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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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英国の魔女

 イギリスにおける魔女の迫害は1951年に,ようやく法律上で終わりを迎えた。その年,超能力者や霊媒をかたって報酬を得ることを禁止する「虚偽霊媒行為取締法」が施行され,おかげで魔女自体は法に触れる行為ではなくなった。虚偽霊媒行為取締法が制定された主なきっかけは,1944年にヘレン・ダンカンという霊媒が「妖術禁止法」違反で逮捕され,大きな論議を巻き起こしたことだ(ダンカンは結局,同法違反で裁かれた最後のイギリス人になった)。だが,新法施行の原動力になったのはダンカン事件だけではない。イギリスでは当時,あちこちの新聞に星占い欄が登場し,人気を集めていた。こうしたものまで不法行為とみなすのはあまりにばかげた話だ。虚偽霊媒行為取締法では,霊媒を名乗っての詐欺は禁じられたが,本物の霊媒は活動を許された。以来,勢いを得たスピリチュアリズムは大変な盛り上がりをみせている。

ウィリアム・リトル 服部真琴(訳) (2010). サイキック・ツーリスト:霊能者・超能力者・占い師のみなさん,未来が見えるって本当ですか? 阪急コミュニケーションズ pp.190
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ちゃんと調べよう

 トンプスンとライリーはイギリスの各地の警察の捜査活動を徹底的に調査し,1980年代に起きたサラ・ジェイン・ハーバー殺害事件の際,霊能者から寄せられた手紙600通に記載された情報が捜査にどれほど役立ったかを詳細に検討した。その結果,2人はサイキックが関わることで捜査活動は「資源浪費の危機に瀕する」との結論を下した。警察は情報を寄せた霊能者の話を聞くのに貴重な時間を割き,無駄な捜査を行い,おかげでより有力な線を追うための人員が手薄になる。霊能者の事情聴取と霊能者から得た情報の確認に10時間も費やしたあげく,「事件の状況と一致する情報をほとんど得られなかった」ケースもあったという。

ウィリアム・リトル 服部真琴(訳) (2010). サイキック・ツーリスト:霊能者・超能力者・占い師のみなさん,未来が見えるって本当ですか? 阪急コミュニケーションズ pp.167

インド占星術

 ヒンドゥー教徒が星を重視するようになったのは数千年前,ヒンドゥー教の全身であるバラモン教の聖典ヴェーダが編纂された時代にさかのぼる。ヴェーダとは,古代の学者が神から直接受け取り,長年にわたって口承で伝えてきたと信じられている教えをまとめたものだ。星の動きが重視されたのは,多くの古代文明の場合と同じく,当時の人々には季節の移り変わりが大きな意味を持ったこと,情報を得るすべが圧倒的に不足するなか,夜空に現れる予兆に従って決断を下そうと考えたことと大いに関係している。
 この教えが後にインド占星術に発展した。太陽年の始まりである春分を基準にした黄道12宮を用いる西洋占星術に対し,インド占星術は星座の位置を基準点に固定して12の宮に分割する。言い換えれば,インド占星術は実際の位置を用いて占うが,西洋占星術は太陽が運行する円を12の宮(いわゆる12星座だ)に分けて占うということだ。西洋占星術に出てくる星座の位置はもはや,夜空にある星座の位置とは対応していない。
 インドの社会では今でも占星術への信仰が根強い。ビジネス関係者も占星術師の助言を仰ぎ,占星術で将来の出来事を知ろうとする人も多い。

ウィリアム・リトル 服部真琴(訳) (2010). サイキック・ツーリスト:霊能者・超能力者・占い師のみなさん,未来が見えるって本当ですか? 阪急コミュニケーションズ pp.118

