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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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フェア

“フェア”というのは人間的な考え方だが,勝負の結果に一貫性をもたらすため,結果を予測しやすくなるという側面もある。フェアな戦いでは,もっとも力の優れた者が勝つ(この結果が覆されると不正が疑われることになる)。そしてフェアな戦いでは,常に1対1である。有史以来,古代ギリシャ人,ヨーロッパ中世の騎士,日本の武士,アメリカ西部のガンマンなど,いずれの戦いにおいても,名誉や地位や栄光を獲得できる唯一の戦闘形式,それは1対1の決闘だった。
 生物の世界においても,1対1の決闘では,通常はもっとも能力の優れたオスが勝つ。しかし複数が入り乱れての戦いになると,そうとは限らない。1対1の対決は,単純で意外性もなく,比較的結果を予想しやすい。こうした戦いで,能力の劣ったオスが能力の優れた大きなオスを倒すのは難しい。かつての兵士同様,力,スタミナ,武器のサイズがものを言うのだ。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.117
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次男以下の貴族の生きる道

貴族の次男以下の男性に唯一残された選択肢は,財産を相続する立場にある女性と結婚することだった。当時は死産や幼児の死亡が多く,一家に男性の相続人が一切いないという状況がたびたび生まれた。そのような場合,女性が財産を相続したのである。こうした女性は,自分が望みさえすれば,財産をもたない男性と結婚しても差し支えなかった。そうなれば財産を持たない男性も,それを機に新たな家系を築くことができる。だが,相続権を持つ貴族の女性は,発情期のアフリカゾウのメスと同じくらい数が少ない。そこで,女性をめぐる熾烈な争いが起こった。
 貴族の息子たちは,7歳になるころにはほかの騎士の臣下となり,戦闘の訓練を始めた。戦闘に行く師に付き従ったり,鎖かたびらや鎧をまとって走ったり馬に乗ったりするなど,鍛錬に明け暮れた。そして14歳になるまでにナイト爵に叙されると,集団を作って旅をし,自分の勇敢さを証明する機会を求めてさまよった。こうした男性の主たる目的が,女性の気を引くことにあったことは疑いの余地がない。ライバルの男性を打ち負かし,貴族の女性の好意を勝ち得ることが何より重要だった。だがあいにく,大半の男性は目的を果たすことができなかった。相続権のある女性の好意を勝ち得られる男性は少なく,一般的には,30年も40年もライバルと戦い,集団のトップに上り詰めた男性に限られていた。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.84-85

オスとメスの不均衡

こうしたオスとメスの配偶子の大きさの違いは,生物の生態に多大な影響を及ぼす。第1に,メスはオスほど多く配偶子を作ることができない。卵1つを生み出す材料があれば,オスは何兆という精子を生み出せる。しかも,それぞれのオスが同様に膨大な量の精子を生み出すため,その数字はどんどんふくらんでいく。人間の女性が一生のうちに生み出す生殖可能な卵は,400個ほどでしかない。対照的に男性は,毎日1億もの精子を量産する。一生では,ゆうに4兆を超える。仮に世界の人口が1000人だった場合,精子は卵より1000兆ほど多いことになる。現在の人口で計算すれば,10の24乗分も精子のほうが多い。これは,生物界全体を見れば,決して極端な例ではない。事実上どの生物種でも,卵がまるで足りない。その結果,争いが起こる。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.76

武器が大きくなる理由

これら待ち伏せ型および忍び寄り型の捕食動物が狩りに成功するかどうかは,武器を素早く繰り出し,即座に獲物の行動能力を奪えるかどうかにかかっている。つまり速さが重要になるが,狩りの成否を決めるのは,動物全体の移動速度ではない。大切なのは,付属器官を動かす速度,すなわち,武器をどれだけ速く動かせるか,である。この場合,たいていは武器が大きいほうが都合がいい。あごなど,獲物を捕まえる武器が長ければ,それだけ遠くの獲物を狙うことができる。武器が大きければ,より多くの反動エネルギーを蓄えられる分厚く頑丈な骨格要素や,より大きく俊敏な筋肉を内部に収容できる。また,武器の端についている鉤や爪は,関節から離れていればいるほど,動きが速くなる。つまり武器は長いほうが,空気や水を切り裂く速度が大きくなる。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.63

