ですから国際化時代の日本の社会文化系の学者にこれから求められる仕事とは,最早外国語の文献を翻訳することで日本国内を豊かにし,日本人を啓蒙するだけでなく,広く外国の人々に役立つ知識,日本人ならではの独創的な考えを世界に発信することだと私は考えるのです。この意味で文部省が外国語に翻訳された私の仕事を学問に対する私の貢献だと認めないことは,日本人学者の知的学問的貢献を,まだ国内的視野だけで評価していて,広い世界に対して寄与したかどうかの視点が欠けているからなのです。日本人学者の自然科学の分野での業績は既に国際的に目覚ましいものがありますが,社会文化系の学問の世界に対する貢献は明らかに遅れています。だから日本人の独創的な業績を世界にまず外国語の翻訳を通して広める必要があるのです。そしてこのことは日本語そのものの読める次の世代を広げることにも確実に繋がります。
鈴木孝夫 (2009). 日本語教のすすめ 新潮社 pp.238-239
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