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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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年俸制採用の2タイプ

 1990年代半ばから盛んになった年俸制の導入。当時から,大学で学生から「先生,年俸制の会社って(就職先として)どうなんですか?」と質問されることがあった。私は「やめとけ」と答えることにしている。それはなぜかというと---。
 私は,形式的なそれではなく,実質的な年俸制を導入している会社には2つのタイプがあると考えている(かなり乱暴な分類だが)。

(1)誕生してまだ間もなく,中途採用の社員が主力で,生え抜きの社員が育ってきていない新興企業。
(2)会社の経営状態が危なく,昇給の原資がないか,もしくは賃金カットも必要になるような状態にある会社。

高橋伸夫 (2004). 虚妄の成果主義 日本型年功制復活のススメ 日経BP社 pp.19-20
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実際は縄張り争い

 さまざまな薬に対する反応が人によって違うように,さまざまな治療法に対する反応も人によって違う。だがおしなべて,いちばんありふれた精神障害の患者では,非薬物療法は少なくとも薬物療法と同じくらい効き目があることが実験データから示唆されている。しかし精神療法での成功は過小評価され,揶揄されることすらあるのに,薬物療法の有効性は,さまざまに誇張されて語られることが多い。精神療法の有効性とは,せいぜいそれによって患者に薬を服用させることができるようになる程度だとよく言われるが,これはまったく不当である。先にも書いたが,患者支援団体が製薬会社の支援により,うつ病患者の90パーセントに薬が効くという広告を出したことがあった。薬の研究から得られている平均値は実際は65パーセントほどであるから,ここでも数値が水増しされていると言える。うつ病患者の約25パーセントは本当の薬ではなくプラセボを投与されても症状が改善するため,このぶんを差し引かなくてはならないのである。さまざまな治療法についての研究の行われ方,結果の評価と受けとめられ方は,薬を処方できる精神科医と処方のできない心理士やソーシャルワーカーの間の縄張り争いを反映している。これだけは,私は自信をもって言える。

エリオット・S・ヴァレンスタイン 功刀 浩(監訳)・中塚公子(訳) (2008). 精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の科学と虚構 みすず書房 pp.280

遺伝的であることと遺伝子の発見の違い

 統合失調症やうつ病,特に躁うつ病は,家系で代々受け継がれる傾向があることに留意していただきたい。この傾向それ自体が,遺伝の関与の証拠にはならない。貧乏だって,家系で代々受け継がれる傾向が見られるのだ。現代の疫学研究は,昔のものより格段に進歩している。現在,精神障害の遺伝関与を裏づけるいちばん確かな証拠は,一卵性双生児と二卵性双生児の比較研究や養子を対象とした研究から得られている。簡単な例をあげると,統合失調症の場合,一卵性双生児のひとりが統合失調症と診断されれば,もうひとりが統合失調症である確率は,研究によって多少の違いが見られるものの,おおよそ35〜50パーセントである。同性の二卵性双生児の場合は,両者の遺伝組成は双子でない兄弟の場合と同程度に異なり,同様に罹患する確率(一致率)ははるかに低く,7〜14パーセントである。一卵性双生児のほうが多少,養育のされ方まで一緒だということはあっても,一卵性双生児と二卵性双生児は,基本的に家庭環境が同じである。そのためこのことが,統合失調症への遺伝関与を裏づける確実な証拠とされている。養子で統合失調症になった人を対象にした研究の結果も,遺伝の関与を裏づける証拠になっている。養子が統合失調症を発症した場合に,育ての親よりも生みの親のほうが統合失調症である場合が多い。躁うつ病でも,同様な結果が出ている。
 現在のところ,躁鬱病や統合失調症を引き起こす遺伝子を発見したという報告があっても,どれも再現性があったためしはない。たいていの場合,ある種の疫学的なアーティファクトのために,正当性が否定されてしまう。しかし,データの検討を行ったこの方面の専門家たちは,多くの精神障害の原因に確かに遺伝関与があるという。特定の精神障害になりやすい体質は遺伝すると考えるのが妥当だろう。ただし,「素因」という病理学由来の言葉は,特定の病気に罹りやすい体質,もしくは傾向があることを意味し,実際に発症するのはある条件下においてだけである。

エリオット・S・ヴァレンスタイン 功刀 浩(監訳)・中塚公子(訳) (2008). 精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の科学と虚構 みすず書房 pp.191-192


