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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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自分に許可を与えればよい

 リーダーになろうと思ったら,リーダーとしての役割を引き受けることです。ただ自分に許可を与えればいいのです。組織のなかに穴がないか探す。自分が欲しいものを求める。自分のスキルと経験を活かせる方法を見つける。いち早く動こうとする。過去の実績を乗り越える。チャンスはつねにあり,見つけられるのを待っています。誰かに声をかけられるのを待ちながら,慎重に様子を見るのではなく,チャンスはつかみに行くのです。がむしゃらに働かなければいけないし,エネルギーも使います。意欲も必要です。でも,これこそがリーダーをリーダーたらしめている資質であり,指示待ちの一般人とは違っているところなのです。

ティナ・シーリング 高遠裕子(訳) (2010). 20歳のときに知っておきたかったこと:スタンフォード大学 集中講義 阪急コミュニケーションズ pp.86
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許可を待つ人と自分で許可する人

そのうち,人間は2つのタイプに分かれることが分かってきました。自分のやりたいことを誰かに許可されるのを待っている人たちと,自分自身で許可する人たちです。自分自身の内面を見つめて,やりたいことを見つける人がいる一方で,外からの力で押されるのをじっと待っている人もいます。わたしの経験から言えば,誰かがチャンスをくれるのを待つのではなく,自分でつかみに行った方が良い面がたくさんあります。埋められるのを待っているすき間はつねにあり,チャンスが詰まった金塊は地面に転がっていて,拾われるのを待っているのです。机にばかりかじりついていないで,たまには顔をあげ,窓の外を眺めましょう。通りの向こう側や角に,何か見つかるかもしれません。でも,金塊は,それを拾おうという前向きの気持ちを持っている人のために,そこにあるものです。

ティナ・シーリング 高遠裕子(訳) (2010). 20歳のときに知っておきたかったこと:スタンフォード大学 集中講義 阪急コミュニケーションズ pp.72

「許可を求めるな,許しを請え」

 ルールは破られるためにある——こうした考え方が集約されているのが,よく耳にするフレーズ「許可を求めるな,許しを請え」です。ほとんどのルールは,ある世界で最低限守るべきものとして作られていて,右も左もわからない人にとってはヒントになります。何かをしようとするとき,たとえば映画業界に入るとか,会社を興すとか,大学院に行くとか,選挙に立候補するとか,何でもいいのですが,どうすればいいかを人に尋ねたら,その道の人から支援を受けられるようにする方法をいろいろ教えてもらえるでしょう。映画ならエージェントや元手も必要です。大学院に行きたいなら試験を受けて,入学を許可されなくてはなりません。大多数の人は,こうした手順に従いますが,そうでない人もいます。脇道に入ることによって,ルールを迂回し,通常のハードルを飛び越え,目標に到達できる独創的な方法があることを覚えておいて下さい。ほとんどの人が,高速に乗るために幹線道路で延々と続く渋滞の列で待っているとき,目的地まで早く着ける抜け道を探そうとする冒険心の持ち主はいるものです。安全を確保し,秩序を守り,大多数の人々に都合のいいプロセスをつくるためです。ですが,ルールは疑ってみる価値はあります。いつも通る道が塞がっていたとしても,ルールを迂回して脇道を通れば目的地にたどり着けることだってあるのです。

ティナ・シーリング 高遠裕子(訳) (2010). 20歳のときに知っておきたかったこと:スタンフォード大学 集中講義 阪急コミュニケーションズ pp.63-64

アイデアを発展させる演習

 とはいえ,実際にブレイン・ストーミングに参加した経験があるなら,そんな風にうまくいかないことはご存知でしょう。言い出しっぺは自分だ,このアイデアは自分のものだという感覚からはなかなか抜けられません。『Improv Wisdom(即興の知恵)』を書いたパトリシア・ライアン・マドソンは,「アイデアに悪いものなどない」と「ほかの人のアイデアを発展させる」という2つの命題を両立させる,すばらしい演習を編み出しました。まず,グループを2人組に分けます。ひとりがパーティを計画し,もうひとりに提案します。提案された方は,どんなアイデアも否定し,どうしてダメなのか理由を言わなくてはなりません。たとえば,「土曜の夜にパーティをしよう」と誘われたら,「ダメ。美容院に行かなくてはいけないから」などと答えるのです。これを2,3分続けると,提案する方はフラストレーションが溜まりますが,その一方で,なんとか相手にイエスと言わせるアイデアを思いつこうと頑張ります。しばらくしたら役割を交代し,いままでノーと答えてきた人が,パーティの案を考えることにします。提案された方は,今度はすべてイエスと答え,なにか付け加えなければいけません。たとえば,「土曜の夜にパーティをしよう」と言われたら,「そうしましょう。わたしはケーキを持っていくわ」などと答えるわけです。これをしばらく続けていると,思いも寄らない飛躍をすることになります。パーティが開かれる場所が海中やよその惑星だったり,見たこともない料理や,奇抜な余興が用意されたりすることになります。その場のエネルギーが高まり,気持ちが高揚し,数え切れないほどのアイデアがつぎつぎと生まれます。

