世界的に見て,人間の幸せの最大の障害といえば,何よりも貧困である。幸福度調査の結果を信じるかぎり,幸福な国はたいてい金持ちである。たとえば,世界178か国中,アメリカは23位,イギリスは41位だが,インドは128位と下位に沈んでいる。最近に国ごとの調査が行われた結果では,金持ちのほうが幸福である傾向にあって,アメリカで「非常に幸福である」と回答したのは,年収25万ドル以上の世帯では約90パーセントだったが,年収3万ドル未満の世帯ではたったの42パーセントだった。ニューヨーク・タイムズ紙が2009年にニューヨーク市民を対象に調査したところ,幸福だと回答する人が多かったのは市内でも指折りの豊かな地区で,偶然ではないが,カフェ,市民センター,劇場など,人と交流できる場所が充実していた。それほど幸福ではない人が多かったのは,建物が廃墟化し,ごみの山が放置され,失業率が市内でもっとも高いことで知られるブロンクス地区だった。
バーバラ・エーレンライク 中島由華(訳) (2010). ポジティブ病の国,アメリカ 河出書房新社 pp.249
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