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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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満月の効果

 似たような研究が,もっとも理性的と思われる場所,病院で行われた。じつは,医療関係者は驚くほど迷信深い。それは満月が行動におよぼす影響を扱った論文にも表れている。アメリカの研究チームが,1年間に病院へ搬送された負傷者千五百人近くの記録を調査したところ,満月と入院数,死亡率,負傷の種類,入院日数に関係はなかった。しかし,「ルナシー」という論文で発表された1987年の調査によると,救命室で治療に当たる人の64パーセントが,「満月は患者の行動に影響する」と信じていた。そのなかで,看護師の92パーセントが,満月の夜はストレスがかかると答えている。しかし,この報告は疑わしいかもしれない。というのも,そういうストレスがあるので「満月勤務手当て」を支給してもらいたいと答えているからだ。

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.116-117
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日本の六曜

 京都大学の平憲二研究グループは,日本の別の迷信が経済におよぼす影響を調査した。1873年以前の日本では太陰暦が使われ,曜日には「先勝」「友引」「先負」「仏滅」「大安」「赤口」の6つがあった。今日でも,大安はめでたい日とされ,仏滅は縁起の悪い日とされている。このため,病院から退院するときも,大安の日に退院したがる患者が多い。最近3年間の退院記録を調査したところ,実際に多くの患者が大安の日まで退院を伸ばしていることが明らかになった。この迷信のために費やされる費用は,年間数十億円にのぼる。日本ばかりではない。アイルランドでも,「土曜日に出発する人はすぐ戻る」という迷信があり,4年間に記録された7万7千件の産婦人科データを分析したところ,土曜日の退院者は,平均より35パーセント少なく,金曜日には23パーセント多く,日曜日には17パーセント多かった。
 これではっきりした。迷信は,たんに木に触れたり指をクロスしたりするだけのたわいないものではない。それどころか,家の価格や,交通事故の死傷者数や,中絶率,死亡者数にも関係し,治療を必要としない患者のために巨額な無駄金を使わせている。

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.112-113

まだ曲がっている

 これに関して,私が最近行った実験室ベースの簡単な実験を紹介しよう。ある事柄を頭に植えつける実験である。私は学生たちに,あるマジシャンが念力を使って(実際には手のトリックを使って)金属製の鍵を曲げている場面のビデオを見せた。マジシャンは,テーブルの上に鍵を置くと,あとずさりし,「おう,すごい,鍵がまだ曲がっている」と言った。終わってから,学生1人ひとりに面接し,見たことを聞きとった。半数以上が,「テーブルに置いた鍵が曲がりつづけていた」と答え,「マジシャンはどうやって,あんなみごとな技を見せられるのだろう」と不思議がった。
 これこそ,だましの専門家が長年の経験を利用して観客をだますあざやかな実例である。マジシャンは,こんな大胆な一言で,現実にありえないことが目の前で起こっていると,人びとに信じさせることができるのだ。

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.96-97

虚記憶

 この研究をさらに進めて,実際には経験していないことを経験したと思わせる実験も行われた。最近では,ヴィクトリア大学ウェリントン校のキンバリー・ウェイドらによる実験で,この暗示のパワーの強さが示された。ウェイドは,「なぜ人は子どもの頃の出来事を思い返すのか」という実験をすると称して,家族を一人,実験協力者としてリクルートしてくるよう,20人に頼んだ。さらに,その家族が子どものころの写真を,当人には内緒で4枚持ってきてもらい,そのなかの1枚を気球の写真と合成して,協力者が気球に乗っている写真をでっちあげた。左ページに示すのが,オリジナルの写真と合成写真の例である。あとの3枚は,誕生日パーティ,海水浴,動物園など,協力者が子どものときに本当にあった出来事の写真だ。
 2週間のあいだに3回,協力者に面接した。各回とも,3枚の本当の写真と偽の気球旅行の写真を見せ,そのときの体験をできるだけくわしく話してくれるよう頼んだ。1回目では,ほとんどの協力者が本当の出来事についてくわしく思い出し,3分の1ほどが行ったはずのない気球旅行のことを「覚えている」と言い,なかにはかなりくわしく話す人もいた。それから,「家でもっと思い出してきてください」と言って協力者を帰した。3回目の最終面接になると,半数が気球旅行を思い出し,その出来事を多少なりともくわしく語る人が多かった。

