I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   
カテゴリー「金融・経済」の記事一覧

自動の報道と取引

 市場の深刻な混乱は,きっかけとなる1つの出来事にたどれることがよくある。2013年の場合は,ホワイトハウスに関するでたらめのツイッターの速報が発端だった。ボットは競争相手を出し抜いて情報を利用しようとして,オンラインで配信されるニュースを漁り回っているので,おそらくこのデマを見つけて取引を開始したのだろう。この話には興味深いおまけがついている。翌年,AP通信が企業の収益に関する報道を自動化したのだ。これは,アルゴリズムに各社の報告書を詳しく調べさせ,業績をAP通信の伝統的な文体で200単語程度の文章にまとめさせるというものだった。この変更は,今や金融報道のプロセスから人間がさらに撤退することを意味している。報道機関のオフィスでは,アルゴリズムが報告書を普通の文章に変換するし,証券取引所の立会場ではロボットがそれらの文章を取引の意思決定に変えるのだ。
アダム・クチャルスキー 柴田裕之(訳) (2017). 完全無欠の賭け:科学がギャンブルを征服する 草思社 pp. 179-180

59ミリ秒のアドバンテージ

 それ以上に極端なことをわざわざやる企業さえある。2011年にはアメリカのハイバーニア・アトランティック社が,3億ドルをかけて新しい大西洋横断電信ケーブルの敷設に乗り出した。完成した暁には,これまでにないほどの高速でデータが大西洋を越えることになる。従来のケーブルとは違い,新しいケーブルはニューヨーク=ロンドン間の飛行経路の真下を通る。それが両都市を結ぶ最短経路だからだ。現在,大西洋をメッセージが横断するのには65ミリ秒かかるが〔1ミリ秒は1秒の1000分の1〕,新しいケーブルはそれを59ミリ秒まで縮めることを目指している〔2015年より運用開始した〕。人間が瞬きするのにかかる時間が300ミリ秒であることを考えると,それがどれほどの短さか見当がつくだろう。
アダム・クチャルスキー 柴田裕之(訳) (2017). 完全無欠の賭け:科学がギャンブルを征服する 草思社 pp. 168-169

情報の速さと投資

 電報が発明されたおかげでトレーダーたちは,二つの場所で価格が食い違っている場合にはそれにつけ込み,安い方の価格で買って高い方の価格で売ることができた。経済学ではこの手法は「アービトラージ(裁定取引)」という。電報が発明される前でさえ,いわゆる「アービトラージャー(裁定取引をする人)」たちは,価格の違いを追い求めてきた。17世紀には,金融業者を兼ねていたイギリスの金細工師は,銀の価格が銀貨の価値を上回ると,銀貨を鋳潰した。わざわざ金を携えてロンドンからアムステルダムまで出向き,交換レートの差で儲ける人さえいた。
アダム・クチャルスキー 柴田裕之(訳) (2017). 完全無欠の賭け:科学がギャンブルを征服する 草思社 pp. 164

可処分所得の増減

 重要なのは,かつて裕福だったものの,現在ではそうではない家庭では探求行為が減るという点だ。つまり裕福な家庭が,貧しい家庭とは異なる探求行為を伝統的に続けているというわけではない。家族の習慣は,可処分所得の量がどの程度かによって変わる。事実,可処分所得の量と探求行為の量の関係は,高い精度で予測が可能だ。可処分所得が増加すると,それに応じて交流における多様性や,訪れる店舗の多様性も増える。
アレックス・ペントランド 小林啓倫(訳) (2015). ソーシャル物理学:「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学 草思社 pp. 197

勝者の呪い

 もっとも高い値段をつけた人が買っているのだから,転売しようとすれば,必ずそれより低い値段しかつかないはずだ。これが,オークションでいう「勝者の呪い」である。「勝者の呪い」というのは,オークションで落札できる人は,その品物の価値を過大に評価した人だから,必ず損をするというものだ。もちろん,オークションで手に入れた品物を転売する気がなければ「勝者の呪い」は発生しない。他人よりも高い私的価値を自分がもっていたとしても,それは自分が損をすることにならない。ところが,転売して儲けるとか,その品物を使って儲けようという場合には,損失を被るという意味で「勝者の呪い」にかかってしまう。プロ野球選手がどの球団とも選手契約できるフリーエージェントになった場合,複数の球団のなかで一番高い年俸や移籍金をオファーしたところが選手を獲得する。しかし,しばしばその選手の活躍は期待はずれということになりがちだ。