聞く側が仕事をしている

 「それに,霊視中に仕事をしているのは霊能者ではなくシッターのほうです」ワイズマンはそうつけ加える。
 なんてこった。サイキックは悪党なうえに,やる気までないのか。
 「霊能者の言葉は多くの場合,非常に曖昧です。『過去にトラウマ的な体験をしましたね』なんて言うが,具体的には何を言いたいのか。それを聞いたシッターは『すごい』とか『そのとおりです』と答えるが,彼らの思考プロセスはどうなっているのかと不思議になる。霊能者のもとを訪れる人は,最初から協力する気満々なのでしょう。霊能者に言われたことが自分の人生にうまく当てはまるよう解釈する」
 こうした心理を浮き彫りにするのが,心理学者のスーザン・ブラックモアが行った研究だ。ブラックモアは6000人を対象とした調査を実施し,特定の記述が自分に当てはまるかどうか答えてもらった。「わたしにはジャックという名前の身内がいる」にイエスと言った人は4分の1強。「私の左膝には傷跡がある」という記述が自分に当てはまると言った人の割合は3分の1を超えた。
 「霊能者はこの現象を霊視に利用し,さも的中率が高いかのように見せかけます」ワイズマン教授は言う。「だが実際のところ,彼らの言葉は多くのシッターに当てはまる一般論だらけなんです」

ウィリアム・リトル 服部真琴(訳) (2010). サイキック・ツーリスト:霊能者・超能力者・占い師のみなさん,未来が見えるって本当ですか? 阪急コミュニケーションズ pp.106-107

本当に深刻なときはどこに?

 大半の人はサイキックにそれほど力があると考えているわけでもありません,とワイズマン(リチャード・ワイズマン)は言う。わけがわからない。何やら突然,懐疑的なのはワイズマンではなく,サイキックを必要とする人のほうだという話になっている。僕はコーヒーを飲み,教授の解説を待つ。
 「なぜサイキックに会いに行くのかと聞かれて,彼らがサイキックだからと答える人はほとんどいない。たいていは『助けてくれそうだから』と答える。これは便益性の問題です。シルヴィアなら,素敵な恋人を見つける手助けをしてくれるだろう。そう思うだけのことです」
 ワイズマンは勢いづき,身を乗り出して続ける。「でも興味深いことに,本当に深刻な問題が起きたとき,人はサイキックのところへ駆け込んだりしません。子供が誘拐されたら,まず警察に連絡する。その後でなら,サイキックに相談することもあるかもしれない。人がサイキックの有効性をどの程度のものと考えているか,よくわかりますね。病気になった場合も同じです。医者に診てもらわず,心霊治療だけを頼りにする人はゼロに近い」

ウィリアム・リトル 服部真琴(訳) (2010). サイキック・ツーリスト:霊能者・超能力者・占い師のみなさん,未来が見えるって本当ですか? 阪急コミュニケーションズ pp.103-104

ジーン・ディクソン効果

 僕と同業者のジェス・スターンは1960年に発表した著書『予言——未来をのぞいた人々』で,現代のノストラダムスを発見したと述べている。1930年代から1970年代にかけて数々の予言をしたジーン・ディクソンという女性だ。政治家やセレブの運勢を見ていた彼女はかのウィンストン・チャーチルに,1974年の選挙では労働党に敗れるが,その後で権力の座に返り咲くと告げたことで知られている(実際には,1945年の総選挙で労働党が勝利し,チャーチルは1951年に首相に再び就任した)。ぞっとするのは,ディクソンの予言の多くが事前に公表されたことだ。1956年には,パレード誌でジョン・F・ケネディの暗殺を予言した。より正確に言えば,1960年にアメリカ大統領に選出された民主党の政治家,青い目に茶色の髪をした若くて背の高い男が大統領在任期間中に死亡する,と。彼女は経験なカトリック信者で,自分の力は神から与えられたものだと主張していた。
 だが,物事には常にもう1つの面がある。ディクソンは,JFKは大統領選で敗北し,ニクソンが勝つだろうとも予言した。数学者でテンプル大学教授のジョン・アレン・パウロスは彼女にちなんで「ジーン・ディクソン効果」を唱え,数少ない正しい予言ばかりが記憶に残り,外れたものは見過ごされがちなため,予言の的中率は実際より高いと思い込まれると言っている。事実,ディクソンはいくつかの「トンデモ予言」も披露している。彼女によれば,1958年に台湾の金門島と馬祖島をめぐって第三次世界大戦が勃発し,アメリカの労働運動指導者ウォルター・ルーサーが1964年の大統領選に出馬し,人類初の月面着陸はソビエトによって達成されるはずだった。

