日常の会話で人びとが「私にはエネルギーが残っていない」というとき,それは科学者にとって「私は物理的な仕事をするキャパシティをもっていない」ことを意味している。しかしこのコンセプトの大衆的な使用は,場のコンセプトの利用と同じく,まともな科学者なら承知しないようなアイデアをふくむまでに拡大した。その一つが「精神エネルギー」で,ニューエイジの思想家にたいへん愛好されている。彼らがこのアイデアを信じているのは,彼らの哲学がそれがあるべきだといっているからだと思われるけれど,これは16世紀の教会の傲慢な考え方に危険なほど近い。彼らがガリレオを迫害したのは,宇宙は完全であるべきであり,その中心は地球であるべきだと信じていたからだった。
観測は地球が宇宙の中心にないことを明らかにしたが,いっぽうで「精神エネルギー」のような存在が観測で証明されたことは一度としてなかった。バートランド・ラッセルのからかい半分の忠告「ある命題を,それが真実だと支持する根拠が一つもないときに信じるのは望ましくない」は,とりわけこの場合に相応しいようだ。
レン・フィッシャー 林 一(訳) (2009). 魂の重さは何グラム?—科学を揺るがした7つの実験— 新潮社 p.234
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