待ち伏せ型の武器の巨大化

カマキリも,ほとんどの種が待ち伏せ型である。長い湾曲したトゲの生えた超大型の前肢を持っているのはそのためだ。「拝み虫」とも呼ばれるが,これはカマキリが,顔の前に大きな前肢を掲げる習性があることに由来する。その姿が,拝んでいる人に似ているのである。捕食用の長い前肢はバネ仕掛けのような構造になっており,この拝むような姿勢というのは,いわば拳銃の撃鉄を引いた状態にたとえることができる。そこへ獲物がふらふら近づいてくると,トゲつきの肢を瞬時に突き出し,獲物を捕まえる。
 カマキリの初期種はもっと痩せており,地面をはい回って獲物を追いかけることもあれば,草に隠れて獲物を待ち伏せすることもあった。その前肢はやや大きめで,見つけたクモや昆虫を素早く捕まえるのに便利だった。だが次第にカマキリは,この祖先から待ち伏せ型へと特化していく。移動能力を高める淘汰の力は弱まり,より遠くの獲物も捕らえられるように,前肢がどんどん大きくなっていった。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.59-60

待ち伏せ型の巨大化

獲物が近くに来るのをじっと待つタイプ,いわば待ち伏せ型の捕食動物は,ほかの捕食動物よりもはるかに巨大な武器を持つ方向へ進化する。たとえばサーベルタイガーは,待ち伏せ型の捕食動物である。木の枝から飛び降りて,無防備な獲物の首に犬歯を突き刺す。このタイプの捕食動物は,ピラニア同様,もはや獲物を追いかけて捕まえることをしない。そのため,たいていは速く走ったり泳いだりしない。その代わり,草陰に隠れるハンターのように風景に溶け込み,じっとしたまま,獲物が近くに来るのを待つ。そして不幸な獲物が通りかかったら,隠れ場所から突進し,あごで噛み付いたり肢で殴りつけたりして攻撃し,瞬時にしてその行動能力を奪ってしまう。相手は,何が起きているのかさえ分からず,逃げる暇もない。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.59

特殊化による繁栄

肉食哺乳類は,歯をいくつかのグループに分け,その形や機能を個別に進化させることで,それぞれ特殊化し,信じられないほどの繁栄を生み出した。しかし,この解決法は完璧とはほど遠い。トレードオフ問題がもたらす根本的な制約は,何ら解決されていない。いくら歯を別々に進化させたとはいえ,犬歯,小臼歯,臼歯は同じあごに並んで生えている。これはいわば,スイス・アーミーナイフに含まれるすべての道具を出しているようなものだ。そのため,噛む時には注意してそれぞれの歯の機能を利用しなければならない。骨はドーム型の臼歯で,健や肉は鋭い歯を持つ小臼歯で噛み,犬歯は使わないようにするのである。
 フランス料理のレストランで極上のステーキを食べるのであれば,このように注意深く咀嚼するのも,一種のぜいたくと思えるかもしれない。だが野生の肉食動物に,そんな余裕があるはずがない。ほかの肉食動物が,獲物をかすめ取ろうと絶えず狙っている。できるだけ速く,肉を切り裂き,骨を砕いて食べなければならない。それほど慌てていれば,間違いは起こる。歯が摩耗することもあれば,歯が折れることもある。実際,現生および絶滅肉食動物を調査してみると,歯の自然損傷の割合は驚くほど高い。およそ4本に1本の割合で,割れたり折れたり砕けたりしている。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.49

サーベルタイガー

巨大な牙を持つ肉食動物は,進化できなかった,あるいは進化しなかったために絶滅した。現代の肉食動物の歯が小さいのは,異様なほど大きな牙を持つ個体が,獲物を捕らえるのに苦労したからだろう。歯が大きくなれば,ほかの体の構造を犠牲にしなければならない。つまり,相反する淘汰の力のバランスが問題となる。武器が大きければ,獲物を殺すのには都合がいいが,獲物を捕らえる行動の妨げにもなる。捕食動物の個体群には,異様に大きな武器を持った個体が時々現れる。だが,獲物を捕らえるといった重要な場で行動が制限され,結局生存競争に負け,やがては消えていく可能性が高い。
 サーベルタイガーは典型的な事例である。犬歯の進化がこうした極端なレベルにまで進んだ例を見ると,いずれの場合も犬歯の拡大に合わせ,あごや頭蓋骨の形が大きく変化している。あごの関節を修正しなければ,あごを大きく広げることができない。また,獲物ののどや首に歯を深く食い込ませるためには,頭をかなり後ろに下げなければならない。そのため,サーベルタイガーは速く走れなかった。その動きは,きわめてぎこちなかったに違いない。結局,スピードに頼って獲物を狩る肉食動物に,それほど巨大な武器が現れることは二度となかった。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.45-47

