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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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信念とは

 信念とは,われわれが直感的に把握できるが定義することは難しく,深く根ざした考え方を指す。信念は物事や状況に関するものであり,信じる人が,それらの物事と状況について述べられたことを事実と受け止める必要がある。例えば,私が自分の上司は電気ウナギのような管理能力を持っていると信じるとするならば,比喩的ではあるものの,私はこの評価が上司の行動様式を代表していると考えていることになる。この信念は,私が持つ他の信念——よい管理とはなにか,上司の過去の行動,電気ウナギの行動などに関するものにも依存している。長い間には,経験に基づいて,そのような信念の極めて複雑なネットワークを作り上げていくことになる。
 しかしながら,そのようなネットワークの複雑性は,それを構成する信念が正しいことを保証するものではない。新しい情報は,私にそれらの信念の一部を変更もしくは棄却することさえ要求する場合がある。例えば,電気ウナギは方々を動き回って時間を過ごすという私の想像は——私の上司の管理手法の比喩になるのはそのためだが——電気ウナギがじつは正確で有能な捕食者であるという自然に関する番組を見た後には存在しなくなるかもしれない。その番組を見た後には,電気ウナギについての信念ばかりでなく,私の上司についての信念も変えなければならないだろう。

キャスリン・テイラー 佐藤敬(訳) (2006). 洗脳の世界——だまされないためにマインドコントロールを科学する 西村書店 pp.172-173
(Taylor, K. (2004). Brainwashing: The Science of Thought Control. London: Oxford University Press.)
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記憶の欠落

 神経心理学者ダニエル・シャクターが指摘しているように,記憶の欠落にはさまざまな種類がある。彼は7つの「記憶の過ち」,すなわち流動性,注意散漫,阻害,帰属の過ち,被暗示性,先入観,残留について詳述している。シャクターの言葉によると,最初の3つは「不作為の過ち」で,われわれがよく経験し嘆くタイプの記憶消失である流動性は「時間による記憶の希薄化や消失を指し」,注意散漫は,われわれが集中していないために,後に必要となる情報を記憶しないことによって起こり,阻害は,われわれが思い出そうとする記憶が「どこかに隠れていて,必要になった時に一生懸命思い出すと心に浮かんできそうではあるが思い出せない」ことによるフラストレーションを伴う。最後の残留は,流動性の反対である。普通は不快な,あるいは衝動的な出来事の記憶が,忘れたいと思ってもわれわれを離れない。極端な例では,「フラッシュバック」として感知され,それは時に極めて明瞭で,その人はまた元の出来事を再び経験していると感じることもある。

キャスリン・テイラー 佐藤敬(訳) (2006). 洗脳の世界——だまされないためにマインドコントロールを科学する 西村書店 pp.165
(Taylor, K. (2004). Brainwashing: The Science of Thought Control. London: Oxford University Press.)

グループ化が根源的機能

 われわれの最も基本的な知覚過程から他人の扱いまで,物事をグループ化することが人の脳の根源的機能である。多くの幻視に見られるように,時間的一致と空間的接近については十分といえる。もしわれわれが,1つの物体を見るのとほぼ同時に音を聞くと,その物体が音を発したと推定し,実際にそうではないことを学習しないかぎりは,そう思ってしまう。われわれは,集めて分類し,一生の間に無数の分類概念を身につける。それらを,われわれの世界の理解を早めるために利用するのである。もし私が新しい物体を「猫」という分類の一員と判断すると,その新たな物体について,最初から始めることなく,あらゆる種類の蓄積情報(「肉を食べる」,「引っ掻く」,「台所で振り回されるのを嫌う」など)を得ることができる。これによって,私は時間とエネルギーを大量に節約でき,明確な生存の活力を得ることができる。

キャスリン・テイラー 佐藤敬(訳) (2006). 洗脳の世界——だまされないためにマインドコントロールを科学する 西村書店 PP.62
(Taylor, K. (2004). Brainwashing: The Science of Thought Control. London: Oxford University Press.)