大竹文雄 (2017). 競争社会の歩き方 中央公論新社 pp. 38-39


一発逆転

 宝クジを購入する動機には,このような資産蓄積の仕組みが背景にある,と思われる。購入者にとって重要なのは,平均還付という仮想的な金額(期待値)ではなく,このような資産蓄積が不可能な状況下での生存中における「一発逆転の可能性」なのではないだろうか。つまり,不確実性下の選択というのは,各自の生きている社会の構造と不可分なのである。
小島寛之 (2005). 使える!確率的思考 筑摩書房 pp. 215

多数の商品メニュー

 貨幣を保有することは,将来手に入れることのできる「多数の商品メニュー」を手にしているのと同じである。もちろん,他にも多少融通の効く商品はある。デパートの商品券を保有すれば,デパートで売っている商品とは何でも交換できる。そういう意味では商品券も流動性を持っている。しかし,デパートにない商品とは交換するのが困難である。チケットショップで換金すればいいが,時間がかかるうえ,額面をディスカウントされてしまう。だから商品券の流動性は貨幣に比べて限定的なのである。
小島寛之 (2005). 使える!確率的思考 筑摩書房 pp. 207

ビッグ・ファイブ

 アップル,アルファベット(グーグルの持株会社),マイクロソフト,アマゾン・ドット・コム,フェイスブックのIT企業「ビッグ5」は,収益力や成長性を反映する時価総額の大きさに加え,データや技術,人材など多方面でニュー・モノポリー(新たな寡占)を形成しつつあるといわれます。デジタル革命の波に乗るこうした巨大企業の文化が,かつて産業界に君臨した巨大企業(たとえばGEやIBM)の文化とかなり異なるであろうことは,容易に想像できます。
植村修一 (2018). “社風”の正体 日本経済新聞社 pp. 212

銀行の種類

 ちなみに,ウォール街に関する作品の舞台になる金融機関は,主に投資銀行です。銀行の名前がついていますが,投資銀行(investment bank)は,日本の銀行の主な業務である預金・貸出は行わず,主に大企業や機関投資家,政府などを相手に,株式や債券の発行引受けや資金調達・M&Aの助言,さらに市場でも為替を含むディーリング業務などを行っています。商業銀行(commercial bank,日本の銀行のイメージに近い)に比べ,少人数で多額の資金を動かし,従業員の報酬も高いとされます(その代わりスタッフの地位は不安定)。投資銀行と商業銀行では,企業文化がかなり違います。
植村修一 (2018). “社風”の正体 日本経済新聞社 pp. 189-190

後継者不足

 そうした中,同じく「2016年後継者問題に関する企業の実態調査」(サンプルは社長分析と異なる)では,国内企業の3分の2にあたる66.1%が後継者不足で,14年の前回調査に比べ,0.7%ポイント上昇しています。社長年齢が若い企業で後継者が不足なのはわかりますが,60歳代で54.3%,70歳代で43.3%,80歳代でも実に34.7%と,高齢層で驚くほどの高さとなっています。
植村修一 (2018). “社風”の正体 日本経済新聞社 pp. 68

派手な宣伝

 だが今日では,派手な宣伝をすることがベンチャーキャピタルビジネスの要になった。新たな企業がたくさん生まれ,新たな資金がふんだんに流れ込む中,ベンチャーキャピタルも,注目を集めなくてはとプレッシャーを感じているのだ。だからスタートアップ企業のようなおかしな動画をつくり,広報担当者を雇い,ブログやポッドキャストを立ち上げて,元ジャーナリストを雇って運営させる。毎年,シリコンバレーで大金を稼いでいるのは,一握りの企業だけだ。ベンチャーキャピタルたるもの,そうした企業にお金を預けなくてはならない。だが,そんな契約に至るのは,簡単なことじゃない。投資家は実のところ,おいしい契約を目指して,競い合わなくちゃいけないのだ。どうすればあの起業家にお金を受け取ってもらえるだろう?どうすれば目立つだろう?それには,話題づくりが必須だ。
ダン・ライオンズ 長澤あかね(訳) (2017). スタートアップ・バブル:愚かな投資家と幼稚な起業家 講談社 pp. 284

大事なのはビジネスモデル

 そしてもう一つ,私が新しい仕事で学んでいることがある。それは,いまだにこのビジネスは「テクノロジー業界」と呼ばれているが,実のところ,もはやテクノロジーが主役ではない,ということ。「素晴らしいテクノロジーを開発すれば報われる,という時代は終わった」というのは,ある友人の弁だ。彼は1980年代からこの業界で働いてきた元投資銀行家で,今はスタートアップ企業に助言している。「大事なのはビジネスモデルさ。市場は,一気に大きくなる企業の創業者にお金を払う。大事なのは,速く大きくなること。もうけるな,ひたすら大きくなれ,とね」
ダン・ライオンズ 長澤あかね(訳) (2017). スタートアップ・バブル:愚かな投資家と幼稚な起業家 講談社 pp. 179