肉食動物へ

時代が下ると,歯はますます特定の用途に適したものに進化していく。それとともに,肉食動物の種が増えるにつれ,重視される用途にも違いが生まれるようになった。さまざまな種がそれぞれ,狙う動物の範囲を狭めていったため,歯に対する要求も,種ごとに変化し始めたのだ。こうして肉食動物の歯は,獲物の種類や狩猟方法に合わせ,それぞれ異なる方向へ進化していった。中には,雑食に適した歯の形を保持したままの種もいたが,多くは,オオカミ,ハイエナ,ネコ,サーベルタイガーなど,肉のみを食べる本当の意味での肉食動物へと多様化していった。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.41-42

迷彩服の進化

ネズミは,風景に溶け込んでいない個体を狙うフクロウに対抗するため,望みうる最高の擬装を行う方向へ進化を遂げた。理想的には,この迷彩服を選別するプロセスも,このネズミの場合と同じように展開されていくはずだった。ところが残念なことに,このプロセスに大量生産という政治的・経済的問題が紛れ込んだ。アメリカ陸軍は,複数の迷彩服を選んで環境により使い分けるということをせず,たった1つの迷彩服のみを選んだ。それがユニバーサル・カムフラージュ・パターン(UCP)である。
 迷彩服を統一することで,生産や配布といった物流上の問題は解決できたかもしれない。しかしそのせいで兵士は,環境によってはかえって目立ってしまうことになった。ネズミは問題を解決するために,1種類だけではなく2種類の色を選択した。戦闘はさまざまな環境で起こる。1種類の迷彩服ですべての環境に溶け込むことなどできないのである。
 間もなく,現場の兵士が不満を訴えるようになった。2009年になると,UCPがアフガニスタンではひどく役に立たないことが,誰の目にも明らかになった。そこで陸軍は急遽,新たな迷彩服の開発を行い,アフガニスタンに展開している兵士に対し,2010年から,“不朽の自由作戦カムフラージュ・パターン”(OCP)の迷彩服の支給を始めた。ちなみに特殊部隊の兵士は,こうした大量生産に絡む制約を全く受けていない。各環境に合致した多彩な迷彩服を採用し,作戦によって使い分けている。外国の軍隊も,迷彩模様を選択する際に,発見されやすいかどうか高度なテストを行っている。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.27-28

リスクが大きい

体というものは普通,何年もかけて大人の大きさに成長していく。だが枝角は,個体の大きさにかかわらず,全く何もない状態から最大サイズになるまでに,ほんの数か月しかかからない。どんな動物のどんな骨よりも速く成長する。そのため,エネルギーコストもそれだけ多くかかる。近縁種のダマジカの場合,枝角が成長している間は,通常の二倍以上のエネルギーが必要になると推測されている。さらに,枝角を成長させるためには,骨を構成するミネラル(カルシウムやリン)が大量に必要になる。だが,食料からだけではそれをまかなえないため,ほかの骨から必要なミネラルを奪い,枝角に送る。その結果,アメリカアカシカは毎年この時期になると,骨粗鬆症になってしまう。発情期を迎え,メスをめぐって360キログラムものライバルと絶え間なく戦わなければならないまさにその時に,骨が弱く,もろくなってしまうのである。オスは,発情期が終わるまでの間,頻繁に激しい戦いを繰り返し,体重の四分の一を失う。こうして,もろい骨のまま,飢え,ぼろぼろになりながら,この季節をやり過ごす。そして冬になるまでのわずか数週間のうちに,組織や体力を回復していく。それができなければ,飢え死にするしかない。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.12-14

あとづけの理由

企業パフォーマンスを向上させるにはどうすればいいのかという疑問への最良の答えにこれでようやくたどり着いた。リーダーシップや企業文化や顧客志向など,いつも決まって候補に挙がるものは業績アップの要因ではなく,業績のよさから跡づけた理由と考えたほうがいい。それらをとり去れば残るのは2つ,戦略の選択と実行である。前者は,社内環境のほかに顧客と競合企業とテクノロジーを考慮しなくてはならない。だからリスクがある。後者は,同じことをしても組織によって効果が異なるので,成果が確実ではない。安直な攻略法がほしくても,現実のマネジメントは私たちが思う以上に複雑で,心地よいストーリーがささやくよりもはるかに不確実なのである。智恵のある経営者は,ビジネスとは成功の確率を高める方法を見出すことだと認識している。成功が確かなものだとは決して思っていない。企業は適切な戦略を選択し,業務の効率化につとめ,なおかつ幸運に恵まれれば,少なくともしばらくはライバルに差をつけることができるだろう。だが,そうして手に入れたものも,やがては消えていく。現在の成功はつづく成功を保証してくれるわけではない。成功は新しい挑戦者を引き寄せ,そのなかには現在の成功者以上にリスクを厭わない者がいるからである。これでおわかりいただけただろう。ストーリーとして魅力があっても,成功の公式など存在しない。