心理的現象の遺伝子

 アルコール依存症,躁うつ病,統合失調症,同性愛,その他数多くの障害,あるいは性格特性等の原因となる遺伝子(数個の遺伝子の場合もある)が見つかったという主張が最近されているが,これはあまりあてにならない。追試がきかなかったり,研究の対象となっている特性をもつ人の中の少数にのみ当てはまるにすぎない。こうした主張がある一方で,遺伝子が行動や精神状態をつくりだすのではないと,根本的な批判をする人もいる。遺伝子は,アミノ酸やタンパク質から解剖学的構造と経験の相互作用の産物である。ここで経験とは,過去の経験で覚えているものと,現在の経験と,将来の経験の予想をいう。ある種の行動や精神状態が遺伝的因子に影響される確かな証拠があっても,それはそうなりやすい傾向があるということであって,そうなると決まっているわけではない。一卵性双生児ペアは遺伝子が同一であるが,一卵性双生児のひとりが統合失調症か若年性(一型)糖尿病の場合,もう一人がこうした疾患を患う確率は50パーセント以下である。


エリオット・S・ヴァレンスタイン 功刀 浩(監訳)・中塚公子(訳) (2008). 精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の科学と虚構 みすず書房 pp.186

実際は複雑な現象である

「ブードゥー教の呪いで人が死ぬ」ことも,立証されている。ハーバード大学の著名な生理学者ウォルター・キャノンがこれを研究し,後にジョン・ホプキンス大学の心理生物学者のカート・リクターも調査した。ブードゥー教の信仰が行われている国では,いたって健康な人でさえ,呪いが自分にかけられたことを知ると,衰弱して死に至るということが実際に起きる。また,それほど昔のことではないが,医学界や科学界は,ストレスが感染に対する抵抗力やガンの成長に影響を与えるという概念を嘲笑したものである。しかし,これが本当に起こることを示す説得力ある実験データが提出され,現在では広く認められている。ストレスによって分泌が促進されるホルモンが,どのように免疫系を抑制するかという問題に関して,「精神内分泌神経免疫学」(psychoendocrine neuroimmunology)の分野で現在盛んに研究されている。さまざまなレベルでの現象を橋渡しする必要があることをこの名は示唆する。

エリオット・S・ヴァレンスタイン 功刀 浩(監訳)・中塚公子(訳) (2008). 精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の科学と虚構 みすず書房 pp.183

還元主義的方法

 還元主義的な方法を用いると,より統合的現象の基礎にあるメカニズムを理解することによって現象自体の理解が進むが,そうした「下から上への」アプローチが科学を押し進める唯一でかつ,つねに最善の方法だと考えるのは間違いである。精神障害に関して生化学的アプローチを用いた研究が行われ,神経化学や薬の作用についておびただしい知見が蓄積している。だが,精神疾患に関して,どれほど理解が進んだかは怪しい。生化学的なバランスの崩れが本当に精神障害の原因であるかは明らかではないし,仮定された生化学的なバランスのくずれがあったとしても,それがどのようにして,それぞれの精神障害に特徴的な情動,認知,行動の諸症状を発現させるのかについても,いまだ,わかっていない。精神現象の次元と生化学現象の次元の隔たりはきわめて大きく,まだ橋渡しできていない。


エリオット・S・ヴァレンスタイン 功刀 浩(監訳)・中塚公子(訳) (2008). 精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の科学と虚構 みすず書房 pp.182

行動が脳の構造を変える

 行動が脳の構造を変えるという結論を支持しているのが,カリフォルニア大学バークレー校の心理学者マーク・ブリードラブの最近の報告である。頻繁に性行為を行う機会があったラットでは中枢神経系の大きさに変化が見られた。彼の結論は「性行為の違いが,脳の構造変化を引き起こしているのであり,その逆ではない」というものだった。下半身の活動が神経系の構造を変化させることができるならば,頭の活動が同じ効果をもたらさない理由はない。
 経験がニューロンの構造や機能を変えられるという有力な証拠があるからには,精神障害の患者の脳に見られる何らかの顕著な構造的・生理学的特徴を見て,それをこの障害の原因だとみなすのが危険なことは明らかなはずだ。精神疾患患者は自分の世界に引きこもり,外部からの刺激をほとんど受けない状態になることもあるし,強迫的な行動を繰り返したり,あるいはまったく動きのない状態になることがある。また,興奮して同じ場所を行きつ戻りつし,睡眠や食事が過剰または過少になったり,妄想に取りつかれたりする。こうした思考や行動パターンのどれかが長く続けば,脳の物理的変化が生じる可能性がある。だから,特定の精神障害の患者に見られる「生物学的マーカー」がすべて,障害の原因だとは仮定できない。脳の生化学的,あるいは他の生物学的な変化は,患者の精神状態や行動によって生じたものかもしれないのである。

