つくり手が生息環境を複雑化するにつれて生物多様性が促進される証拠は有力だが,動物のつくり手が生息場所を破壊し,種の多様性を減少させることは考えられないだろうか。私たちが注目してきた草原や海底堆積物の場合とは異なり,すでに高度の多様性が見られる場所では,そのような可能性も高い。そうした例の一つを,ビーバーが住む森林と川に見ることができる。ビーバーが生物多様性を減少させるという確かな証拠もいくらかある。ビーバーは落葉樹や広葉樹を食べるが,食い尽くしてしまって針葉樹が犠牲になることもある。ビーバーが川やダムをせき止めて魚の産卵場所を破壊したり移動水路を妨害したりすることもある。しかし他方では多様性を促進させるような変化ももたらす。彼らが木を切り倒すことによって花を咲かせる植物が繁茂する空き地がつくり出され,新たな種類の鳥を引き寄せる昆虫がやって来ることもある。ダムに溜まった静水はプランクトン様の甲殻類やカの幼虫の生息地になる。その結果として,プランクトンを食べるコガモのようなカモ類が利益を得る事もある。冬になると,カの成虫はビーバーの小屋の中に避難して,小屋の主の血を吸うことができる。ビーバーによる生態系工学の正味の影響は,おそらく生物多様性を促進しているのだろう。
マイク・ハンセル 長野敬・赤松眞紀(訳) (2009). 建築する動物たち:ビーバーの水上邸宅からシロアリの超高層ビルまで 青土社 p.54
(Hansell, M. (2007). Built by Animals: The Natural History of Animal Architecture. Oxford: Oxford University Press.)
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