ティナ・シーリング 高遠裕子(訳) (2010). 20歳のときに知っておきたかったこと:スタンフォード大学 集中講義 阪急コミュニケーションズ pp.57-58

「品格のある」金持ちになれるかどうか

 何度も言うが,お金を稼ぐことは,決して悪ではなく「善」だ。
 問題は,稼いだお金をどう使うか。いわば,どう世の中に回していくかで,あなた自身が「品格のある」お金持ちになれるかどうかが決まるのだ。
 いつまでもお金の奴隷でいたくないなら,100稼いだうちの30だけでも投資に回して運用すること。
 そうすれば,あなたの資産も増える可能性があるし,運用することで社会の役にも立てるってわけだ。

田口智隆 (2010). 11歳のバフェットが教えてくれる「経済」の授業 フォレスト出版 pp.197

資本主義というやつ

 実はこのように,ビジネスの仕組みを作った資本家が,労働者を使用して利益を得るシステムが,「資本主義」というやつなのだ。
 資本家になれば,多かれ少なかれ,バフェットのようにお金の奴隷から抜け出すことができるし,余ったお金と時間で,自分が本当に好きなことだけを追求することができる。
 私が,今こうして本を書く時間を得られたのも,資本家となり,お金の奴隷から抜け出すことができたからこそなのだ。
 もちろん,どちらを選ぶかは,あなたの自由。
 選択の自由が与えられていることも,資本主義の特徴なのだから。

田口智隆 (2010). 11歳のバフェットが教えてくれる「経済」の授業 フォレスト出版 pp.81

「社会のニーズに応えて」

 清流に鮎がいるといっても,鮎が清流を作ったわけじゃないだろう。綺麗な水だったから,鮎が棲んでるってだけのことだよ。
 一番間抜けなのは,「社会のニーズに応えて」っていうの。
 そうじゃなくて,そういうものを偶然作っちゃった人が当たっただけ。そういうもんだと思うよ。

ビートたけし (2005). 悪口の技術 新潮社 p.64

モーツァルト効果の現実

 「モーツァルト効果」は都市伝説化し,大勢の人がモーツァルトの音楽を聞くとさまざまな能力が向上し,その効果は永続的で,乳幼児にも効き目があると信じ込んだ。だが,1990年代が終わって21世紀に入ると,状況は一変した。まず,ハーヴァード大学のクリストファー・チャブリスが,ラウシャーによるもともとの実験をなぞったすべての実験結果を集め,この効果は(実際に存在すると仮定して),当初考えられていたよりもはるかに小さいと結論した。そして,べつの研究では,実際に効果があるとしてもモーツァルトの2台のピアノのためのソナタ・ニ短調に限定されたものではなく,このタイプのクラシック音楽から生まれる一般的な幸福感と結びつくものだと指摘した。またある研究者は,被験者にモーツァルトの音楽と,それよりもっと悲しい音楽(アルビノーニのアダージョ・ト短調)を聞かせて効果を比較し,やはりモーツァルトの効果のほうが上であることを発見した。
 だが研究チームが,音楽がいかに参加者の気持ちを沸き立たせ,しあわせにするかをほかの音楽で対照実験したところ,モーツァルト効果が急に消えてしまった。さらにべつの研究では,モーツァルトを聞いたときの効果と,スティーヴン・キングの小説『死のスワンダイブ』の朗読テープを聞いたときの効果とが比較された。キングよりモーツァルトのほうが好きだと答えた参加者は,思考能力テストではキングの小説を聞いたときのほうが,成績がよかった。しかもモーツァルトよりキングのほうが好きだと答えた参加者も,小説の朗読を聞いたあとのほうがいい成績をとった。