エリオット・S・ヴァレンスタイン 功刀 浩(監訳)・中塚公子(訳) (2008). 精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の科学と虚構 みすず書房 pp.170-171

相関と因果関係

 相関関係がいかに強くてもそれがそのまま因果関係とはならないことを,たいていの人は知っている。ところがこの事実は容易に忘れられる。傘を携えることと雨とは強い相関関係があるが,傘を携えているからといって雨が降るわけではないことを誰でも承知しているのに,脳の中の何らかの生物学的マーカーと精神障害の間に相関関係があることが発見されると,このマーカーを障害の原因だと信じ込むという落とし穴に容易にはまってしまう。脳がすべての精神的な経験において中心的役割を担っていることが知られていることがその1つの理由なのだろうが,論理的には,この関係は傘と雨の関係と変わりがない。人の精神状態や経験は脳に影響を与えうるし,逆もありうる。2つの事柄に相関関係があるとき,どちらが原因でどちらが結果であるか,自分でわかっているつもりになってはいけない。「原因」と「影響」が混同されやすい。また,2つのものに因果関係がなくても,大きな相関関係はありうる。たとえば,ほとんどの国で,名前が母音で終わる人は名前が子音で終わる人より,平均でみると,背が低い傾向が見られる。しかし少し考えてみればわかるように,最後の母音子音と背の高さに因果関係を想定すべき道理はない(注)。

(注)なぜ母音で終わる人のほうが背が低いかわかるだろうか?

エリオット・S・ヴァレンスタイン 功刀 浩(監訳)・中塚公子(訳) (2008). 精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の科学と虚構 みすず書房 pp.167

つまり・・・

 要約してみよう。神経科学と薬の作用の神経薬理の知識は大いに増したが,理論のほうはここ50年ほとんど変わっていない。現在までに,薬理学的知見や技術が大いに進んだ。ところが情動に関する生化学的研究は,脳に全部で100以上あると推定される神経伝達物質のうち,せいぜい3つか4つのものとの関連にかぎられている。また,最新の抗うつ薬は,受容体に特異的に結合するようになってきているものの,従来と同じ少数の神経伝達物質にしか作用しない。薬の開発は,うつ病の原因や薬の作用メカニズムの理解が進んだからというより,市場を念頭において進められる。抗うつ薬は,うつ病の原因である生化学的欠陥を正常化することによって作用するとよく言われている。この文句は,売り込みには有効だが十分な証拠はない。


エリオット・S・ヴァレンスタイン 功刀 浩(監訳)・中塚公子(訳) (2008). 精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の科学と虚構 みすず書房 pp.145-146.

うつ病の海馬減少説

 うつ病の海馬細胞減小説はなかなか興味深く,調べてみる価値があるが,デュマンらがあっさりと認めているように,この仮説が適用できるのはうつ病患者の比較的少数に限られる。というのは,うつ病患者の大半で海馬の細胞の減少が見られるという証拠もないし,うつ病になる前に必ず大きなストレスがあるというわけではないからである。実際,最初のうつ病の発作が,何もかもうまくいっている時期に起こることも珍しくない。ところが海馬仮説で一つ大事なのは,この仮説によってうつ病の原因を探す範囲が広がったことである。この仮説では,神経伝達物質の異常の証拠のみに着眼するのではなく,別の生物学的な要因に目を向け,その要因が個人の生活の中の諸事情によっていかに影響を受けるかにも注意を向ける。

エリオット・S・ヴァレンスタイン 功刀 浩(監訳)・中塚公子(訳) (2008). 精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の科学と虚構 みすず書房 pp.145

うつ病とノルアドレナリン,セロトニン

 うつ病患者で,ノルアドレナリンかセロトニンの代謝産物の濃度,またはその両方の濃度が低い人もいるが,大多数はそういうことはない。値はまちまちだが,くつかの研究から平均値を出すと,うつ病患者のわずか25パーセントでこれらの代謝産物の濃度が低下しているとするのが妥当だ。うつ病患者の中にはノルアドレナリンの代謝産物の濃度が異常に高い人も実際にいるが,うつ病患者の大多数は正常の範囲内である。一方で,うつ病に罹ったことのない患者でも,これらの代謝産物の濃度が低い人もいる。いずれにせよ,何が計測されているかが問題として重要である。というのも,尿や脳脊髄液中のノルアドレナリンやセロトニンの代謝産物は脳に由来するものは半分以下で,残りの半分は身体のさまざまな器官に由来するからだ。