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.91-92

嘘を見破るコツ

 嘘を言うときの特徴がわかれば,見抜くのはずいぶん簡単になる。目をきちんと見るか,手を振りまわすか,落ち着かない座り方をしているかは,関係がない。最も頼りになるのは,声と無意識のうちに選ぶ言葉だ。嘘をついているときは,重要なことをくわしくしゃべっていなかったり,間が長く,ためらいがちだったりする。また,自分に関係のある言葉を避け,感情描写が少なく,嘘と自分とのあいだに距離をおこうとする。正直な人が忘れたと認める情報を,妙にくわしく覚えているのも不自然だ。これらのコツに注意しながら,じっくりと耳を傾ければ,嘘のベールはすぐにはがれる。相手が考えていることや感じていることが急によく見えるようになり,世界はまったく違った場所になる。いや,これは嘘ではない。本当の話だ。

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.78-79

なぜ嘘を見抜けないのか

 なぜ,人は嘘を見抜けないのだろう?その答えは,テキサスクリスチャン大学のチャールズ・ボンド教授の研究のなかにある。ボンドは,人が嘘をついているときにどんな行動をとるか調べた。彼の心理学研究は,アメリカの大学生数百人にチェックシートに記入してもらうようなレベルではない。60以上の国の数千人に,「他人が嘘をついていることを,あなたはどうやって判断しますか?」と訊いたのである。その答えは,驚くほど一致していた。アルジェリア,アルゼンチン,ドイツ,ガーナ,パキスタン,パラグアイ,どこでもほとんどすべての人が,嘘つきを見破るサインとして,目をそらす,手を振りまわす,椅子の上でそわそわするなどをあげた。
 しかし,ここに少し問題があるのだ。研究者は,何時間もかけて注意深く嘘つきと正直者のビデオを見比べ,さらに映像観察訓練を受けた人に,デジタル画像を分析させた。笑顔,まばたき,手の動きなどを見るたびにボタンを押し,コンピュータに記録するのだ。1分間の映像を分析するのに1時間もかかるが,嘘をつくときと本当のことを言うときの身振りの違いが厳密に比較できる。そこで明らかになったのは,嘘つきは本当のことをいう人とまったく同じように相手の目を見つめ,手を神経質に振り回したりせず,椅子の上でそわそわしないということだった(したとしても,本当のことを言う人よりもずっと動きが少なかった)。嘘を見抜くことができなかったのは,身振りに頼っていたからで,実際はそういうものは嘘とは無関係だったのだ。

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.71-72

子供の嘘

 子どもの嘘に関しては,興味深い実験がある。大好きなおもちゃを「見てはだめ」と言われたら,どうするかという実験だ。まず,子どもを実験室に招き入れ,一方の壁に向かって立っているように言う。実験社は,「これから,君の後ろにすごいおもちゃを置くよ」と言っておもちゃを置く。その後,実験者は,「ちょっと外へ行ってくるけど,振り向いておもちゃを見てはだめだよ」と言って,出て行く。子どもの様子は隠しカメラで撮影されている。数分後に実験者が戻ってきて,「おもちゃを見た?」と訊くと,3歳児は,ほとんどが見ているのに,そのうち半数は「見ていない」と言う。5歳児になると,全員が見て,全員が嘘をつく。この結果,「人はしゃべれるようになると嘘をつきはじめる」ことがほぼ確実と言える。また,驚くなかれ,親は自分の子どもが嘘をついている映像を見せられたとき,嘘をついているのか,本当のことを言っているのか,見抜くことができない。

