陰謀論は,ゆがんだパターン認識から生まれる——聖母マリア・チーズサンドの認知版である。陰謀論の信奉者は,9・11の事件を,予定していたイラク侵攻計画を正当化するためのブッシュ大統領の画策と,頭から思い込んだ。そして,タワーに衝突した最初の飛行機に関する大統領の記憶の誤りを,彼が前もって攻撃を知っていた証拠と考えた。ヒラリー・クリントンは選挙に勝つためなら,どんな発言でもすると思い込んでいた人々は,ボスニアの空港で狙撃されたという彼女の誤った記憶を,選挙に有利になるようについた嘘だと即座に考えた。どちらの場合も,人びとは相手に対する自分のパターン化した見方を,事件にあてはめた。それに沿って裏にある原因を推理し,自説の正しさに確信をもつあまり,もっと理にかなったべつの説明を見落とした。
クリストファー・チャブリス&ダニエル・シモンズ 木村博江(訳) (2011). 錯覚の科学 文藝春秋 pp.208
PR