エリオット・S・ヴァレンスタイン 功刀 浩(監訳)・中塚公子(訳) (2008). 精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の科学と虚構 みすず書房 pp.133-134

合理的人間モデル

 われわれがどのように意思決定をしようと,効用を最大化することが求められる数学的な世界ほど厳密でも,完全でもない。情報を隅に追いやり,可能性を検討しないまま人生を送っている。われわれは仕事をすることから部分的にしか満足を得ていない。そして,ここでとりあげた例は,人生における厄介な問題を考慮に入れてさえいない。それは不確実性である。われわれが行う選択の大部分では,その結果は確実に起こると考えているわけではなく,ある確率で起こると考えている。
 そうした考え方が行動経済理論の基礎をつくっているが,経済学者はしばしば,「合理的人間」を前提に置いてわれわれに重荷を背負わせたことについて弁明し,この考え方は割り引いて受け止めるべきだと説く。なかには,われわれは合理的人間モデルにしたがって意思決定をしていないことを認める経済学者もいる。合理的人間モデルにしたがうのであれば,問題の本質を理解し,考えられる代替手段を比較して選好を明確にし,複雑な最適化を定式化して,最終的な行動手順に行き着くというプロセスを経なければならない。そのため,われわれは合理的人間のように意思決定しているとは主張せず,たとえ明示的にそうはしていなくても,あたかもこの手順にしたがっているかのように行動すると主張する。言い換えれば,われわれの結論は,たとえどんな方法で導き出されようと,最後には,この形式化された「合理的人間」アプローチの結果として生じていたであろう結果になるということだ。

リチャード・ブックステーバー 遠藤真美(訳) (2008). 市場リスク 暴落は必然か 日経BP社 p.381-382

人の振る舞いと不確定性原理

 人の振るまいには,不確定性原理との類似性が明らかに認められる。人は観察されているとさまざまな心理的抑制が働き,観察されていない場合とは異なる行動をとる。取引内容が開示されて精査される場合にトレーダーが異なる行動をとるのは,単に金銭上の問題からである。ポジションの透明性は,流動性の需要者と投資家にとっては有益だが,流動性の供給者にとっては有害である。流動性の供給者はポジションを長期的に保有するつもりはない。それは典型的な流動性の需要者も同じだろう。マーケットメーカーと同様,流動性の供給者は最後には市場に戻ってポジションを処分する。その際には,市場の反対側に流動性を必要としている別の投資家がいることが理想である。ほかのトレーダーが流動性の供給者のポジションを知っていれば,理論上では,こうしたポジションがすぐに市場で売られる公算が非常に大きいと推測される。ほかのトレーダーは,市場に巨額の買い持ちが積み上がっていることを知っており,こうした取引を最初に引き受ける側になりたがらないか,仮に引き受けるとしたら,価格面でさらに譲歩するように迫る。

リチャード・ブックステーバー 遠藤真美(訳) (2008). 市場リスク 暴落は必然か 日経BP社 p.373-374

勝つことで生じる2つの心理状態

 最も単純な市場サイクルは,2つの投資家心理によって生まれる。1つ目は,投資の成功体験が積み上がるにつれ,リスク許容度が高くなるというものだ。儲けが出ていると,それに比例して,より大きなリスクを進んでとりにいくようになる。この現象はしばしば「ハウス効果」と呼ばれる。勝っているギャンブラーは,カジノのカネ(“ハウスマネー”と呼ばれる)を使ってプレーするので,賭け金を増やす傾向が強いこととよく似ているからだ。2つ目は,勝つ人が増えれば増えるほど,自分は頭がよいと考えるようになることである。投資家は自分の相場観が当たって儲けると,その見方にいっそう固執するようになる。たとえ投資が成功している本当の理由が,自信の相場観とは何の関係がなかったとしてもだ。


リチャード・ブックステーバー 遠藤真美(訳) (2008). 市場リスク 暴落は必然か 日経BP社 p.286

複雑性を減らすべし

 要点は明快である。規制や組織的な監視の階層を追加して,リスクをコントロールしようとしても,われわれの制度設計が生み出した市場の複雑性や密結合がもたらす問題を解決できるとはかぎらない。問題を解決するどころか,逆に悪化させるおそれさえある。だからといって,規制をすべて窓の外に放り投げるべきだといっているのではない。ここでいいたいのは,事後的に規制を強化してリスクをコントロールしようとするのではなく,何よりもまず複雑性を減らすのが望ましいということだ。

