされています。このときは,宇宙からの宇宙線,つまりガンマ線によって絶滅したと考えられているのです。
 この時代の地層を調べてみると,生物大絶滅が起こったことがわかります。当時もっとも繁栄していたのは,三葉虫でした。多種類の三葉虫を地層年代ごとに調べてみると,あることがわかりました。
 アルゼンチンのある渓谷の地層を調べると,4億4400万年より古い地層には,海の浅いところにいる海洋生物と海の深いところにいる海洋生物の両方の化石が見つかるのに,4億4400万年より新しい地層には,海の深いところにいる海洋生物の化石しか見つからなかったのです。つまり,4億4400万年前に海の浅いところにいた海洋生物が絶滅したということです。これは何を意味するのでしょうか?その原因を超新星爆発に見出す研究者もいるのです。

懸 秀彦 (2012). オリオン座はすでに消えている? 小学館 No.286-312/1700(Kindle)

ベテルギウスが爆発したら

 すでに述べたように,ベテルギウスは爆発後,3時間後にはマイナス10等星になり,満月の100倍の輝度で輝きます。これが3〜4か月ほど続きます。一般に遠くの銀河内で超新星が爆発すると,もっとも明るいときは,その銀河全体の明るさにほぼ匹敵する明るさで観測されます。このように超新星爆発は,宇宙の現象の中でもっとも劇的なものなのです。
 その後はオレンジ色に変わり,さらにもとの赤色に変わっていきます。400日後にはマイナス4等星になり,このころになると昼間には見えなくなります。2年後には2等星となり,現在のベテルギウスより暗くなり,4年後には夜でも肉眼では見えなくなります。望遠鏡で見れば,かに星雲のように残骸がひろがっている様子が見えることでしょう。
 冬の大三角もなくなってしまい,小中学生が使う理科の教科書を書き換えなくてはならなくなります。ちょっとさびしい気もしますが,それも自然の摂理と思えば,超新星爆発を肉眼で見ることができることを期待してしまうのは私だけではないでしょう。

懸 秀彦 (2012). オリオン座はすでに消えている? 小学館 No.278-286/1700(Kindle)

後知恵の排除

 あなたが何らかの選択をするとき,「後悔するかもしれない」という予見に強く影響されるのは,妥当と言えるだろうか。人間が後悔しやすいのは避けがたい人生の現実なのだから,賢く付き合っていかなければならない。もしあなたが十分に裕福で用心深い投資家なら,たとえ資産を最大限に増やせはしないとしても,後悔の可能性を最小限に抑えるポートフォリオを構築する贅沢を選べるだろう。
 また,起こりうる後悔に対して先手を打っておく方法もある。おそらくいちばん効果的なのは,予想される後悔をあらかじめ書き出しておくことだ。そうすれば,悪い結果になったとき,自分は決定する前にちゃんとその可能性を考えておいたのだと思い出し,あまり後悔に苛まれずにすむはずだ。また,後悔は後知恵バイアスとセットになっていることが多いので,あらかじめ後知恵を排除しておくとよい。私自身は後知恵対策として,長期的な結果を伴う決定を下す際には,徹底的に考え抜くか,でなければごくいい加減にざっくりと決めるか,どちらかにしている。中途半端に考えるのがいちばんよくない。ことが起きてから,「あのときもう少し考えればもっといい決断を下せたのに」ということになる。

ダニエル・カーネマン 村井章子(訳) (2012). ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるのか(下) pp.177-178

組み合わせると

 次の2つの決定を同時に行うとしよう。まずそれぞれの選択肢をすべて読んでから,あなたの決断を下してほしい。

 決定1 次のいずれかを選んでください。
 A 確実に240ドルもらう。
 B 25%の確率で1000ドルもらえるが,75%の確率で何ももらえない。

 決定2 次のいずれかを選んでください
 C 確実に750ドル失う。
 D 75%の確率で1000ドル払うが,25%の確率で何も失われない。

 この1組の選択問題はプロスペクト理論の歴史で重要な位置を占めており,合理性について新しい見方を示してくれる。2つの問題をざっと読んだとき,あなたはおそらく確実な選択肢(AとC)に反応し,AはいいがCはいやだと思っただろう。「確実な利得」と「確実な損失」に対する感情的な評価は,システム1の自動反応に根ざしている。その後に多少頭を使って,2番目の選択肢について期待値の計算を行う(ときもある)。ちなみに期待値は,Bはプラス250ドル,Dはマイナス750ドルである。ほとんどの人の選択はシステム1の好みに従うので,ここでBよりA,CよりDが選ばれることになる。各律の設定を変えて行われた他の多くの選択課題でも,回答者は得をする場面ではリスク回避型に,損をする場面ではリスク追求型になりやすいことが確かめられた。エイモスと私が最初に行った実験では,回答者の73%が決定1ではA,決定2ではDを選び,BとCの組み合わせにした人はわずか3%にすぎなかった。
 あなたは選択肢を全部読んでから選ぶように言われ,ちゃんとそうしたにちがいない。だがあなたは,ある1つのことはまず確実にやらなかったはずだ。それは,選択肢の4通りの組み合わせ(AとC,AとD,BとC,BとD)について,起こりうる結果を計算してみてから,最も気に入った組み合わせに決めることである。たしかに,2つの決定を別々に扱うのは直感的でわかりやすいし,それで何か不利になると考えるべき理由もない。しかも2問の組み合わせを考えるとなれば,結構頭を使わなければならず,紙と鉛筆も必要だ。というわけで,あなたはやらなかった。
 では今度は,次の問題を考えてほしい。

 AD 25%の確率で240ドルもらえ,75%の確率で460ドル失う。
 BC 25%の確率で250ドルもらえ,75%の確率で750ドル失う。

 この選択はやさしい。BCのほうが断然よいに決まっている(もう少し専門的に言うなら,一方の選択肢は無条件に他方を上回る)。しかしあなたはもう気づいているだろう——このBCという選択肢は,最初の2組の問題ではまったく人気のなかった組み合わせである。もう一度繰り返すが,最初の実験では回答者の3%しかBCを選ばなかった。一方ADのほうは,回答者の73%が選んでいる。

ダニエル・カーネマン 村井章子(訳) (2012). ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるのか(下) pp.151-153

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