リチャード・ワイズマン 木村博江(訳) (2010). その科学が成功を決める 文藝春秋 pp.236-237

関係を続けるコツ

 ゴットマンによると,関係が壊れかけたときに相手の言葉を言い換えたり理解を示したりしても助けにならない。しかも実行には「感情のアクロバット的な操作」が必要で,ふつうの人にはむずかしすぎるという。チームの結論は議論を呼びそうだ。とくにアクティブ・リスニングの考え方を信奉するカウンセラーには受け入れられにくいだろう。だがべつの研究でも,アクティブ・リスニングが人間関係の要であることを裏づける証拠は見つかっていない。
 相手の言葉に耳を傾け,相槌を打つことが円満の秘訣でないとしたら,どうすればいいのだろう。ゴットマンは,長続きするしあわせな男女のカップルは,対立したときのパターンに独特の特徴があると指摘している。女性のほうがたいてい厄介な問題を切り出し,問題について分析をおこない,解決法をいくつか提示する。男性がその案を一部でも受け入れて,パートナーに協力する姿勢を見せると,その後も関係が続く可能性が高い。だが,男性が相手の言葉をはぐらかしたり馬鹿にしたりすると、関係が壊れやすい。

リチャード・ワイズマン 木村博江(訳) (2010). その科学が成功を決める 文藝春秋 pp.183-184

創造性を働かせる方法

 アプ・ダイクステルホイスは,意識をそらせることで創造力が高まるかどうかを調べるため,いくつか実験をおこなった。なかでも有名なのが,参加者に新しいパスタの名前を考えてもらうというものだった。ヒントとして,実験者はまず5つの名前を例に挙げた。どれも最後が“i(イ)”で終わる,いかにもパスタらしい響きをもつ名前だった。そして参加者の半数には,3分間考える時間をあたえたあと,思いついた名前を書き出してもらった。「部屋の中の2人の男」の比喩と同じく,参加者たちは自分の頭の中の,声は大きいが創造力に欠ける男の言葉に耳を貸していた。参加者のもう半数にはパスタのことは忘れてもらい,かわりに3分間コンピュータスクリーンを動く1つの点を目で追って,点の色が変わるごとにマウスをクリックするよう頼んだ。これは部屋の比喩で言えば,声の大きな男の気をそらさせ,無口な男に話させる作業だった。この集中が必要な作業のあとで,実験者は彼らにパスタの新しい名前を書き出してもらった。
 実験者は,参加者たちが書き出したパスタの名前の創造性を測るために,簡単で有効な方法をとった。すべての回答を集めて,最後が“i”で終わる名前と,そうではないものとを数えたのだ。実験の最初にヒントとしてあたえた5つの例はすべて“i”で終わる名前だった。だから“i”で終わる名前は,参加者がお手本通りにしただけで,創造性はない。かたやべつの文字で終わる名前には,独創性があると考えたのだ。
 結果は驚くべきものだった。意識して作業に取り組んだ参加者が考え出したパスタの名前は,パソコンスクリーンで点を追った参加者より,最後が“i”で終わるものが多かった。そして,名前のユニークさをくらべてみると,点を追っていた参加者のほうが,もう片方のグループの2倍も斬新な名前を考えだしていた。声の大きな男が気をそらしていれば,無口で創造的な男の声が聞こえてくる。「部屋にいる2人の男」の理論が,実験で証明されたのだ。

