「紛争地では,元兵士や子ども兵士をいかに社会に戻すかが問題となっている」
これだ!と声を出していた。無条件にピンと来たとしか言いようがない。しかも,これだけ紛争解決や平和問題についての情報を見てきた私が初めて目にしたのだから,まだメジャーな問題ではないのだろう。日本でこのテーマの話をしている人を聞いたこともない。そして,国際的にも解決策が分からないのなら,自分がそれを専門にすれば役に立てるはずだ。
これが,のちに私の専門となるDDR——兵士の武装解除(Disarmament),社会復帰(Reintegration)——のことを知った瞬間だった。ただ,この時点では,DDRという単語さえも,そこには書かれていなかった。
和平合意が結ばれて紛争が終わっても,それだけで人々が安全に暮らせるわけではない。紛争が終わるということは,兵士にとっては,明日からの仕事がなくなるということだ。ただでさえ,紛争の直後は,家や工場,道路などが破壊され,仕事もなく家族を養うことができない人々であふれる。そんな状態で,手元に銃があり,戦い方を熟知している兵士たちの不満が爆発するような状態が続いたら,また武装蜂起して争いに逆戻りする危険がある。それを避けるため,兵士や戦闘員から武器を回収し,除隊させたうえで,一般市民として生きて行けるように手に職をつける職業訓練や教育を与える取り組みが,DDRである。
瀬谷ルミ子 (2011). 職業は武装解除 朝日新聞出版 pp.35-36
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