しかしながら,新上流階級の親たちのやり方もいいことづくめではない。そこにはマイナス面もあり,それは何事もやりすぎてしまうことである。たとえばエリート家庭の子供たちには,バレエ教室,水泳教室,家庭教師,セラピーなどでスケジュールがいっぱいで,自由に遊ぶ時間もないといった状況がよく見られる。また,子供を有名幼稚園に入れようとして,そのための準備学校に通わせる親もいる。これは都市伝説ではなく,裏づけのある事実である。幼稚園でもそうなのだから,大学となれば推して知るべしで,子供を名門大学に入れるためならどんな努力も惜しまないという親が少なくない。そうした親たちは子供が大学に入っても干渉をやめられず,それがとうとう社会現象化して「ヘリコプター・ペアレント」[子供が大学生になっても子離れできない親。ヘリコプターのように子供の頭上を旋回し,何かあればすぐに降りてきて助けようとする]と呼ばれるほどになった。この言葉はアメリカの大学管理者のあいだでは日常的に使われている。さらに,エリート層の親たちは絶えず子供を褒めるが,これには逆効果もありうるとする研究結果が数多くだされている。なぜなら,たいていの場合,親たちは子供の行ないを具体的に褒めるのではなく,子供が賢いことを褒めるからである。その結果,多くの子供たちが「自分は賢い」というイメージを守ろうとし,そのイメージを危うくするチャレンジを避けるようになる。
チャールズ・マレー 橘 明美(訳) (2013). 階級「断絶」社会アメリカ:新上流と新下流の出現 草思社 pp.68
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