リチャード・ワイズマン 木村博江(訳) (2010). その科学が成功を決める 文藝春秋 pp.113-114

二重思考の効用

 作家のジョージ・オーウェルは小説『1984』の中で,二重思考の概念を登場させた。自分の中に相反する2つの考え方を共存させ,両方とも受け入れることである。オーウェルの小説でこの方法を使うのは,たえず歴史を改竄しつづけ,大衆支配をもくろむ独裁政府である。だが最近の研究で,同じ手法のもっと前向きな使い方が示された。目標を達成し夢を実現させるために,応用ができるのだ。エッティンゲンはやる気を出すには,自分の目標達成について楽観的になる(プラス)と同時に,行く手に待ち構える問題(マイナス)を現実的に捉えるほうがいいと考えた。それを実証するため,彼女は風変わりな設定で参加者にプラスとマイナスの両方を考えてもらい,一連の実験でその有効性を調べた。
 やり方は簡単だ。まず参加者は減量,新しい技術の習得,節酒など自分が達成したい目標について考える。つぎに目標を達成したときの自分をしばらく想像し,目標達成でえられる最高のメリットを2つ書き出す。続いて参加者は,目標達成を目指す過程で遭遇しそうな困難や障害についてしばらく想像し,最大の障害を2つ書き出す。ここで二重思考が登場する。参加者は第1のメリットについて,それによって自分の生活がどれほど楽しくなるか細かく具体的に考える。その直後に,成功の前に立ちはだかる第1の障害について,遭遇したとき自分はどうするか細かく具体的に考える。同じことを第2のメリットと第2の障害についてもおこなう。
 いくつかの実験を通して,エッティンゲンはこの方法にプラスとマイナスの相乗効果があることを発見した。たとえば参加者が対人関係の改善を望んだ場合,二重思考をとるほうがたんにプラスだけの場面,あるいはマイナスだけの場面を想像したときより,成功する割合が高かった。エッティンゲンは,ひそかに恋心を抱く学生を対象とした実験に,二重思考の方法を取り入れてみた。夢と現実の両方を自分の中に取り入れた学生は,ひたすら甘いデートを夢見たり,恋心を打ち明けるむずかしさばかりを考えたりする学生より,恋に成功する割合が高かった。二重思考は,職場でも役立つことが証明された。社員を研修コースに参加させる,部下を効果的に使う,時間管理能力を上げるときなどに効き目があったのだ。

リチャード・ワイズマン 木村博江(訳) (2010). その科学が成功を決める 文藝春秋 pp.93-94

どの財布が戻ってくる?

 私は240個の財布を買い,宝くじ,割引チケット,にせのメンバーズカードなど,ありふれたものを入れた。それに加えて40個ずつ4組,合計160個の財布に4種類の写真を1枚ずつ入れた。笑顔の赤ちゃん,かわいい子犬,しあわせな家族,穏やかな老夫婦の写真である。5組目の40個の財布には持主が最近慈善事業に寄付をしたことを示すカードをつけ加え,6組目の40個の財布にはなにもつけ加えなかった。つけ加えたものは,財布を開いたときにすぐ目につくような透明なビニールの窓の中に入れた。そのように準備した財布をすべてごちゃまぜにしたあと,通行人の多い通りに1つずつこっそり落とした。ただし郵便ポスト,ごみ箱,ゲロや犬の糞から離れた場所を選んだ。
 1週間で52パーセントの財布がもどり,明確なパターンが浮かび上がった。返ってきた財布のうち,6パーセントはなにも加えなかったもの,8パーセントは慈善カードをつけ加えたものだった。老夫婦,かわいい子犬,しあわせな家族の写真を加えた財布が返ってきた割合はそれぞれ11,19,21パーセント。抜群に成績がよかったのは,笑っている赤ちゃんの写真を加えた財布で,なんと35パーセントがもどった。

リチャード・ワイズマン 木村博江(訳) (2010). その科学が成功を決める 文藝春秋 pp.75

傍観者効果

 「傍観者効果」と呼ばれるようになったこの現象について,ラタネとダーリーが調べはじめたのは,キティ・ジェノヴェーゼの殺害を38人もの人が目撃しながら,手を貸そうとしなかった事件が発端だった。だが最近の調査では,当時のメディアが事件を報道する際に,人びとの冷淡さを誇張して伝えた可能性も浮上している。事件を担当した弁護士の1人は,目撃者としてつきとめられたのは6人ほどだったと語っている。しかもそのうちジェノヴェーゼが刺される現場を見た人は1人もなく,事件の最中に警察に通報したと言っている人が,少なくとも1人いるという。だが,当日実際になにがあったにせよ,報道に触発された数々の実験で,助けが必要なとき周囲にいくら人がいてもあてにならない理由が,かなり解明されたことは事実である。

