「女は……であるべきだ」という考え方をステレオタイプと呼ぶが,女性が自分自身に対して持つステレオタイプが空間能力の差を生んでいることを示唆する研究は少なくない。
たとえば,心理学者のブロスナンは,こんな巧妙な実験をしている。その実験では,複雑な図形の中に埋め込まれた図形を探すという課題を行った。この課題は本来は空間能力を試すものだが,ある群にはその通りに教え,別の群には「これは共感性を試すものだ」と偽って実験をした。
もし女性が自分に対するステレオタイプのために,空間的課題で能力を無意識のうちに発揮できないとしたら,「空間能力のテストだ」と言われた群の成績はやはり男女で差があるだろう。しかし,一般に共感性は女性の特性だと思われているから,「共感性のテストである」と偽って告げられた群では,男女の差はそれほど生じないと予想される。そして,結果はまさにその通りだったのである。
村越 真 (2003). 方向オンチの謎がわかる本 集英社 pp.78-79
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