脳画像法の発達とともに,研究テーマは精神的能力の探究をより深めている。知覚神経の機能と運動性についての初期の研究から,言語,記憶,理性,感情,道徳的判断など,もっとも入念につくられた機能へとテーマは移った。スタンフォード大学のジュディ・イレスは出版物に載ったテーマ群の変化を分析した。彼女は1991年から2001年までに498の異なる雑誌に掲載された,3426にのぼる機能的MRIと次第に複雑になっていく認知機能の研究についての論文をリストにした。「社会的・政治的影響があるテーマ,たとえば個人間の協力と競争,暴力的な人間の脳の違い,脳の構造と機能への遺伝子的影響などの著しい増加が,分析によってわかった」。そして彼女はこう警告を発している。「応用範囲の拡張を慎重におこなわなければ,観察結果の適用範囲を有効と認めたり確認したりはできない」。そして,とりわけ強調されたのは,「利益がリスクを上回ることを保証するために,医療,教育,立法府,そしてメディアの分野における行為者が神経科学者との間で相互作用すべき」ということだ。
カトリーヌ・ヴィダル/ドロテ・ブノワ=ブロウェズ 大谷和之(訳) (2007). 脳と性と能力 集英社 p.125
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