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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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ハーム・リダクション

 オランダには,アヘンやヘロインなどの麻薬を,不正に取引することを罰する法律はあるが,それは麻薬の供給を減少させることが目的であった。つまり,オランダの法律は,麻薬を使用してダメージを受けてしまった国民を処罰する目的で作られたものではないのだ。
 このような考え方の背景には,現実的な手段を使用して,市民を社会の危険から守るために考え出された,「ハーム・リダクション」という概念の存在がある。現代の欧米では様々な場面で,このハーム・リダクションが導入されている。
 ハーム・リダクションという概念は,日本人には少々理解しがたいかもしれない。
 たとえば,未成年者へのエイズの蔓延を抑えるために,性交渉を抑圧するのではなく,積極的に性教育をおこない,場合によってはコンドームを配布することで危険を回避することなどが,ハーム・リダクションに該当する。
 1本の注射器によるヘロインの回し打ちも,HIVその他の感染を引き起こすが,それを予防するために欧米では,繁華街やリハビリ施設などで,注射針を配布することがおこなわれている。これらの行動は,一見矛盾したことのように見られがちだが,現実的な問題解決のためには,大変有効な手段なのである。
 一方,日本では,薬物使用から派生する問題に対してのハーム・リダクション的対策が,完全に遅れている。

長吉秀夫 (2009). 大麻入門 幻冬舎 Pp.76-77
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夢は覚えておくものではない

 ウィンソンによれば,夢は覚えておくものとしてつくられていない。私たちが夢を思い出すのは,本当は見てはいけないオフライン状態の脳をちらっとのぞき見るようなものだ。「われわれが夢を見ることに気づいているのはただの偶然であり,夢の機能とは何ら関係がない」とウィンソンは述べている。人間は言葉をもっているから,夢に出た出来事と覚醒時に起きた出来事の記憶を区別できる私たちは子供の頃に自分にはとてもリアルに感じられる経験が「ただの夢だ」と大人に教えられて,現実と夢を区別するようになる。だが言葉をもたない動物が,夢を覚えていたらどうなるか。むしろ適応の妨げになるだろう。「夢が自然と忘れられるように進化したおかげで,私たちも私たちの祖先も,幻想と現実を混同するというリスクを回避できたのだろう」と,ラバージは言う。「たとえばあなたのネコが,隣家のどう猛な犬が死んで,代わりにネズミが飼われているという夢を見たとする。目が覚めたときに,ネコがその夢を覚えていたら,どうなるか。夢とは知らず,ネコはごちそうがあると思ってフェンスを飛び越える。そこに待ち受けているのは凶暴な犬だ」

アンドレア・ロック 伊藤和子(訳) (2009). 脳は眠らない:夢を生み出す脳のしくみ ランダムハウス講談社 pp.121-122

大麻取締法以前

 大麻取締法は,1948年に正式に施行され,現在に至っているが,この法律が誕生するまでには様々な出来事があった。
 そもそも日本には,この法律が成立する以前には大麻を取り扱うことには何の罰則もなかった。そればかりか,大麻は優良な農作物として国が奨励し,全国各地で生産されていたのである。
 遥か縄文時代に遡るといわれる日本における大麻の生産は,第二次世界大戦前までは稲と並んで重要な位置を占めていた。また,大麻取締法が制定された時点では,日本では一般的に大麻を吸引する習慣はなく,虫除けのために葉を燃やして屋内を燻したり,きこりや麻農家の人々がタバコの代用品として使用する程度のものであった。
 世界の様々な宗教でおこなわれてきた精神変容のための大麻の吸引は,日本でも一部の山岳信仰や密教の中でおこなわれていたが,法律で取り締まられるような犯罪意識は全くなかったのである。また,「印度大麻煙草」という名で販売されていた大麻は,喘息の薬として一般の薬局でも市販されていた。