全体主義のテーマ

ロバート・リフトンの8項目の全体主義的テーマ
1.環境コントロール
 個人の外界とのコミュニケーションをコントロールし,それによってその人の現実理解をコントロールする。
2.霊的操作
 一定のパターンの行動と情動を,あたかも自然発生したかのように誘導する。
3.純粋性の追求
 選ばれた集団外の分子は排除し,それらが集団のメンバーの精神に影響しないようにするべきという信念。
4.告白のカルト
 個人のプライバシーを最小限にするために,告白を利用,強要する。
5.神聖な科学
 イデオロギーの基本的信念は道徳的に不変であり,科学的に真実であるとみなすことによって,外見的権威を増大させる。
6.言葉の意味付け
 複雑な考えを簡単で,断定的に聞こえる言葉に圧縮する。「思考停止法」。
7.人より教義の優先
 個人が経験する何事にも増して教義が正しく真実であるという考え。
8.存在権の支配
 集団のメンバー,非メンバー両者の生活の質,最終的運命をコントロールする権利。

キャスリン・テイラー 佐藤敬(訳) (2006). 洗脳の世界——だまされないためにマインドコントロールを科学する 西村書店 PP.34
(Taylor, K. (2004). Brainwashing: The Science of Thought Control. London: Oxford University Press.)

つながりの理解を

 21世紀の大事業——人類がまとまれば,全体で1人ひとりの総計よりも大きな力を持つと理解すること——は,緒に就いたばかりだ。目覚めたばかりの子供のように,人間の超個体は自己を認識しつつあり,それによって私たちは確実に目標達成に近づくだろう。だが,この自己認識がもたらす最大の恩恵は,自己を発見する純粋な喜びであり,真に自分を知るためには,人間はなぜ,どのようにつながるかをまず理解しなければならないだろうという悟りである。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.376
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

強化してしまう

 こうしたサイトを通じ,妄想癖のある人びとは,心に安らぎと落ち着きをもたらす貴重な経験をする。つまり,他人に理解してもらえるという誰もが望む経験である。こうしたサイトでなら,自分の頭がおかしいのではないと安心させてくれる大勢の人に出会えるのだ。したがって,オンラインで他人とつながる能力は,社会的に有用といえるかもしれない。ごく普通の日常生活を送りながら,オンラインならではのやり方で,ある程度までサポートを受けたり人と触れ合ったりできるからだ。ところが,こうしたサポートが心理的な面では事態を悪化させかねない。「この種の信念体系に基づくものの見方は,絶えず餌が必要なサメに似ています」とイェール大学の精神科医,ラルフ・ホフマン博士は言う。「餌を与えなければ,遅かれ早かれ妄想は消えるか,自然に小さくなっていきます。重要なのは,妄想には強化の反復が必要だということです」。残念ながら,このケースではインターネットがまさにその機会を提供しているのである。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.349-350
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

インターネットの影響

 インターネットによって,新たな社会形態が可能となる。それは次の4つの点で,既存の社会的ネットワークにおける人間の交流を根本から変えるものだ。

 1 大きさ ネットワークの規模が著しく大きくなり,その一員となりうる人の数も著しく増える。
 2 連帯性 情報を共有したり力を合わせたりする範囲が拡大する。
 3 特殊性 私たちが結ぶ絆の独自性が著しく増す。
 4 仮想性 仮想世界でアイデンティティーを持てる。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.340
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

同じ部分

 とはいえ,ワールド・オブ・ウォークラフトやセカンドライフのように膨大なプレーヤーが参加するオンラインゲームであれ,フェイスブックやマイスペースのようなソーシャル・ネットワーキング・サイト(SNS)であれ,ユーチューブ,ウィキペディア,eベイのような情報集積サイトであれ,マッチ・ドットコム,eハーモニーのような出会い系サイトであれ,新しいテクノロジーは,他人とつながりたいという人類の古くからの傾向を実現しているにすぎない。ただし,空気を通じて伝わる会話ではなく,サイバースペースを流れる電子によってなのだが。オンライン上に形成される社会的ネットワークは,抽象的で,巨大で,複雑で,超近代的かもしれないが,普遍的かつ根源的な人間の傾向を反映してもいる。こうした傾向が生じたのは,先史時代,人類がアフリカのサバンナでたき火を囲んで語り合ったときのことだった。印刷機,電話,インターネットといったコミュニケーション技術の目覚ましい進歩さえ,私たちをそうした過去から引き離すものではない。そうではなく,むしろ近づけているのである。
 
ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.318-319
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

部隊の人数

 何世紀にもわたり,軍隊における戦闘部隊の規模は150人前後だった。古代ローマ群の基本単位(歩兵中隊)は120人だったし,現代の軍隊でも歩兵中隊の平均的規模は180人だ。組織されたチームとしてメンバーが力を合わせ,同胞の強み,弱み,信頼性を把握できる集団の規模の上限が,そうした人数なのだ。戦争によって特定の淘汰圧が働くのだとか,古今の部隊がこの規模に達したのは生存に最適な規模を経験的に観察したからだ,などという想像さえできる。
 現代の通信技術を利用すればより大規模な編成ができそうなものだが,興味深いことに,現代でも軍隊の大きさは変わっていない。ここからわかるのは,集団の規模を決める最大の要因はコミュニケーションではないということだ。もっと大切なのは人間の心の力である。つまり,社会的関係を追跡し,1人ひとりを特定できる心の名簿を作成し,ネットワークのメンタルマップを描いて,誰と誰がつながっているか,その関係は強いか弱いか,協力的か攻撃的かといったことを探ることのできる力なのだ。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.310
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

遺伝の影響

 私たちはまた,遺伝子が友人同士のつながり方に及ぼす影響についても調査した。推移性は,ある人の友人のうち任意の2人が友人同士である可能性を示すことを思い出してほしい。推移性の高いひとは,全員がおたがいを知っている高密度の集団のなかで生きている。対照的に,推移性の低い人は,いくつかの異なるグループに友人を持つ傾向がある。そういう人はしばしば,まったく異なるグループ同士を結ぶ架け橋の役割を果たす。私たちの研究では,推移性は非常に遺伝性が高く,差異のうち47%は遺伝子の違いによって説明できることがわかった。したがって,一般的に言って,たがいに知り合いである友人が5人いる人と,たがいに知り合いでない友人が5人いる人は,遺伝子構造が違うことになる。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.291-292
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

ホモ・ディクティアス

 私たちは別の見方を提案する。ホモ・ディクティアス(ラテン語で「人間」を意味するhomoと,ギリシア語で「網」を意味するdictyからの造語),すなわち「ネットワーク人」は人間の本質に関する一つの見方であり,利他精神と処罰感情,欲求と反感がどこから生まれるかを解き明かそうとするものだ。こうした視点をとれば,人間の動機を純粋な利己主義から切り離すことができる。私たちは他人とつながっているがゆえに,また他人を思いやるよう進化してきたがゆえに,行動を選択するにあたって他人の幸せを考慮するのだ。そのうえ,ネットワークへの帰属を重視するこうした視点をとることによって,人間の欲求についての理解に,重要な要素を正式に含めることができる。すなわち,周囲の人びとの欲求である。これまで見てきたように,健康にかかわる行動から音楽の好み,投票の仕方に至るまで,すべてにこの見方が当てはまる。私たちは,自分とつながりのある他人の欲するものを欲するのだ。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.278-279
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

論文のネットワーク

 この問題を研究するために,ウッツィは「最高の」科学研究の指標として引用数を用いた。科学の世界では,引用は称賛,あるいは少なくとも注目の表れだからだ。ウッツィは,1945年から2005年までに世界各国で発表された科学論文2100万本と,ある15年間に出願された特許190万件のデータを収集した。そして,個人で書かれたものとチームで書かれたものを比較した。引用数を質の目安にしたところ,総じて個人の業績よりもチームの業績のほうが優れていて,科学的にも重要だと判断できた。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.211-212
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

つながる市場

 たとえば,1オンス(28.35グラム)の金貨が500ドルで売れるとしてみよう。だが,市場にはその金貨を1000ドルで買ってくれる人がいると思えば,あなたはおそらくその値段で売ろうとするだろう。いったん1000ドルという値段をつければ,売りに出ている輝く金貨を目にするすべての人に,あなたの考えではその金貨の価格は500ドルをはるかに上回っているというシグナルが送られる。言い値の1000ドルでは売れなくても,500ドル以上では売れるだろう。すると,金価格の上昇がほかの市場参加者へのシグナルとなる。一部の人は金への需要が増えているのだと信じ込み,将来はさらに高い価格で金を買おうとする人が現れるはずだと考えるかもしれない。スポーツイベントでウェーブをする人たちのように,市場の投資家はおたがい同時にシグナルを受け取り,価格を現実離れした水準にせりあげてしまう。株式市場や住宅市場,さらには(17世紀のオランダの)チューリップ市場における「根拠なき熱狂」の背後には,まさにこうした状況があるのだ。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.195
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

