リスクの伝え方次第で受け止め方に大きな差が出る理由も,分母の無視で説明できる。致死性の伝染病から子供を守るワクチンについて「永久麻痺のリスクが0.001%ある」という文章を読んだとき,あなたはきっと,リスクは小さいと感じるだろう。では同じワクチンについて「摂取した子供の10万人1人は永久麻痺になる恐れがある」という文章ならどうだろうか。この場合,最初の文章では起きなかった何かがあなたの頭の中で起きる。ワクチン接種によって生涯麻痺の残った子供のイメージが浮かび上がるのである。そして,無事だった9万9999人は霞んでしまう。分母の無視から予想できるように,相対的な頻度(○○人に○人,○○回に○回など)で表現するほうが,抽象的な「確率」「可能性」「リスク」などの言葉を使ったときより,確率の低い事象が過大に重みづけされる。すでに述べたように,システム1は全体より個を扱うほうが得意だからである。
ダニエル・カーネマン 村井章子(訳) (2012). ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるのか(下) pp.143-144
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