ウィリアム・リトル 服部真琴(訳) (2010). サイキック・ツーリスト:霊能者・超能力者・占い師のみなさん,未来が見えるって本当ですか? 阪急コミュニケーションズ pp.42-43

レオノーラ・パイパー

 1857年に生まれたレオノーラ・パイパーは心霊現象研究の歴史上,比類なき「入神(トランス)霊媒」だと言われた。15年以上もの間,数々の厳しいテストを受け,その驚嘆すべき結果によって当時の超能力懐疑派の最右翼,リチャード・ホジスン博士さえも転向させた。彼女は本当に霊と話をしていると,ホジスンは信じた。エセ超能力者やインチキ霊媒の詐術を暴くことで有名だったホジスンも,レオノーラの場合に限っては詐欺の証拠を見つけることができなかった。トリックを使って周りの者をだましているのかどうかを確かめるため,ジェイムズとともに異例なほど長期にわたって調査をしたにもかかわらず,だ。
 ジェイムズは義母のイライザ・ギブンズからレオノーラのことを聞いたが,当初は懐疑的だった。イライザは以前,レオノーラから家族しか知らない秘密を告げられていた。それでも疑わしく思ったイライザはあるとき,封印された封筒の中の手紙に何が書かれているか教えてほしいとレオノーラに依頼した。こういうとき,たいがいの霊媒はアルコールに浸したスポンジで封筒を濡らし,中身が透けて見えるようにする手口を使う(アルコールはすぐ蒸発するため,相手はトリックに気づかない)。だが,レオノーラは目の前に封筒をかざすだけで納得のいく答えを出した。さらに不思議だったのは,手紙がレオノーラには理解できないイタリア語で書かれていたのに,内容を説明できたことだ。初めのうち,ジェイムズは義母が霊媒にだまされたとおもしろがった。霊媒がどんなふうに人を欺くか説明したが,レオノーラは本物だという義母の信念はびくともしない。こうなったら,ジェイムズ本人が真実を暴くしかなかった。
 心霊主義運動の系譜をまとめた歴史学者トロイ・テイラーの著書『ガス灯の下の幽霊(Ghosts by Gaslight)』によれば,ジェイムズは「レオノーラの家を訪れたとき,交霊会でおなじみの小道具がまったく見当たらないことに驚いた——そこには戸棚も赤色灯も円形に並べた椅子も,メガホンも鈴もなかった」ジェイムズは興味をかき立てられた。レオノーラはジェイムズに,彼のギフト死んだ子供の名前を告げた。レオノーラのスピリット・ガイドが彼らの名前を教えたらしい。ジェイムズは交霊会が始まってから,うっかり情報をもらすことがないよう一言もしゃべらなかったのだから。彼は仰天した。
 レオノーラのケースがとりわけ興味深いのは,彼女が自分を宣伝したりはしなかったからだ。それどころか,自分と死者との交流が注目されることに少しばかりいらだっていた。だがよく当たるレオノーラのお告げは有名になり,彼女はSPRのモルモット同然の存在になってしまった。

ウィリアム・リトル 服部真琴(訳) (2010). サイキック・ツーリスト:霊能者・超能力者・占い師のみなさん,未来が見えるって本当ですか? 阪急コミュニケーションズ pp.36-38

