現在までのところ,同性愛は生物学的原因に由来するもので,ホルモンや脳や遺伝子の問題だと主張する説に,科学的なものは1つもない。ホルモンや脳や遺伝子の問題だと主張する研究者たちがいた。彼らの研究結果は完璧に否定されたにもかかわらず,メディアでの成功が大きかったものだから,以来,この説は人々の頭にこびりついている……。
この同性愛についての研究には科学的な正確性がまったくなかったものの,論文は「ネイチャー」誌と「サイエンス」誌で発表された。両誌はゆだねられた論文を選考する際に厳しい選択基準を使うことで有名だが,残念ながら数年前から徐々に,メディアへの強い影響があるような論文が相手だと,この種の例外が稀ではなくなっている。90年代初頭にこの研究が発表されたとき,アメリカのイデオロギー的背景はとくにうってつけだった。同性愛者のための活動団体は,違いを正当化するため,マイノリティとしての権利を主張するため,生物学的論拠を使った。しかし,その論拠は両刃の剣だった。保守派にとっては,同性愛を正当化するこの研究は伝統的価値観を脅かすものだ。おまけに,いわゆる同性愛遺伝子が1993年に発表されたことで,同性愛嫌いの人々は同性愛を生物学的異常呼ばわりし,危険性のある胎児を中絶して排除すべきだと主張できるようになった。悪い遺伝子は撲滅すべきだという,DNA構造の共同発見者であるノーベル賞受賞者ジェームズ・ワトソンの主張そのままである!
カトリーヌ・ヴィダル/ドロテ・ブノワ=ブロウェズ 大谷和之(訳) (2007). 脳と性と能力 集英社 pp.78-79
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