ネットワークに注目する対策

 ネットワークを理解すれば,自明とは言えない別の革新的な戦略にも到達できる。ある集団における伝染病の拡大を防ぐため,やみくもに予防接種を実施すれば,ふつうはメンバーの80〜100%を対象とする必要がある。はしかの蔓延を防ぐには,全体の95%に予防接種をしなければならない。より効率的な方法は,ネットワークのハブ,つまりネットワークの中心にいる人や,交際相手の最も多い人をターゲットにすることだ。とはいえ,最善の予防接種法を見つけ出そうというときに,ネットワーク上の人びとの絆を事前に見きわめるのは難しい。だが,それに代わる画期的な方法がある。誰かを適当に選び,その一の知り合いに予防接種をするのだ。この戦略を使えば,ネットワーク全体の構造がわからなくても,ネットワークの特性を利用できるのである。適当に選ばれて知り合いを挙げた場合とくらべると,知り合いに挙げられた人のほうが多くのつながりをもち,ネットワークの中心に近いところにいる。多くのつながりを持つ人は,つながりの少ない人よりも,知り合いに挙げられる可能性が高いからだ。
 実際,この方法で選んだ約30%の人に予防接種をすれば,適当に選んだ99%の人に予防接種をする場合と同じレベルの予防効果があるのだ!同じようなアイデアは,逆の問題にも応用できる。つまり,新しい行動や新しい病原菌(あるいは生物テロ攻撃)を監視する最善の方法は何かという問題だ。人びとをやみくもに観察するのがいいだろうか,それともネットワーク上の位置に応じてターゲットを選ぶのがいいだろうか。ネットワーク・サイエンスが与えてくれる情報をもとに監視対象を選択すれば,700倍も効率がいい場合がある。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.167-168
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

自殺の流行

 過去数十年にわたり,アメリカでも自殺の流行がじわじわと広がってきた。1997年のある研究で,アメリカの若者の13%は前の年に本気で自殺を考えたことがあり,4%は実際に自殺を図っていたことがわかった。さらに20%の若者が,前の年に自殺を図った友人がいると回答した。1950年から1990年にかけて,15歳から24歳で自殺した若者の割合は,10万人当たり4.5人から13.5人に増えた。興味深いのは,同じ時期に自殺を図ったフィクションが流行したことだ。IMDBドットコムというインターネット上の映画データベースから抽出した映画の筋書きを分析した研究によれば,自殺を扱った映画の割合は,1950年代の約1%から1990年には8%超に増えたという。この2つの増加にはつながりがあるのか,どちらが先だったのかは,はっきりとはわからない。だが人と人とのつながりは,私たちを幸せにしてくれることもある一方で,私たちを自殺に向かわせることもあるのは間違いない。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.162
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

歴史の皮肉

 禁煙の拡大はまた,地位の高い人がイノベーションの広がりに果たす役割を明らかにしている。フレーミングハム心臓研究のデータによれば,他人に影響を及ぼす力は教育によって増幅するようだ。つまり,人は高い教育を受けた知人が禁煙すると自分も禁煙することが多いのである。加えて,教育はイノベーションを欲する気持ちを強める。高い教育を受けた人は,そうでない人よりも仲間の禁煙行動を真似る傾向が強い。こうして皮肉にも,タバコに関して言えば,現在の禁煙の波は60年から100年前に起こったことの裏返しとなっている。つまり,当時はまず,社会的地位が比較的高いひとびとのあいだに喫煙の習慣が根づいたのだ。1930年代や40年代の広告では,医師がにこやかに笑いながらタバコを楽しみ,喫煙を勧めている。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.150
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