SPRの歴史

 SPR[心霊現象研究協会]が設立されたのは1882年のことだ。ヴィクトリア朝まっただ中の当時のイギリスでは,霊媒や透視能力者が続々と登場し,巷にあふれる超能力者や交霊術師が日々新しい能力を喧伝していた。イギリスにこれほど多くの超常エネルギーが集まるのはなぜか。SPRの公式な沿革によれば,その理由を探るべく,いくつかの名門大学の著名な学者からなる一団が協会を設立した。
 SPRの初代会長であるヘンリー・シジックはケンブリッジ大学の倫理学教授で,「当時の知識階級の間で非常に高い地位と倫理的地位」を誇っていた。古典文学者のフレデリック・マイヤーズのウィリアム・バレット,実験物理学者のレイリー卿,哲学者でのちのイギリス首相アーサー・バルフォア,古典学者で哲学者のジェラルド・バルフォア,バルフォア一族の出身でヘンリー・シジックの妻であり,後にケンブリッジ大学ニューナム・カレッジ校長に就任した数学者のエレノア・シジックなどの著名人」が名前を連ねている。こんなヘビーウェイト級のIQ(知能指数)の持主が相手なら,エセ超能力者に勝ち目はなかったはずだ。
 SPRのメンバーは真剣な態度で調査に臨み,厳密で科学的な手法を用いた。初期の活動は超常現象の調査やトリックの暴露が主で,イカサマの手口を再現したりもした。だがときには,本物としか思えないような事例に遭遇することもあった。なかでも有名なのが,アメリカ人女性レオノーラ・パイパーのケースだ。SPRが彼女に関心を持ったのは,小説家ヘンリー・ジェイムズの兄で先駆的な心理学者,ウィリアム・ジェイムズの報告がきっかけだった。

ウィリアム・リトル 服部真琴(訳) (2010). サイキック・ツーリスト:霊能者・超能力者・占い師のみなさん,未来が見えるって本当ですか? 阪急コミュニケーションズ pp.35-36

OCD性格

 OCDの患者は「OCD性格」ということをよく言う。非常に内向的で,攻撃を恐れ,攻撃的なひとにうまく対応できない性格だ。洗浄強迫があったジャックは職業を転々としたが,「自分はひとと接するのがいやでたまりません。ひとと接する仕事はいちばん苦手です。夏に銀行でアルバイトをしたことがありますが,ひどい経験でしたよ。顧客は親切で手早い仕事を要求するが,ぼくは自分がやるべき仕事に没頭するだけ。親切な行員でなかったことはたしかです」と言う。しばらく学校で教えたこともあった。「どんなものだか想像がつきますか?高校ぐらいだと,求められるのは独断的指導と規律,それだけなんです」。あまりジャックに向いているとは言えないようだ。

ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (1998). 不安でたまらない人たちへ 草思社 pp.203
(Schwartz, J. M. (1996). Brain Lock. New York: Harper Collins.)

有益なことをする

 OCDのひとたちに共通の誤りは,「強迫行為をしなければ,激しい不安で仕事も手につかない。だから,強迫行為をしよう」と考えることだ。第1に,これまで説明したように,強迫行為は不安をさらに激化させる。だが,もうひとつ問題がある。強迫行為は連鎖的に増加するということだ。数々の強迫行為にかける時間で,もっと有益なことができるはずだ。ばかげた強迫行為で時間を無駄にするだけでなく,そのぶん有益なことができなくなる。つぎのことを覚えておこう。強迫行為ではなく有益なことをすれば,関心の焦点が移る。これが,脳のはたらきを変化させて,快くなるための第1の方法である。同時に新しい機会が生まれ,だれが見ても価値ある活動ができる。

ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (1998). 不安でたまらない人たちへ 草思社 pp.175
(Schwartz, J. M. (1996). Brain Lock. New York: Harper Collins.)

精神科医の無知

 OCDの強迫観念は宗教的な性格を帯びて信仰篤いひとたちを悩ませることがよくあるが,この事実に適切な関心が向けられているとはかぎらない。たとえばはじめて専門家の治療を求めたクリストファーが,自分には悪魔がついているのかもしれないと考えた,とおそるおそる述べたとき,無神経な質問攻めにあた事実を,精神科医は警鐘と受け止めるべきだ。いまの精神科医の多くには,敬虔なひとが抱くきわめて自然な宗教的な考えを尊重する能力が欠けている。クリストファーは知性も洞察力もあり,自分は病気であって,悪魔の影響と強迫観念とは何の関係もないことをよく理解していた。精神的な省察によって,自分は悪魔に操られているのではなく,神経精神病学的症状に苦しんでいるのだと気づいていた。精神科医の診察を受ける前に,自分を見つめ,悪魔の影響だという考えは否定していたのである。クリストファーと彼を誤解した精神科医との最初の出会いがうまくいかなかったのは,恐ろしい苦痛を説明しようとしたクリストファーの側に原因があるというよりも,精神科医にありがちな無知と傲慢の反映だろう。

ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (1998). 不安でたまらない人たちへ 草思社 pp.163
(Schwartz, J. M. (1996). Brain Lock. New York: Harper Collins.)