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.62-63

奇妙な一側面

 19世紀の上流社会では,占星術を信じる人が多く,毎日の惑星の位置がわかる暦が手軽に手に入った。また,子どもの出生日時は,医師や助産師が正確に報告するのではなく,前述のように親が口頭で戸籍課へ届ければよかった。ディーンは,わが子を人生の成功者にしようという親が,熱意のあまり,占星術で「幸先がよい」とされる日を出生日だと偽って届けたらしい例を発見したのである。そういう親は,こうした「天のお告げ」を実現させるためにわが子に必要な教育を与え,資力をつぎ込んだことだろう。つまり,ディーンの研究から,「火星効果とは占星術というより,社会史上の奇妙な一面を示したもの」と言うことができるのではないか。

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.52

聖職者の誕生日

 ハリソンは,人名事典と物故者事典で,さらに栄光浴効果を調査しているうち,聖職者にクリスマス生まれが多いことに目を留めた。さらに,聖職者を「上位聖職者(主教または司教以上)」と,「下位聖職者(上記以外)」に分類して調べなおした。確率的には,クリスマス生まれの割合は,どちらもだいたい同じになるはずである。ところが,上位聖職者のほうが,キリストと同じ誕生日の人が多かった。上位へ上るほど,イエス・キリストに近づきたいという思いが強まるのだろうか?

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.50

お世辞効果

 もう1つ,「お世辞効果」がある。ほとんどの人は,自分に脚光を当ててくれる言葉を信じたがる。そこで,「あなたは才能を生かしきっていない」とか,「自立した考えのもち主」などと言われると,ありがたく受け入れたがるのだ。5割もの人が占星術を信じる原因は,ここにある。占星術の12の星座は,昔から陽の星座(牡羊座,双子座,獅子座,天秤座,射手座,水瓶座)と陰の星座(牡牛座,蟹座,乙女座,蠍座,山羊座,魚座)に分けられているが,陽の星座の特徴は,陰の星座よりも好ましいものが多い。天秤座の人は平和と美を求めるのに対し,牡牛座の人は,実利的で怒りっぽいといわれる。ウィスコンシン大学の心理学者,マーガレット・ハミルトンは,人びとに誕生日を尋ね,星占いをどれぐらい信じるか,7段階で表してもらった。すると,陽の星座の人は,陰の星座の人よりも星占いを信じる傾向が強く,「お世辞効果」説を裏づける結果になった。

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.37

自分をだますほうが良い

 フォアラーは,学生が自身のことをどれぐらい鋭敏で如才なく,賢いと思いたがっているのか,知りたかった。あいまいな性格検査の記述を高く評価してしまったことは,彼らの自尊心に強力なパンチを食らわせただろう。そうだとすれば,自分の真実の姿を認めるつらさよりも,実験にだまされたことを否定する安易な道を選ぶのではないだろうか?
 3週間後,フォアラーは,「みんなに採点してもらったシートから,うっかり名前を消してしまった」と言った。そして,「このまえと同じ採点をもう一度書き込むように」と頼んだ。本当は,名前など消していない。最初の採点と,やりなおしの採点とを比較するためである。すると,最初は5(パーフェクト)をつけた学生の半数が,もっと低い点をつけたと申告してきた。どうやら,だまされやすい人は,自分がだまされやすいという事実を認めるより,自分をだますほうが好きらしい。

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.34

バーナム効果

 フォアラー教授は,心理学入門講座の学生たちに性格検査を受けさせ,1週間後,結果についてコメントを書いた紙を渡した。さらに,学生たちに,「そのコメントをよく読んで,自分に当てはまっているかどうか,0(はずれ)から5(パーフェクト)までの数字で評価するように」と頼んだ。また,「この性格検査が,よくできていると思う人は手を挙げるように」とも言った。
 さて,少し時間を巻き戻して,実験を再現しよう。学生に渡されたコメントの1枚は,こんな内容だった。このなかに,あなたに当てはまる記述はあるだろうか?

