ウナギのように電気を授かった魚が電気治療の最初の例となった。ローマ帝国クラウディウスの宮廷医スクリボニウス・ラルグスは痛風の治療に大西洋産の黒いシビレエイ(Torpedo nobilana)を推奨した。<生きた黒いシビレエイは,痛みがはじまったときに脚の下に置くといい。患者は彼に洗われる湿った岸辺に立って,つま先から膝までが無感覚になるまで,そのままに留まらねばならない。これは今ある痛みを取り除き,来るべき痛みが襲うのを防ぐ……>
百年後には有名な医師ガレノスが生きたシビレエイを頭痛の治療に用いるよう推薦した。効き目があったように思えるが,私自身としてはシビレエイの50ないし60ボルトを両耳のあいだに送り込もうとは思わない。もし治療に効果があったとしたら,痛みの信号を伝達する能力が混乱させられたためだろう。痛みの信号は規則的な一連のパルスによって伝えられ,(痛みレセプターの刺激で)パルスが頻繁になればなるほど,われわれの経験する痛みは強まる。しかし神経は1秒あたり千個かそこらのパルスしか伝えることができず,これを超えると逆説的な結果を引き起こすとみられている。すなわち信号は混乱に陥り,もしくはその通路を塞がれ,痛みの感覚は遠のく。この原理は今でも関節炎の痛みどめに応用されており,カプサイシン(生の唐がらし粉の活性成分)を幹部にほどこすことで神経を「過剰に刺激」するのである。
レン・フィッシャー 林 一(訳) (2009). 魂の重さは何グラム?—科学を揺るがした7つの実験— 新潮社 p.175
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