OCDのイメージ

 OCDの執拗な症状を消そうと考えることの無意味さを説明するために,わたしはよく,カメレオンとセラピストのたとえ話をする。気の毒なカメレオンにセラピストが言う。「いいですか,もう少し落ちつくことです。色が変わってしまうたびにおろおろしていては,何の進歩もありません。さて,落ちついたら,緑色の背景のところへ戻ってごらんなさい」
 OCDの患者もまったく同じだ。しつこくつきまとうばかげた衝動を追いはらおうとやっきになればなるほど,衝動は消えにくくなり,結局あきらめるしかない。OCDが勝利を獲得する。自主的な認知行動療法の基本原則は,「だいじなのはどう感じるかではなく,何をするかである」ということだ。

ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (1998). 不安でたまらない人たちへ 草思社 pp.128
(Schwartz, J. M. (1996). Brain Lock. New York: Harper Collins.)

信念や祈りとOCD

 信念や祈りがOCDの治療と関係があるのか,と思うひとがいるかもしれない。だが,OCD患者のほとんどすべてが,いずれかの時期にこの病気がもたらす恐ろしい不安から解放されたいと祈っているはずだ。深い恥辱感にさいなまれて,超自然的な力でもなんでもいいから,強迫観念や強迫衝動に追いたてられる苦痛から解放してくれないかと願うにちがいない。だが,必要なのは症状が消えるようにと祈ることではない。祈っても症状は消えない。そうではなくて,OCDと闘う力を与えてくれと祈るべきだ。OCDの患者たちがときには意気阻喪して,罪悪感や劣等感から自己嫌悪に陥るのも無理はない。行動療法がうまくいったときの,大きな精神的成果のひとつは,OCDの症状が当人の心や精神の健全さとは何の関係もなく,すべては病気のせいであると気づいて,自分を許す気になることだ。

ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (1998). 不安でたまらない人たちへ 草思社 pp.115-116
(Schwartz, J. M. (1996). Brain Lock. New York: Harper Collins.)

OCDとトゥレット症候群

 一般にはOCDの患者は40人にひとりだが,家族や親戚にトゥレット症候群の者がいる場合には5人にひとり,トゥレット症候群の患者自身をとると2分の1から4分の3はOCDであるという数字からみても,遺伝的関連があるという理論は信憑性が高そうだ。トゥレット症候群の患者は,チックの激しい収縮運動がもとで関節炎や腱炎を起こすことが多いこのひとたちは強い衝動に襲われ,その不快感を解消するためにチックと言われる筋肉の収縮運動をおこなう。あるいは発声のチック症状があらわれて,せきばらいをくりかえし,それが高じるとげっぷや大声,吠え声を出したりする。また,無意識に猥褻な言葉や人種差別的な言葉を叫びだすようになり,当人には非常に大きなストレスになる。OCDの場合と同じで,トゥレット症候群の症状はストレスによって悪化する。UCLAのPETスキャンによる予備的なデータによると,トゥレット症候群の患者では,尾状核の隣に位置して身体的な動きを調整する線条体の一部(被核)の代謝作用に変化が見られる。OCD患者には運動性チック症状のある者が多く,トゥレット症候群患者の多くに強迫性障害の症状がある。つまり,両者には線条体の皮質調整機能の異常(チックの場合は運動野,強迫観念や強迫行為の場合には眼窩皮質の調整機能)という共通性があり,チックには被核が,OCDの症状には尾状核の異常が関係しているらしい。このふたつの病気は,運動や思考をふるい分けて調整する脳の構造と密接な関係があり,相互に関連のある遺伝的な条件がかかわっていて,それらがトゥレット症候群の場合には筋肉の運動(チック)に,OCDの場合には思考(強迫観念)にあらわれると考えられるのである。

ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (1998). 不安でたまらない人たちへ 草思社 pp.107-108
(Schwartz, J. M. (1996). Brain Lock. New York: Harper Collins.)

