推論の連鎖において,各段階が正しい確率が0.9だとしよう。これはかなり安心できると思われるかもしれないが,いま推論の連鎖がこの種の推論を10段階含むとしよう。2つの段階がそれぞれ正しい確率が0.9なら,両方とも正しい(最初が正しく,続いて2番目も正しい)確率は0.9の2乗,すなわち0.81だ。連続10段階だと,最後の結論が正しい確率は0.9の10乗,すなわち0.35に落ち込む。確率の法則は,個々の推論が完璧でなければ,推論の長い連鎖がよく針路をそれることを示している。連鎖のどこかで間違った結論が引き出されると,全体の過程が誤った方向に導かれる。
この考えは,どうして現実には驚くべき結論を示す名探偵がほとんどいないのかの説明になるかもしれない。もっともなことだが,私達は最も明白で,簡単に引き出せる結論だけに頼る傾向がある。現実生活では,犬が吠えないという事実から1.0の確率で起きることはほとんどないからだ。
ジョン・ダンカン 田淵健太(訳) (2011). 知性誕生:石器から宇宙船までを生み出した驚異のシステムの起源 早川書房 pp.205-206
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