研究室には,脳の化学分析によって知性の測定ができるという神話が,相も変わらずはびこっている。2000年,アメリカの心理学者たちが発表した研究論文では,知的能力は神経細胞によってつくられる分子,N-アセチルアスパラギン酸(NAA)とともに変化することが明らかにされている。このことから,NAAが知性の<指標>になると彼らはすぐさま結論づけた。性急きわまりないこの結論は測定のなんたるかを気にもかけていないが,科学的アプローチを装っている。生成物の量を測ることがそのまま知性の計測になることはありえないし,この知性という基礎概念ですら知性の形態の多様性を考えると問題点が多い。それに,2つの測定値が同時に変化するからといって,2つの間に原因と結果の関係があるわけではない。車の速度を落としたときにガソリンの残量の値が下がってきたことに気づいたとしても,だからといってこの2つの現象につながりはないのと同じだ。
カトリーヌ・ヴィダル/ドロテ・ブノワ=ブロウェズ 大谷和之(訳) (2007). 脳と性と能力 集英社 pp.114-115
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