OCDのハワード・ヒューズ

 OCDという病気は,そのおかげで「奇態な」という言葉があらたな意味をもったほどすさまじい。もう1度,ハワード・ヒューズを考えてみよう。彼はついには「黴菌の逆流現象」と呼ぶ理論までつくりだした。親友が肝炎の合併症で亡くなったとき,ヒューズは葬儀に花を送ることすらできなかった。OCDに支配された頭では,もし花を贈ったら,肝炎のウィルスがルートを逆流してくるのではないかと怖かったからだ。ヒューズはまた強迫的にトイレに座らずにはいられず,42時間も座りつづけていたことがある。用を足し終わったと確信がもてないのだ。これはOCDの症状としては珍しくなく,わたしもそのような患者をおおぜい治療してきた。よくなりかけると,彼らは「もう1分座っているよりも,ズボンを汚したほうがましだ」と言うようになる。もちろん,だれも衣類を汚した者はいない。
 無意味な反復というのも,ヒューズのめだった症状のひとつだった。自分で飛行機を操縦して全国を飛びまわっていたヒューズは,あるときアシスタントに,カンザス・シティの天気図をとりよせろと命じた。フライトに必要な情報はすぐ手に入ったのに,彼は33回,同じ要求をくりかえした。それから,自分はくりかえしていないと否定した。
 ヒューズにかんする本を書くので話が聞きたいとやってきたピーター・ブラウンは,「どうして,彼は自制できなかったんでしょう,あれほど頭のいい人だったのに」とたずねた。だが頭のよしあしは関係ない。ヒューズはその指示を33回くりかえさなければ,何か恐ろしいことが起こると信じたのだ。この場合なら,飛行機が墜落すると思ったのかもしれない。あるいは,OCDがひきおこす不安を解消するために,指示を3回だけするつもりだったのに,3回目にある言葉を正しいアクセントで言えなかったというようなばかばかしいことが起こったために,33回くりかえすしかなかったのかもしれない。それでも納得できなければ,333回くりかえしたかもしれないのだ。この種の症状は重症のOCDに共通している。彼がくりかえさなかったと否定したのは,自らの強迫行為を恥じたからだろう。

ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (1998). 不安でたまらない人たちへ 草思社 pp.68-69
(Schwartz, J. M. (1996). Brain Lock. New York: Harper Collins.)

OCDとOCPDの違い

 名前が似ているので,強迫性障害(OCD)はもっとずっと軽い強迫性人格障害(OCPD)と混同されやすい。では,どこがちがうのか。簡単に言ってしまえば,強迫観念や強迫行為は不快ではあっても,変わった癖という程度のものだ。たとえばOCPDのひとは,いつか必要になるかもしれないと,つまらないものを取っておくかもしれない。だがOCDの患者は,自分でも必要ないとわかっているガラクタで足の踏み場もないほどにしてしまう。OCPDのひとは「木を見て森を見ない」困った傾向がある。典型的なのは,リストづくりに夢中になって細部にこだわるあまり,全体像が見えないという例だ。完全癖のせいで,かえってものごとを成しとげられない。OCPDの場合はまさに「最善」が「善の敵」になるのである。彼らはすべてを「すみずみまで完璧」にせずには気がすまず,充分に良いことでもめちゃくちゃにしてしまいがちだ。柔軟性がなく,融通がきかない。正しいやり方とは自分のやり方だと思っている。ひとにまかせることができない。この人格障害は男性に多く,女性の2倍もいるのはおもしろい。いっぽう,OCDでは男女に差がない。
 もうひとつのOCDとOCPDの決定的なちがいは,OCPDのひとたちは頑迷で,こだわりに振りまわされていても,心からそんな自分を変えたいとは思っていないということだ。彼らは自分の行動が他人を悩ましているのに気づかないか,気づいても平気でいる。ところがOCDのひとたちは,強迫行為に喜びを感じるどころか,つらくてたまらないのだが,手を洗いつづけずにはいられない。OCPDのひとたちは洗ったり掃除したりするのを楽しみ,「みんなが自分くらい清潔にしていれば,すべてがうまくいくのに。うちの家族はほんとうにだらしがない」と考えている。彼らは1日が終わって帰宅したら,デスクのうえの鉛筆を全部,兵士のように整列させようと楽しみにしている。OCDのひとは,20回も掃除をしろというまちがったメッセージに振りまわされることを知っているから,帰宅するのが恐ろしくてしかたがない。OCPDのひととちがって,自分の行動がどれほど無意味か知っていて,恥ずかしがっており,心底から変えたいと考えている。OCDの患者ふたりの言葉を借りれば,「脳はめちゃくちゃになってしまった。わたしはどうしても逃れられない」のであり,「病院の窓に鍵がかかっていてよかった。さもなければ,飛びおりて決着をつけたにちがいない」という。

ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (1998). 不安でたまらない人たちへ 草思社 pp.24-25
(Schwartz, J. M. (1996). Brain Lock. New York: Harper Collins.)

強迫観念とは

 強迫観念とは,追いはらっても追いはらっても消えない,不安な考えやイメージである。強迫観念(obsession)という言葉は「包囲する」という意味のラテン語からきている。そのとおり,強迫観念は患者を包囲し,たまらない不安に陥れる。いくら消えろと祈っても消えてはくれない。少なくとも,長時間,あるいはコントロールのきく方法で消すことはできない。強迫観念にとりつかれた者は落ちこみ,不安になる。ふつうのいやな思いとはちがって,強迫観念は薄れないどころか,当人の意思に反してくりかえししつこく襲ってくる。たまらなく厭わしいものだ。
 たとえば美人に出会って,彼女のことが心から離れなくなったとしよう。これは強迫観念ではない。「何度も思い返すこと(ルミネーション)」にすぎない。べつに不都合なことではなく,きわめて正常だし,楽しくさえある。カルヴァン・クラインのマーケティング部門がオブセッションという言葉を正確に理解していたら,香水の名は「オブセッション」ではなく「ルミネーション」になっていたかもしれない。

ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (1998). 不安でたまらない人たちへ 草思社 pp.12-13
(Schwartz, J. M. (1996). Brain Lock. New York: Harper Collins.)

OCDについて

 簡単に言えば,OCD[強迫性障害]は強迫観念と強迫行為という症状をもつ,一生続く障害である。かつては変わった珍しい病気だと考えられていたが,じっさいには40人にひとりがかかり,アメリカには500万人以上の患者がいると推定されている。青年期あるいは成人後の早期に発症するのがふつうで,喘息や糖尿病よりも発症率が高い。患者の人生がめちゃめちゃになるだけでなく,彼らを愛するひとたちもたいへんな被害を被る。洗ったり,掃除したり,数えたり,確認したりという反復行動にとりつかれると,仕事に差しさわるし,結婚生活もうまくいかず,ひととのつきあいもむずかしくなる。家族はいらいらしたり怒ったりして,「やめなさいったら!」と叫ぶ。あるいは波風をたてないように,ばかばかしい儀式を手伝ったり,勧めたりする(これはたいへんにまずい)。

ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (1998). 不安でたまらない人たちへ 草思社 pp.12
(Schwartz, J. M. (1996). Brain Lock. New York: Harper Collins.)