長吉秀夫 (2009). 大麻入門 幻冬舎 Pp.49-50

レム睡眠中に脳の配線工事

 このようにさまざまな証拠から,人間でも他の動物でも,レム睡眠中に脳の配線工事が行われると,多くの研究者は考えている。レム睡眠中にニューロンが活発に働いているのは,神経回路を確立し,遺伝子に書き込まれた生存のために不可欠な情報,つまり狩りや交尾,その他の重要な行動を実行できるようにするためだろう。レム睡眠にこうした用途があるというアイデアは,多くの動物のデータに支えられた数少ない仮説の1つである。
 つまり,私たちが見る夢は,より下等な動物から受け継がれたメカニズムであり,遺伝子に書き込まれた生存のためのプログラムと,日々の体験から得た重要な情報が,レム睡眠中に脳の中で処理され,統合されるということである。夢では,言葉よりも感覚,とくに視覚的なイメージが大きな比重を占める。この点からも,人間の夢のルーツは初期の哺乳類にあると考えられる。「人間の夢は,行動戦略を設定したり,修正したり,参照したりする,乳幼児期から行われているニューロンの活動をのぞき見る窓のようなものだ」と,ウィンソンは述べている。

アンドレア・ロック 伊藤和子(訳) (2009). 脳は眠らない:夢を生み出す脳のしくみ ランダムハウス講談社 pp.117-118

大麻栽培の奨励

 建国当初のアメリカでは,大麻栽培を国家が奨励していた。初代大統領ジョージ・ワシントンも,3代大統領トマス・ジェファーソンも大麻農場を経営しており,産業用大麻のほかに,医療や嗜好品としても大麻を使用していた。有名なアメリカ独立宣言の草案も大麻紙に書かれている。
 アメリカにおける大麻産業は,イギリスの植民地時代に遡る。大麻繊維は,土地と人手さえあれば生産することができ,それによって国力を蓄えることができる。イギリスの植民地であったアメリカにとって,大麻栽培は義務の一つでもあった。


長吉秀夫 (2009). 大麻入門 幻冬舎 Pp.20-21

レム睡眠の進化

 外部からの刺激を遮断した状態で新たな情報を処理するためにレム睡眠が生まれたと,ウィンソンは考えている。実際,レム睡眠パターンがみられる動物の前頭葉は,爬虫類やハリモグラのような原始的な哺乳類と比べて,より優れた知覚・認知能力を発揮できる。解剖学的に見ても,ハリモグラの渦巻き状の前頭葉皮質は脳全体に対する相対的な大きさで言えば,人間も含めた他の哺乳類よりもはるかに大きく,覚醒時に新しい情報を処理する作業が大きな負担になることを物語っている。レム睡眠は,オフライン状態で新たな体験を記憶に書き込むための自然の独創的な発明なのである。レム睡眠が生まれていなかったら,ネコやサルからわれわれ人間まで,多様な哺乳類の高度な認知能力は生まれていなかっただろう。なぜなら,オンライン状態で情報を処理するには,ハリモグラ並みの前頭葉皮質,人間で言えば頭蓋の容量をはみだすほど大きな前頭葉皮質が必要になるからだ。ウィンソンが言うように,人間がハリモグラのような脳を持ったら,「頭が重くなりすぎて,自力では支えられなくなっていた」だろう。