ダムマネー

 シリコンバレーの新たな投資家の中には,ハリウッドセレブやポップスターなど,ウォール街が「愚かな投資家(ダムマネー)」と呼ぶ人々も含まれている。だがある意味,誰も彼もがダムマネーだ。何がものになり,どの企業が成功するかなど,誰にもわからないのだから。投資家の中には,お金をただ至るところにまき散らしている人もいる。これは,「ばらまいて祈る(スプレー&プレー)」と呼ばれるやり方だ。1発が運よく次のフェイスブックに当たって,残りの不発弾を補ってあまりある利益をもたらしてくれることを祈ろう,ってわけだ。ベンチャー投資家にとって最大の利益は,悪い馬に賭けることじゃない。よい馬に賭けるチャンスを逃すことなのだ。
 起業家の多くも,投資家に負けないくらい未熟で経験不足だ。どんな商品やサービスをつくるつもりか自分でもわからぬまま,資金を調達する者もいる。多くは会社経営の経験がなく,働いた経験すらない者もいる。おまけに,こうしたスタートアップ企業の創業者には,どこかいかがわしい人物も多い。かつてIT産業を動かしていたのは,エンジニアとMBA(経営学修士号)取得者だったが,今業界に息づいているのは,道徳心の薄いやり手の若者たちだ。
ダン・ライオンズ 長澤あかね(訳) (2017). スタートアップ・バブル:愚かな投資家と幼稚な起業家 講談社 pp. 50

資金調達可能

 今や誰もが次のフェイスブックを見つけようとして,ITをめぐる新たな狂乱が生まれつつある。毎週末を過ごす東海岸では,「サンフランシスコのベイエリアあたりは,ちょっぴち浮ついてきてるな」という漠然とした感覚しか持てないが,サンフランシスコに戻ると,その感覚は揺るぎないものとなる至るところにお金が転がっているのだ。
 中途半端なアイデアしかないパーカー姿の大学中退者でも,投資資金を調達できる。スクーターのレンタル,グリルドチーズサンドイッチ,毎月会員に犬のグッズを適当に送る会社……どこもかしこも資金を集めている。
ダン・ライオンズ 長澤あかね(訳) (2017). スタートアップ・バブル:愚かな投資家と幼稚な起業家 講談社 pp. 45

選好と寄与

 最も単純なモデルは,次のように記述できる。何らかの母集団の統計値に個人は2通りの方法で関与する。第1は,その統計値について何らかの選好を持つこと。第2は,その統計値に何らかの寄与をすることである。ふつう,両者は別々のものである。つまり,中年であることと中年の人と仲よくなりたいかどうかは別問題だし,金持ちであることと金持ちと付き合いたいかどうかは別問題だ。とはいえ両者の間に相関関係が存在することもある。


 相関性が存在しないなら,選好が同じだという理由で集まった人たちは,母集団のサンプルにすぎない。この人たちには,その選好以外には集団を形成する理由が何もない。


 選好と寄与が負の相関関係にあるときは,回帰する傾向が見られる。つまり,ある集団の何らかの統計値が平均から乖離していずれかの極値に寄っているとき,この集団は,反対の極値に寄っている集団に合流する傾向を示し,後者も前者に合流する傾向を示す。たとえば,太った人は痩せた人と,痩せた人は太った人と一緒にいたい,というふうに。この場合,太った人と痩せた人を分離しようとしても,持続しない。


 選考と寄与に正の相関関係が成り立つ場合には,分離が発生しうる。



トーマス・シェリング 村井章子(訳) (2016). ミクロ動機とマクロ行動 勁草書房 pp. 215-216


椅子取りゲーム

 経済学では,所得と成長,通貨供給量と信用,インフレ,国際収支,資本市場,公的債務の分析にこうした「会計報告」の類いが欠かせない。これらの数字は(分析目的でデータを収集する人に比べると),実施に経済活動に従事している人にとっては,往々にして把握しにくい。


 この状況は,別々の部屋にたくさんの椅子が置かれて大勢のプレーヤーが繰り広げる椅子取りゲームに似ている。人々は個別に行動しており,気づかれないうちに椅子が取り除かれたり,新しいプレーヤーが加わって新たな椅子が追加されたりする。プレーヤーにわかっているのは,すばやくやらないと,音楽が止まったときに坐る椅子がなくて退場させられてしまうことだけだ。だから誰もがせかせかし,のろくさい人がいると苛立つ。椅子の数が人の数より少ないことがつねに頭から離れないからだ。いかにうまくやろうと,音楽が止まったときに必ず何人かは椅子なしになること,どれほど俊敏でも,椅子なしになる人数は変わらないこともわかっている。椅子なしの人を退場させたとき,椅子を減らすのではなく退場者と同数のプレーヤーを加えていけば,退場までにプレーする平均回数を計算することができる。椅子取りが非常にうまくて最後まで退場させられないプレーヤーがいようと,初回で姿を消すプレーヤーがいようと関係なく,平均は数学的に求められる。