フィル・ローゼンツワイグ 桃井緑美子(訳) (2008). なぜビジネス書は間違うのか:ハロー効果という妄想 日経BP社 pp.239-240

共通の虚構

以上のことを考えあわせると,つぎつぎと出版されるビジネス書には,その核心に共通の虚構があるのが見えてくる。すなわち,企業は偉大になることを自由に選択できる,わずかなステップで意図したとおりに偉大になれる,成功は外的要因に影響されることもなくもっぱら自分の意のままに引き寄せることができる,ということだ。これでは大金持ちになる5つのステップとか,2週間で10キロ痩せる方法とか,みずからの内なるパワーに気づこうといったセルフヘルプ本と大差がない。しかも,仮にこれらのことを認めるなら,その逆のこともいえる。会社が偉大にならなかったら,経営者がどこかで舵とりをまちがえたことになるのだ。教えられたステップを無視したか,道を踏みはずしたにちがいない。みずからの意志と力だけで偉大になれるなら,なりそこねるのも自分の責任なのである。

フィル・ローゼンツワイグ 桃井緑美子(訳) (2008). なぜビジネス書は間違うのか:ハロー効果という妄想 日経BP社 pp.214-215

組織の物理法則という妄想

組織の物理法則という妄想は,ビジネスの世界が正確な法則に従っており,予測のできるものだと思いこむことである。そのために1つの行動がどんな状況でもうまくいくと思い,条件が違えばそれ相応に対応しなくてはならないことを忘れてしまう。競争の激しさ,成長の速度,競合企業の大きさ,市場の集中化,規制,グローバル化による事業活動の分散化など,条件が異なる局面はいろいろある。どんな場合にも,どんな企業にもかならず通用するやり方があるというのはわかりやすくはあるが,ビジネスの複雑さを見落としている。

フィル・ローゼンツワイグ 桃井緑美子(訳) (2008). なぜビジネス書は間違うのか:ハロー効果という妄想 日経BP社 pp.214

解釈の間違いという妄想

解釈のまちがいという妄想は,原因と結果,行動と結果の関係を混同することである。ずば抜けて優秀な企業に注目し,そのまねをすれば成功できそうな気がするが,おれでは一時的にはうまくいっても,大局的に見れば成功の確率が低くなってしまう。さまざまな企業を数多く見て,彼らが何をしてどうなったかを調査しなければ,不完全で偏った情報しか得られない。

フィル・ローゼンツワイグ 桃井緑美子(訳) (2008). なぜビジネス書は間違うのか:ハロー効果という妄想 日経BP社 pp.214

永続する成功という妄想

永続する成功という妄想は,成功しつづけるのは可能であるばかりか,それを目指すことこそが重要な目標だと信じることである。しかし,長期にわたり継続して市場平均を上回る業績をあげる企業はごくまれであり,統計を見れば結果的にそうだったというだけのことにすぎない。長く成功しつづけているように見えても,それは短期的な成功が連続していると考えるべきだろう。常勝の夢を追いかけていたら,目前の戦いに勝つという肝心ことがおろそかになってしまうだろう。

フィル・ローゼンツワイグ 桃井緑美子(訳) (2008). なぜビジネス書は間違うのか:ハロー効果という妄想 日経BP社 pp.213-214

同じ妄想

絶対的な業績という妄想が非常に危険なのは,単純な公式に従うだけで,ライバル企業の行動に関係なく業績を向上させられると思いこむことになるからである。この点に気づかなければ,経営者は的はずれなことばかりに気をとられてしまうだろう。この初歩的な考え違いは『ビジネスを成功に導く「4+2」の公式』のみのものではない。『ビジョナリー・カンパニー』もこの妄想に囚われている。ジェームズ・コリンズとジェリー・ポラスは,わずかな原則に従えば「時代を超える成功の計画図」が手に入ると主張し,競合企業の存在や業界内の競争にはひと言も触れなかった。だが,業績が相対的なものだとわかれば,いくらよかれと思って教えたものであろうと,いくつかの原則を実行するだけで成功できるはずがないのは明らかである。成功はつねに他社の動きに影響される。ライバルが多いほど,新しい競合企業が市場に参入しやすいほど,そしてまたテクノロジーの進歩が急速なほど,成功しつづけるのは難しくなる。がっかりするが,それが真実なのである。