 あなたは,ほかの人から好かれたい,賞賛されたいと思っていますが,自分に厳しくしがちなところがあります。性格的に弱いところもありますが,ほとんどの場合は,それをうまく補うことができます。あなたには,まだ生かしきっていない秘めた能力がかなりあります。外では規律を守り,自分を抑えることができますが,じつは不安で心細いことがあります。自分の決断は本当に正しかったのだろうか,間違っていなかっただろうかと,真剣に悩むことがよくあります。ほどよい変化を好み,厳しい制限を受けると不満を感じます。自立した考えをもっているという自信があり,十分な証拠なしに他人の言うことを鵜呑みにすることはありません。他人に自分のことをあまりさらけだすのは,よくないと考えています。外向的で,他人に愛想よくふるまうことができますが,内向的で,慎重になるときもあります。あなたは非現実的な願望ももっています。

 学生たちはコメントを読んで採点し,1人,また1人と手を挙げた。少し経つと,ほとんど全員が手を挙げていた。フォアラーは目をまるくした。なぜって?
 心理学の実験ではよくあることだが,フォアラーは,学生たちにある事実を隠していたのだ。彼らに渡した性格検査のコメントは,各人の検査結果に基づくものではなく,数日まえに書店で買った占星術の本から抜き出したものだった。そして,もっと重要な点は,どの学生に渡したものも,まったく同じ内容,そう,たった今,あなたが読んだのと同じものだったのだ。 

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.32-33

アイゼンクと占星術

 昔からの占星術の言い伝えによると,12星座のうち,牡羊座,双子座,獅子座,天秤座,射手座,水瓶座は外向的,残りの牡牛座,蟹座,乙女座,蠍座,山羊座,魚座は内向的らしい。また,「土」の星座(牡牛座,乙女座,山羊座)の人は,情緒が安定して実際的であるのに対し,「水」の星座(蟹座,蠍座,魚座)の人は,神経症の傾向が強いとされる。
 この言い伝えが本当かどうかを調べるために,アイゼンク博士は,イギリスで名高い占星学者のジェフ・メイヨーに協力を頼んだ。メイヨーが数年まえに創設したメイヨー・アストロジースクールには,世界じゅうから生徒が集まっていた。そこでアイゼンクは,合計2千人以上にのぼる相談者や生徒の,アイゼンク性格検査と生年月日のデータをもらった。占星術に懐疑的な人びとは,性格と星占いには何の関係もないだろうと予想していた。一方,占星術の支持者は,生まれたときの惑星の位置は,その人の考え方や行動に大きく影響するはずだと固く信じていた。結果は,占星術の言い伝えどおりだったため,懐疑派は仰天した。外向的な星座の人は,外向性の数値が高く,水の星座の人は土の星座の人よりも神経症の傾向が強かった。占星術の雑誌「フェノメナ」は,この発見を,「ことによると,今世紀最大の占星学の進歩か?」と伝えた。
 しかし,アイゼンクは,この調査の協力者が最初から占星術を信じている人びとであるという点が気にかかった。彼らは,自分が星占いでどういう性格の持ち主と言われているか,知っていたはずだ。そのせいで,この調査は信頼性に欠けるのではないだろうか。こういう結果が出たのは,生まれたときの惑星の配置によるのではなく,協力者が自分の星座の性格をあらかじめ知っていたせいかもしれない。
 そこで,アイゼンクはさらに2回,調査した。まず,星座による性格の違いをあまり聞いたことのない子ども千人を対象にした。すると,結果はまえと大きく異なり,星占いで言われている特徴は出なかった。外向性や神経症傾向のレベルは,生まれたときの天体の配置とまったく関係がなかったのだ。念のため,もう一度,大人を対象として「生年月日と性格の調査」を行い,その際,占星術の知識がどれぐらいあるかも考慮した。すると,星座が性格に関係あると考えている人は,占星術にあるとおりの特徴を示し,占星術について何も知らない人はそのような特徴は表れなかった。これではっきりした。生まれたときの惑星の位置が,その人の性格に神秘的な影響をおよぼすことはなく,自分の星座の性格をよく知っている人だけが,占星術者が言うとおりの性格になるのだ。アイゼンクの伝記には,科学と占星術に関する会議で,この追跡調査の結果を報告したときの様子が書かれている。「……占星術者のなかには,アイゼンクが最初は味方の顔をしていたのに,不愉快な真相を発表して裏切ったと強い反感をもつ人もいた」