トーマス・シェリング 村井章子(訳) (2016). ミクロ動機とマクロ行動 勁草書房 pp. 49-50


個別からの一般化

 社会科学の中でも経済学は,このように個別の例からの一般化が重要な役割を果たす。それは経済学が,価値が等しいものの交換を主に扱うことと関係がある。私が自転車を買うとしよう。私は自転車を手に入れて150ドルがなくなる。自転車屋は自転車がなくなって150ドルを手に入れる。自転車屋の主人は,そのうち90ドルを次の自転車の仕入れに,40ドルを家賃,給料,電気代などに充てる。そして20ドルが利益として自転車屋のものになる。仕入れに支払われた90ドルは,さらに部品,組立工場の賃金,賃貸料,電気代などに充てられ,電気代は燃料,人件費,発電所建設に伴う借入金の金利,配当,税金などに充てられる。こんな具合に他の項目についても内訳を調べることが可能だ。こうしてすべての項目を調べ上げて会計報告をしようとすると,私が自転車に支払った150ドルから生じる利益(所得税・利益課税・社会保障給与税を含む)を150ドルになるまで足さなければならないことがわかる。



トーマス・シェリング 村井章子(訳) (2016). ミクロ動機とマクロ行動 勁草書房 pp. 48-49


重なり合い連動する

 情報ネットワーク,人種の分離,結婚,言語の発達などは,往々にして重なり合い,互いに連動する。小売店やタクシー会社やモーテルの従業員を見ると,均質であることが多い。アイルランド人であれ,イタリア人,キューバ人,プエルトリコ人であれ,あるいは白人または黒人であれ,プロテスタントまたはカトリックであれ,均質であるということは,何らかの目的や設計の存在を示唆する。だが決定因は情報ネットワークである可能性が高い。空きポストに採用されるのは,空きポストが出たことを知っている人だ。空きポストが出たことは,その会社で働いている知人から教えてもらった。その人と知り合ったのは,同じ学校出身だから,近所に住んでいるから,家族を介して,教会あるいはクラブが同じだから,といった具合である。しかも以前から社員による推薦は,新規採用者が望みうる最善の保証に近い。



トーマス・シェリング 村井章子(訳) (2016). ミクロ動機とマクロ行動 勁草書房 pp. 40


クリスマスカードの市場

 クリスマスカードの「自由市場」がなぜ最適の交換に行き着かないのかを疑問に思うなら,答はこうだ。市場ではないのだから,最適な結果を期待する理由がそもそもないのである。自由市場がうまく機能しているとすれば,それは,売買可能な商品を,情報が入手可能な状況で,自由意志に基づいて取引しているという特殊なケースである。天体にしても,ごく特殊な惑星に限れば円軌道を描いている。



トーマス・シェリング 村井章子(訳) (2016). ミクロ動機とマクロ行動 勁草書房 pp. 31


最強の社会科学

 経済モデルは人間の行動に関する誤った認識に基づいてつくられているが,皮肉にも,そうしたモデルがあるおかげで,経済学は最強の社会科学とされている。経済学が最強と言われる理由は2つある。1つ目の理由に議論の余地はない。公共政策への提言においては,経済学者はどの社会科学者よりも強い影響力を持っているからだ。なるほど政策提言は経済学者の独壇場だと言っていい。ごく最近まで,他の社会科学者が政策について議論する場に呼ばれることはめったになく,たとえ呼ばれたところで,親族が集まる場で子どもの席に座らされるような扱いを受けた。


 もう1つの理由は,経済学は知性の面でも最強の社会科学だと考えられているからである。経済学には核となる統一理論があり,それ以外のほとんどすべてのことがその理論から導かれる。それが最強とされるゆえんだ。あなたが「経済理論」という言葉を使うと,それが何を意味するのか,周りの人にはわかる。そのような土台を持っている社会科学は他にない。他の社会科学の場合はむしろ,理論の目的が特定の分野に限られる傾向がある。特定の環境下で何が起こるかを説明するためのものだ。実際,経済学者はよく,経済学を物理学になぞらえる。物理学と同じように,経済学ではいくつかの核となる前提が設定され,その前提の下で理論が展開されている。



リチャード・セイラー 遠藤真美(訳) (2016). 行動経済学の逆襲 早川書房 pp.22-23


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