アンドレア・ロック 伊藤和子(訳) (2009). 脳は眠らない:夢を生み出す脳のしくみ ランダムハウス講談社 pp.115-116

インパクトファクターの誤用例は限りない

 2004年5月に,朝日新聞の視点欄に「研究評価/誤った指標の活用を改めよう」ということで,インパクトファクターについて発表するチャンスがあった。そこでは,研究評価にインパクトファクターを利用することを強く批判する内容の提言をした。この記事がきっかけかどうか確証はないが,文部科学省内でインパクトファクターを誤用した研究評価のしかたを誰が提唱したのか,問いただす動きがあったという。これを聞いて「マッチポンプ」という言葉が,脳裏に浮かんだ。研究評価指標としてインパクトファクターの誤った使用を提言した側の人間が,そのことを忘れ犯人探しをしている姿だ。政策的に助成資金が増大し,研究費の比重が競争的資金へとシフトするなかで,きちんとした定性的な評価に時間をかける体制をつくれないまま,安易な定量的指標の使用を助長したのは助成側ではなかったのか。また,7章で触れたように学会を代表する研究者が,自分たちの発行する雑誌を意図的に引用し,自誌のインパクトファクターを高めるよう公式ページや学会で述べていた事例もあり,誤用例は限りないのが現状である。
 インパクトファクターの計算式を知っている人は,多くても10名に1人であろう。インパクトファクターが,雑誌を評価するための指標として生まれた経緯や,創案者のガーフィールド博士が研究者の業績評価に使うことを強く否定していることも知られていない。インパクトファクターについて講演会などで話してみると,研究者は最初からインパクトファクターを個人業績評価指標として認識している人ばかりであった。科学コミュニティ全体で,インパクトファクターの正確な理解が欠けているだけでなく,一部の指導者や政府機関が誤用や不正を奨励してきたのではないだろうか。有用な指標であるが,注意深い応用が求められる。

山崎茂明 (2007). パブリッシュ・オア・ペリッシュ:科学者の発表倫理 みすず書房 Pp.157-158

脳が比喩を好むから

 夢に奇妙なモチーフが現れるのは,脳が比喩的な思考を好む傾向があるからかもしれない。ふだんものを考えるときにも私たちは比喩を使っているが,夢の中でも脳はその能力を利用して,視覚的なイメージや行動で,感情や関心事を表現する。認知科学者によると,比喩はセンテンスを華やかに修飾するだけでなく,思考プロセスの重要な一部であり,自己と世界の概念を形づくるのに不可欠なものである。私たちは具体的なモチーフを使って抽象的な概念を表現する。たとえとして使われるモチーフは日常生活から引きだしてきたもので,こうした表現方法は子供でも身につけている。カリフォルニア大学バークレー校の著名な言語学者・認知神経科学者のジョージ・レイコフによると,私たちは覚醒時の思考を組み立てるために豊かなメタファーの体系をもっており,それは私たちの日常的な概念体系の一部になっている。レイコフはその例としてさまざまな慣用表現をあげている。「袋小路に突きあたる」「袂を分かつ」「無駄骨を折る」「岐路に立つ」などである。
 こうしたメタファーの豊かさによって,夢の奇妙な特徴の一部を説明できそうだ。ほとんどの人が見る夢に,空を飛ぶというものがある。大学生を対象にドムホフが行った2つの調査では,半数以上がこうした夢を報告しており,その多くが夢の中で空を飛んでいるときは楽しかったと語っている。おそらく空を飛ぶことは幸福の比喩的な表現なのだろう。覚醒時の思考でも似たようなメタファーが使われる。「天にも昇る気分」「舞い上がる」「地に足がつかない」などだ。やはりよくある夢で,調査対象者の約半数が報告したものに,裸か場違いな服装で人前に立っているというものがある。これは多くの場合,思春期から夢に出てくるシチュエーションだ。英語の慣用表現に恥をさらすという意味で「ズボンを下げた姿を人に見られる」というものがあるように,こうした夢には羞恥心や不安が反映されているのだろう。

アンドレア・ロック 伊藤和子(訳) (2009). 脳は眠らない:夢を生み出す脳のしくみ ランダムハウス講談社 p.112

インパクトファクターの問題点

 IF(インパクトファクター)をめぐる話題はさまざまに論じられてきた。その最大の問題点は,個人の業績評価指標として応用されるようになったことである。これは,雑誌の評価を専門家の意見に依るだけでなく,定量的に,分野を越えて比較するための指標として開発された元の意図から,大きく逸脱した応用である。IFの定義を理解すれば,誰でも不適切な利用と言い切れるものである。
 IFについて語る人々と話した経験から,半分以上の人々はその定義を知らないことに気づいた。被引用数を各雑誌の出版論文数で割った値であることを理解している人はいるが,算出データを直前の2年間に限定していることは知られていない。さらに,分母にあたる出版論文数は,原著論文,レビュー,短報などの研究論文に限定しているが,分子になる被引用数には,すべての記事への引用をカウントしている事実はほとんど理解されていない。