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.25-27

偶然が優秀

 投資アナリストの見込みが大きく外れたからといって,私はさして驚きはしなかった。投資アナリストの分析力がどのくらいのものか調べてみたら期待したほどではなかったというのはよくあることだ。スウェーデンでも似たような研究があった。新聞社が5人の熟練投資家と,オラというチンパンジーに,1250ドルずつ渡して投資させた。オラはストックホルム株式市場に上場している会社をダーツで選んだ。1か月後に新聞社が5人と1匹の競争者の損益を比較すると,オラがどの金融専門家よりも勝っていた。「ウォールストリートジャーナル」でも,同じようなことが行われている。同紙は定期的に,4人の投資家に1銘柄ずつ選んでもらい,オラと同じダーツ投げ方式で,あと4銘柄を選ぶ。6か月経つと,専門家が選んだ銘柄と,ダーツで選んだポートフォリオを比較する。だいたいダーツのほうが優秀で,最下位になることはほとんどない。

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.23

特権意識の浸透

 こんにち,「特別」という言葉は本来の意味を失った。かつては並外れた特性をもつか優れていることを指した。いま,多くの人は,特別だと感じることは自尊心の本質的な要素だと考え,他者に特別な気分にしてもらって当然だとみなす。そういう特権意識が知らないあいだに浸透している。

サンディ・ホチキス 江口泰子(訳) (2009). 結局,自分のことしか考えない人たち:自己愛人間とどうつきあえばいいのか 草思社 pp.237-238
(Hotchkiss, S. (2002). Why is it always about you? New York: Free Press.)

高齢者の自己愛

 自己愛の強い高齢者に見られる妄想症(パラノイア)は,病的な抑うつにたいする防衛のあらわれだ。彼らは自分が人より優れているという考えを維持できず,内側で破綻する。彼らは,復讐心に燃えた人間が弱っている自分を滅ぼそうと攻めてくる,という恐怖に呑みこまれる。だから油断なく目を光らせなければならない。悪意のある者が自分の破滅をもくろんでいるという話は,無力感と依存の恐怖をなんとか制御しようとする最後の努力だ。だがあいにく,そのような荒唐無稽な話は,彼らが依存する相手をいっそう遠ざけ,ますます彼らの人間性を奪う。誇大感と全能感を支えてきたすべてが崩壊するとき,彼らのもろい自己も世界も意味を失い,絶望は病的な抑うつに変わる。慰めを与えてくれる唯一の残された手だてである,幻想へと通じる道だ。悲痛な現実を狂気が引き継ぐ。
 ほとんどの高齢者はそこまで完全に崩壊はしないが,狂気のすぐ上を,不安や恐怖に取り憑かれた状態でさまようのかもしれない。老いた身体の痛みや苦しみはヒステリー近くにまで増幅され,その結果生じたパニックは,周囲を途方に暮れさせることもある。

サンディ・ホチキス 江口泰子(訳) (2009). 結局,自分のことしか考えない人たち:自己愛人間とどうつきあえばいいのか 草思社 pp.209-210
(Hotchkiss, S. (2002). Why is it always about you? New York: Free Press.)