皆で一斉に

 過去40年のあいだに,成人の喫煙者は全体の45%から21%へ減少してきた。40年前は,事務所,レストラン,さらには飛行機のなかでさえ,タバコの煙が立ち込めていたものだ(1987年に飛行機内での喫煙を禁じる規定ができると,大きな前進として熱烈に歡迎された)。ところが現在は,喫煙者は屋外で小さな集団になって身を寄せている。
 だが,,人びとは独力でタバコをやめてきたわけではない。そうではなく,大勢でいっせいにやめてきたのだ。私たちはフレーミングハム心臓研究の社会的ネットワークに関するデータを利用し,過去40年間の喫煙の減少について分析してみた。すると,肥満の蔓延の裏返しのようなパターンがあることが分かった。ある人がタバコをやめると,友人,友人の友人,そのまた友人へと波及効果が広がっていくのだ。肥満と同じように,喫煙行動も3次の隔たりまで拡大していく。ここでも「3次の影響のルール」が働いているわけだ。だが,肥満よりも喫煙のほうがグループ効果はさらに高い。鳥や魚の群れと同じく,禁煙には時間と空間における一種の同調性がある。相互につながった喫煙者グループの全体が——メンバー同士はお互いを知らなくても——ほぼ同時にそろってタバコをやめる。まるで,反喫煙の波が全員に波及していくかのようだ。群れが特定の方向に飛んでいくのを一羽の鳥が食い止めるように,1人の喫煙者が禁煙を先導するのかもしれない。タバコをやめる決意は,ばらばらの個人が1人でするわけではない。そこには,直接・間接につながった個人からなるグループの選択が反映しているのである。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.148-149
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

肥満への影響

 だが,肥満を広げるのは模倣だけではない。人間はたがいに認識を共有するものだが,こうした認識がどれだけ食べ,どれだけ運動するかにも影響するのだ。たとえば,周囲の人を見て,その人たちの体重が増えているのに気づけば,許容できる体型について認識を改めることもある。多くの人が太りはじめると,太りすぎとは実際に何を意味するかについて期待値が再調整される。人から人へと広がるのは,社会科学者が規範と呼ぶもの,つまり,何が適切であるかに関して共有される期待値なのだ。ロックデール郡のティーンエイジャーが性的規範を(大人たちを失望させて)調整したように,何を肥満とみなすかについての人びとの考えは急速に変化している。また,社会的ネットワーク内にニッチが生じることもある。こうしたニッチで人びとが特定の規範を強化し,直接・間接につながった人びとが何かについて認識を共有しながら,たがいに影響されていると気づかない場合もある。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.144
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

理解の仕方

 ネットワークという観点に立てば,性感染症の主な危険因子は個人的属性(たとえば人種)であるという考え方から抜け出しやすくなる。事実,リスクを理解するためのもっと有効な手段は,個人の社会的ネットワークの構造に焦点を合わせることなのだ。つまり,社会経済的な位置よりも社会構造的な位置のほうが問題なのである。人びとがリスクの高い行動や低い行動をとるのは,お金,教育,肌の色などが原因だと考えるべきではない。社会的ネットワークに関する各種の研究から次のことがわかっている。人びとがリスクにさらされるかどうかは,その人がどんな人であるかより,誰と知り合いであるかで決まるのだ。つまり,ネットワークのどこにいて,周囲で何が起こっているかが問題なのである。ネットワーク構造という観点をとれば,多くの社会的プロセスに新たな光を当てることができる。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.133
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

理由の違い

 性別による役割分担に関して,リラードとウェイトは次のことを発見した。結婚が男性の健康にとって有益なのは,主として社会的支援を受けられたり,妻を介してより広い世界とつながりを持てたりするからなのだ。また,既婚男性がいわゆる「独身男の愚行」をやめることも同じく重要である。結婚すると,男性は大人の役割を引き受ける。つまり,ガレージにあるオートバイを処分し,非合法なドラッグをやめ,規則的に食事をし,仕事に就き,常識的な時刻に帰宅し,責任を真剣に受け止めるようになる。これらはすべて男性の寿命を延ばすのに役立つ。妻が健康にかかわる夫の行動を変えさせることを含め,社会的制約のこうしたプロセスは,結婚によって男性の健康が改善されるうえで不可欠なものに思える。一方,結婚によって女性の健康や寿命が改善される主な理由はずっと単純だ。つまり,結婚した女性は経済的に豊かになるのである。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.114
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

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