さて次には,私たち人間が作った新しい生息場所に動物を引き寄せる話だ。生息環境を変える支配的な種は私たち人間である。建築活動によって世界をこれほど変えてきた種は他に例がない。私たち以前にやってきたつくり手が生息環境にもたらした影響や生物多様性は,私たちがもたらす影響について何か教えてくれるだろうか。私たちは生物多様性を増すのとはほど遠く,多様性を事実上減少させる過程にあるというのが第一印象だ。地球上の生命の歴史は,大量絶滅を5回経験してきたと考えられている。比較的短期間に,通常は数百万年のうちに,多様な生物種の10パーセントから40パーセントが消滅する事態だ。最後に起きたのは約6500万年前の恐竜の絶滅だった。現在私たちは第6回の大量絶滅のただなかにあり,それは私たちが原因になっているという考えが,生物学者の間で高まっていて,私もそれに同意する。「突入しかねないので大いに気をつけるべし」でなく,大量絶滅の「ただなかに」いる点に注意しよう。この事態は,ホモ・サピエンスがアフリカから移住を始めて(約10万年前とされるが,議論の余地もある)以後,ほんの7,800年前にマオリ族がニュージーランドに定着して地球の包囲が完了したときに始まった。
私たちが絶滅に関与していることを示す累積する証拠としては,人間がヨーロッパとアメリカ大陸に到着して間もなく大型哺乳類が絶滅するようになったことがある。大型哺乳類は,人間が導入するまでニュージーランドに定着することがなかった。それらの代わりとして草を食ったり捕食したりする役割はモア—飛ぶことができない鳥の仲間で,人間を見下ろす3メートルの高さにもなる—のような巨大な鳥が果たしていた。人間が到着して間もなく,おそらく12種類いたと思われるモアが絶滅した。それとともにその他数種類の鳥も同じ運命をたどり,その中にはハーストイーグルという過去最大のワシも含まれていた。翼長が推定2.6メートルのこの鳥は,おそらくモアを捕食していたと思われる。だから私たちが自分をビーバーと比較する場合,生息環境を破壊する能力は私たちの方がはるかに大きい。それにもかかわらず私たちは間違いなく新しい生息地もつくり出し,それがいくらかの種に生活空間を与えることになっている。
クモがテレビを見ているあなたの前を横切ったり,夜中に風呂場の白い壁面にぶら下がる影がくっきり浮かび上がったりするのを見て,あなたは驚き,自分の個人空間にそれが侵入したことに慌てるかもしれない。しかしこのクモはほぼ確実に,家の屋根とか壁の窪み,床下などの居場所から偶然あなたの空間にさまよい出たのだ。それがそこで何をしているのか考えてみたことがあるだろうか。クモはあなたの家の食物連鎖の頂点にいる捕食者だ。そしてパンくずや皮膚の落屑,家の湿った場所に生える菌類などを食べる小さな昆虫とかダニに至るまでの完全な生態系がその「下に」ある。
マイク・ハンセル 長野敬・赤松眞紀(訳) (2009). 建築する動物たち:ビーバーの水上邸宅からシロアリの超高層ビルまで 青土社 pp.65-66.
(Hansell, M. (2007). Built by Animals: The Natural History of Animal Architecture. Oxford: Oxford University Press.)
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