山崎茂明 (2007). パブリッシュ・オア・ペリッシュ:科学者の発表倫理 みすず書房 p.97

夢を思い出すのは9歳から

 こうした調査を通じて,親も科学者も予想しなかった驚くべき事実が浮き彫りになった。9歳から11歳になるまでは,夢の内容も夢を見る頻度も大人のレベルには達しないことがわかったのだ。フォウクスの実験では,9歳未満の子供がレム睡眠中に起こされて夢を思い出せる確率は30%余りにすぎなかった。9歳という節目の年を越えると,大人と同じ80%前後になる。それ以上にフォウクスらの注意を引いたのは,子供たちが話す夢の内容が大人のそれとは大きく異なっていたことだ。しかも,どの子供も年齢が上がるにつれて,より複雑な夢を見るようになった。

アンドレア・ロック 伊藤和子(訳) (2009). 脳は眠らない:夢を生み出す脳のしくみ ランダムハウス講談社 p.64.

インパクトファクター

 1963年にユージン・ガーフィールド博士が,数年間にわたる実験研究をへて,彼が設立したThe Institute for Scientific Information (ISI) 社から引用索引を創刊した。引用関係をたどることで,必要な文献を探し出す独創的な方法であり,コンピュータ技術の優れた応用であると多くの人々が認めた。同時に,引用索引から副産物として生成された,被引用回数についての雑誌別の順位リストは,科学界で頻繁に引用された回数の総計だけでなく,各雑誌の1論文あたりの平均被引用回数を意味するIF(インパクトファクター)によるランキングも提示した。博士が最初にIFの考え方を提案したのは,1955年の『サイエンス』においてである。科学界がいかに重要誌を識別するために,さまざまな試行を蓄積してきたかをたどりながら,当時世界の主要科学誌の引用文献データを集約することで構想された引用索引の有用性が,IFのアイデアとともに示されていた。なお,忘れられがちであるが,IFを含む引用データによる雑誌評価を生み出した当初の動機は,ISI社内において,引用索引や目次速報誌(Current Contents)に収録するための重要誌を識別するための内部的なものであった。


山崎茂明 (2007). パブリッシュ・オア・ペリッシュ:科学者の発表倫理 みすず書房 Pp.94-95

夢は幻覚めいたもの

 ホブソンは,夢は本質的に幻覚めいたものであるという自身の仮説の根拠として,覚醒時と夢を見ているときの脳の活動の違いを明らかにした実験結果をあげている。被験者にポケットベルをもたせ,日中地下鉄に乗っているときやデスクで仕事をしているときなど,研究者がいきなり連絡をとって,いま何を考えていたかと聞く。被験者は夜間にはナイトキャップをつけ,寝入りばなからノンレムとレム段階の夢を報告する。この実験でデータとして価値のある報告が1800件集まった。ホブソンらは,それらを感情の強さ,思考の質,荒唐無稽さなどさまざまな基準で判定した。めざめて静かにしているときから寝入りばな,レム段階まで,思考が形づくられる頻度は4分の1に減っていき,幻覚めいた妄想が現れる頻度は10倍増えることがわかった。