フィル・ローゼンツワイグ 桃井緑美子(訳) (2008). なぜビジネス書は間違うのか:ハロー効果という妄想 日経BP社 pp.182

成功例だけをとり上げる妄想

ピーターズとウォーターマンの調査の手法には,根本的なまちがいが2つあった。1つは,ハロー効果によってデータが損なわれていた疑いが濃いことである。会社が成功した理由を経営者にたずねてみれば,私たちが何度も耳にしてきた類いの特徴を挙げるだろう。ビジネス雑誌を読んでも,同じことが書かれている。分析結果を改ざんする必要はない。そんなことをしなくても,そもそもデータは最初から信頼性が低いからだ。
 だが,そのハロー効果が生じるのは第2のまちがいからである。ピーターズとウォーターマンの第2のミスは,傑出した企業ばかりのサンプル群を調査したことだ。専門用語でいえば,従属変数にもとづいた標本抽出,つまり結果にもとづいたサンプル選びをしたということである。よくあるまちがいだ。たとえば,高血圧の原因を探るとしよう。このとき高血圧の患者だけを検査しても原因はわからない。血圧の高くない人の検査結果を比較して,初めて原因がわかるのである。同じことが企業にもあてはまる。業績の良い企業だけを調査しても,そうでない企業との違いがわかるわけがない。これを私は「成功例だけをとり上げる妄想」と呼んでいる。

フィル・ローゼンツワイグ 桃井緑美子(訳) (2008). なぜビジネス書は間違うのか:ハロー効果という妄想 日経BP社 pp.151

縦断的手法を

因果関係をより性格に説明したいなら,複数回にわたって異なる時期にデータを収集すれば,1つの変数がその後の結果にあたえた影響をもっと明確に分離できる。これは縦断的手法と呼ばれ,実行するには時間と経費がもっと必要だが,単純な相関関係から誤った結論を導いてしまうおそれは小さくなる。この方法なら,たとえばある時期にコンサルティング会社の指導を受けた企業の業績がそれ以降に向上したかどうかがわかる。先ごろ,メリーランド大学のベンジャミン・シュナイダーのグループがこの縦断的手法を用いて社員の満足度と企業パフォーマンスの関係を調査し,原因と結果を確かめようとした。データは数年にわたるものなので,満足度と業績の変化が観察できた。はたして結果は?資本利益率と1株あたり利益で見た財務実績が社員の満足にあたえた影響は,その逆よりも大きかった。どうやら勝ち組であることが社員の満足度を高める大きな要因になるのであって,社員が満足していても,企業パフォーマンスにそこまでの影響はあたえないようだ。シュナイダーらは,どのように壁を破って原因と結果を解明できたのだろう?長期にわたってデータを収集したのだ。1時点のデータで因果関係を推測するのははるかに楽だが,手に入るのは妄想なのである。

フィル・ローゼンツワイグ 桃井緑美子(訳) (2008). なぜビジネス書は間違うのか:ハロー効果という妄想 日経BP社 pp.125

相関と因果関係

では,管理者教育が企業パフォーマンスに与える影響を知りたいとしよう。どれだけ管理者教育に力を入れているかをハロー効果を避けて測定するには,教育のための総費用,管理者1人あたりの教育日数,受けられる教育の種類など,客観的な材料を用いなければならない。そのようにして,管理者教育に経費や時間をかける企業ほど業績がよいことが確認できたとする。この結果はどう解釈できるだろうか。管理者教育に力を入れれば業績が上がると考えていいだろうか。それはできない。儲かっている企業なら,教育にかけられる資金も他社より多いかもしれないからである。1時点でのデータ——横断的データ——を見ているかぎり,正しい答えを導くことはできない。心理学者のエドウィン・ロックはこの点を重視し,「相関性は因果関係の仮説を立てるには使えるだろうが,科学的な証明はできない。相関性そのものからは何もわからないのである」と述べている。

フィル・ローゼンツワイグ 桃井緑美子(訳) (2008). なぜビジネス書は間違うのか:ハロー効果という妄想 日経BP社 pp.123

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