リチャード・ワイズマン 木村博江(訳) (2010). その科学が成功を決める 文藝春秋 pp.65-66

引用者注:Kitty Genoveseは,「キティ・ジェノヴィーズ」とカタカナにされることが一般的でしょう。

面接を成功させるには

 ヒギンズとジャッジは大学卒業後の就職活動にのぞんだ100人以上の学生を対象に調査をおこなった。2人はまず学生たちの履歴書に目を通し,たいていの雇い主が採用条件の二大要素としている,仕事への適性と経験について調べた。そして就職試験で面接を終えた学生たちに,面接での対応についてアンケートに答えてもらった。内容は自分の長所をアピールできたか,会社に対する興味を示したか,求められている人材について面接官に質問したかなどである。研究チームは面接官とも連絡をとり,いくつかの点を確認した。応募者の面接での態度,会社への適性,仕事に必要な能力,そして最も重要な採用結果などを訊ねたのだ。
 集めたデータを分析した結果,研究チームは雇い主が人を採用する決め手について,これまでの説がまちがっていたことを,意外な事実とともに発見した。採用の決め手は適性か,それとも経験か。じつはどちらでもなかった。だいじなのはただ1つ。応募者の好感度だった。感じのいい印象をあたえた応募者は合格の割合が高かった。彼らはいくつかの方法で面接官を惹きつけ,売込みに成功していたのだ。
 その方法とは。仕事とは無関係だが,自分と面接官がたがいに興味をもてる話題で盛り上がる。笑顔を浮かべ,相手と目をあわせる。会社をほめる。この積極性の連続攻撃が,効力を発揮した。これほど感じがよくて社交性のある人材なら,職場にもすぐ溶けこむはずだと面接官が確信し,採用になったのだ。

リチャード・ワイズマン 木村博江(訳) (2010). その科学が成功を決める 文藝春秋 pp.45

ポジティブ心理学への批判

 10年ほど前から,「ポジティブ心理学」なる新しい学問を支持する人びとは,楽観主義,あるいはポジティブな態度をもってすれば,がんはもちろん,体の不調のほとんどを克服できると主張している。だが,コインらが指摘するように,その理屈は,よくいっても当てにならない。幸せな心と健やかな体とを関連づける——前向きな考え方によって免疫機能が高まることを示す——理論上の要にしても,数年前にさんざん叩きつぶされた。ケンタッキー大学のスーザン・セガストローム准教授が,本人にも意外に思える発見をした。深刻な病気をわずらっているときなど,きわめて大きなストレス要因を抱えている場合には,楽観主義が免疫機能に悪影響を及ぼすこともあるというのだ。

バーバラ・エーレンライク 中島由華(訳) (2009). スーパーリッチとスーパープアの国,アメリカ:格差社会アメリカのとんでもない現実 河出書房新社 pp.158-159

「あなたの話をするのです」

 就職できないことを心から恥だと思えない人向けには恥辱産業があって,そういう感情をきちんと形作ってくれる。キャリアコーチ,自己啓発本,モチベーショナルスピーカー,ビジネスの権威が,自分に何が起ころうと,すべては自分の「態度」の結果であると説くのである。レイオフされて,仕事がなかなか見つからないって?あなたは「ネガティブ」すぎて,ネガティブな環境を引き寄せている。私は,あるキャリアコーチがこういっているのを聞いたことがある。「ここでは景気や市場の話はしません。あなたの話をするのです」

バーバラ・エーレンライク 中島由華(訳) (2009). スーパーリッチとスーパープアの国,アメリカ:格差社会アメリカのとんでもない現実 河出書房新社 pp.71

住宅補助プログラム=服役

 貧困から逃避するために刑務所を利用するのは,目新しいことではない。現在,アメリカには服役中の囚人が200万人以上いて,その大半が下級階級に属する人びとである。じっさい,刑務所に送られる者は増加しているが,社会保障制度は縮小されている。アメリカ政府の提供する囚人用ベッドは200万台だが,貧困者向けの公営住宅は130万戸しかないうえに,急速に減少しつつある。バウアーズは兵役免除者向けの住宅補助プログラムに応募することもできたが,一部の都市では待機期間がきわめて長く,禁固3年の方が短いくらいなのだ。
 つまり,いまという時代に,アメリカでもっとも大規模な住宅補助プログラムは服役制度だという事態になりかけている。

バーバラ・エーレンライク 中島由華(訳) (2009). スーパーリッチとスーパープアの国,アメリカ:格差社会アメリカのとんでもない現実 河出書房新社 pp.58

