ほかにも1つ,理屈に合った手順を示している摂食行動の例がある。北米アメリカカケスという鳥の行動だ。多くのカラス科の鳥のようにこの鳥も餌を隠しておいて,あとで食べる。この種の鳥は群で行動するから,餌を隠すとき群の仲間が見ていると,盗まれる危険がある。野外観察によると,そのような盗みはしばしば起こり,檻の中の実験例では,別の鳥が餌を隠すところを観察していた鳥は,かなり上手にそれを探し当てることがわかった。この種の泥棒行為に対抗するために,最初に獲物を隠すところを見られたと知っている鳥は,その後で近くに鳥がいないとき,それを別の場所に移す。この行動自体も非常に興味深いものだが,一般に若くて未熟な鳥は隠し場所を移す行動をとらない。しかし別の鳥が隠すのを見て,そこから一回盗んだ経験をした後には,その行動をとるようになる。泥棒をしてみてから,自分も盗まれる可能性を認識するようになるらしいのだ。このレベルの高度な認識は,シロアリが築きあげるどんなものよりも素晴らしいと言えるのではないかと思うが,それでも私たちはシロアリの塚の構造に驚嘆する。私たちはいったい何を賞賛しているのだろうか。動物のつくり手たちが行動を長続きする記録として残してくれることは確かに科学者にとって好都合ではあるが,行動の重要性を評価する場合には,そのような記録を残さない動物の行動と公平に比較するように気をつけなければならない。
マイク・ハンセル 長野敬・赤松眞紀(訳) (2009). 建築する動物たち:ビーバーの水上邸宅からシロアリの超高層ビルまで 青土社 p.22
(Hansell, M. (2007). Built by Animals: The Natural History of Animal Architecture. Oxford: Oxford University Press.)
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