アンドレア・ロック 伊藤和子(訳) (2009). 脳は眠らない:夢を生み出す脳のしくみ ランダムハウス講談社 pp.56-57

ハードマネーとソフトマネー

 大学からの資金(ハードマネー)と外部の研究助成で得られる資金(ソフトマネー)の比率は,一般的には80パーセントがハードマネーで,20パーセントがソフトマネーというのが,研究活動には適切と考えられている。しかし,大学の研究者が,自分の得た助成金で給与をまかなっている事例もある。研究者が受領した助成金は,研究者でなく所属機関へ支払われるので,機関へは財政的な支援をもたらす。政府助成の場合,機器,化学物質・薬品,技術員の給与といった直接経費と,光熱費,事務経費,図書館費用などの間接経費からなる。このうち,間接経費は,大学の運営経費に寄与し,研究助成の増加ととともに,大学予算の重要な部分を占めるようになっている。大きな研究助成を得た研究者は,大学経営者にとって頼りになる。日本でも,研究に占める競争的資金の比率が高まる傾向にあるが,米国はより厳しい競争状況にあるといえる。成果をあげ,論文を発表することは,彼らへのプレッシャーとなっている。そのため,意図的に発表論文数を増やしたり,謝辞で済むものを著者にいれたり,そして盗用やねつ造などの不正行為につながる場合もある。忘れてならないのは,このような逸脱行為に関与していない人々も,同様の厳しいプレッシャーのもとで研究活動を持続していることである。

山崎茂明 (2007). パブリッシュ・オア・ペリッシュ:科学者の発表倫理 みすず書房 Pp.12-13

夢は悪戦苦闘した結果

 アセチルコリンが大量に分泌された脳は,覚醒時とはまったく違ったルールで働く。運動神経の信号は遮断されているため,私たちは動くことができない。だから,どんなにもがいても,猛スピードで山道を下る車のハンドルを切ることも,ブレーキを踏むこともできない。外部からの感覚情報も遮断されている。そのため脳は内部で生じるイメージや感覚を現実の者と解釈してしまう。ホブソンによれば,こうした状態で脳幹からの信号によって,ある瞬間には恐怖,ある瞬間には自由落下の感覚といった具合に,なんの脈絡もなく強烈な感情が生まれる。脳はその信号に合わせて夢の筋書きをつくろうとベストを尽くす。つまり,夢のイメージづくりにゴーサインを出すのは脳の原始的な領域である脳幹で,より高度に進化した前脳の認知領域はただその信号に受動的に反応するだけだというのだ。このことから,ホブソンのマッカーリーは,夢をつくるプロセスには「観念や意思決定,情動といったものはいっさいかかわらない」と結論づけた。結果として生まれた夢は,脳幹からのでたらめな信号に前脳が反応し,「部分的にでも話の辻褄を合わせようと,悪戦苦闘して」できた代物だというのである。

アンドレア・ロック 伊藤和子(訳) (2009). 脳は眠らない:夢を生み出す脳のしくみ ランダムハウス講談社 p.47

最小出版単位症候群

 論文や著書の発表を強調する結果,研究能力を中心とした評価に傾き,教育活動を省みない状況が生まれた。研究者は,学術世界での成功を目指し,昇進やよりよいポスト,助成金の獲得のために,できるだけ多くの論文を生産しようとする。その結果,バレットも指摘したように,業績至上主義がはびこり,誰にも読まれないような論文が大量に出版される。重複発表が編集者の悩みとなり,一流誌さえも論説記事で注意を促す必要が生じた。学術機関が教員の採用や昇進にあたり発表論文数に重きを置く結果,不適切な出版が広まる。ひとつの論文で済むにもかかわらず,小さな断片的な論文に分割する最小出版単位症候群(Least Publishable Units Syndrome),まるでサラミソーセージのように,同じような論文をいくつも発表する(サラミ論文)などが,情報洪水を助長してしまう。また,研究テーマも,長期的に追跡する研究よりも,短期的に決着するような研究や,流行のトピックスを追うことになりやすい。オーサーシップの視点からみると,実際的な寄与のない人を著者に含める結果,多数著者による論文が増大することになる。こうして,1970年代になると,数多く出版するのを優先することからくる,負の側面が目立つようになった。