偽薬を使う必要はない

 最後にもうひとつ,プラセボ効果に頼った治療を避けなければならない理由がある。実際,その理由は非常に有力なので,偽の薬や治療法を日常的に利用する必要はどこにもなく,まったく正当化できないことがすぐに明らかになるだろう。プラセボ効果はときに非常に有益なものになるという点は誰も否定しない。しかし実を言えば,プラセボ効果を引き出すために,偽薬を使う必要はないのだ。一見すると逆説的だが,少し詳しく説明すれば,あまりにも当然のことだとわかるだろう。
 医師が効果の証明された薬を処方すれば,患者には生化学的,生理学的な効果があるだろう。そしてその効き目は,プラセボ効果によってつねに強められるということを思い出そう。薬の標準的な効果のほかに,その薬が効くと患者が期待することによって,標準的なレベルを上まわる効果があるはずなのだ。それなのになぜ,プラセボ効果だけしかない治療を受けなければならないのだろうか?なぜセラピストは,プラセボ効果だけしかない薬を使うのだろう?それは患者を騙しているだけではないのだろうか?

サイモン・シン&エツァート・エルンスト 青木薫(訳) (2010). 代替医療のトリック 新潮社 pp.318-319

ホメオパシー医療の行く末

 医者は患者に嘘をつくべきではないから,プラセボ効果を当然のように利用するわけにはいかないという著者たちの立場は,厳格すぎると思う人もいるだろう。実際,われわれの立場に反対する人たちは,象牙の塔の住人が言いそうな倫理を振りかざした理屈よりも,嘘をつくことで得られる受益性のほうが大きいと言う。そういう人たちは,患者の健康のためならば,罪のない嘘をつくぐらいは許されると思っている。それに対してわれわれは,こっそりプラセボ効果を利用することが当たり前になれば,医療に詐欺文化が広まり,医療という職業が蝕まれていくもとになると反論したい。もしもホメオパシーのようなプラセボ効果に頼った薬を処方したら,医療はどうなったものになるか考えてみよう。

1 医師はホメオパシーには中身がないことがバレないように共謀して口をつぐまなければならない。医師は誰ひとり,「王様は裸だ」と言うことを許されない。それを言えば,ホメオパシーのプラセボ効果が台無しになるからだ。

2 医療研究者は病気を理解すること,つまりその病気の原因と治療法を探ることが仕事なので,その共謀関係には加わらないだろう。進歩の名において,そして名誉にかけて,今日得られている研究結果は,ホメオパシーを支持しないと指摘するだろう。

3 ホメオパシーの処方薬は,ちょうどゲートウェイドラッグ(より強い麻薬にのめり込む入り口となる弱い薬物)のような役割を果たし,患者に理屈では説明できないほかの治療法も試してみようと思わせる。デーヴィッド・コフーン教授は,油断のならないホメオパシー・レメディの危険性を,次のように巧みに言い表した。「ホメオパスのくれる砂糖粒には何も含まれていないのだから,体には毒にならないだろう。むしろ危険なのは,人の心を毒することだ」

4 親は子どもを守ろうとして,ワクチンなど,命を守る医療介入を勧める科学者の言葉を無視し,ホメオパスが勧める代替の(そして効果のない)方法を用いるかもしれない。啓蒙の時代が始まってから2世紀の進歩を経た今になって,《科学的根拠にもとづく医療》から撤退するという決断を下せば,新たな蒙昧の時代へと逆戻りしかねない。

5 製薬会社は,自分たちも偽の薬剤を売出してもいいはずだと強く言えるようになる。偽薬の砂糖粒を万能薬と称して売ればはるかに儲かる商売になるというのに,金のかかる新薬開発の手順を踏む必要があるだろうか。

サイモン・シン&エツァート・エルンスト 青木薫(訳) (2010). 代替医療のトリック 新潮社 pp.317-318

ハーブは安全か

 ハーブ薬が通常医療の薬と干渉して問題が起こる理由のひとつは,一般の人たちはハーブ薬が危険だとは思っていないからだろう。多くの人は,ハーブ薬は天然なのだから安全だと思い込んでいる。たとえばイスラエルで行われたある調査では,ハーブ薬を使っている人の56パーセントは,「副作用はない」と信じていた。そうだとすれば,次のような調査結果が出るのも無理はない。ロンドンのロイヤルマースデン病院で,外来でガンの治療を受けている患者318名に対して行われた調査によると,患者の52パーセントが代替医療のサプリメントを服用していたが,担当の医師や看護師にそのことを伝えていた者は半数に満たなかった。

サイモン・シン&エツァート・エルンスト 青木薫(訳) (2010). 代替医療のトリック 新潮社 pp.266

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