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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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プライベートバンクの存在理由

 それでは,プライベートバンクはなんのために存在するのだろうか。そこには,ふたつの理由がある。
 ひとつは裕福な個人投資家に,機関投資家並みの多様な金融商品にアクセスする機会を提供することである。個人の証券会社にも富裕層向けの営業部門があるが,そこで扱うのは日本株や国債・社債,投資信託くらいのものだ。それに対してプライベートバンクは,アメリカ,ヨーロッパ,日本,エマージング(新興市場)を問わず,株式や債券,ヘッジファンドまで市場で売っているものならなんでも調達してきてくれる(金融機関によって取扱商品は異なる)。相応の金融資産を持ち,効率的に国際分散投資を行ないたい個人投資家には便利な機能だ。
 もうひとつは,法人や信託,投資組合などさまざまな投資主体を利用できることである。個人事務所や会計事務所と提携しているので,電話一本ですべてやってくれる。
 取引の匿名性に魅力を感じる顧客もいるだろう。海外のプライベートバンクに口座を開設し,日本市場で株式を売買すれば,真の取引主体は日本側ではわからない。これは,仕手株などの投資には有効な方法だ。
 ここであらためて確認しておくと,プライベートバンクを利用したこうした取引は,日本国の法令に照らしてすべて合法である。海外の金融機関で資産を運用することも,海外に法人や投資会社を設立することも,所得の申告など定められた手続きさえ行なっていればなんの問題もない。

橘 玲 (2006). マネーロンダリング入門:国際金融詐欺からテロ資金まで 幻冬舎 pp.99-100
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プライベートバンクの意味

 多くの人が誤解しているが,プライベートバンクは本来,「個人のための」銀行ではなく「個人所有の」銀行のことである。スイス・ジュネーブのプライベートバンカーズ協会に加入するピクテやロンバード・オーディエ・ダリエ・ヘンチなどの名門銀行はほとんどが18世紀に創設され,王侯貴族などヨーロッパの富裕層の財産管理を営々と行ってきた。こうした伝統的プライベートバンクの特徴は,オーナー一族が自らの財産で設立し,無限責任によって運営されていることだ。経営に失敗すればオーナー自身が破産するというこの仕組みが,資産の保全を望む顧客の信用の源泉になっている。

橘 玲 (2006). マネーロンダリング入門:国際金融詐欺からテロ資金まで 幻冬舎 p.54.

ネット世代へのアドバイス

 最後にネット世代に向けたアドバイスを送りたい。

1.大学へ行こう。そこは,高校よりはるかにおもしろい。そして,知識経済の中で成功していくためには学歴が必要だ。いずれにせよ勉強は一生を通じてしていかなければならない。小説を読んで心を豊かにしよう。ライティングと文法のスキルを磨こう。ネットでのスラングを学校や職場で使うのはやめよう。場を考えることが大事だ。
2.職場では忍耐強くしよう。特に旧式のテクノロジーそして,官僚主義的なものの進め方について言えることだ。すぐに辞めてしまうのではなく,しばらくは会社に留まり,変化のために行動しよう。ネット世代には価値がある。ネット世代のコラボレーションに関する知識がイノベーションと今世紀の成功を推進する。ベビーブーム世代は良き仲間だ。彼らにはネット世代の子供がおり,そのテクノロジーの活用法を理解している可能性が高い。仕事と生活を分離すべきでないという考え方は正しい。2つは両立するものだ。
3.悪い製品を買ってはいけない。企業に誠実に行動させるようにしよう。ネット世代には,企業のやり方を精査して,共同で対抗できる力がある。企業を丸裸にできる。これは企業にとっても良いことだし,他の誰にとっても良いことだ。企業が自らを磨くことになるからだ。
4.家族で夕食を取ろう。子供たちといろいろな価値観について話すには最適な場所だ。子供たちのオンラインでの安全性とプライバシーを守るために,そして,子供たちが適切な生活バランスを維持していけるように,子供たちと話し合うことが必要だ。子供たちは不適切な行動を取らなくなる。そして親は子供たちの行動を詮索したり,過保護になったりしないことを約束すべきだ。
5.経験を軽視してはいけない。何か重要なことの権威者であっても,すべてのことの権威であることはない。企業に入社すれば,年長世代に教えることも数多くある一方で,彼らから学ぶことも数多くある。もし,その組織でうまくやっていけない場合には,起業家,活動家,教師などその経験を生かせる選択肢はいくらでもある。
6.“かけがえのない人生”の原則に従って生きよう。人生は一度きりだ。大切にしよう。金がすべてでないというのは正しい。もちろん,経済的に豊かになるのは重要だが,未来にはそれ以上のものがある。子供が引き継ぐことになる世界について考え,良い場所にするために何ができるかを考えよう。地域コミュニティに参加しよう。政治活動に参加しよう。正しいことを実行しよう。
7.最後まであきらめてはいけない。年長者がネット世代を批判する時はそれを個人的な悪口と受け取ってはならない。ネット世代は最も賢い世代だ。本当だ。そして,最初のグローバルな世代でもある。この世代ならば世界をより良くしていくことができるはずだ。他者に手を差し伸べ,辛抱強く,理想を実現していこう。

ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 pp.457-458

政治の記録も残る

 インターネットの隆盛によって,若い有権者が手にしているのは,態度を反転させた政治家の行動の膨大なアーカイブである。しかし,今日の政治家が信頼関係を破れば,どんな些細なことでも記録されてしまう。あらゆる映像や音声がオンラインにアップロードされてしまう。今日の若者の多く,特に大学生は,時事問題に対する辛辣な解説で有名なバラエティ番組「ザ・デイリー・ショー」を見ている。この番組が得意とする手法は,政治家の最近の発言と過去の発言を比較することだ。目に余る矛盾はいつも笑いの種になる。この番組は,ネット世代の観察能力,そして,誠実性を欠く人物に対する攻撃能力を強化している。

ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 p.390

行政もネットをうまく利用せよ

 ここで私が提案しているのは,国民が夕方のニュースやウェブサイトで毎晩投票できるという一種の直接民主主義制ではない。それではデジタルの暴徒が押し寄せるのと同じだ。民主主義は,毎晩多数決を繰り返せば実現されるわけではない。ほとんどの人々はあらゆる課題に精通するための時間も,思想背景も,専門知識も持ち合わせていない。政府は合理的意見を必要としているのであって,意見なら何でもよいというわけではない。
 私の提案は,国民が,社会問題への新しい解決策について関与し,学び,それを革新するために,意思決定プロセスにアイデアを提供する方法だ。機は熟し切っている。今日,公共部門の政策専門家は問題の定義だけで精一杯になっており,解決策の策定どころではない状態だ。次々と出てくる無数の課題に対応できるような専門的知識を,政府機関内部のみで集めることは不可能だ。政府は一部の有権者と公選議員の間での継続的対話の機会を作り出す必要がある。インターネットにより,ウェブベースで背景情報やオンライン討論やフィードバック機能を提供すれば,ほとんど経費をかけずに国民からのインプットを集めることができる。政府は国民の力を借りて政策課題を設定することができ,そのような課題を継続的に更新していくことができる。このような活動は市民の関心を喚起し,地域や社会全体で実際の取り組みを始める上での触媒となるだろう。

ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 p.381

従来通りのやり方でやれば良い

 これは親にとって大きな課題だ。子供たちが道を誤り,危険な領域に進み始めてしまったら,彼らのインターネット上での冒険にどう対応すればよいのだろう。まずはものごとを大局的にとらえることから初めてみよう。子供の死亡原因で最大のものは交通事故だ。2000年から2005年の間に米国では8歳から17歳の子供およそ9807人が自動車事故で亡くなった。そのうち10代が運転する車に乗っていたのは半数以上,また死亡した子供の3分の2がシートベルトをしていなかった。であれば,世の中の親がシートベルトに関して神経をとがらせるのであれば納得がいく。ところが私たちは,この目の前にある共通の殺人要因については恐れを感じていない。自分たちの制御できないところに潜む,目に見えない脅威への恐怖の方がずっと大きいのだ。とはいえ私は,子供を世界での冒険に送り出すための準備としては,従来通りのやり方が有効だと信じている。
 賢い親は,たとえそれが可能であったとしても,家の外での冒険に出かける子供に毎回同伴したりはしないし,すべての電話をモニターしたり,パンフレットや本を全部見たり,家の中のテレビやパソコンの画面をいちいち調べたりはしない。同様に知らない人が校庭に潜んでいたり,恐ろしい画像が家のパソコンに表示されるかもしれなかったりする不完全な世界で,自分を守るための最善の手段を子供たちに教えるのがインターネット的に言って賢い親だ。しかし2002年の時点では,インターネット上での安全を守るための習慣について子供と話したことのある親は半数にも満たない。

ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 pp.343-344

フィルタリングソフトよりも大切なこと

 アレックスが12歳の時,私は本音で父親と息子の会話をしようと一緒に座った。
 「ポルノって何なのか知ってるかい」と私は質問した。「知ってる」と息子が答える。「ポルノサイトに行ったことはあるかい」「ううん,ないよ」「そうか,ポルノについて話をしたいんだが」と私は言う。「パパ,ああいうのって,女の子をデートに誘えない負け組のためのものじゃないの」
 これは幸先が良いぞと私は思った。結果的に私たちは,ポルノがいかに女性を傷つけ,本当に好きな女性との性的な喜びを台無しにするか話し合った。そうして私たちは前述のような契約を結び,握手した。
 1年後,私たちの対処法に反対の立場を取るジャーナリストにインタビューを受けた。
 「けれどもドン,フィルタリングソフトの機能は大きく向上しているんですよ。どうして使わないんですか」と彼女は言った。それから「子供が親のクレジットカードで2千ドルもするソフトをインターネットで買ってしまうことを未然に防止する」ために使えるというプログラムについて説明してくれた。ちょっと考えてから私はこう答えた。「自分の子供が勝手に親のクレジットカードを使って金を盗んでしまうなら,それ自体が大きな問題です。解決策はソフトではないでしょう」。そういう行為をする子供には,正しい価値観や親との関係など,別のものが必要なのは明白だ。
 子供にポルノを見てもらいたくないならそのことを子供と話しましょう,というのがこの問題に対する私の結論だ。

ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 p.342

大規模なネットワーク

 ネット世代は,桁違いに大規模で,はるかに複雑で,同時にきわめて効率的でもあるネットワークを使用している。これは,その親の世代では実現不可能だったレベルだ。私がニキの今の年齢だった頃には,せいぜい十数人の友人しか維持できなかった。対面のやりとりが必要だったからである。電話は高価であり,飛行機に乗って会いに行くのは問題外だった。しかし,今では若者たちが,10年前には想像もできなかった大規模なソーシャルネットワークに参画している。地理的な距離や時差はもはや障害ではない。ソーシャルネットワークのメンバーは,過去と比べてはるかにかつ容易に他の人々とコンタクトできる。

ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 p.282

実践共同体という発想

 企業は,大学の卒業生ネットワークのモデルと同様に社員をウェブでつながった個人の集まりと考えるべきだ。元社員から成るネットワークは,企業の内部の仕組みに対して深い知識を持っており,退職した後も大きな価値を提供してくれる。ソーシャルネットワーキング,コミュニティ・オブ・プラクティス(実践共同体),そして,その他のウェブ2.0プラットフォームにより,社員も元社員も共に情報を交換することができる。ネット世代の社員はこのような思考形態を歓迎するだろう。これは,彼らにとって自然な発想だからだ。

ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 pp.265-266

労働力が不足するということ

 労働力の不足は,特に科学と工学の分野において深刻だ。米国商務省の副次長であるジョン・ベイリーは,今日の科学・工学分野では労働者の4人の1人が50歳以上であると述べている。そして,この分野における成長ペースは労働者の供給ペースよりもはるかに速い。知識労働者の需要が高まる一方で供給は縮小している。過去10年間において4年制の工学部学生の数は大きく減少した。また,科学や工学系の学部に進む学生の数も減少している。大学は,既存のベビーブーム世代が抜けた穴を埋めるに十分な工学系新卒者を生み出していない。企業の成長に必要な新卒者を確保するどころの話ではないのだ。
 米国内の一部分野における労働力の不足により,企業は海外に人材を求めている。新興経済国の多くにおいてネット世代の数は戦後世代を大きく凌駕している。中国では,ネット世代の人口はベビーブーム世代の人口よりも8千万人多い。インドや南米でも,ネット世代の人口はきわめて多い。たとえば,インドではネット世代の人口はベビーブーム世代のおよそ2倍である。インドでは毎年250万人の大学新卒者が生まれており,そのほとんどが英語を使える。インドの学生の雇用コストは米国の大卒者の12パーセントであり,その平均的労働時間は年間450時間も多い。これは,雇用主である企業にとっては良いニュースだ。世界の新興経済がいまだかつてないレベルの若い労働力を提供してくれ,そのコストは北米や欧州と比べて安価なことが多い。低賃金の国ではおよそ3900万人の若いプロフェッショナルが存在するのに対して,高賃金の国ではその数はおよそ1800万人である。

ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 p.231

一般教養や科学を学ぶべき理由

 大学生にとってみれば,1年生の時に習った技術的内容が卒業時点では古くなっている可能性もある。これこそが,一般教養と科学を教えるべき重要な理由だ。どう学ぶかを学び,変化する物事を理解する能力を身につけられるからだ。私の場合も一般教養課程での勉強は役に立っている。私がデジタルの世界で成功できたことは私の一般教養課程での経験によるところが大きい。

ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 pp.211-212

覚えなくても調べればいい

 ここで,大学卒業後にエンジェネラに入社し,今はデトロイトの花形コンサルタントになった20代の優秀な若者のことが思い出される。彼のGMATのスコアは群を抜いており,会社でも高く評価されていた。しかし,彼は米国の地理をほとんど知らないそうだ。グーグルで調べることができるからだ。さらに,もし米国地理に関するテストを受けることになっても,1時間あれば記憶できるそうだ。であれば,なぜその情報を覚えておく必要があるのだろうか。高度な思考作業に集中した方がよいというわけだ。
 ここで,地理を覚えたり,知っていたりする必要がないと主張したいわけではない。18歳から24歳の若者のおよそ半数がニュースに出てきた国がどこにあるかを知る必要はないと言い,大学で勉強した若者のおよそ4分の3がイラク,イラン,サウジアラビアを地図で示すことができないというのは滑稽以外の何者でもない。ヘースティングスの戦いという歴史的事実があったこと自体を知っていなければウィキペディアで調べることもできないだろう。しかし,詳細を覚えるために苦労する必要はない。調べればすぐわかるからだ。

ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 pp.170-171

インターネットの方が創造的

 明らかに,テレビの前に座っているよりも,インターネットで調べものをしている方がはるかに創造的だ。若い作家にとっては,これは願ってもないことだ。たとえば,私の家の数ブロック隣に住んでいる13歳の少女ゾー・ノウルズの例を挙げてみよう。ゾーは生まれて初めて小説を書き,FicWadというウェブサイトに投稿している。このウェブサイトの作品はテレビ番組,映画,漫画の派生作品であることもあるし,まったくオリジナル作品であることもある。彼女の作品のひとつは,1400人以上の子供たちに読まれた。読者から多くのフィードバックが寄せられている。創造的な若者にとってこのようなフィードバックがどのような意味を持つかを考えてみてほしい。作品をただ紙に書いて,いつか出版されることを夢想するよりもはるかにすばらしいことではないだろうか。

ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 p.170

オンラインの暇つぶしは問題か

 雇用主は,ネット世代が仕事中にオンラインで暇つぶしをしているとよく不平をもらす。しかし,冷静になるべきだろう。仕事中にオンラインゲームで20分間を費やすことがどれほどの問題なのだろうか。ベビーブーム世代が,階下のコーヒーを取りにいったり,タバコを吸いにいったり,上司への不満を愚痴るためにオフィス内を歩き回ったりしていたのとどこが違うのだろうか。デジタルテクノロジーに囲まれて育ってきたことにより,ネット世代は思考を迅速に切り替えられるようになっている。数分間ゲームをしてみることで,問題解決の斬新な方法が見つかる可能性もある。机に何時間もかじりついているよりは,はるかに生産性が高いだろう。

ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 p.136

調査能力に長ける

 ネット世代は調査能力に長けている。信頼できない情報,スパム,フィッシングサイト,虚偽,いたずら,詐欺,なりすましなどにあふれたウェブ上の膨大な情報を考えれば,今日の若者は真実と嘘を見抜けるだけの能力を身につけていることがわかる。自分の周りの状況をよく認識しており,何が起きているかを常に知りたがっているようだ。そして,真実を知るためにデジタルテクノロジーを活用する。今,オーソン・ウェルズが宇宙戦争のラジオ版を監督したと想像してみよう。1938年には,このラジオドラマを聴いて本当に火星人が来襲したと考えた多くの人々によってパニックが広がった。ネット世代ならば,何回かのマウスクリックで,これはドラマであり,ニュース放送ではないことを知ることができるだろう。

ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 p.116

インターネットの記憶は長い

 ネット世代は目覚めるべきだ。一見無害に思えるウェブサイトに疑いもなく本音をさらけ出すことで人生が台無しになってしまったケースは多い。インターネットの記憶は長い。たとえば,テキサスで重大な自動車事故に関与したドライバーは,刑事裁判における証拠としてマイスペースの投稿(「自分はアルコール中毒ではない,酒中毒だ」)を使われてしまった。ソーシャルネットワークへの投稿内容のために職を失ったり,就職の時に採用を断られたりするケースは枚挙に暇がない。フロリダ州の郡保安官代理は,マイスペースで飲酒と巨乳フェチについて書いた投稿を上司に見つかり,解雇されてしまった。ラスベガスのカソリック系学校の教師は,オンラインで自分がゲイであることを告白したために解雇されてしまった。大学や高校は「不適切」な投稿がないかマイスペースやフェイスブックを常にチェックしている。その結果,懲罰を受けたり,退学になったりする学生もいる。
 英国における調査では,企業の62パーセントが応募者のソーシャルネットワークへの投稿をチェックすると述べており,4分の1の企業がその結果として候補者を却下したと述べている。理由としては,過度の飲酒,非道徳的行為,反社会的行為などである。私の息子のアレックスは雇用主がそれほど真剣になる必要はないと考えている。「もし,ぼくがパーティでビールを飲んでいる写真があったとして,それは何を示しているのだろう。ぼくがアルコール中毒になる可能性があることを意味するのか,それとも,ぼくが人生を楽しむ社交的な人物で友だちもたくさんいることを示しているのか」

ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 pp.97-98

協業による学習

 2004年1月のことだった。マーク・ザッカーバーグは,いかにも悪夢にありがちなパターンを現実に体験していた。ハーバード大学の最初の試験期,「アウグストゥス時代のローマ」という歴史の授業で教授が指定した本をまったく読んでいなかったのだ。実のところ,授業にも一度も出ていなかった。ザッカーバーグは「フェイスブック」というプログラムの開発で多忙だったのだ。フェイスブックは,学生たちが互いに知り合い,情報を交換するよう支援してくれるプログラムである。そして,試験の数日前になり,ザッカーバーグは彼自身の言葉によれば「どつぼにハマっていた」(just completely screwed)のである。
 しかし,彼には21世紀のコンピュータサイエンスを活用したアイデアがあった。まず,ウェブサイトを構築し,授業で使う図を置き,それぞれの図の横に議論を行なうためのスペースを設けた。ひょっとして,他の学生がそのスペースを埋めてくれるかもしれない。結局,24時間もしないうちに級友たちが適切な援助を行なってくれた。こうしてすばらしいノートが作成されたおかげで,ザッカーバーグを含むクラスの誰もがテストを優秀な成績で通過することができた。そして,ザッカーバーグによれば,教授はこれを不正行為とは考えなかった。教授は,学生がこのように独創的な方法で協業したことを高く評価したのだった。

ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 p.57

対話型メディアへのシフト

 旧来の出版メディアや放送局は企業のオーナーの価値観を表した階層型組織だ。これに対して,新しいメディアはコントロールをすべてユーザーに明け渡す。ネット世代は,ボトムアップ組織とトップダウン組織の違いをわかっている。初めて,若い世代はコミュニケーションの基盤を自分たちの手にすることができたのだ。
 ネット世代はただ単に情報を見るだけではなく,積極的に情報を探索してきたことで思考と調査の技能以上のものを身につけざるを得なくなった。子供たちは優秀な批評家にならなければならないのだ。どのウェブサイトが良いのか,データソースの真贋をどう判別するか,チャットセッションに現れた映画スターが本物なのか偽物なのかをどう判断すればよいのかなどを的確に判断できなければならない。
 多くの点でネット世代はテレビ世代のアンチテーゼだ。一方向の放送メディアから対話型のメディアへのシフトがネット世代に大きな影響を与えている。

ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 p.35

老犬に芸を仕込むのは難しい

 老犬に新しい芸を仕込むのは難しい。コミュニケーション,情報アクセス,娯楽などにおいてまったく新しい方法を学ぶのは困難な作業だ。そして,新しいテクノロジーに順応するためには,すでに確立した思考パターンを変更する必要がある。今日では,旧世代の大部分もテクノロジーをうまく使いこなせるようになってはいる。しかし,使いこなせるようになるまでの行動がどのようなものであるかを覚えている人は少ないだろう。パソコンが最初に登場した時に,旧世代がそれを使いこなせなかったことで生まれた逸話は多数ある。実際,冗談としか思えないようなとんでもない話も数多い。マウスが足踏みペダルだと思った人から,うまく使えないという報告を受けたヘルプデスクの話がある。フロッピーディスクをコピーしてくれと頼まれて,コピー機でコピーを取ってきた秘書の話もある。“Hit any Key”というメッセージを文字通り受け取り,キーボードを叩いて壊した人もいる。サポートスタッフにウィンドウズを使っているかと聞かれて,「この部屋に窓はない」と答えた人もいる。修正液でフロッピー上のデータを消去しようとして人もいる。このような話は枚挙に暇がない。私の友人は,マウスをコンピュータの画面に向け,あたかもテレビのリモコンであるかのように操作しようとした。このような出来事から何を学ぶことができるだろうか。大人とは愚かな存在であるということだろうか。
 これらの大人たちの行動は笑えるものではあるが,十分理解できる。ベビーブーム世代は,テレビのリモコン,フットペダル,コピー機,窓,修正液,ドアなどに慣れている。これらは生活の中に何十年間も存在し,その使い方が頭に染みこんでいる。一方,ネット世代には過去の蓄積が少ない。ゆえに,デジタルメディアを容易に吸収することができる。
 コンピュータ科学者のアラン・ケイは「(テクノロジーは)発明される前に生まれた人にとってのみテクノロジーとして意識される」と述べている。学習とテクノロジーに関する研究のパイオニアであるセイモア・パパート教授もこれに同意し,「これが,ピアノがテクノロジーで音楽を破壊したか否かを我々が議論しない理由だ」と述べている。

ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 pp.30-31

個人情報を気にした方がいい

 総合的に言って,私はインターネットがネット世代に好影響を与えていると考えている。ベビーブーム世代にとってもそう言えるだろう。しかし,いくつかの考慮点がある。ネット世代は重大な間違いを犯している。そして,多くの人がそれに気づいていない。ネット世代はソーシャルネットワークなどの場所で個人情報を公開しており,それによって将来のプライバシーを犠牲にしているのだ。彼らは私に「そんなことは気にしていないよ,まずはシェアすることが大事だ」と言う。しかし,私は自分の経験から言いたい。いつか,企業や公的機関での要職に就く時になって,パーティでの恥ずかしい写真が問題になることがあるかもしれない。私は,今こそネット世代が目覚め,自分自身の情報をどれほど公開しているのかを認識すべきだと考える。これらの情報の中にはプライベートに留めておけばよかったと後悔するものも多いはずだ。

ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 pp.12-13

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