リチャード・ブックステーバー 遠藤真美(訳) (2008). 市場リスク 暴落は必然か 日経BP社 p.277

事後的な説明はいくらでもできる

 いまになって考えれば,いったいどうしたら,どのリスクにも誰もまったく気づかないということがありえるのか,理解に苦しむ。しかし,スペースシャトルの2つの爆発事故,そして,チェルノブイリとスリーマイル島で起きた2つの原発事故でも,これと同じことがいえる。機能不全が起こるのには原因があり,事後的にならいくらでも説明がつくものだ。問題は複雑性そのものにある。あらゆる相互作用がもたらすあらゆる大事故の危険性に備えることなどできない。事態は一気に進展していくため,調整をほどこす時間はいっさいない。


リチャード・ブックステーバー 遠藤真美(訳) (2008). 市場リスク 暴落は必然か 日経BP社 p.245

君は裏切ったのか!

 硬直的に二項対立思考する人は,“味方”の陣営に属する各人に対して,つねに“正しい意見”に忠実であることを純粋主義的に要求します。
 ちょっとでも“味方の統一見解”からずれたようなことを口にしたり,“敵”の言い分を部分的に肯定したりするようなことを言うと,「君は裏切ったのか!」と問い詰めます。「別に,いつも同じ意見である必要などないだろう」などと言おうものなら,その人が悪魔にでも取りつかれたかのように大騒ぎし,糾弾し始めます。
 英雄として祭り上げられている人だって例外ではありません。むしろ英雄であればあるほど,純粋に“味方の理想”を守っていくことを期待されます。
 英雄が信者の期待を大幅に裏切るようなことをすると,とんでもないことになります。悪魔そのもののような扱いをされるかもしれません。硬直した二項対立図式は,誰にとっても不自由です。

仲正昌樹 (2008). 知識だけあるバカになるな! 何も信じられない世界で生き抜く方法 大和書房 Pp.136-137

敵を基準に思考する

 思想・宗教的な確信からであれ,売られた喧嘩を買ってしまったからであれ,「善=味方/悪=敵」の二項対立的な思考が癖になっている人は,しばしば,「敵」を基準に思考するようになります。「敵を基準にする」というのはヘンな話だ,矛盾していると思うかもしれませんが,これは実際によくあることなのです。
 どういうことかと言うと,二項対立的に考える人は,「相手(=敵)が言うことは嘘である」と最初から決めつけているせいで,相手が何か言うと,自分の頭の中でその真偽を確かめもしないで,それをすぐに否定し,その「正反対」を自分(たち)の“意見”にしてしまう傾向があります。


仲正昌樹 (2008). 知識だけあるバカになるな! 何も信じられない世界で生き抜く方法 大和書房 Pp.123

「善/悪」思考

 しかも,さらにまずいことに,独特の価値観・世界観に基づく二項対立図式で思考する人は多くの場合,その二項を「善/悪」と結びつける傾向があります。
 マルクス主義者であれば,「ブルジョワ的思考=悪/プロレタリア思考=善」,フェミニストであれば,「女性を蔑視する傾向=悪/女性を尊重する思考=善」,保守主義者であれば,「伝統を破壊する思考=悪/伝統を尊重する思考=善」,エコロジストであれば,「環境を大事にしない思考=悪/環境を大事にする思考=善」,愛国主義者であれば,「国を愛さない思考=悪/国を愛する思考=善」……という具合です。
 当然のことながら,自分と味方の立場は「善」の側で,敵は「悪」の側です。「善」は「悪」に勝たねばなりません。味方が善で,敵が悪だと強く信じてしまうと,相手(=敵)が何か「正しそうなこと」を言っているなと心のなかで感じても,なかなか素直に認めることができません。相手の言い分を認めることが,悪魔に誑かされることのように感じられてしまうのです。

仲正昌樹 (2008). 知識だけあるバカになるな! 何も信じられない世界で生き抜く方法 大和書房 Pp.114

二項対立図式の罠

 硬直化した「二項対立」的志向が陥りやすい罠とはどういうものか一言で言ってしまえば,自分(たち)が関心を持っているテーマの中から「二項対立図式が際立つような争点を見出してくるよう努める」のではなくて,「二項対立図式が際立つような争点が絶対にあるはずだ」と最初から決めてかかる傾向があるということです。

仲正昌樹 (2008). 知識だけあるバカになるな! 何も信じられない世界で生き抜く方法 大和書房 p.111

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