マラリアの撲滅が低開発国で失敗したのは,薬剤散布だけではうまくいかなかったからだ。薬剤散布とともに,栄養状態の改善,蚊の繁殖場所の除去,教育,健康管理を進めると効果があった。このことは,イタリアやオーストラリアのような先進国でマラリア撲滅に成功し,サハラ以南のアフリカでうまくいかなかった理由を説明している。どんな公衆衛生プランでもほぼ同じことだが,人々の協力と理解が必要なのだった。
マラリア撲滅計画で使われた中心的な方法は室内残留性噴霧で,殺虫剤が室内の壁や天井に残ることで効果を発揮するものだった。つまり,住民は壁を洗ったり,塗装したり,漆喰を塗り直したりする必要がない。しかし,この点はマラリアの問題以外で公衆衛生について受けるたいていの指示と勝手が違うので,よく理解できない人が多かった。汚れたままの家に住めと言われているようで気に入らないという人もいた。しかし,マラリア根絶が部分的にしか成功しなかった最も重要な理由は,蚊が耐性を獲得しつつあったことだ。米国でのDDT使用のピークは,禁止措置の13年前にあたる1959年だった。しだいに使用量が減ったのは,すでに効きにくくなり始めていたからだ。
ナオミ・オレスケス,エリック・M・コンウェイ (2011). 世界を騙し続ける科学者たち(下) 楽工社 pp.178-179
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