辛い目に遭わされるのは

 権力の座にある自己愛人間にもっとも辛い目に遭わされるのは,ことあるごとに自我を防御している自己愛に弱い人たちだ。彼らは権威全般に弱く,自分が指揮できない階層構造ではうまくやっていけない。上司が自己愛人間なら,絶えがたい惨めさを味わう。もっと害のない,自律性と権限の認められる職場に移ったほうがいい。彼らに対処するための重要なポイントは,あなたが自分の自我を超越することだ。確かな自信をもつ者(あるいは前もってプログラムされた者)だけが,この難題を克服できる。

サンディ・ホチキス 江口泰子(訳) (2009). 結局,自分のことしか考えない人たち:自己愛人間とどうつきあえばいいのか 草思社 pp.195
(Hotchkiss, S. (2002). Why is it always about you? New York: Free Press.)

ねたみと自己愛人間

 ねたみは,権力の均衡の変化にことのほか敏感な自己愛人間にとっても馴染み深いものだ。ふつうは相手をこきおろしたり,相手と張り合って出し抜くというかたちであらわされるが,ときには過剰な賞賛の背後に隠れていることもある。相手をこきおろせば,自分を損なうものをおとしめられる。相手と張り合うのは,相手をだしにして自分を引き上げ,望むものを手に入れようとするからだ。口先だけの賞賛は,ねたみが引き起こす恥の意識を避けると同時に,自分と周囲にたいして侮蔑の念を否認する方法だ。こういった行為があるところ,ねたみと,おそらく自己愛人間がいる。

サンディ・ホチキス 江口泰子(訳) (2009). 結局,自分のことしか考えない人たち:自己愛人間とどうつきあえばいいのか 草思社 pp.191-192
(Hotchkiss, S. (2002). Why is it always about you? New York: Free Press.)

ゴムバンド経営

 自己愛の肥大した指導者は,自分が特別だという承認と権力をひたすら求め,それらが得られて当然と考える。欺瞞,歪曲,誘惑などの常套手段は,必要に応じて良心の呵責なしに使われる。彼らに足りないのは恥の意識だけで,とりわけ部下への共感により,彼らの動きが阻止されることはない。冷淡さや無関心さは礼儀や愛想の仮面の奥に隠されるが,一部の組織では大胆さは名誉のしるしだ。そのような職場では何でもまかり通り,社員は容赦なく利用され,指導者の期待に背けば激しく叱責され,不要になれば即座に解雇されても仕方がない。社員をぎりぎりまで引き伸ばして働かせ,ぽちんと切れると厄介払いする慣例はめずらしくなく,「ゴムバンド経営」と呼ばれる始末だ。

サンディ・ホチキス 江口泰子(訳) (2009). 結局,自分のことしか考えない人たち:自己愛人間とどうつきあえばいいのか 草思社 pp.189
(Hotchkiss, S. (2002). Why is it always about you? New York: Free Press.)

自己愛とスプリッティング

 自己愛人間はしばしば,何らかの意味で欠陥があるか力が劣っていて,自分がコントロールしやすい相手を選ぶ。とはいえ,これは微妙な問題をはらむ。相手がただ踏みにじられ,あまりに惨めか欠点だらけに映れば理想化は危うい。そこで彼らは分裂(スプリッティング)を用いる。相手をよい人間と悪い人間に分裂させ,何らかの方法で良い面は保ち,悪い面は開閉可能な仕切りの奥に隔てておく。これは,ひとりの人間をよい面も悪い面も備えた複雑な存在とみなせない乳幼児のとらえ方に似ている。愛の対象はいつの瞬間もすべてよいかすべて悪いかのどちらかであり,評価は瞬時に入れ替わる。

サンディ・ホチキス 江口泰子(訳) (2009). 結局,自分のことしか考えない人たち:自己愛人間とどうつきあえばいいのか 草思社 pp.165
(Hotchkiss, S. (2002). Why is it always about you? New York: Free Press.)

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