山崎茂明 (2007). パブリッシュ・オア・ペリッシュ:科学者の発表倫理 みすず書房 Pp.9-10

寝る前に何をしても夢に影響しない

 研究者の好奇心をそそる疑問が次々に湧き,それに答えるためにさまざまな方法が編みだされた。たとえば,「なんらかの刺激を与えることで,夢の内容を変えられるか」というもの。デメントが真っ先にこの問題にとりくみ,被験者がレム睡眠に入ったときに,耳もとでベルを鳴らす実験をした。だが204件の試みのうち,ベルの音が夢に組み込まれたケースはわずか20件だった。被験者の顔に霧吹きで水を吹きかける実験も,はかばかしい成果を上げなかった。比較的最近では,血圧計のバンドで腕を締め付ける実験も行われたが,大多数の被験者はこうした刺激に反応しなかった。現実世界の刺激が感覚器官のバリアを突破して,どうにか夢の中に入り込んだときには,即座に,かつ巧妙に,夢の筋書きにその刺激が織り込まれる。たとえば,霧吹きで水をかけたときには,夢の中でにわか雨が降ったことになったりする。だが,ストーリー展開に大きな影響を与えることはない。
 入眠前の体験も,夢の内容に大きな影響を与えないようだった。被験者に眠る直前にバナナクリーム・パイやペパロニ・ピザを食べさせたり,喉が渇いた夢を見るかどうかをたしかめようと飲み物を制限した状態で寝かせたり,暴力的な映像やエロティックな映像を見せたりしたが,とくに影響はなかった。夢を見ているときの脳は,何者にも左右されない映画監督だ。はたからはわからない基準で,登場人物や背景,筋書きを選び,夜ごとの内なるドラマを演出する。
 他の実験で,夢を見ないと言う人も,実際には夢を見ていることがわかった。レム睡眠中に起こせば,被験者は夢を覚えている。だがレムの段階が終わってから,数分後に起こすと,夢を覚えていないことが多い。さらに別の実験で,時間帯によって夢の内容が違うこともわかった。眠ってからしばらくは,最近に起きた出来事に関連した夢を見るが,夜が更けるにつれ,過去の出来事や人物のからんだ夢を見るようになる。
 レム睡眠時の眼球の激しい動きは,眠っている人がちょうど映画のスクリーンを見るように,夢の中のアクションを目で追っているせいだろうか。デメントによる初期の実験では,そう考えられたが,その後に他の研究者が追試を行ったところ,目の動きと夢の内容には直接的な関係はなかった。

アンドレア・ロック 伊藤和子(訳) (2009). 脳は眠らない:夢を生み出す脳のしくみ ランダムハウス講談社 pp.29-30

帰納推理と演繹推理

 古典的区分として,帰納推理と演繹推理の区分がある。演繹推理は,真とされる命題から結論を推論することにかかわるが,その過程で意味的情報を増加させることはない。すなわち,結論は前提の中にすでに内在している情報を単に明示的に言明するものでしかない。哲学の下位分野である論理学は,必然性の原理に基づいて演繹推理の正しい手続きを規定することに関心をもっている。要するに,これは,妥当であると推論される結論は論証の前提に一致しているだけでなく,一つの反例も存在しないことが必要であることを意味する。例えば,“ジェーンは図書館にある多くの本を読む。図書館にあるすべての本はハードカバーである”と読者に告げるとしよう。読者は,ジェーンは多くのハードカバー本を読むと推論するのは許されるが,彼女はたいていの場合ハードカバー本を読むと推論するのは許されない。なぜなら,おそらく彼女はもっと多くのペーパーバックを購入して読むからである。
 帰納推理は,所与の情報を超えて意味的情報の量を増加させることを含む推論で,現代哲学では論理学の領域でなく,現象の説明や科学的推理に関連するものと考えられている。帰納の一形態として,観察された結果に対してありそうな原因を求めることが含まれる----例えば,道路脇にある損傷した車をみて,この場所で交通事故が最近起こったのだと仮定する場合のように。必然性の原理に違反するので,このような推論は論理学的に妥当ではない----その車はだいぶ以前に事故を起こし,無頓着な所有者によってこの場所まで運転されてきて放置されているのかもしれないのである。しかしながら,このような理にかなっており,かつありそうな推理を行なう能力は,われわれを取り巻く世界を理解する上で明らかに重要である。