ネガティブなニッチもある

 私たちはすべて,複合的に入り組んだ社会のネットワークにはめこまれている。家族,コニュニティ,そして組織……そのどれもがさまざまに専門化した多くのニッチを提供してくれる。大人のあなたが信念としてもつようになった目的や価値が何であれ,正しいニッチを選ぶかぎりは,自分のパーソナリティ傾向と調和しながらそれを実践して生きる方法がある。これまで何かに取り組んできて,一度として心が落ち着くことがなかったのであれば,ひょっとして自分にあったニッチを目指していなかったのかもしれない。家族や文化,あるいは時代に評価されるようなニッチはもう要らない。そうしたプレッシャーに対して,あなたは敢然と立ち向かう覚悟をもつべきだ。現代の豊かな社会では,提供される社会的役割やライフスタイルはきわめて多様である。社会にはおびただしい人々を押し込むスペースがある----ワーカホリック,家事労働者,親,庭師,あるいは道化,さらには資金調達者,科学者,そして奉仕者……。リストは際限なくつづく。かつての社会はこれほど多様な人々の枠を支えることができなかった。今では,あなたのもつ特性がそのまま有利になるような適所を見出すことは,これまでにないほど可能なはずである。
 だがその一方で,落とし穴にはまる危険もある。その手のニッチは世の中におびただしい。薬物依存症者や犯罪者のためのニッチ,世界が自分なしで動いていくのを横目に見ながら一人孤立して苦しむ人々のためのニッチ,そしてなかでも,自分が何のために生きているのかを見出せないまま,形だけの人生を生きる人々のためのニッチ……。自分にふさわしい良いニッチを探しだすとともに,間違ったニッチを避けるために,心を砕かなければならない。私たちにはそのための自由と力と,そして責任がある。そのことは同時に,ある種の選択に必然的にともなうコストを理解することでもある。あなたが外向性と開放性において高いスコアをもつのであれば,自己を押し出し自己の利益を追求する主体性の能力には問題がないだろう。だがコミュニオン,つまり他の人々との交流については,おろそかになるかもしれない。あなたが高い調和性をもっているならば,無意識にコミュニオンタイプの行動をするだろう。だが,果たして個人としての自分を十分に出しているだろうか。人生においてしばしば私たちは,「回転に逆らった」適応を必要とするかもしれない——自分のパーソナリティが不得手な事柄に意識的に気を配るために。

ダニエル・ネトル 竹内和世(訳) (2009). パーソナリティを科学する 白揚社 pp.260-261
(Nettle, D. (2007). Personality: What makes you the way you are. Oxford: Oxford University Press.)

正しいニッチに収まること

 たとえばあなたが,道徳的かつ論理的見地から考えた結果,自分の時間を捧げる対象として,地球温暖化の意識を高めることが最も大切だという結論に達したとしよう。問題は,あなたの外向性が低く,神経質傾向が高いことである。つまりあなたは,とうてい演壇の上で聴衆に向かって呼びかけたり,あるいはメディアを通じて人々を説得する仕事に向いていないのである。その種のキャンペーンには,大衆の想像力を捉えるカリスマ的指導者や話し手が必要なのだ。なんとか頑張ってやろうとしてもうまくいかず,あなたは挫折した気分に襲われる。では,どうするか。あきらめて他のことをするべきだろうか。どうやったら,自分の価値観が命ずることと,自分がもつパーソナリティとを一致させることができるだろうか。
 現代のすべての複合的な活動と同じく,地球温暖化キャンペーンもまた,多くの面をもっている。必要とされるのは,表に向けるカリスマの顔だけではない。舞台裏で,気候の変動に関する最新の科学的技術を集め,批判の目で査定するためのリサーチワークもまた必要なのだ。ここにあなたの出番がある。自分では気に入らないその内向的性格ゆえに,図書館で静かに資料に向かい,科学的裏付けをとる作業に1日過ごすのを心から楽しめるのだ。大勢の人の前であなたをナーバスにするその神経質傾向こそが,研究のこまごました統計データや方法論を相手に粘り強く取り組むためには理想的なのである。この種の不可欠な仕事は,キャンペーンのスターには絶対に無理だろう。あなたが羨む彼らの高い外向性と低い神経質傾向がそれを阻むからだ。ここにあなたが赴くべきニッチがある。要するに,自分に向いていないことに,時間とエネルギーを浪費しないことである。正しいニッチにいさえすれば,キャンペーンで働く他の人々はあなたを必要とするだろう。そしてあなたが彼らを評価するように,彼らもまたあなたを高く評価するだろう。

ダニエル・ネトル 竹内和世(訳) (2009). パーソナリティを科学する 白揚社 pp.258-259
(Nettle, D. (2007). Personality: What makes you the way you are. Oxford: Oxford University Press.)

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