エバンズ, J. St. B. T. 中島 実(訳) (1995). 思考情報処理のバイアス 信山社 Pp.3-4
(Evans, J. St. B. T. (1989). Bias in Human Reasoning: Causes and Consequences. Hove, UK: Lawrence Erlbaum Associates.)

日本の病院が混む理由

 必要がないのに病院に行く患者さんが多いことも,日本の病院が混む理由です。
 何度も言うようですが,風邪やインフルエンザ,はしかや水疱瘡でも,たいていの人が病院に行きます。ちょっと具合が悪いといって,深夜に救急車を呼びます。
 諸外国と比べて,日本の医療が安価であるのも理由の1つでしょう。医者が良心的で忙しくてもなんとか融通をつけて診療してくれるのも理由かもしれません。でも,そろそろこのような人の良心だけを資本にした医療も崩壊寸前です。このところ,病院で受け入れを断るところが出てきて問題になっています。これ以上は良心だけでは立ちゆかないのです。
 お医者先生に「心配ない」と言ってもらわないと落ち着かない,そういう文化があります。しかし,無用な患者で外来が混めば,結局,その不利益は自分に返ってくるわけです。

岩田健太郎 (2009). 麻疹が流行する国で新型インフルエンザは防げるのか 亜紀書房 p.209

よき決定は正しい推理を反映するとは限らない

 悪しき結果が悪しき思考を必ずしも反映しないのとまさに同じように,よき決定は正しい推理を反映するとは限らない。例えば,論理的には無関連な課題特徴に基づいて反応するというバイアスが存在しても,論理的に正しく規定された選択に一致する結果を場合によっては生み出すことがある。それゆえに,原理が組込まれている単一の問題タイプでの遂行成績を査定することによって,ある推論を遂行する能力をもつか否かを単純に判断することはできない。関与する過程の性質,ならびに作用しているバイアスの程度や性質を明らかにするためには,その問題の形式と内容に関する多くの特徴を変化させた上で,推理を研究する必要がある。

エバンズ, J. St. B. T. 中島 実(訳) (1995). 思考情報処理のバイアス 信山社 Pp.2-3
(Evans, J. St. B. T. (1989). Bias in Human Reasoning: Causes and Consequences. Hove, UK: Lawrence Erlbaum Associates.)

風邪と肺炎の区別

 風邪をひいてしまったときの最善の策は,病院に行かないこと。これに尽きるだろうと思います。完治する薬はない,抗生剤は具合が悪い,病院でほかの病気をうつされる……多少の咳・鼻水・鼻づまり,微熱,頭痛ならがまんしてしまいましょう。
 ただし,肺炎だと大変なので,その区別は知っておきたいものです。
 (1)38度以上の高熱がある
 (2)鼻水やくしゃみは出ない
 (3)症状が4日も5日も長く続いて全然改善しない
など,風邪とは少し違うかな,と思われる場合は,医者に診てもらうほうがいいでしょう。「5日後に行ったら手遅れということもあるのでは?」——まあ,どんどん悪くなるようなら,そういうケースもないとはいえませんが,くしゃみ・鼻水・鼻づまりだけにおさまっており,食事も睡眠もそれなりにきちんととれていれば,多くは問題なく自然に治っていくでしょう。

岩田健太郎 (2009). 麻疹が流行する国で新型インフルエンザは防げるのか 亜紀書房 pp.167-168

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